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番外編 アナベルと出会うまでのエリック(エリック視点)
番外編2話 エリックの生い立ち(エリック視点)
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「この世界は、前世で観たアニメか何かなのか?」
夜。寝返りを打ちながらぼやいた。返事は無い。
ベッドの中で独り言をいいながら考えをまとめるのは俺の日課だ。
狭い家なので母も同じ部屋で寝ているが、ベッドは別だし眠りが深いので起きる気配はない。
今夜も俺の独り言だけが響く。
「魔法がある昔のヨーロッパっぽい世界って、まさにアニメとかラノベっぽいよな。前世でもっとアニメとか小説を読んでいたらわかったかもしれないけど全くわからん。……俺と同じ転生者はいないみたいだし」
少し前に試した。村のあちこちに日本語で『日本語がわかる奴は、エリックに会いに行け』と、書いたのだ。
けれど反応はなかった。周りは「変わった模様だな」と言ったり「悪戯書きか?」と呆れるだけだった。
俺のような転生者はいない。少なくとも村には居ないのだろう。
「寂しいな……」
なんだか急に心細くなった。
だけどこんな孤独感や悩みなんて、周りに打ち明けられない。どう考えても、幼児が空想癖をこじらせたか、何らかの精神疾患に罹ったと思われる。
「どうして俺はこの世界に転生したんだ?
もしかして、何かの主人公に産まれたのか?」
そう思ったのは、俺の産まれがそれっぽいからだ。
俺は身体を横に倒し、もう一つのベッドで眠る母を見た。ちょうど俺に顔を向けて寝ている。
決して豊かな暮らしではない。たくさん苦労をしているのに、美しい顔立ちと気品のある人だ。しかし母曰く、父の方が更に美形で高貴な雰囲気だという。
それもそのはずで、俺の両親はたった8年前まで貴族だったのだ。
しかも父は伯爵家の嫡男だったらしい。親が決めた婚約者を捨てて母を選ぼうとしたので、それまでの立場も爵位も失ったそうだ。
母は下級貴族の娘で、父と同じように全てを失った。しかも腹の中には俺がいた。
二人は僅かに残った個人資産を持って、平民として村に移り住んだ。ただし、定住する気はなかったそうだ。
父には士官の当てがあったらしい。この地方の領主だか領主嫡男だかと友人だったので、文官として雇ってもらうつもりだったそうだ。
しかし結果は散々なものだった。
自分たち夫婦の過去について語る度、母は『門前払いだったわ。当然よ。己の立場がわかっていなかった私達が甘かったの』と、苦く笑った。
『貴族にとって、政略結婚は義務であり大切な契約よ。家同士の政略を壊して契約違反した私たちを、旦那様のご友人は軽蔑したのでしょう。
応対した執事を通して『信頼できない者を雇う気は無い。会う価値もない』と、仰ったわ。
本当にその通りよね。しかも私たちは実家と完全に縁を切っていたし、旦那様の元婚約者様のご実家からお怒りを買っていた。いくら旦那様が優秀でも、雇っても得にならないばかりか無用の火種にしかならないのだもの。
本当に私たちは愚かだった』
当てが外れた父は打ちのめされたという。
俺が産まれる少し前から酒に溺れるようになり、産まれてしばらくして家を出た。
それ以来、母は一人で俺を育ててくれている。
自分は愚かな女だと自戒し、父の実家と元婚約者はもちろん、自分の実家にも申し訳ない事をしてしまったと繰り返しながら。
確かに愚かだ。人としてやってはならない過ちを犯した。だけど一生懸命に俺を育ててくれている。
俺にとっては自慢の母親だ。
「母さんの個人資産が尽きる前に、俺が働けるようになって良かった」
◆◆◆◆◆
俺がまだ5歳の頃のことだ。
