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こももさん
しおりを挟む真昼間から酒は、ということで各自ウーロン茶を手に乾杯を待つ。小さな店は7人入ったらもういっぱいで、聞けば熱烈大佐の知り合いの店だと言う。今日は貸し切りにしてくれたそうで、人目を気にすることなく電柱愛を叫べるという事だ。ありがたい。
「えー、では!同士に出会えた感動を祝して!乾杯!」
「かんぱーい!」
カチンとグラスを重ね、一口飲んだ。どっちにしろまだ未成年だから酒は飲めないのだが、どうやら最年少らしい俺とデンノと違い物足りなさそうにしているメンバーもいた。俺の隣に座った、俺よりも背の高い人もその一人だ。
「えっと、トリノさんでしたよね?よろしくお願いします。俺、ハッシーです」
「……うん、よろしくハッシー……敬語なくていいよ……」
SNSでも淡々と喋っていたトリノさんは、リアルでも少し無口なようだ。長い前髪で顔の半分は見えないけれど、見える口元は優しそうだ。
次々と出てくる料理を摘みながら、俺たちは早速話始めた。
「トリノさん、背高いよね。俺より高いし……2メートル近い?」
「……うん……。197センチある……でかいだけ……恥ずかしい」
針金のように細長い身体を縮こまらせるトリノさんだが、別に高身長は恥ずかしくないと思うけどな?俺よりも背の高い人は少ないから、勝手に仲間意識を抱いてしまう。そうトリノさんに伝えると優し気に微笑んでくれた。最近SNSで繋がったばかりのトリノさんだが、言葉少ないながらも的確なコメントは尊敬している。
「トリノさんは、なんで電柱にはまったんだっけ?俺は物心ついた時からだけど」
「……うん……、俺ね……昔……――」
「ちょっとお!ハッシー、ボクともおしゃべりしてよお~!えっと、トリノさん、ちょっと席かわって!」
元気いっぱいのこももさんがスカートを翻しながら乱入してきた。おっと、さすがに今のはトリノさんに失礼なのでは。俺がそう口を開こうとしたら。
「……好きです、こももさん。……俺と付き合ってください……」
「ふぇ!?」
トリノさんがこももさんの手を握りしめ、急にそんな風にいうものだから場が一瞬で静まり返る。いや、トリノさん、気付いてないの?こももさん、可愛いけど男だよ?フリフリ着てるけど男だよ?見えてるよね喉ぼとけ。感じてるよね骨ばった手のひら。
そんな中一人平然と食事を進める俺の幼馴染。お前の図太さどうなってんの?
「あ、あのねトリノさん?わ、悪いけどボクこう見えてオトコノコなんだよねえ?女の子じゃなくってごめん――」
「知ってます……。俺、昔トリノさんに助けて貰いました。覚えてませんか……?……どうも、あの時の電柱です。国際展示場で、昔、一度会ってる……」
「……?……!!あ、あの!電柱のひと!!えっ、気付かなかった、えっ、じゃあボクがゲイなのも知ってたってこと……!?」
「俺、あの時から……ずっと……こももさんの事追い掛けてて……電柱好きは変わってなかったし……俺も電柱……というかむしろ俺は柱上変圧器推しに近いけど……でも興味持って……」
半分以上、何の話をしているのか分からない。だけどトリノさんがずっと昔からこももさんの事を知っていて一途に想っていたという事は伝わってくる。店内はすっかり二人を見守るムードだ。男同士だとかそんな事を気にする人間は、どうやらこの中にはいないらしい。
「……俺、あなたの電柱になりたい。あなたを支えたい……俺と……付き合って貰えませんか……」
「ボク、可愛いけど多分トリノさんより年上だよ?」
「知ってます……姉さん女房……ありがたい……」
「それに、結構嫉妬深いし……その、BL趣味は多分抜けられないし」
「……俺、電柱のコスプレして……コミケで売り子します……。こももさんは強電流電線のコスプレしましょう……」
いやちょっとまて、強電流電線のコスプレってなんだ。弱電流電線のコスプレをするやつもいるのか?どんなんだ?見渡すと皆も気になったのか目が合うが、頷き合って突っ込まないことに決めた。今は二人を見守ろう。
だからデンノ、お前めっちゃ食べ過ぎだからな?それ俺のから揚げじゃないか?
「ボク地方だから、遠距離になっちゃう」
「……フリーのSEなんで……PCあれば全国どこでも仕事できます……。引っ越しますよこももさん……。あとは、ありますか……不安な事……。もう無いなら……頷いて」
「う……っ。よ、よろしくお願いします……!」
わあっと歓声があがる。すごいものを目の当たりにしてしまった。
そこからもう二人をお祝いするノリになって、持ち家のある三月さんは記念の電柱を立てると騒いだり、熱烈大佐はいつのまにかケーキを出してきて入刀させたり、こももさんも浮かれていたのか実家の庭にある電柱を記念碑にすると言い出したり、本当にお祭り騒ぎだった。
SNSで通じた仲間たちだけど、本当に気のいい人たちばかりで楽しい時間を過ごせた。そうして、成人組はさらに飲みに行くと二次会会場へと向かい、俺はデンノと共に再び電車に揺られて帰宅した。
――――――
楽しかった時間を過ごしたが、やはり気を張っていたのか自宅に着くとホッとする。
当たり前のようにデンノが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、今日のオフ会の事をSNSに書き込んだ。
「しかし驚いたよなあ。トリノさんのこももさん……。いや、男同士っていうのも思ったよりありだな」
「へえ。そういう趣味だったんだ」
「いや、趣味とかじゃないけど……でもそうだな。陳腐だけど、愛があればいいんだなって。俺も今まで付き合ってた彼女にあんな風に愛情を伝えたこと無かったなって反省もしたんだよな」
割と付き合っても半年程度しか続かなかった。どの子もそれなりに好きだったはずなのに、今ではその思い出だっていまいち思い出せない程度の浅い付き合いだったんだろう。トリノさん、長年こももさんを想っていたらしいしあの真摯な気持ちはそりゃこももさんだって落ちちゃうよなあ。
「まあお前には無理じゃないか?今までも見た目ホイホイで寄ってきた女にフラフラ靡く程度だし?くっそ鈍感男だもんミハシって」
「いやいやいや、デンノそれは言い過ぎじゃないか?俺はそこまで鈍感じゃないし何なら気の付く彼氏だったって言われてたはずだぞ?」
「……俺の気持ちに気付かないじゃん。……っミハシのばーか!」
「は……!?」
キッと俺を睨みつけるデンノの瞳は少し潤んでいて……え?まってお前、え?そうだったのか?
大きく音を立ててドアを閉め消えるデンノの姿を、俺はぽかんと見ているしかなかった。
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