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第4章

第65話 土下座しろ! 今すぐ土下座しろ! 土下座、土下座、土下座、土下座、土下座土下座土下座土下座土下座――っ!

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「ケースケ様、さすがにちょっと言いすぎですよ。ねねっ、落ち着きましょう」

 アイセルが場を和ませようと再び割って入ってくる。
 だけど、

「黙ってろと言ったはずだアイセル。これは俺とこいつらの問題だ。お前には関係ない、口を出すな」

 俺が視線すら向けずに言い捨てると、

「……」
 アイセルは再び押し黙った。

 俺は意識をもう一度アンジュと勇者に向けると、言った。

「なぁ勇者アルドリッジ、早くお前の誠意を見せてみろよ? 俺に誠意を示してみせろよ? それがお前の果たすべき義務じゃないのか? 俺をバカにして、コケにして、アンジュを寝取って、笑いものして裏切った! それがお前の! それが人として取るべき最低限の仁義ってもんだろうがっ! 違うか!? 違わないだろう!」

 俺のヒステリックな怒声を受けて、ついに観念したように勇者アルドリッジがよろよろと身体を動かし始めた。

「はっ、はは――。それでいいんだよ」

 こいつは他人に頭を下げるのが何よりも嫌いなプライドの塊のような人間だ。

 そのお高く留まって鼻持ちならない勇者様が、一度はパーティから追放した俺に助けてもらうために頭を下げるのだ。

 その高慢ちきなプライドを今、俺がへし折ってるんだ――!

「おら、とろとろすんな、とっとと土下座しろ! 今すぐ土下座しろ! 土下座、土下座、土下座、土下座、土下座土下座土下座土下座土下座土下座土下座――っ!!」

 お菓子を買ってもらえなくて癇癪をおこした子供のように喚き散らしての、とどまることを知らない土下座要求。

「わかった……ぐ……」

 動かない身体を必死に動かして、勇者アルドリッジは正座をして両手をつき、のろのろとではあるが頭を床にこすりつけて土下座をした。

「どうか助けてください……お願いします」

 誰もが称賛してやまない勇者アルドリッジが、アンジュの目の前で必死に助けを求めて俺に土下座をしているのだ。

 その惨めな姿を、俺は恍惚と高揚感と満足感に包まれながら見下ろしていて――、

 パンッ!

 突然、甲高い音が鳴り響いた。

「いってぇ……!?」

 な、何が起こったんだ!?

 顔をしかめてジンジンと痛む左頬を抑える。
 口の中が切れていて血の味がしはじめる。

 そしてそこで俺はやっと、アイセルが俺の頬を平手でビンタしたのだと理解した。

 しかし理解した瞬間、今度はアイセルへの怒りがふつふつと沸き起こってくる。

「なにしやがる……っ!」

 今の俺はどうしようもなくイライラしていて、だからアイセルに当たり散らすことだって何の躊躇ちゅうちょも迷いもありはしなかった。

「これはお前には関係ないことだと! だから口を出すなと言ったはずだ! お前まで俺をバカにして、俺の言うことなんて聞けないってそう言うのか!」

 俺は怒りの矛先をアイセルに向けると、激情を言葉にして浴びせかけた。
 すると――、

「はい! だから口を出すなと言われたので、断腸の思いで仕方なく手を出しました!」

「………………はい?」

 アイセルの予想外で斜め上過ぎる返答に、俺はきっかり10秒ほど考えこんでから、思わず我に返って聞き返してしまっていた。

「本当はこんなことやりたくなかったんです。ケースケ様を傷つけるなんて、絶対に嫌ですから」

「う、うん……?」

「ですがケースケ様の目を覚ますためであれば! わたしは自分の心を殺してでも、例えケースケ様に嫌われようとも! それでもわたしは手を出そうと思ったんです!」

「お、おう……?」

 つまりいわゆる一つのトンチってやつ?
 『このはし渡るべからず』『じゃあ真ん中渡ればいいんでしょ?』みたいな?

「そういうわけですので、もう一発いきますね」

 アイセルが今度は左手を振りかぶった。

「ちょ、ちょっと待てアイセル――へぶっ!?」

 抵抗も空しく、アイセルの左手が俺の右頬を容赦なくとらえる。

 パシンと再び乾いた音が鳴った。

 割と強めに両頬を叩かれて俺はもう完全に涙目だった。
 バッファーのヘボさを舐めんなよ?

「ケースケ様、わたしは怒っているんです」
 アイセルが端的に言った。

「アイセルには関係ないって言っただろ……」

 アイセルのトンチ&ダブルビンタで少し冷静になっていた俺は、だけどそれでもそう答えたんだけど、

「いいえ関係あります。わたしたちはパーティの仲間であり、今はパーティで行動している最中なんですから、関係ないはずがないじゃないですか」

「ぐぬっ……」

 返ってきたのはどうしようもないほどのド正論で。

 そして少しだけ冷静になれていた今の俺は、そのド正論に対してさっきみたいにすごんで返すような、そんな子供じみた真似はもうできないのだった。

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