父が帰らないまま蓄えが尽きそうになって、母は途方に暮れた。母は下級貴族家の娘だったが実家は裕福な方だったため、自ら外で働くという発想が無かったのだ。しかも内気なせいで人に頼ったり相談するのも下手だった。
「旦那様が帰ってこない。ああ、もうどうしたら……」
俺を抱きしめて嘆く母に、俺はこう言った。
「母さん、父さんのことは諦めよう」
「エリック?あなた、何を言ってるの?」
「その代わり俺も働く。というか、もう働いてる」
「ええ!?貴方が!?」
一番いいのは、父親に金を入れさせることだが、それは難しい。
だから俺は、ジョンおじちゃんたち周りの人に相談し、村の細々とした仕事を引き受けることにした。
この村は農業も狩猟も盛んだ。常に人手が足りない。子供でもできる簡単な仕事でも、真面目にやれば役にたつ。役に立てば報酬がもらえる。
同じように働く歳上の子供に混じって、俺は精一杯働いた。
お使いをしたり、農作業したり、母と共に教会の手伝いをしたりした。
「エリック!この卵をトム爺ん家に持って行ってくれ!」
「こんな風に膨らんだ豆だけ摘むんだよ。たくさん摘んだらお礼を弾むからね」
「子供たちの面倒を見ていただきありがとうございます。私だけでは手が足りませんでした」
報酬は、小銭か食材だ。
俺は年齢の割に身体が大きく丈夫だ。しかも前世での記憶がある。上手いこと働けるようになった。
また、母は刺繍など針仕事全般が上手かった。針仕事を引き受けたり、教会を通じて刺繍を売り出したところ、かなりの報酬がもらえるようになる。
俺たちの報酬を合わせれば、無駄遣いしなければ充分に暮らせるようになったのだ。
今日も、母は温かい野菜シチューをよそいながら笑っていた。
「シシリーさんの話が楽しくて、あっという間に一枚刺し終わったわ。また注文も入ったの。エリック、何もかも貴方のおかげよ」
もともと両親は余所者で元貴族だ。周りと距離があった。
自画自賛だが、俺が積極的に周りと関わることで、本当の意味で俺たち一家は村に受け入れられたのだろう。
周りは、俺と母に同情して気にかけてくれるし、俺や母の仕事に感謝してくれる。
お陰で半年前、母が病に罹ったことをすぐに気づけた。
母は不調を隠していて、俺は気づけなかった。
もし、近所付き合いしていなければ、手遅れになるまで治療できなかったかもしれない。
その治療だって、教会の手伝いをしていたから安く受けれたのだ。
「俺はちゃんと生きている。生きれている。母さんも周りも良い人が多いし、クソ親父と【鑑定】のことを除けば不満はない。だけど……」
そんな母や周囲に打ち明けられない記憶がある。その事実はどうしても寂しかった。
◆◆◆◆◆
夜。寝返りを打ちながらぼやいた。返事は無い。
ベッドの中で独り言をいいながら考えをまとめるのは俺の日課だ。
狭い家なので母も同じ部屋で寝ているが、ベッドは別だし眠りが深いので起きる気配はない。
今夜も俺の独り言だけが響く。
「魔法がある昔のヨーロッパっぽい世界って、まさにアニメとかラノベっぽいよな。前世でもっとアニメとか小説を読んでいたらわかったかもしれないけど全くわからん。……俺と同じ転生者はいないみたいだし」
少し前に試した。村のあちこちに日本語で『日本語がわかる奴は、エリックに会いに行け』と、書いたのだ。
けれど反応はなかった。周りは「変わった模様だな」と言ったり「悪戯書きか?」と呆れるだけだった。
俺のような転生者はいない。少なくとも村には居ないのだろう。
「寂しいな……」
なんだか急に心細くなった。
だけどこんな孤独感や悩みなんて、周りに打ち明けられない。どう考えても、幼児が空想癖をこじらせたか、何らかの精神疾患に罹ったと思われる。
「どうして俺はこの世界に転生したんだ?
