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本音は言わないらしい

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 平常時のこの男は割と慎重だ。恋人にするそれのようにゆっくりと唇を重ね、表面を擦り合わせる。少し離れては押し当てて、じっくりとその薄い皮膚に意識を集中させていく。


「ん……」


 もどかしくなってほんの少しだけ唇を開けば、それがお迎えの合図。何度も繰り返されるセックスの間で、いつの間にか決まった二人のサインだ。

 いつもなら遠慮なく入ってくるはずの舌が、今日はなんだか遠慮がちで笑ってしまう。手酷く俺を抱いたことを後悔しているんだろうか?馬鹿だな、女じゃないんだからあれくらいどってことない。

「ふ……ははっ、んん」

 構わない、と伝える代わりにその頭をぐっと抱え込む。指に絡んではスルスルと抜けていく白い髪の毛が気持ちよくて、髪の毛をぐちゃぐちゃにかき混ぜるようにキスをした。

 引き寄せた男は甘いその舌を与えてくれた。ざらりとした表面に擦りつけ、尖らせたそれでタッチする。逃げては戻され迎えては吸われる。お互いの髪の毛なんてぐちゃぐちゃにしながら、相手の呼吸さえ逃さない。

 流れ込む唾液は魔力のせいかとても甘くて、もっともっとと強請ってしまう。たらりと注がれるそれは美味しく、喉を鳴らして飲み込めば、興奮した男がむしゃぶりついてくる。

「あ……っはぁ♡」

 先ほどと違うのはコノエの魔力が与えられているという事、そしてこの男が――俺を本当に欲しているという事だ。

「ははっ……コノエお前、ホントに俺の事好きなんだな」

「ん……言ってるでしょ」

 唇を離すのさえ惜しくて、キスの合間に呟き合う。

 今まで何度もキスなんてしてきた。セックスなんてそりゃもうドロドロのやつを何日も。

 それなのにどうだろう、こんなキス一つでこの男の感情が、気持ちが、本音が、伝わってくるなんて。一体どんな変化なんだ。

「リク、好きだ。ずっとあなたを待っていたんだ。僕だけの――」

「うるさい……こっち集中しろ……ん」

 グッとその頭を抱き寄せれば、お返しとばかりに口の中を蹂躙される。とろとろと流れ込む唾液は俺の身体を高ぶらせ、先ほどのセックスが嘘みたいにガチガチに勃っている。

「は…リク、ベッド、に」

 この期に及んで良い子のフリをしようとする男の股間を膝で押す。

 ガッチガチの癖に。コバルトブルーの瞳の奥は、どうしようもなく俺を犯したいって言っているくせに、何を今更誤魔化すことがあるんだ?

 お前のおかしい部分も見た。狂気じみた所もな。あとは……そうだな、少し臆病で可愛いところも知ったよ。

「ほらコノエ、俺が欲しいんだろ?……やるよ」

 コノエの精子で既にぐちゃぐちゃになった下半身をテーブルに乗り上げると、膝を立てて男を誘った。

 そういえば俺から誘うのは初めてかもしれない。喉を鳴らすオスの顔がおかしくて、思わず笑みを浮かべた。




 ぐぽぐぽと音を鳴らしながら巨大なペニスが我が物顔で出入りする。
 さっきのセックス――とも言うより強姦だぞあれは――とは違う後孔の濡れっぷりに、我ながら現金なものだと苦笑せざるを得ない。
 小刻みに収縮を繰り返す肉壁は、ぬるぬるとした剛直を離すまいとしゃぶりつく。

「は……っ♡ん、あ……♡」

「リク、リク……」

 テーブルの上で抱き合いながらのセックスは、激しさよりも優しさが勝っていた。
 先ほどのお詫びだと言わんばかりに気遣いにあふれた腰の動きと、愛撫される事で胸の尖りはジンジンと熱を持ち、俺はいつ吐精しても良い位に昂ぶっていた。
 そもそも魔力の授受で酷く敏感になっているのだ。
 こんなに優しく抱かれてはイけるものもイけない。
 俺の理性はどろどろと崩れて、今はもう射精することしか考えられない。

