呪われ竜騎士とヤンデレ魔法使いの打算

てんつぶ

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第一話 竜騎士と呪い④

 リウが王子を庇い、その身に竜の呪いを受けた。
 それは大事件となり、リウが眠っている二週間の間、王城で随分な騒ぎになっていたらしい。
「その痣と痛みが、竜の呪いですわ。痣が徐々に身体を蝕んでゆき、恐らく今のままでは半年から一年の命でしょう」
 そう診断したのは、あの日王子の命を受けて竜たちを拘束した女魔法使いだった。王族専属だという魔法使いには王子を諫めることができず、悪事に荷担したことを謝罪された。
 だが、だからといって許せるものではなかった。リウは謝罪は受け取るものの許せる心情ではないと、はっきりとその旨を伝えた。
 肩を落とした魔法使いに罪悪感が湧いたが、リウにとって竜は家族の一員だ。家族を殺されて、それをそうですかと受け入れることはできない。
 リウは赤黒い染みが滲む指先を見つめる。殺されたショアの悲痛な叫び、呪いを発動するほどの強い怒りを考えると、胸が苦しくなった。
「王子を庇ったことが評価され、リウ様の階級が上がると聞いております。ですが……その痛みは日増しに大きくなると考えられます。近々、騎乗そのものが難しくなるでしょう」
「そんな馬鹿な、うっ」
 慌てて身体を動かそうとしてしまい、身体のいたる所が悲鳴を上げた。
 筋肉痛にも似た、それよりも強く鋭い痛みだ。

「わたくしの方でも、呪いを解く方法は探しますがあまり先例がなく……あの、あまり期待はなさらないでください」
 女魔法使いは申し訳なさそうな顔をして、何度も頭を下げて部屋を辞した。罪の意識はあるようで、リウも彼女を許せない自分を情けなく思った。