もしかして、何かの主人公に産まれたのか?」
そう思ったのは、俺の産まれがそれっぽいからだ。
俺は身体を横に倒し、もう一つのベッドで眠る母を見た。ちょうど俺に顔を向けて寝ている。
決して豊かな暮らしではない。たくさん苦労をしているのに、美しい顔立ちと気品のある人だ。しかし母曰く、父の方が更に美形で高貴な雰囲気だという。
それもそのはずで、俺の両親はたった8年前まで貴族だったのだ。
しかも父は伯爵家の嫡男だったらしい。親が決めた婚約者を捨てて母を選ぼうとしたので、それまでの立場も爵位も失ったそうだ。
母は下級貴族の娘で、父と同じように全てを失った。しかも腹の中には俺がいた。
二人は僅かに残った個人資産を持って、平民として村に移り住んだ。ただし、定住する気はなかったそうだ。
父には士官の当てがあったらしい。この地方の領主だか領主嫡男だかと友人だったので、文官として雇ってもらうつもりだったそうだ。
しかし結果は散々なものだった。
自分たち夫婦の過去について語る度、母は『門前払いだったわ。当然よ。己の立場がわかっていなかった私達が甘かったの』と、苦く笑った。
『貴族にとって、政略結婚は義務であり大切な契約よ。家同士の政略を壊して契約違反した私たちを、旦那様のご友人は軽蔑したのでしょう。
応対した執事を通して『信頼できない者を雇う気は無い。会う価値もない』と、仰ったわ。
本当にその通りよね。しかも私たちは実家と完全に縁を切っていたし、旦那様の元婚約者様のご実家からお怒りを買っていた。いくら旦那様が優秀でも、雇っても得にならないばかりか無用の火種にしかならないのだもの。
本当に私たちは愚かだった』
当てが外れた父は打ちのめされたという。
俺が産まれる少し前から酒に溺れるようになり、産まれてしばらくして家を出た。
それ以来、母は一人で俺を育ててくれている。
自分は愚かな女だと自戒し、父の実家と元婚約者はもちろん、自分の実家にも申し訳ない事をしてしまったと繰り返しながら。
確かに愚かだ。人としてやってはならない過ちを犯した。だけど一生懸命に俺を育ててくれている。
俺にとっては自慢の母親だ。
「母さんの個人資産が尽きる前に、俺が働けるようになって良かった」
◆◆◆◆◆
俺がまだ5歳の頃のことだ。
父が帰らないまま蓄えが尽きそうになって、母は途方に暮れた。母は下級貴族家の娘だったが実家は裕福な方だったため、自ら外で働くという発想が無かったのだ。しかも内気なせいで人に頼ったり相談するのも下手だった。
「旦那様が帰ってこない。ああ、もうどうしたら……」
俺を抱きしめて嘆く母に、俺はこう言った。
「母さん、父さんのことは諦めよう」
「エリック?あなた、何を言ってるの?」
「その代わり俺も働く。というか、もう働いてる」
「ええ!?貴方が!?」
一番いいのは、父親に金を入れさせることだが、それは難しい。
だから俺は、ジョンおじちゃんたち周りの人に相談し、村の細々とした仕事を引き受けることにした。
この村は農業も狩猟も盛んだ。常に人手が足りない。子供でもできる簡単な仕事でも、真面目にやれば役にたつ。役に立てば報酬がもらえる。
同じように働く歳上の子供に混じって、俺は精一杯働いた。
お使いをしたり、農作業したり、母と共に教会の手伝いをしたりした。
「エリック!この卵をトム爺ん家に持って行ってくれ!」
「こんな風に膨らんだ豆だけ摘むんだよ。たくさん摘んだらお礼を弾むからね」
「子供たちの面倒を見ていただきありがとうございます。私だけでは手が足りませんでした」
報酬は、小銭か食材だ。
俺は年齢の割に身体が大きく丈夫だ。しかも前世での記憶がある。上手いこと働けるようになった。
また、母は刺繍など針仕事全般が上手かった。針仕事を引き受けたり、教会を通じて刺繍を売り出したところ、かなりの報酬がもらえるようになる。
俺たちの報酬を合わせれば、無駄遣いしなければ充分に暮らせるようになったのだ。
今日も、母は温かい野菜シチューをよそいながら笑っていた。
「シシリーさんの話が楽しくて、あっという間に一枚刺し終わったわ。また注文も入ったの。エリック、何もかも貴方のおかげよ」
もともと両親は余所者で元貴族だ。周りと距離があった。
自画自賛だが、俺が積極的に周りと関わることで、本当の意味で俺たち一家は村に受け入れられたのだろう。
周りは、俺と母に同情して気にかけてくれるし、俺や母の仕事に感謝してくれる。
お陰で半年前、母が病に罹ったことをすぐに気づけた。
母は不調を隠していて、俺は気づけなかった。
もし、近所付き合いしていなければ、手遅れになるまで治療できなかったかもしれない。
その治療だって、教会の手伝いをしていたから安く受けれたのだ。
「俺はちゃんと生きている。生きれている。母さんも周りも良い人が多いし、クソ親父と【鑑定】のことを除けば不満はない。だけど……」
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