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第3章 学園のアイドルと過ごす日々

第36話 反省会 ~優香SIDE~

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「やっぱりけっこう眠そうだよな?」
「ううっ、ごめんなさい。バスの揺れが絶妙に眠気を誘ってきて……ふぁ……」

「あはは、それすごく分かるよ。俺も試験前に一夜漬けしたせいで眠くて、朝のバスで寝過ごしそうになったことが何度もあるし」
「分かる~、だよね~」

「バスの中で熟睡中だった俺を、名前も知らない先輩の人が起こしてくれたんだ。あの時は人の心の温かさってやつを、心から実感したなぁ」

 あれは1年の3学期末の学年末試験の時だったから、寝過ごしたら試験に遅刻する→最悪留年する可能性まであった。
 見ず知らずの先輩も、よりにもよって学年末試験の朝にアホ面を晒して寝過ごそうとしているお馬鹿な後輩を、放ってはおけなかったのだろう。

「優しい先輩がいる学校で良かったね」

「まったくだな。ってわけで、優しさのお裾分けってわけじゃないんだけど、良かったらバスの中で軽く寝たらどうだ? 俺が降りる停留所で起こしてあげるからさ」

「じゃあお言葉に甘えてちょっとだけ寝ちゃおうかな? ふぁ……」

 優香はまたもや小さくあくびをすると、すぐにスースーと可愛い寝息を立て始めた。

 俺は学園のアイドルが無防備に見せた穏やかな寝顔をしばらく鑑賞してから。
 相手に意識がないのをいいことに寝顔をまじまじと見るのは「人としてダメ」だと思い至り、スマホを開いて適当に動画を眺めつつ時間をつぶしたのだった。



 ~優香SIDE~

「私ってほんとバカ……」

 自分の部屋で勉強机に突っ伏しながら、私は泣きそうな声で嘆いていた。

「下校する時に結構いい雰囲気だったのに、なにが『同じ人類として好き』よ……あんなこと言っちゃったら、蒼太くんのことはあんまり好きくないみたいじゃん……」

 そんなことないのに、全然そんなことないのに。
 むしろすっごく気になる男子なのに。
 毎日反省会をするくらいに、気になって気になってしょうがないのに。

 なのに焦ってテンパってしまってた私は、誤魔化そうとしてつい余計なことを言ってしまったのだ。
 蒼太くんを自分から遠ざけるようなことを言ってしまった。

「はぁ……、私ってほんとバカ。バカ・オブ・バカだよね……」
 私はまたもや深々と溜息をつく。

 しかしそれで言ったことが取り消せるなら、誰も苦労はしないし後悔もしない。
 反省だけなら猿でもできるし、ごめんで済むなら警察はいらないのだ。

「蒼太くんといると、心がウキウキしてつい口が軽くなっちゃうんだよね」

 好意を抱いていることを――恋愛的な好きかどうかはこの際、別にして――蒼太くんに知られたくなくて、考えるよりも先に焦ったままであれこれ余計なことを口走ってしまうのだ。

 しかもだ。

「だいたい何? 『より良い明日に繋げるグッド・トゥモロゥな行動』って。私、どう考えても変な子だよ? こんな変なことを言う女子高生って、いる? いないよね?」

 本当にこれはない。
 蒼太くんはカッコいいって言ってくれたけど、それがどこまで本心だったのかは分からないし。
 内心ドン引きしながら、気を使ってそう言ってくれた可能性はおおいにあった。

 ともあれ。
 今日の私は張り切りすぎていたと思う。
 張り切り過ぎて、完全に空回りしちゃっていた。

「明日はもう少し普通な感じで、平然を装って蒼太くんとお話ししないと……」

 けれど蒼太くんのことを考えるだけで、私の胸はどうにも高鳴ってしまうのだ。

 今だってそう。
 反省会と言いながらその実、私は蒼太くんのことを考えては嬉しくなってしまっているのだから。
 顔がニヤニヤしてしまうのが、鏡を見なくても分かってしまう。

「明日の朝起きたら、この胸のドキドキが少しは収まっていますように――」

 そう願いながらも同時に、この胸の高鳴りをもっと感じていたい自分を私は否定できなかった――。
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