ショッピングモール転移 〜妹の言うとおりにしていたら、最先端の無害ダンジョンとして一世を風靡する〜

途上の土

文字の大きさ
2 / 3

アンベリーバボー

しおりを挟む
 ジャングル大帝。
 それが真っ先にあおの頭に浮かんだ言葉だった。
 大帝に特に意味はない。大事なのはジャングルの方だ。
 ジャングルでなければAmazonでも密林でも、なんなら集まれどうぶ◯の森でも良い。

「む、虫網買わなきゃ……」
「落ち着いて、お兄ちゃん」

 楠木モール西口から出ようとする蒼の後ろ襟を妹、桃香ももかが引っ張って止める。
 はっと蒼は我に返った。が、やはり目の前の生い茂る木々は消えてくれない。

「これが落ち着いていられるか! なんだよこれ!」
「森だね」
「森だね、じゃねーよ! なんで森?! 集まれ豊島区の森?!」
「お兄ちゃんまだ微妙に錯乱してるね」と桃香はけらけら笑った。

 笑いごとではない。つい先ほどまで豊島区の楠木モールにいたのだ。ジャングルはジャングルでもコンクリートジャングルだったはずだ。決してこんなリアルジャングルではなかった。

「てか、ここどこ?!」
「楠木モールだよ」と桃香が即答する。
「んなわけあるか!」蒼は妹の制止を振り切り、西口から出て行った。
 かと思えば、どでかい茎付きの葉っぱを手に、戻って来た。「これのどこが豊島区楠木モールだ! どう見てもインドネシアの熱帯雨林じゃねーか!」
 妹は「流石にダルいて」と兄の錯乱に苦笑した。
 それから「考えられる可能性は3つ」と細く小さい指を3本立てた。
「一つはここが本当に豊島区である線」
「ねーよ」と即座に蒼は否定するが、桃香は「まぁ聞きなよ」と笑って流す。
「ここは豊島区。だけど、時間軸を遡っている。つまり、大昔、まだ江戸に都がおかれるの前の豊島区ってこと」

 蒼は口をあんぐり開けたまま固まった。桃香は微笑を維持する。
 おもむろに蒼が動いたかと思えば、桃香の前髪を両手で上げて彼女の額に自らの額を当てた。
 桃香はされるがまま、今度は彼女が固まる。

「お、にぃ……何を、して、いるのかな?」そうかろうじて言う桃香の頬が真っ赤に火照る。
「いや、妹がアホみたいなこと言ってるから熱でもあるのかと——あ! 頭打った?」

 桃香は顔を顰めて、蒼の両頬を片手で挟んだ。

「アホで悪かったね。まさかキングオブアホのお兄ちゃんにアホ呼ばわりされるとは思わなかったよ」
「誰が『賢王』だ」
「言ってねーわ。愚王だわ。つーか、王ですらないわ」

 桃香は蒼の頬を解放すると「考えてもみなよ」と外の世界——深い森に目を向けた。
 
「こんなことが起こっているんだから、もはや常識の枠にはめるような推理は無意味じゃない? むしろ常識では考えられない出来事——」
「アンベリーバボー」
「そう、アンベリーバボー。それが起こっているんだから、常識にとらわれる推理よりも、むしろアホなことの方が真実に近いかも」

 一理ある。今、目の前の光景はとても蒼の知っている物理原則に則っては説明できない。

「そうなるとここが豊島区の未来って線もあるのか」

 豊島区が滅んだ後の豊島区。そこに森が茂り、何らかの現象により楠木モールがタイムスリップしてきた。過去よりも未来の方がまだピンと来る。
 だが、桃香は「いや」とかぶりを振る。

「多分それはないよ」
「なんでだよ。未来へのタイムスリップは確か光速に近い速度で移動すれば可能だったはずだろ? 躁体操理論そうたいそうりろん、だったか」
「何そのやかましそうな体操。相対性理論ね。でも、なら聞くけど、お兄ちゃん光速で移動したの?」
「した……かもしれない、だろ?」と蒼は歯切れ悪く答える。
「仮に光速移動していたとしても、数分光速移動しているだけじゃ何十年って未来へはいけないよ?」

 この妹は無駄に知恵だけ回って、可愛げをどこかに落としてきてしまったのだろうか。
 蒼は口を尖らせてかろうじて反論した。

「過去よりは可能性あるだろ」
「仮にここが未来だとしたら、大昔には豊島区があったんだよ? ならアスファルト、強化ガラス、ステンレス等々、瓦礫の1つでも落ちていて然るべきじゃない?」

 蒼はもう一度外に目を向けた。あるのは樹木、蔓、草、だけだ。瓦礫は見つかりそうになかった。

「全てが風化して砂に還ることなんてあるのかな? ももには難しいように思えるけど」

 蒼はなんだか言い負かされた気がして、「二つ目の可能性は?」と話を変えた。
 桃香は「まぁいいよ。乗ってあげる」と言わんばかりの笑みを蒼に見せた。

「ここが豊島区ではない可能性、だよ」
「だから、それはどこだよ? コンゴ共和国?」
「……まぁコンゴ共和国にも、コンゴ盆地に熱帯雨林はあるけども……てか、お兄ちゃんそれ語感で言ってない?」

 蒼は目を逸らした。キングコングが生息していそうなジャングルだから、コングとコンゴをかけたことは黙っていた。

「まぁ、コンゴ共和国でもインドネシアでもいいんだけど、どこかのジャングルに楠木モールごとワープしちゃったって説だね」

 とんでも理論である。
 簡単に言うが建物ごとワープってなによ。百歩譲ってワープは認めるとしても、人間にしておけよ。ショッピングモールをワープさせるなよ。
 どうせ論破されるので、蒼は腹の中でなじるに留めておいた。

「で、最後の3つ目。まぁこれが本命なんだけど」と桃香が再び3本の指を突き出した。

 ここまで来ればもはや何を言われても驚きはしない。タイムスリップに、建物ごとのワープだ。ウォーミングアップは十分。蒼は最後の案が出てきた瞬間、「俺も今同じこと言おうと思っていたよ」と返答する準備をはじめた。
 桃香がおもむろに口を開く。
 
「ももとお兄ちゃんが、ショッピングモールごと異世界転移した可能性、だよ」

 …………はぁ?
 準備していた言葉は脱力の吐息に変わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティーで地味な【鑑定】スキルを使い、仲間を支えてきたカイン。しかしある日、リーダーの勇者から「お前はもういらない」と理不尽に追放されてしまう。 絶望の淵で流れ着いた辺境の街。そこで偶然発見した古代ダンジョンが、彼の運命を変える。絶体絶命の危機に陥ったその時、彼のスキルは万物を見通す【神の眼】へと覚醒。さらに、ダンジョンの奥で伝説のもふもふ神獣「フェン」と出会い、最強の相棒を得る。 一方、カインを失った元パーティーは鑑定ミスを連発し、崩壊の一途を辿っていた。「今さら戻ってこい」と懇願されても、もう遅い。 無能と蔑まれた鑑定士の、痛快な成り上がり冒険譚が今、始まる!

処理中です...