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第3章

第33話 「わたしが気持ちよくしてあげますので」

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「ケースケ様?」

「え? あ、いやなんでもないんだ」

 俺は自分の身体にわずかな変化があった(ような気がした)ことを、でもまだ今はアイセルには伝えないでおくことにした。

 だってほらインポが治ったかもって言って、でも実は治ってなかったら恥の上塗りじゃん?

 っていうか俺の思い込みってだけの可能性まであるし。
 というか多分そうっぽい。
 既にさっきの感情は完全にすっかりなくなってしまってるし。

 ま、そんなすぐにはどうにかなるなら苦労はしないよな。

 アイセルをぬか喜びはさせたくないし、自分を好いてくれる相手にこれ以上カッコ悪いところを見せたくないっていう、男としてのプライドみたいなものも少しだけあったりした。

 インポが治ったらアイセルには自信を持って伝えたいんだ。

 俺のそんな微妙な心理からくる曖昧な受け答えのせいで、少しだけ沈黙があった後、

「あの、ケースケ様。さっきから熱心に足を揉んでいますけど筋肉痛なんですか?」

 なおもベッドの上で太ももマッサージを続けている俺を見て、アイセルが疑問を口にした。

「ああほら一昨日は帰り道ずっと歩き詰めだっただろ? 昔は翌日に筋肉痛になったけど、最近は2日後に出てくるようになってさ……」

 自分ではまだ若いつもりだけど、25歳も過ぎてくると10代の頃とは身体が決定的に違うなと感じざるを得ない、悲しい今日この頃だった。

「それでしたらわたしがマッサージしてあげますよ? もともとおじいちゃんによくやってあげてたのと、今は『ツボ押し』のスキルも持ってますから」

「さすがエルフの『魔法剣士』、どこまでも万能だな……」

 『ツボ押し』とは東方のシン国より伝わった特殊な回復方法だ。

 筋肉と筋膜とかいう身体の内部全てに張り巡らされた組織にある「ツボ」をピンポイントで刺激することで、疲労回復を劇的に早めてくれるらしい。

 実際に体験したことはないものの、そういうのがあるってことだけは知識として知っていた。
 勇者パーティ時代はバッファーなせいで戦闘では役に立てない分、知識という面でパーティの役に立とうと思って色々勉強したからな。

「ささっケースケ様、横になって力を抜いてください。わたしが気持ちよくしてさしあげますので」

「んーそうだな、せっかくだし、じゃあちょっとだけ頼もうかな?」

 俺は軽ーい気持ちでお願いして、

「お任せあれ♪ いきますよ~、えいっ!」

 アイセルも軽く答えて太もものツボ押しを始めたんだけど――、

「ア"タタタタタタッっっ!?」

 始まって即、俺は情けない悲鳴を上げてしまった。

「す、すみません、強すぎましたか!?」

「ひぎぃ……今、太ももの中にアイセルの指がめり込んでなかった? 貫通してなかった? 俺の足に穴が開いてない? だいじょうぶ?」

 俺は涙目で慌てて自分の太ももを確認したんだけど――太ももにはまったくなんの異常もありはしなかった。

「多分大丈夫だと思いますけど……」

「あ、うんそうみたいだな……ごめん、単に俺がヘタレだったみたいだ。でも今、本当に太ももの中にアイセルの指が刺さったみたいだったんだよ。うん、じゃあもう一回頼む、俺の声はあんまり気にしなくていいから」

「わかりました、じゃあ続けますね。えいっ!」

「ンゴゴゴゴゴゴゴゴッ!?」

「えいっ! やあっ!」

「あばばばばばばばっ!?」

「えいっ! やぁっ! とうっ!」

「あひぃっ! ひぎいっ! ぐぎぃっ!? ぎぃやぁぁぁぁぁっ!」

 最初は足から。

 次に腰と背中。

 最終的には身体中をフルコースでツボ押しマッサージしてもらって――。

 最後は声を上げることすらできない完全なグロッキー状態で力尽きた俺は、一仕事終えて充実感いっぱいのアイセルに抱かれながらベッドで一緒に横になっていた。

「すごい、さっきまでの筋肉痛が嘘みたいにすっかり身体が軽くなってるぞ」
 痛みに耐えてよく頑張った甲斐があったというものだ。

 まぁ、あまりに情けない悲鳴を上げている姿は、年長者で一応教える側の立場の俺としては、あまり教え子のアイセルには見せたくないところではあるんだけど――、

「えへへ、ケースケ様のお役に立てました」

 満足顔のアイセルを見ていると、ま、たまには優秀な教え子に甘やかされるってのも悪くないかな?

 その晩もアイセルの温もりに優しく抱きしめられながら、俺は心地よい眠りに落ちたのだった。
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