よろしい、ならば電柱だ。

てんつぶ

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デンノと俺

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 自分の部屋を静かに開ける。自分の部屋だというのに気を使って開けるのは、何かあると俺のベッドに立てこもる幼馴染がそこにいるからだ。
 
「……デンノ、普通こういう時じぶんちに帰るもんじゃないの?」
「うるさい。習慣だ」
 
 強気なデンノが、落ち込んだ時にこうやって俺のベッドに逃げ込むのようになったのは、いつからだっただろう。
 
「……それ、俺のだよね?」
「うるさい。お気に入りなんだからほっとけ」
 
 こんもりと盛り上がった布団を静かにめくりあげると、デンノが抱えているのは俺の今朝脱いだパジャマだ。お気に入りだったのか?初耳なんだけど。
 
「なあ、デンノ、さっきの話なんだけど。お前その……俺の事好きだったって事?」
「うるさい。そう言ってるだろ」
「いや言われてないからね?えっと……いつから?」
「お前、そうやって聞くの女々しいからな?くそだせえからな?」
「いや人の布団に立てこもってるやつに言われたくないからね?」
 
 俺がめくった布団をさらに被り直そうとするデンノの顔を見るとトマトのように染まっていた。
 あれ?俺の目がおかしいのかな?何かちょっと可愛く見える。
 
「……返事は」
「は?」
「告白の、返事。しろよこの唐変木」
「唐変木って久しぶりに聞くな!?いや、されてないしね、告白!」
「うっせ。……どうなんだよ、その……っ俺の事……考えろよぉ……」
 
 そういうとデンノはもぞもぞと布団を被ってしまった。
 うーん、困った。俺は、ふくらんだ布団の上をポンポンと叩いた。
 
「あのさ、俺今日初めて、男同士の恋愛でもおかしくないんだって知ったんだ。だけどさ、だからと言ってお前の事恋愛対象に見れるかって言ったら……その、そうでもなくって。だってお前はずっと俺の傍にいるのが当たり前で、幼馴染で。気持ち悪いとかは無いんだけどさ、まだ俺自身が男同士で恋愛出来るかって言ったら分かんなくてだな」
 
 うう、これはお断りなのか?やっぱりそうなのか?いや、俺にとってのデンノはやっぱりデンノで。こいつ相手に愛だの恋だのという気分にはならないんだ。少なくとも、今は。
 怒ったかな?まさか泣いてないよな?ポンポンと叩いていた布団の中からは何の反応もない。俺を想ってくれていたらしいデンノを傷つけていたら、どうしよう。俺の大事な幼馴染なんだ。
 
「……っうわ!?」
 
 小さな体の割に力の強いデンノに、一瞬で布団の中に引きずり込まれる。
 ぎゅうぎゅうと抱きつくデンノの身体は、布団に籠っていたせいか少しだけ熱かった。
 
「じゃあ、考えてくれよミハシ。男と――俺との恋愛あるかないか、試そうぜ」
「へ……?ん……っ!?」
 
 言っている意味を理解できないうちに、意外と柔らかいデンノの唇が押し当てられる。少しだけ震えるそれは何度も押し付けられて俺は近すぎる幼馴染の顔をじっと見るしかなかった。
 
「いや、ちょ、まてって、デンノ、えっ!?」
「気持ち悪くないか、その……キス」
「うん?うん、別に気持ち悪いとかは無かったけど……えっ、ちょ、デンノ!?」
 
 カチャカチャとベルトを外そうとするデンノの手を阻む。
 お前、なにしようとしてんの?
 
「気持ちが俺に無くてもいいから。だから、体だけでも俺にくれよミハシ。今お前フリーだし、俺、妊娠しないしお手軽だろ?」
「お手軽って……」
 
 不敵に俺の上で笑うデンノだったけど、少しだけ体が震えている。分かってる、こうやって軽口を叩くのはデンノの癖だ。多分凄く考えて、勇気を振り絞ってこんな風に言うんだろう。
 
「いいから。な、一回だけ……幼馴染のお願い聞いてくれよ」
 
 デンノの気持ちを受け入れられるかも分からないのに、俺はしがみ付く男の感情に心が痛む。同情なのか愛情なのかわからないうちに、俺は無意識にデンノを抱きしめ返してしまった。
 
 それが、合図となった。
 いつも多弁なデンノは喋らずに、啄むように俺にキスをしてきた。慣れてないその動きで、デンノがこういった行為が初めてだという事を知る。それなのに俺の為に精いっぱいリードをしようとする男がいじらしい。ぺろりと舌でその唇を舐めてやると、驚いたように体が跳ねた。その背中を抱きしめて、口の中に舌を差し入れた。奥の方で縮こまるデンノの舌をちろちろと愛撫して引っ張り出してやると、ちゅくちゅくと吸い込んでデンノの舌を味わう。
 
「ん……っん、ん……っ」
 
 鼻を抜ける声が何だか色っぽい。おかしいな、最近こういうことをしていなかったせいだろうか。デンノが妙に可愛く思える。少なくとも、デンノとのキスは嫌いじゃない。
 
「は……っ、な、ミハシ……、その、俺、ちゃんと出来るから。ちょっとさせろ」
 
 顔を紅潮させて、デンノは俺のベルトに再度手を掛ける。ここまできたらデンノがやめたくなるまで好きにさせておこう。多分、俺が挿入する方だと思うし。
 デンノは俺のボトムを下げ、下着から半勃ちのソレを取り出した。パジャマ越しの勃起はなんどかこの幼馴染には見られているが、なにも纏っていない状態で見られるのは少々気恥ずかしい。
 そう思っていたら、デンノまで自分のボトムを一気に脱いだ。
「ん……っ、全部……俺がするから……っ寝転がっとけ……っ」
「……っ!デンノ……!」
 デンノは俺自身を躊躇なく口に迎えると、くちゅくちゅとそれを舌で愛撫した。重なる水音の先に耳を澄ませば、彼の手は尻の向うにあるようで――つまり、ソコを自分自身で解しているらしい。
 
