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帰ろう

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買取をしてもらい、手にしたお金を持って今度は買い出しだ。
森で暮らす中では手に入らないもの、服や石鹸、油などの日用品を買い込まなくてはいけない。
だけどふと、思い出す。

「さっきおばあちゃんが言ってたけど、クレナイがしょっちゅう町に来てるって、本当?」

「……ああ。この数年で体も出来てきた。家との往復なら一日もかからないからな。――黙ってて悪かった」

「うん……いいよ。でもその……そんなにお金に困ってない、よ?」

森での暮らしは町での暮らしと違って贅沢は出来てないけれど、でも食うに困ることは無い。欲しいものは別に無いし、毎日自然の中で過ごす日々では少しのお金があれば事足りている。

「あ……、何か欲しいものがあった?言ってくれたら買うのに」

小さい頃からあれが欲しいとは言わない子だった。年頃になって、何か大きな買い物がしたかったのかもしれない。
頭一つほど上にある二つの瞳を見詰めると、彼はふう、とため息をついた。

「ない。――だが、俺もスイが欲しいと思ったものを買いたいと思っている」

「へ?僕……?」

「婆もさっき言っていただろう。惚れた相手に楽をさせてやりたいと思うのは、当然のことだ」

「ほ、惚れた……っ。……あ、ありがと」

クレナイは頷くと、僕の手を引いて歩いた。温かい手だ。こんな風に繋いで歩くのは、彼がまだ小さかった頃だけかもしれない。あっという間に大きくなった我が子が何だか眩しくて目を細める。

「スイ、また親の顔してる。俺の、恋人になったんじゃないの」

「っ、う、うん……そう」

まだ切り替えが上手くできない。
すっかり自立した男のような顔をしているクレナイは僕の子供であることを忘れてしまったようだ。でも、考えれば彼が子どもだった頃から、大して手もかからないどころか下手をしたら僕のフォローをしてくれていた気がする。
あれ……?じゃあ今までと何も変わらない?
僕が、クレナイの気持ちに気付かなかっただけ?

「…………」

「どうした、疲れたかスイ」

考えが中々まとまらない。僕はそもそもクレナイの過去を何も知らない。出会って5年、彼の成長は間近で見守ってきたつもりだけれど、その口から聞いた事は何もないのだ。
あの森で出会うその前は、一体どんな暮らしをしていたのか。

不思議なものだ、彼をこの手から離そうと、自由にしようと思っていた時には考えもしなかった独占欲。もっと知りたい、そして知って欲しいという気持ちが僕に会った事実に自分自身戸惑いを覚えた。

「スイ――」

「きみのこと、きみが分かる限りでいいから教えて。僕の事も全部、話すから」

こういうことはキチンとした方が良い。

直ぐに町にこれるから、というクレナイの言葉に甘え買い出しも早々に引き上げる。そうして彼の言葉に甘えて、行きしなと同じようにはやてのごとく駆け抜ける腕に抱きとめられたまま、深い森の自宅へと戻った。
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