竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ

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 クロウの――いや俺たちの小さな家に到着すると、クロウは何も言わず俺を抱えたまま室内に入り、そのまままっすぐに寝室へと向かった。

 これは……この空気はやっぱりアレなのか!?

 心臓が痛いくらいに鳴り響き、手足が緊張で汗を滲ませる。
 まるで俺がお姫様にでもなったみたいに、ゆっくりとベッドに降ろされた。
 腰掛ける俺に、クロウが覆い被さる。

「ホシ」

 誰がどう見ても分かってしまう位、目の前の男は甘ったるい空気を醸し出す。俺を呼ぶその声はまるで、トロトロの蜂蜜みたいだ。
 頬に手が触れ、クロウの男らしい顔が近づいてくる。
 キスをされる――そう思った途端、俺はハッと手でクロウの唇を遮ってしまった。

「……ホシ?」

 うわーん、機嫌悪そうな声出さないでくれよぉ。
 違う違う、キスが嫌って訳じゃないんだよ? だって俺たち名実ともに、自他共に認める番いってやつだろ? そりゃ俺だって、きききききキスしたくない訳じゃない。

 だけど。

「ご、ごめんクロウ。そういう雰囲気だって分かってるんだけどっ」

「……言ってみろ」

「前も言ったかもしれないんだけど! 俺童貞なんだ! だからっ、上手くできるかわかんなくて!」

「………………」

 クロウは口を真一文字に結び、渋い顔をさせてしまっている。

 そりゃそうだよな、相手が童貞だったら不安になっちゃうよな? 俺も経験の一つや二つあればスムーズにクロウを抱けたかもしれないけど、こればっかりは機会が無かったのだから仕方がない。

「クロウはその、経験ある……? 俺より長生きなら、そりゃあるか。あっ、いや俺、処女厨とかじゃないよ、ホントにそこは……いやちょっと嫉妬はするかもだけど」

 チラリとクロウを見ると、黙ったままだ。あっどうしよう、やっぱり経験済みなのかな。俺みたいな童貞ダサいとか、思われてたらどうしよう。

「…………………………処女だが」

「わっホントか? へへっ、じゃあ初めて同士だな」

 その言葉に気持ちが一気に軽くなった。

 俺ばかりがまごついて恥ずかしいなって思ってたけど、二人とも初めてなら、上手くできなくても恥ずかしさは半減するかもしれない。

「あっでも初めては痛いって言うけど、初めて同士でも大丈夫かな。でも、できるだけ優しくするからな」

「……………………」

 ありったけの性知識を動員して、俺は今日、男になる……!

「ホシ」

「ん?」

「今日はその…………触りあうだけにしないか」

 視線を泳がせながらの提案は、俺にとって悪くないものだった。
 突然のお誘いはやぶかさではなかったものの、いかんせんまだ心の用意ができてない。
 そんな事を言い出すと言うことは、やはりクロウも緊張していたのかもしれない。俺ももう少し、勉強してからの方が良いと思ってたから渡りに船だ。

 抱かれるのクロウの方が、やっぱり抱く方より怖いだろうし。

 コクリと頷くと、クロウは緊張を和らげた様子だった。

 そりゃハジメテだもんな。俺は心の中でうんうんと頷いて、俺の可愛い恋人の様子に満足した。

「いや恋人じゃないな、番い……伴侶? なあクロウ、俺たちのこの状態はなんなんだろ。番い? 恋人じゃない?」

「なんでも構わない。お前が私の側にいてくれるなら、どれでもいい」

 うっ……健気で可愛い。

 素直な言葉にキュンとして、思わず胸元を押さえてしまう。
 いや最初からクロウはずっと素直だった。それをひねくれて受け取っていたのは俺だった。
 ずっと向けてくれていたそのまっすぐな愛情を改めて嬉しく思ってしまい、愛おしさがこみ上げる。

「私を番いとして考えてくれているなら、それだけで嬉しい。だが……そうだな。もっとこれには慣れて欲しい」

 これとは? そう思うより前に、もう一度唇が重なってきた。

「ひゃ、ンっ」

 唇の表面をペロリと舐められ、思わずおかしな声が漏れた。その瞬間、するりと舌が口の中に滑り込んでくる。これは二度目のオトナの、キスだ!

「ん、んんっ、んぁ……っ!」

 ゆっくりとした動きで、だけど我が物顔で動き回るその竜王の舌は、敏感な口蓋をチロチロと内側からくすぐる。逃げようとする俺の舌をきつく絡め取り、擦り合わさる唾液が喉奥へと流し込まれた。

「っ、ふ、う……っン」

「今のこれは、嫌じゃないか?」

 頭の後ろを大きな手で支えながら、そんな風に甘い声を耳元に流し込むのは反則だ。背中の中心を、ぞわぞわと何かが這い上がっていく、感覚。思わずくねる腰が、竜王の身体に当たる。