「おまえ……っ、く……っ!」
「ふ……っ、いいから……ちゃんと気持ちよく……っん、できる……。一人で、練習してきた、から」
 
 夜な夜なこいつはこれを想って、そこを拡げてきたのだろうか。慣れたその動きと、反するようにたどたどしい舌使いに愚息に熱が集まる。バキバキに反り返ったソレにキスをして、何故か満足そうにデンノは笑った。
 
「目、瞑ってていいから」
 
 寝ころんだ俺に乗りあがり、デンノの孔はゆっくりと俺のペニスを飲み込んでいく。俺の幼馴染が、知っている男が、俺のモノを体の中に入れて眉根を寄せている。俺はそれから目を逸らす事ももちろん閉じる事も出来ずに、その様子瞬きすらできずに魅入っていた。
 
「はい……った……、は……っおっきい、なミハシ……」
「……っ、苦しくないか?デンノ」
「だいじょぶ、……っちょっと苦しいけど、なんかきもちい……」

 俺のモノが入っているあたりを手のひらで撫でるその下腹部には、確かに俺と同じモノがピクピクと反応を示していた。

「……そんなところで感じるの?」
「ばっか……相手がお前だから、あっ、動くなって……んんっ」

 確かに性別が同じだ、付いてるものもお互い付いている。それなのになぜだろう、肌を合わせて絆されたのだろうか、ミハシへの愛情が湧き出ていることを確かに感じている。
 
「は、ん、は……っ、ミハシ、きもちい……?っん……あ」
「気持ちいよ……デンノの中、滅茶苦茶……イイ……!」
 
 高まる快感に、遠慮なんてもうできない。俺の上で腰を振るデンノの腰を掴み、自分のペースで下から勝手に突き上げた。
 
「ひぁ……っ、ん、く……、あっ、や、駄目だっ、ってぇ!」
「悪い……イきそ」
「ん、うん、出して、俺のナカ……っ、頂戴……っあ、イく……あっあ……!」
 
 ひときわ強く、デンノの肉壁が俺自身を締め上げる。俺は夢中で腰を使って、最後の一滴までデンノのナカに吐き出した。
 俺の胸に倒れ込んだデンノを抱きしめて、ああ俺はもこいつに落ちてたんだなと、他人事のように感じていた。
 
 
――――――
 
 あれから俺たちの生活は、そんなに変わらなかった。朝はいつも通りデンノが起こしに来るし、時間が合えば大学にも一緒に行った。休みの日は二人で映画を見たりダラダラと過ごす。それはあの日の事がまるで無かったような日常すぎる日常だった。
 俺もデンノもそこには触れずに過ごしたし、デンノも触れて欲しくないのか今まで以上に俺の身体に触れてこなくなっていたのを感じていた。
 
「今日のおやつなに?」
「うるせー俺はミハシのおかんじゃねえ。みかんでも食っとけ」

 観ていた映画もエンドロールが終わり、おやつでもと思ったらみかんを投げられた。いやお前たまに気分いいときおやつ作ってくれるじゃん。いやみかんもきらいじゃ無いけどな?俺たちは二人でソファに転がり、温室みかんを頬張った。

「お、甘い。当たりだな」
「んー、なあデンノ。おれたち付きあわないのか?俺、お前の事好きなんだけど」

 何気なく、さりげなくを装って、万が一断られた時に冗談だと笑いたくて、俺はそんな風にデンノに切り出した。
 あの日から俺はずっとデンノに触れたいし、お前の顔を見るとドキドキする。こうやっていつも通りに一緒に過ごすだけでもたまらない気持ちは、これはもう恋だろう?
 デンノは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした後、その開いた目に一気に膜が張った。

「ごめん、泣かせた?待たせて、ごめんなデンノ」
「うるせえ……みかんが滲みただけだっ」

 相変わらず口が悪い。でもお前、もうみかん食べ終わってるじゃん。バレバレの嘘を付きながら、俺の首にぎゅうぎゅうと抱きついてくる幼馴染が可愛い。スンスンと鼻をすする男の髪の毛を撫で落ち着くのを待っていると、デンノは照れ隠しのようににやりと不敵に笑った。
 
「まあ、お前は俺に落ちると思ってたけどなっ。……お前、前にしてた変態ツイート覚えてるか?」
「……変態ツイート?」
 
 紳士的な俺が変態ツイートをした記憶は無いが。
 
「……『電柱の乳首を舐め回す夢を見た。リアルだった』ってツイ。お前、マジで記憶にない訳?」
「……まさか、あの乳首はお前のか?」
「正解。起こしに行ったら電柱と間違えられて乳吸われるとはな。まあ、だから俺の身体自体にはそんな嫌悪感ないだろうなーってあてこんでたんだけども」
 
 SNSにそれを投稿した時はよく覚えてる。小粒な乳首が舌にフィットして、俺の推し電柱のイメージにぴったりだったんだ。
 
「お前が俺の理想の電柱だったのか……」
「なにそれマジでキモイ。顔の良さを差し引いてもキモイ」
「感電……したいだろ?」
「したくねえわ!キメ顔使うな。電柱縛りから離れろ変態」

 両想いになったはずなのに、俺の幼馴染の口の悪さは相変わらずだ。

「……その変態が好きなやつがよく言う」
「……うるせえ黙れ」
 
 口は悪いが顔色は素直だ。真っ赤に染まったその耳を食んで、俺は天邪鬼な恋人を抱きしめた。
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