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~第1部~ 第1章 別れと出会い

第1話 一年付き合ってた彼女が医大生とラブホから出てきた(NTR……涙)

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「あーあ、急にデートをドタキャンなんて詩織のやつどうしたんだろ?」

 4月16日、昼過ぎ。
 デートの待ち合わせ場所に向かう途中に突然のラインでドタキャンをされた俺は、小さくため息をつきながら当てもなく繁華街をぶらついていた。

 繁華街に特段、用事があるわけではない。

 俺なりにカッコつけたキメキメの格好(あくまで俺なりにだが)で出かけたくせに、速攻で家に帰ると家族に笑われそうだったので適当にブラブラして時間をつぶしていたのだ。

 本屋、雑貨屋、100均、アパレルショップなどを時間を潰すためだけにひたすら巡り続ける。
 
「せっかく今日で付き合ってちょうど1年だったから、気合を入れてデートプランを練り上げてきたのになぁ……」

 記念に初エッチとかもしちゃったりして――とか妄想して、良さげなラブホの場所とか入室の仕方とかもこっそりネットで調べたってのにさ。

「ま、急な用事って書いてあったししょうがないよな…………はぁ」

 マリアナ海溝の底よりも低いローテンションで何度もため息をつきながら歩いていると――エロい思考に足がつられてしまったのか――俺はいつの間にかラブホが立ち並ぶアダルトなエリアにやってきてしまっていた。

「げっ、こんなところをブラついてたら補導されるっての」

 ラブホの利用方法こそ調べはしたものの、利用もしていないのに学校に通報でもされて先生に睨まれでもしたらアホらしい。

 俺はすぐさまラブホ街を離脱しようとしたんだけど――、

「タカくんてえっち上手なんだね♪ キスとかすっごくうまくてびっくりしちゃった♪」

 俺のすぐ目の前のラブホから俺の彼女――葛谷くずがや詩織が媚び媚びな声を出しながら、知らない男に肩を抱かれながら出てきたのだ。

「し、詩織? お前ここで一体なにして――」
「えっ、蒼太? どうしてこんなところにいるの!?」
「それはこっちのセリフだっての。急用ができたってラインで書いてたよな?」
「えっと、それはその……」

 思わず見つめ合う俺と詩織。
 しかしそこで、

「なにこのダサ男? まさか詩織の知り合い?」
 詩織と腕を組んでいた男が、俺を値踏みするように見下ろしながら半笑いでつぶやいた。

「えっと……あ、うん、知り合いっていうか、その……ただの高校の知り合い」

 彼氏・彼女の関係のはずの詩織が俺を「ただの高校の知り合い」と呼ぶ。
 しかもラブホ男とは腕を組んだままで。

 それで俺は全てを察してしまった。

「ははっ、だよな。こんな冴えないモブ男と詩織みたいな可愛い子がイイ仲なわけがないもんな。お前みたいないい女には、親が医者でイケメンで医大生で将来有望な俺みたいないい男がお似合いだぜ」

「医大生……?」
「う、うん……私の……彼氏なの……」

「そ、そうか……」
「う、うん……」

「おい、世間話はもういいだろ? こんなモブ男でも、目の前で他の男と話されんのはムカつくからよ」
「ご、ごめん」

「おら行くぞ詩織。この前買って欲しいっておねだりしてたバッグ、買ってやるからよ」

 イケメン医大生は詩織の肩を抱いていた手をずらすと、詩織の胸をまるで俺に見せつけるかのように揉んでみせた。
 詩織の形の良い胸がむにむにといやらしく形を変える。

「ぁ、ん……もぅ……じゃ、じゃあまた学校でね蒼太」
「あ、ああ……」

 そのまま呆気にとられる俺を置き去りにして、詩織と医大生の彼氏は高級ブティックやらデパートやらがいくつも立ち並ぶ駅前一等地の商業エリアへと歩いて行った。

 残された俺は、ただただ茫然とそれを見送るしかできなかった。

「なんだよそれ……つまり二股かけてたってことかよ……しかも本命は向こうってか……」

 恋に一生懸命だったのは俺だけで、詩織にとって俺はただの二股――いやただの浮気相手にすぎなかったのだ。

 頭の理解に心が追いついて、俺の目からとめどなく涙が溢れ始める。
 視界が強くにじんでいく。
 俺の心は絶望という名の真っ黒な色で染まっていた。

 こうして。
 俺が1年付き合った彼女――葛谷詩織との関係は、これ以上ないくらいに最低で、最悪で、絶望的な形で幕を閉じた――




 夕方。
 あれから夢遊病の患者のようにあてどなくとぼとぼと歩き続けていた俺は、いつの間にか大きな川沿いの土手を歩いていた。

 歩いている間中ずうっと、さっきのシーンが頭の中を何度もリフレインしている。

「詩織、なんで……」

 イケメン医大生と一緒にラブホから出てきた詩織。
 俺を「ただの高校の知り合い」と呼んで目を背けた詩織。

 思い出すだけで、悲しみで心がどうにかなってしまいそうだった。
 今この足を止めてしまったら、きっと俺は絶望と悲しみでもう一歩も歩くことができなくなってしまうだろう。

「人生ってなんだろなぁ……なんかもうどうでもいいや……川にでも飛び込んで死のうかな……」

 そんなバカげたことまで真剣に考えてしまいながら、夕暮れに赤く染まった川べりに目を向けた時だった。

 バチャバチャバチャ!
 バタ足で水を叩くような音が聞こえてきたかと思うと。

「んんん……? えっ!? 小さな女の子が溺れてる!?」

 小学生くらいのまだ幼い少女が、川で溺れてもがいているのが俺の目に飛び込んできたのだ――!

――――――――――――――――――

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