「あ」

 その瞬間、自分ですら気づいていなかった自分の身体の変化にギクリと強ばった。身体の中央が、芯を持って緩く立ち上がっている。

 慌てて離そうとしたその腰を、竜王はむしろグイと引き寄せる。

「やめ……っ」

 だけどその引き寄せられた先に、自分のものより随分存在感のある塊とぶつけられて。

「く、クロウ……?」

「ホシが可愛いから、仕方がない」

「んっ」

 ぐ、ぐ、と腰を押し当てられると、なんだか俺まで変な気分になってくる。やっぱり抱いて欲しかったんだろうか? そう考えていると下着とズボンを一気に剥ぎ取られた。

「ひえっ」

 スウスウと心許なくなった下半身を、シャツの裾をぐいぐいと引っ張り中心を隠した。真っ黒な瞳が、俺を見下ろす。

「ホシ……愛してる。待つと言った気持ちに嘘はない。だが先ほどの好きと言う言葉は……嬉しかった」

「わ、わあ……っ」

 ブルン、と音がしそうな位に反り返った竜王の竜王が、ズボンから取り出された。太くて長いそれは、今はシャツに隠している見慣れた自分のものとは随分サイズが違うように見える。

「嘘だろ……俺。ちんこ……奥さんに……負けた……?」

 思わず零した言葉に、竜王が吹き出した。少し幼く感じるその表情に、胸がドキンと大きく跳ねる。

「ふ、ふふ、ホシ。本当にお前は可愛い。私に負けるのは、嫌か?」

 可愛いのは、どっちだよ。そう言いかけて、止めた。なんだか変な空気に、心がかき乱されているから。嬉しそうに目を細める竜王との、今のこの雰囲気を崩したくなかった。

「私はとっくにホシに負けてるぞ。こんな所の大きさ位、勝っていても許してくれ」

「べ、別に……いいけど。ダンナとしての沽券が」

 俺はさっきまで竜王にどんな顔を向けていただろうか。どんな顔を作って良いのか分からず、ぷいと顔を背ける。そしてその頬に、竜王の唇がまるで小鳥のように啄んできた。

「ちょ、くすぐった……、あっ」

 隠していたはずの身体の中心に、竜王のソレが重なった。それは熱くて、ずしりと重い。

「ふむ、萎えてないな」

「う、うう……っ、ジロジロ、な……っ!」

 重なり合わさったそれが、ぐいと二本、竜王の手の中に纏められた。たらたらと零れる竜王の先走りが、俺のそれにまでこぼれ落ちるから変な気持ちになる。

「ちょ、な、あ……!」

 押しのけかけた手のひらを、竜王の肩口に回される。縋り付くようなそんな体勢が恥ずかしくて、捩ろううとした身体はその大きな男の胸に押さえ込まれた。

「大丈夫だ、気持ちよくするだけだからな」

 竜王は宥めるような甘い声でそう囁くと、腹の間にある陰茎を握ったまま、腰を前後に動かした。

「ひ、っ、あ、あ……う、ンっ」

 裏側にぶつかる男の脈動が、伝わってくるようだ。ぐちゃぐちゃと肉を捏ねるようないやらしい音が室内に響き渡る。

「クロウ、っ、くろ、あぅ、あ……っ」

 手のひらに伝わるのは、男のしなやかな筋肉。汗ばんだ皮膚の感触。脚の間に男を挟んで、まるでこれはセ、セックスのよう、な、気がする。
 だけど、嫌じゃない。竜王から漂う、爽やかな汗のにおいも、艶っぽく乱れた呼吸も、切なげに俺の名前を呼ぶその声も。

 いや、むしろ――

「クロウ……、俺、もう……っ」

 ベッドがギシギシと悲鳴を上げる。

「ホシ、ホシ……っ」

 愛おしげに呼ばれると、勝手に喉から声が漏れる。嬉しいのだと、頭よりも先に本能がそう理解してしまっているのかもしれない。

 番い。

 俺はそれを、人間の自分には関係がないと思っていたのかもしれない。竜人であるこの男が振り回されて、俺にとばっちりが来ただけ、だと。だけどそうじゃなかったとしたら?

「クロウ、クロ、う、っく、あ、あ――!」

「っ、ホシ……!」

 ピンと伸びたつま先から、くたりと力が抜けた。
 腹の間には、二人分の精液が粘土の高い水たまりのように震えて落ちる。

「ホシ、ホシ……、可愛い、愛してる」

 ちゅ、ちゅ、と顔中にキスを落とされ、恥ずかしいのに嬉しいなんて。俺は一体どうしてしまったんだろう。

「どうした、ホシ。気持ちよくなかったのか?」

 珍しく、オロオロとした表情のクロウが、慌てた様子で汗ばんだ俺の前髪を梳く。それがなんだかおかしくて、俺は思わず吹き出した。

「ばか。どうみても、気持ちよかっただろ」

 腹の上を流れ落ちる、白い液体がありありと物語っているというのに。この男は俺の表情一つでこんなにも取り乱すのかと思うと、おかしくて。可愛くて。

「そうか、良かった」

 細めて笑うその表情が、なんだか胸にズギャンときた。

「かわ……っ」

「……? 皮? ああ、大丈夫だ、被っていても可愛いぞ」

「誰が真性包茎だって!? ちゃんと勃ったら剥けてただろうがっ! ほらっ、ほらっ!」

 ああもう、またこんな風にツッコミをしてしまっては、良い雰囲気も台無しってもんだろうと思うけれど。だけど竜王が楽しそうに笑って受け入れてくれるから。

 その夜俺たちは、まるで何年も前からこんな関係であったかのように、あれこれくだらないことを喋っては笑い合い、同じベッドで眠ったのだった。


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