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第3章 文化祭

第33話 メイビー、多分、おそらく、きっと。

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「見事な成敗でしたね勇者様♪」
 2年5組を後にして再び廊下を歩き出すと、すぐにリエナが口を開いた。

「その言い方だとやっぱりリエナも、あいつらがカップルを狙って嫌がらせしようとしていたことに気付いてたのか?」

「勇者様が『オーフェルマウス』で戦っていた頃のような、研ぎ澄まされたナイフのような気配を放っていたので、すぐに気付きましたよ」

 俺の問いかけにリエナはなんでもないことのようにさらりと答えた。

「さすがリエナだな。途中からイケイケで後押ししてくれてたから、多分そうだろうなとは思っていたんだけど」

「勇者様の戦いをサポートをするのが神託の神官の役目ですからね」
「ははっ、ほんとリエナは頼りになるな」

 文化祭を存分に楽しみながらも、リエナはやはり本質的に『オーフェルマウス』の人間だ。
 頭の片隅では常に状況判断や危険察知を行っていて、何より俺のことをよく見ている。

「それに遊びでやるにしては、リングが明らかに小さかったですしね。あれには悪意を感じざるを得ませんでした。ノット・グッドです」

 リエナがほっぺを膨らませて怒った顔をする。

「俺もだよ。さすがにああいうのは見過ごせなくてな。ま、文化祭にかこつけて嫌がらせするようなやつらにはいい薬になっただろ」

「ふふっ、あれだけコテンパンにされちゃったんですから、これからはきっと心を入れ替えて正しい道を歩んでくれますよね」

「だといいがな」
 性善説で希望的観測を語る心優しきリエナに、しかし俺は微妙な答えを返すにとどめた。

 だって人間の性格はそう簡単には変わらないものだから。

 なにせかくいう俺がそうだったのだ。
 『オーフェルマウス』に召喚されて変わらざるを得なくて強制的に自分を変えるまで、俺はずっとネクラな陰キャだった。

 そして少々のことではそんな自分を変えようなんて思いもしなかったから。

 もちろんもっと強く闘気をぶつけて本気で恐怖を感じさせてやれば、彼らは心から性根を入れ替えてくれたかもしれない。
 だけど楽しい文化祭の場でそこまできついお仕置きをするのは、それはそれでどうかと思ったんだよな。

 少々オイタが過ぎたとはいえ、2年5組の生徒にも文化祭を楽しむ権利はあるわけで。

「ですがさすがは『最強不敗の絶対勇者』と呼ばれた勇者様でしたね。最初から最後まで安心して見ていられました」

「おいおい、俺にかかればこれくらいは朝めし前だっての。文化祭のお遊び程度で俺が負けるなんてことは、天地がひっくり返ってもありえないよ」

 俺は自信満々で言ってのける。
 それを言えるだけの勝利と栄光の積み重ねが、勇者シュウヘイ=オダにはあるのだからして。

「私としては、文化祭のお遊びで偶然たまたま負けちゃう勇者様というのも、少し見てみたくはあったかもなんですけどね。そんな時に勇者様がどんな反応をするのかなーって、ちょっと気になっちゃいます」

「リエナの期待に添えなくて悪いが、たとえお遊びでも勝負事なら俺は絶対に負けないから」
 やけに楽しそうに言ったリエナに、俺は小さく苦笑して返す。

「だから見てみたいんじゃないですか。だってものすごくレアですよ? 悔しがる勇者様とか激レア中の激レアですもん」

「リエナの言いたいことは分からなくもないけどな」

 俺に負けて欲しいんじゃなくて、俺が負けたらどんな反応をするのかを一度見てみたいってことなんだろう。

「もちろん世界の危機という場面で負けられてしまっては困りますけどね。この前の魔王カナンとの戦いなんかは、それこそ絶対に勝ってもらわないといけませんでしたから」

「そうだな、リエナがそこまで見たいんなら今度わざと負けてやろうか? 1回適当に負けるくらいならまぁギリギリのギリギリでなんとか許容範囲だ――と思う」

 すっかり負けず嫌いな性格になったとはいえ、それくらいの大人の行動はできる……はずだ。
 メイビー、多分、おそらく、きっと。

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