「コノエ……♡もっと動けぇ……♡」

「ん……きつくない?」

「やだ俺もう…焦らすなよぉ……っイきたいっ♡」

 ぎゅうっとコノエに抱きつけば、髪の毛に優しくキスを落とされる。
 髪に、顔に、沢山のキスを振らせると、俺の足をぐっと抱え直した。

「いっぱい気持ちよくしてあげるからね」

「ん♡して……♡気持ちよく……あっ、ああっ♡」

 より深く迎え入れる体勢に変えられる。片足を大きく持ち上げられ、抜けるギリギリまで引き抜くと、一気に奥へと突き刺される。亀頭がアナルの縁を盛り上げる限界からの長いストロークに、俺の肉筒は歓喜に締め付けた。

「だめ……よすぎる……っ♡イっちゃい、そ……っ♡」

 だらしなく開いた口の端から唾液が零れるが構ってはいられない。

 快感を追って必死に腰をくねらせてその精を乞う。


「だ、して♡コノエ……っ奥に、くれ、よっ♡」

「は……リク、可愛い……トロトロに惚けちゃってるの可愛いよ。出すから、ね……」

「あっ♡んんん――っ♡♡」

 胎の奥で叩きつける様な勢いで出てくる精液を感じながら、それを離すまいときゅうきゅうと締め上げてイった。

「は……♡あっ、んん……♡」

 絶頂の余韻に浸る唇にコノエのそれが重ねられた。
 はあー、よしよし馬鹿だな。もう怒ってねえよ。
 光を受けて輝く白髪を撫でながら、俺はそれを受け入れた。


――――――――――――――――




「おーい!コノエ!こっちこっち!」

 俺が大きく手を振ると、太陽の光を反射させているような輝く笑顔の男が小走りで寄ってきた。ホントにこいつは顔がいい。他人の顔をどうこう思った事はなかったが、俺を散々甘やかしてきてた馬鹿な男どもを思い出しては今になって同調する。

「ほら見てみろよ、これ!」

「わあ、凄いねリク。すっかり魚釣りが上手になったね」

 そうだろうそうだろう。タライの中には大きな魚が何匹も跳ねているのだ。
 決してコノエの用意した特製ルアーに魔力が込められているとか、そんな理由ではないはずだ。うん、これは俺の実力だ、うん。

 俺は食事はいらないし必要じゃないが、この男のためだけに釣りをするのもなかなか楽しい。
 腹が空けばパンをかじっていたという適当な生活をしていた元オウジサマに、生活のなんたるやを叩きこんでいる。

 腐っても俺は社会人だった男。家電のないこの世界だからといっても、あれこれ出来る事は可能なのだ。
 この釣りもその一つ。

 あの王宮での一幕を経て、俺は結局コノエにいつく事に決めた。
 聞けば王族の色だというこの炎のような髪色はどこにいても目立つだろうし、この情けない男を放っておけない気持ちもあった。

 気を使わなくて済む、美しい男と一緒でもいいかと言う思いもある。

 嫌だったら出ていけば済む話。飽きるまでこの男の傍にいるのも悪くないだろう。
 そう伝えたら、とても綺麗な笑顔を見せてたっけ。胡散臭くない、晴れ晴れとした顔だったからよく覚えている。

 静かな森の中でのんびり魚を釣ったり、野菜を育ててみたり、たまに魔法を見せてもらったり。そして夜はセックスをして眠りにつく。

「好きだよ、リク」

 そう言って俺を抱きしめるコノエ。

 はいはい、知ってるよ。毎日毎晩よく飽きないもんだ。
 いつかは同じ熱量で返せる日が来るだろうか?熱い迸りを受け止めながらそんなことをぼんやりと考える。

 ぬぽん、と後孔から抜かれたペニスにもすっかり慣れて、舌を這わせると尿道に残った精子を吸い上げた。

「……おいしい♡」

 だからそろそろ、本当のことを言ってくれもいいんじゃないか?


 俺がお前の魔力せいし以外受け入れられないって事。それが無かったら衰弱するってこと。

 まったく。見られて困る本は隠してくれよな。
 嘘はつかないが本当の事も言わないこの男には、俺だって本音は隠し続けるのだ。
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