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第三章 アンナローゼの悪意
第25話 リフシュタイン侯爵家令嬢アンナローゼ
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それはある平凡な日のことだった。
ジェフリー王太子は朝から夜までずっと会議が続くそうで、ミリーナは1日自由にしていいと言われていた。
なのでミリーナはこれ幸いと朝から図書室に籠って、ローエングリン王家の歴史について勉強していたのだ。
まだ確定していないとはいえ、もし万が一このままミリーナが王妃になってしまった時に、王家の歴史も満足に知らないようでは恥さらしもいいところだからだ。
「所詮は貧乏男爵家の娘か、などとは言われたくはないですものね」
自分が笑われるだけならまだしも、ひいてはジェフリー王太子やローエングリン王国までもが軽んじられることになる。
王と国に仕える貴族の娘としては、それだけは避けなければならなかった。
だからミリーナは暇なときはなるべく、王家の歴史やローエングリン王国の歴史について学ぶようにしていた。
しかしそうやって将来のことを考えれば考えるほど、
「もしあの時のジェンがジェフリー王太子だったのら、私はこうも思い悩む必要はありませんでしたのに……」
どこかでまだジェンの笑顔を思っている自分を、ミリーナは否定できなかった。
そんな風にジェンを思いつつもジェフリー王太子にも強く強く惹かれてしまう今の自分を、何ともフシダラに思ってしまって苦悩するのが最近のミリーナの日課である。
ちなみに、その昔に宮廷で歴史編纂官を務めていたという司書の方が親切にも色々と教えてくれたので、勉強はとてもはかどっていた。
そんな風に色々なことを考えながら、息抜きがてら特に行く当てもなく王宮内を歩いていると、
「ミリーナ=エクリシア、少しよろしいかしら?」
ミリーナは数名の女官の一団に呼び止められた。
女官たちの服装は全員が全員とも高級女官で、特にそのうちの1人にミリーナはよく見覚えがあった。
美しく梳かれたプラチナブロンドを、大きな宝石がいくつもついた豪奢な髮止めでアップでまとめた見目麗しい女官は、リフシュタイン侯爵家令嬢アンナローゼ。
ジェフリー王太子と婚約話が持ち上がっていたものの、ミリーナが来たせいでご破算になってしまったあのアンナローゼだった。
「アンナローゼ様、本日もご機嫌麗しくお過ごしのようでなによりですわ」
アンナローゼの方が実家の爵位が上なのと、そういったジェフリー王太子をめぐる微妙な関係もあって、ミリーナはわずかの粗相もないように大変丁寧にカーテシーをしてご挨拶をしたのだが、
「あなたに少し話したいことがありますの、よろしいですわよね?」
アンナローゼは返答の挨拶をすることもなく、有無を言わさぬ態度でミリーナにそう言ってきたのだ。
あまりに失礼かつ強引に過ぎる態度だったものの、相手は家格ではミリーナよりもはるかに上の侯爵家の令嬢だ。
ミリーナはどうにも断り切れず、アンナローゼと取り巻きに連れられてとりあえず話とやらに付き合うことにしたのだが――、
「あなた、貧乏男爵家の娘のくせにジェフリー王太子殿下の寵愛を受けるだなんて、何を考えておりますの! 物事には全て格というものがあることも知らないなんて、これだから下級貴族はいけないのですわ! 恥というものをお知りなさいな!」
王宮の目立たない小部屋――ベッドが1つあったのでミリーナは仮眠室かなにかだと判断する――に連れてこられたミリーナは、アンナローゼに開口一番大きな声で罵声を浴びせられてしまった。
しかもご丁寧に、逃げれないように入り口に鍵をかけられてしまう。
ジェフリー王太子は朝から夜までずっと会議が続くそうで、ミリーナは1日自由にしていいと言われていた。
なのでミリーナはこれ幸いと朝から図書室に籠って、ローエングリン王家の歴史について勉強していたのだ。
まだ確定していないとはいえ、もし万が一このままミリーナが王妃になってしまった時に、王家の歴史も満足に知らないようでは恥さらしもいいところだからだ。
「所詮は貧乏男爵家の娘か、などとは言われたくはないですものね」
自分が笑われるだけならまだしも、ひいてはジェフリー王太子やローエングリン王国までもが軽んじられることになる。
王と国に仕える貴族の娘としては、それだけは避けなければならなかった。
だからミリーナは暇なときはなるべく、王家の歴史やローエングリン王国の歴史について学ぶようにしていた。
しかしそうやって将来のことを考えれば考えるほど、
「もしあの時のジェンがジェフリー王太子だったのら、私はこうも思い悩む必要はありませんでしたのに……」
どこかでまだジェンの笑顔を思っている自分を、ミリーナは否定できなかった。
そんな風にジェンを思いつつもジェフリー王太子にも強く強く惹かれてしまう今の自分を、何ともフシダラに思ってしまって苦悩するのが最近のミリーナの日課である。
ちなみに、その昔に宮廷で歴史編纂官を務めていたという司書の方が親切にも色々と教えてくれたので、勉強はとてもはかどっていた。
そんな風に色々なことを考えながら、息抜きがてら特に行く当てもなく王宮内を歩いていると、
「ミリーナ=エクリシア、少しよろしいかしら?」
ミリーナは数名の女官の一団に呼び止められた。
女官たちの服装は全員が全員とも高級女官で、特にそのうちの1人にミリーナはよく見覚えがあった。
美しく梳かれたプラチナブロンドを、大きな宝石がいくつもついた豪奢な髮止めでアップでまとめた見目麗しい女官は、リフシュタイン侯爵家令嬢アンナローゼ。
ジェフリー王太子と婚約話が持ち上がっていたものの、ミリーナが来たせいでご破算になってしまったあのアンナローゼだった。
「アンナローゼ様、本日もご機嫌麗しくお過ごしのようでなによりですわ」
アンナローゼの方が実家の爵位が上なのと、そういったジェフリー王太子をめぐる微妙な関係もあって、ミリーナはわずかの粗相もないように大変丁寧にカーテシーをしてご挨拶をしたのだが、
「あなたに少し話したいことがありますの、よろしいですわよね?」
アンナローゼは返答の挨拶をすることもなく、有無を言わさぬ態度でミリーナにそう言ってきたのだ。
あまりに失礼かつ強引に過ぎる態度だったものの、相手は家格ではミリーナよりもはるかに上の侯爵家の令嬢だ。
ミリーナはどうにも断り切れず、アンナローゼと取り巻きに連れられてとりあえず話とやらに付き合うことにしたのだが――、
「あなた、貧乏男爵家の娘のくせにジェフリー王太子殿下の寵愛を受けるだなんて、何を考えておりますの! 物事には全て格というものがあることも知らないなんて、これだから下級貴族はいけないのですわ! 恥というものをお知りなさいな!」
王宮の目立たない小部屋――ベッドが1つあったのでミリーナは仮眠室かなにかだと判断する――に連れてこられたミリーナは、アンナローゼに開口一番大きな声で罵声を浴びせられてしまった。
しかもご丁寧に、逃げれないように入り口に鍵をかけられてしまう。
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※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
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