殺人遊戯 マーダーゲーム 殺人犯捜査第四係比嘉可南子

繁村錦

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CHAPTER5

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 翌朝、気が付くと何故か小会議室で寝ていた。二日酔いで頭が割れそうだった。上の階のシャワー室に直行し、独り善がりの禊のように、寝汗を洗い流す。顔を洗い、歯を磨く。昨日、例の彼氏に届けてもらった真新しいランジェリーを身に着ける。流行りの黒のブラとショーツだ。ガーターも装着する。クリーニングに出しておいたお気に入りのストライプ柄のレディーススーツを着る。鏡でチェックし、部下たちが待つ講堂へと急ぐ。
 午前八時。間もなく捜査会議が始まる。
 可南子は、講堂のあるフロアまで下り、心持ち足早に通路を進んだ。
 講堂のドアの前に差し掛かった時、

「主任、お話があります」

 と背後から緒川に呼び止められた。
 左腕のG‐Shockに目を遣る。
 午前八時七分だ。現在時刻を確かめたあと、肩越しに声を掛ける。

「会議が終わってからでもいいか?」

「いえ、その前に、どうしても」

 そう語る緒川の目に、強い意志が込められていた。可南子は溜め息を吐く。

「話って」

「昨日、主任から頼まれた例の件で」

「例の件……」

「南谷法律事務所の岡崎香織っていう弁護士が過去に扱った案件のことです」

「調べてくれたんだ。それで、どうだった?」

「あの女性弁護士さん、かなりヤバイです」

「ヤバイってどうこと」

「ここじゃ何だから、場所、移して話しませんか……?」

 緒川に提案され、可南子は一瞬躊躇する素振りを見せた。

「もう時間がない、会議が始まるぞ」

「会議、スッポカスこと出来ませんか?」

 緒川は真顔で迫る。可南子はその勢いに気圧され、後退る。

「比嘉警部補、時間ですよ」

 と講堂内から、二係の女性職員に声を掛けられ、

「ジュンちゃん、その話は、会議か終わってからってことで」

 と伝え、可南子は開いたドアに吸い込まれる形で講堂内へ足を踏み入れた。
 午前八時十五分ちょうどに、捜査会議が始まった。
『渋谷区松濤二丁目資産家一家四人殺人事件特別捜査本部』に、『三鷹市井の頭公園中国人男性殺人事特別件捜査本部』、更に別件で捜査していた富阪中央署の『私立高校教師殺人事件特別捜査本部』と、代々木中央署の『女子学生殺人事件特別捜査本部』が合流し、総勢三百人体制となった。
 講堂正面の席には、本庁幹部のお歴々が居並ぶ。右から順に、第四方面本部長、第五方面本部長、第八方面本部長、刑事部参事官、捜査一課長、管理官四名、係長級六名……。

「諸君も既に承知の通り、昨日、本件重要参考人の一人、K大法学部三回生遠山清志が、柴田慶亮傷害致死容疑と青木琢磨ひき逃げ容疑で身柄を確保された。覚せい剤及び麻薬の不法所持、暴行傷害事件に付いて供述を始めている。がしかし、依然として本件の容疑である犀川一家四人殺害、加えて都内の私立高校教師森博一、A大生桜井心音殺害の関与に付いては否認している。被疑者の父親で、前国家公安委員長遠山仙一郎代議士も、息子が起こした一連の事件に付いて関与を否定している。諸君、先ほど吉永刑事部長を通じ、磯野生江法務大臣の意向が私の許へ伝わった。遠慮は要らない、本件の真相究明のため、捜査員各位は全力を尽くし職務に当たって頂きたい、とのことだ」

 正面中央に陣取る刑事部参事官中村昭文警視正が、長々と意見を述べた。
 そのあと、各班捜査の進捗状況の報告が続いた。
 会議の始まる前、緒川は上司である可南子に、南谷法律事務所の岡崎香織が過去に扱っていた案件に付いて報告があるといっていたが、彼はこの場の捜査会議では、その件に付いて全く報告しなかった。最前列で腕を組み、目を閉じたままだ。時折、目を開け、気怠そうに欠伸をして、溜め息を吐くだけだった。
 本庁幹部が居並ぶ正面の席で、可南子は、怠そうに報告に耳を傾ける緒川を凝と見詰めた。

 ――ジュンちゃんの奴、この場で報告すりゃいいのに……。

 次の瞬間、何者かの突き刺さる視線を感じ、辺りを見回した。目と目が合った。可南子を凝視するその篤い視線を主は、相棒バディの細川だった。

「……ん? 何……?」

 思わず口を吐いて出た。
 昨日まで比嘉とともに事件の真相を追っていた細川も、本件被疑者の一人として岡崎香織という女性を認識している。
 遠山逮捕後、弁護士として被疑者と接見した直後の岡崎に、可南子と細川は渋谷中央署内で会っている。その時は、別段変わった様子はなかった。
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