呪われ竜騎士とヤンデレ魔法使いの打算

てんつぶ

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第十一話 安堵と不安①

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 ラーゴから逃げ出し竜舎へ来たリウだったが、来て早々、当の追っ手の声が響く。
 深くため息をつき扉へ顔を向けると、そこには案の定ラーゴの姿があった。
 だが眼鏡を掛けておらず、外出時には必ず掛けているマントを羽織っていない。よく見れば頬が赤く腫れている。
 ズンズンと近づくラーゴはどこか普段と違う様子だ。
「ラーゴ、それは――」
「ごめんなさい! もうあんなことはしません! だから逃げないでください!」
 リウの問いかけに被せる形で、ラーゴは大きな声で謝罪を口にし頭を下げた。
 あまりにその勢いが強かったせいで、リウは一瞬ラーゴへの怒りや悲しみを忘れて目を見張る。
 だがすぐになにをされたかを思い出し、ふいと顔を背けた。
「リウ……本当に、ごめんなさい。怒ってます、よね? ああどうしよう、どうしましょう」
 本当に反省したのだろう。今まで聞いたことがないほど弱々しく狼狽えている声だった。
 ラーゴのしたことは許せない。
 だがそれは、ラーゴに触れられたことが嫌だったのではない。
 洗ってもいないリウの陰茎を舐めるなどという行為が恥ずかしくて嫌だったのだ。
 その上その行為をメメルに見せるかのように――これは実際嘘だったのだが――うそぶいたことにも腹が立った。
 しかし今、ラーゴは本気で心の底から反省している。リウを怒らせてしまったことを悔いて、真摯に反省しているのだ。
 結局、リウはラーゴのことを好きなのだ。
 こうやって目の前で困り顔をしているラーゴを見るだけで、頑なになっていたリウの気持ちはスルリと解けてしまう。
「……顔は、どうしたんだ。色男が台無しだぞ」
 リウはまだ素直になれないものの、そっぽを向いたままラーゴにそう話かける。
 言われてラーゴは「ああ」とその赤くなった自分の頬に触れた。
「メメルに、殴られまして」
「はあっ?」
 あのラーゴを慕ってると公言しているメメルがラーゴを殴るなどと、天変地異の始まりかと思うほどだ。
 リウは驚き、思わずラーゴの方を向いた。
 そこには真っ直ぐにリウを見つめてくる紫色の瞳がある。
「リウが逃げ出してしまったことを告げ、理由を聞かれたので合意なしに性行為を仕掛けたことを伝えたら殴られました」
「は、はは……」
 もはやリウもどんな顔をしたらいいのか分からず、空笑いを浮かべるしかなかった。
 ラーゴに襲われて生娘のように逃げた自分も恥ずかしいし、それをメメルという年頃の女性に知られたこともいたたまれない。
「そんな腰抜け野郎だとは思いませんでした、と。惚れた男の一人や二人、さっさと自分のものにしやがれです、と怒られたところです」
「う、んん?」
 メメルの言っていることもどこか微妙にずれている。
 リウは腕を組み、首を傾げる。
 なによりメメルはラーゴを愛していて、リウを嫌っているはずだ。
 そう問えば、ラーゴは薄く笑う。
「メメルの愛情そういったものではないんですよ。確か推し、と言っていましたね。彼女はあれこれ愛の言葉じみたことを言いますが、僕とどうこうなりたいわけではないんです」
「お、推し……?」
 初めて聞く単語に、リウの頭は更にこんがらがる一方だ。
「ただ、メメルが認めた人間以外が僕と結婚するのは許せないようでしたが、あの様子ですとリウは認められたみたいですね。まあメメルに認められようが認められまいが、僕には関係ないんですけど」
「うん?」
 ラーゴの纏う空気が変わる。
 弱々しかった態度が一遍、決意に溢れたものへと変化したのだ。
「例えリウに嫌われても、この手を離すことはできません。僕以外に貴方を譲ることなどできない」
 手を取られ、至近距離で熱っぽく囁かれる。
 紫の瞳には熱が籠もり、まるで本当に愛されているような錯覚に陥ってしまう。
 ラーゴは呪いを研究するために手を差し伸べてくれているだけだ。リウはそう思い直した。
 だがわざわざリウを探して、追いかけてくれた。
 ラーゴほどの人間であればリウに屋敷に戻れと命じることは容易かろうに、自分の非を認めて謝罪してくれたのだ。
 これ以上、意地を張るのもばからしい。
 結局リウも、ラーゴの側にいたいのだ。
「駄目ですかリウ。僕と一緒に帰ってはくれませんか?」
 眉を下げて問いかけてくる可愛い生き物を前に、意地など張れないだろう。
 リウは口角を上げる。
「帰るよ。俺も、騒ぎ立ててごめんな」
 ラーゴの表情がパアッと明るいものへと変わった。その華やかさは大輪の花が咲き乱れたようだ。
「ああよかった! もしも駄目だと言われたら、どうしようかと思っていました」
 ただリウが帰ると言っただけでこの喜びようだ。
 リウの方まで嬉しくなった。
「僕以外の人間を頼るなんて許せませんからね。屋敷に閉じ込めて、僕しか見れないようにするしかないと思っていました」
「ん……?」
「あっ、もちろん安全にですよ! 心も体も縛り付けてトロトロのデロデロにして毎日二人きりで爛れた日々を過ごすんです。ああ、それも悪くない案でしたけど……やっぱりリウが自然に戻ってきてくれるのが一番ですし」
「……うん?」
 嬉しそうに語るラーゴの言葉に不穏な単語が混じっているようで、リウは自分の耳を疑う。
「でも本当に、良かったです。本当に、貴方を追いかけている間は気が気じゃなかった」
「す、すまない」
 改めて言われると、まるで気を引くために逃げ出したようだ。
 子供の家出のようでもあり、気恥ずかしくなってくる。
 ラーゴが絡むと、なぜかリウの行動は普段よりも幼稚になるようだった。
「昔、孤児院にいたときは、脱走した子供を探し出す方だったのにな」
 天涯孤独となった子供たちにとって、孤児院は命を繋げる唯一の場所だ。
 だがそうと知ってはいても、全員が全員親を亡くしたわけでもない、
 捨てられた子供は特にいなくなった親を恋しがり、元の町へ帰ろうと家出する者もあった。足の速い子や、隠れるのが上手い子もいた。
 そんな子供を追いかけて探し出し、孤児院に帰ろうと説得するのもリウの仕事の一つだった。
 今のリウはそれと真逆だ。
 本当はリウもラーゴから逃げたふりをして、探してほしかったのだろうか。 
 隣でフッと笑う気配がした。
「僕もね、孤児院育ちだったんですよ」
「え――、ッシュン!」
 くしゃみが飛び出し、話を遮ってしまった。
 恥ずかしさに顔を赤くするリウの手をラーゴがさする。
「もう日が落ちて冷えてきましたからね。帰りましょう、僕たちの家に」
 言われて周囲を見渡せば、確かに薄暗くなっていた。
 ずっとこちらの様子を伺っていたガジャラの顔も見えにくくなっている。
 帰る。
 リウにとってラーゴの屋敷は、帰る家だと思っていいんだろうか。
 直接問いかけるだけの勇気はまだ出ない。
「ありがとうな、ガジャラ。また来るよ」
「グルウウウ」
 今は撫でることすら叶わないが、大事な相棒への感謝を精一杯言葉に乗せた。
 目を細め首を揺らすガジャラには、きっと伝わってるだろう。
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