 目が覚めて二日目になると、なんとか身体を起こせるようになったリウだが、指先を少し動かすだけでも身体中に鋭い痛みが走る。
 寝台の上で起き上がったリウの傍らには、今日は近くの椅子に腰掛けるコラディルがいた。
 事態を把握したほうがいいだろうという竜騎士団長の勧めを受け、コラディルが一連の騒動を説明しに来てくれたのだ。
 魔法使いが言葉を濁した部分も赤裸々に語られ、あまりの内容に思わずリウも眉根を寄せた。
 風に吹かれたカーテンが、僅かに揺れる。
「酷いな……」
「ああ。とにかく王子は竜――ショアが悪いんだと一点張りでさ。だがそこからショアや俺にやった王子の悪行が明らかになってな。竜の呪いを受けるほどの怒りを抱かせたってことで、なんとか俺の首は、皮一枚で繋がったってわけだ」
 コラディルは軽く言っているが、
 あの日、第二王子であるミッシャラの態度は、いくら反竜派とはいえ酷いものだった。罪のないショア――コラディルの相棒である竜を貶め、命を奪った。
 竜を育て上げるための経費、損失。そんなものよりもなにより、十年一緒に過ごした仲間を失ったのだ。リウの胸からも悲しみが引かないが、目の前のコラディルの辛さは計り知れない。
「それで……俺もさ、竜騎士を辞めることになった。そりゃそうだよな。相棒の竜を失ったんだ。いくら他の竜たちも俺に懐いてくれているとはいえ、騎乗までは許してくれねえし」
「コラディル……」
 竜の引退は、竜騎士の引退でもある。
 一般の騎士であれば、馬がいなくなろうともそれを替えればいいが、竜はそうはいかない。だからといって竜を降り、騎士職につけるかと問われればそれは不可能だ。
「いくら竜騎士ってもてはやされても、竜がいなけりゃただの平民だしよ。王城に残るにはちっとばかし学も足りねぇ。下働きでもなんでもいいって囓りつくには、いい思いをしすぎた」
 竜騎士は、竜を操ることに特化している。剣を操るよりも竜を操った方が強力な武器となるのだから当然だ。
 結果、竜があっての竜騎士となり、つぶしがきかない。
 竜を失うか、竜騎士を失うか。
 数年しか竜騎士でいられない場合もあれば、三十年と付き合える場合もある。それらはもはや、運でしかない。
「ま、それもショアのおかげだったからよ。竜との別れも、竜騎士としての寿命もいつか来る。それが思ってたより早まっただけだ」
 リウとコラディルは他の竜騎士よりも入団が近く、この十年間ずっと一緒にやってきた仲間だ。少なくともあと二十年は共にいると思っていただけに、突然の引退をリウは受け止めきれないでいた。
「おいおい、んな顔すんなって! 言っとくけどなあ、俺はお前と違ってちゃーんと蓄えてんだ。娘二人が成人するまでは、田舎でのんびり過ごせるくらいはあるんだぜ」
 コラディルは笑って、リウの肩にドンと身体をぶつけた。
 気にするな、俺は大丈夫だ。そう伝えてくるコラディルの気遣いは、しっかりリウに伝わっている。
 相棒であるショアと竜騎士の職を失い、一番辛いのはコラディルなのだ。
 気遣われる立場が違うだろうと、リウは自分を叱責する。
 外から吹き込む風が、カーテンを大きく揺らした。
「また、会えるよな」
「あったり前だろ。今度会ったら竜騎士サマには酒を奢って貰わなきゃな」
「下戸のくせに」
「う、うるせえな! こういうのは気分だろ、気分!」
 去りゆく仲間を見送るのは寂しい。
 だがリウはコラディルの気遣いを受取り、あえて普段通りに接した。
 またな、と軽く告げるコラディルを寝台の上から見送り、その姿が見えなくなるとリウの身体は布団の中へと沈み込んだ。
「はあ……コラディルが。そっか、そうだよな」
 目覚めたばかりのリウにとっては寝耳に水の話だが、あの事件から二週間が経っているのだ。コラディルもそれを受け入れ、飲み込んでいるのだろう。
 常にズキズキと鈍く痛む身体は、腕を動かすだけで雷が走るような突き刺す痛みが襲ってくる。
「余命一年……いや、半年か」
 昨日訪れた女魔法使いの診断によれば、呪いに蝕まれたリウの身体はそう遠くない未来に死が訪れる。それを全て信じているわけではないが、呪いといえば魔法使いの専門分野だ。
 詠唱だけで使う魔法もあれば、開発した魔法陣を使って発動する魔法もあると聞く。
 彼らの体内に存在している多くの魔力がそれを可能にし、同じく体内に魔力を持つ魔物を祖とするこの国の竜も、魔力を有していたのだ。
 その竜がなんらかの魔法――呪いを使えたとしても、不思議ではない。
「親も恋人もいないし、それは別にいいんだけどさ」
 見慣れた天井を眺めながら、リウは独りごちる。
「だけど……ガジャラ。ガジャラが」
 ガジャラ――リウの相棒である竜の名前だ。
 竜の死は竜騎士の死だ。
 そしてそれと同様に、竜騎士の死で竜は空を飛ぶ自由を喪う。
 竜は気高く、乗る人間を選ぶ。
 しかし自由に空を飛べる竜を、単騎で空に放つ度胸は人間にはない。
 そのため乗る人間が現われるまで、竜はその脚に特殊な枷を付けられ飛ぶことを許されないのだ。
 運良くリウの後釜が見つかればいいが、そうでなければガジャラは二度と、空を飛ぶことはないだろう。
 それを思うだけでリウは辛かった。自分の死は受け入れられても、大切なガジャラの今後を考えるだけで胸が苦しい。
 大空を舞う、あの巨大な翼。悠然と羽ばたく美しいガジャラは、いつだってリウに寄り添って飛んでくれていた。
「俺は――竜騎士でありたい」
 強い祈りとは裏腹に、リウの指先も足先も酷く重く、動かすだけで酷く痛む。
 絶望に傾きそうな心を奮い立たせ、一日でも早く起き上がり、一日でも多く竜騎士として生きようと誓った。
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