あなたの笑顔に魅せられて ～思い出のあなたは王太子～ 国家簒奪を企む侯爵の陰謀を乗り越え、最後はハッピーエンドのシンデレラストーリー！

第三章 アンナローゼの悪意

第26話 逆恨み

「いったいどういう意味でしょうか？　いくらアンナローゼ様が侯爵家令嬢とはいえ、私はそのようなことを面と向かって言われるようなことをした覚えはございませんわ」

　いくら素直で心優しきミリーナと言えども、「恥を知りなさい」などと一方的に言われてしまえぱさすがにカチンともきてしまう。

「どうもこうもありませんわよ。その貧相な身体でいったい全体どうやってジェフリー王太子殿下を篭絡したのかは知りませんし、汚らわしくて知りたくもありませんけど、どうせ寝屋に誘い込んでいやらしく股を開いて誘ったのでしょう！」

「私とジェフリー王太子殿下は神に誓って清い関係ですわ」

「どうだか、口では何とでも言えますわ。とにもかくにも！　何もかもがジェフリー王太子殿下には不相応ですのよ、あなたは！」

「そうは言われましても、ジェフリー王太子殿下の方から私をお付きの女官にすると強引に仰られたのですわ」

　事実ミリーナは何もしていない。
　テラスで少し話をしただけだ。
　なのに自分の何がそんなにジェフリー王太子を引き付けるのか、むしろミリーナの方が教えて欲しいくらいだった。

（でもそれについてジェフリー王太子殿下に尋ねても要領を得ないというか、うまくはぐらかされてしまうばかりなのよね）

　しかしミリーナが正直に答えても火に油を注ぐだけだった。
　アンナローゼはどんどんとヒートアップしていく。

「お黙りなさい！　あなたのせいでわたくしとジェフリー王太子殿下の間で進んでいた婚約の話が、なかったことになりましたのよ！　そのせいでわたくしとリフシュタイン侯爵家の面目は丸つぶれですのに、何をいけしゃあしゃあと自分は悪くないなどと言い張るのですか！」

「そのようなことを言われましても、それこそ男爵家の娘に過ぎない私には何をどうすることもできませんわ」

「今度は爵位が低いことを理由に、都合よくシラを切るつもりですの！？　それに婚約の話だけではありませんわ。この間の歌唱コンテストではわざとわたくしを２位にして、公衆の面前にて笑いものにしましたわよね！」

「そんなことはしておりません。あれは純粋にどちらが良かったかを評価しただけのことであって、決してアンナローゼ様を笑いものにしようなどと思ったわけでは――」

「お黙りなさい！　最終採点の時にあなたがジェフリー王太子殿下に何事か話しかけていたのを、わたくし見たのですわ！　あの時、自分が寵愛を受けているのをいいことに、わたくしを庶民に負けさせて恥をかかせようとジェフリー王太子にお願いしたのでしょう！　なんてハレンチな！　貴族の子女として恥ずべき行いですわ！」

「アンナローゼ様、少し落ち着いてくださいませ。私は本当に何も──」

　ミリーナがそこまで言いかけたところで、

「アンナローゼ様。彼女はまったく反省する様子がないようですわ。やはりここは少々痛い目を見させてあげた方がよろしいのではありませんか？」

　取り巻きの女官の一人が、笑いをかみ殺したような顔で進言し、

「くくっ、そうね、そう致しましょうか。せっかくアレを準備をしてきたのですものね」

　アンナローゼがとても侯爵家令嬢とは思えない、性根の悪さがにじみ出ているような悪辣な笑みを浮かべた。