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アンベリーバボー
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ジャングル大帝。
それが真っ先に蒼の頭に浮かんだ言葉だった。
大帝に特に意味はない。大事なのはジャングルの方だ。
ジャングルでなければAmazonでも密林でも、なんなら集まれどうぶ◯の森でも良い。
「む、虫網買わなきゃ……」
「落ち着いて、お兄ちゃん」
楠木モール西口から出ようとする蒼の後ろ襟を妹、桃香が引っ張って止める。
はっと蒼は我に返った。が、やはり目の前の生い茂る木々は消えてくれない。
「これが落ち着いていられるか! なんだよこれ!」
「森だね」
「森だね、じゃねーよ! なんで森?! 集まれ豊島区の森?!」
「お兄ちゃんまだ微妙に錯乱してるね」と桃香はけらけら笑った。
笑いごとではない。つい先ほどまで豊島区の楠木モールにいたのだ。ジャングルはジャングルでもコンクリートジャングルだったはずだ。決してこんなリアルジャングルではなかった。
「てか、ここどこ?!」
「楠木モールだよ」と桃香が即答する。
「んなわけあるか!」蒼は妹の制止を振り切り、西口から出て行った。
かと思えば、どでかい茎付きの葉っぱを手に、戻って来た。「これのどこが豊島区楠木モールだ! どう見てもインドネシアの熱帯雨林じゃねーか!」
妹は「流石にダルいて」と兄の錯乱に苦笑した。
それから「考えられる可能性は3つ」と細く小さい指を3本立てた。
「一つはここが本当に豊島区である線」
「ねーよ」と即座に蒼は否定するが、桃香は「まぁ聞きなよ」と笑って流す。
「ここは豊島区。だけど、時間軸を遡っている。つまり、大昔、まだ江戸に都がおかれるの前の豊島区ってこと」
蒼は口をあんぐり開けたまま固まった。桃香は微笑を維持する。
おもむろに蒼が動いたかと思えば、桃香の前髪を両手で上げて彼女の額に自らの額を当てた。
桃香はされるがまま、今度は彼女が固まる。
「お、兄……何を、して、いるのかな?」そうかろうじて言う桃香の頬が真っ赤に火照る。
「いや、妹がアホみたいなこと言ってるから熱でもあるのかと——あ! 頭打った?」
桃香は顔を顰めて、蒼の両頬を片手で挟んだ。
「アホで悪かったね。まさかキングオブアホのお兄ちゃんにアホ呼ばわりされるとは思わなかったよ」
「誰が『賢王』だ」
「言ってねーわ。愚王だわ。つーか、王ですらないわ」
桃香は蒼の頬を解放すると「考えてもみなよ」と外の世界——深い森に目を向けた。
「こんなことが起こっているんだから、もはや常識の枠にはめるような推理は無意味じゃない? むしろ常識では考えられない出来事——」
「アンベリーバボー」
「そう、アンベリーバボー。それが起こっているんだから、常識にとらわれる推理よりも、むしろアホなことの方が真実に近いかも」
一理ある。今、目の前の光景はとても蒼の知っている物理原則に則っては説明できない。
「そうなるとここが豊島区の未来って線もあるのか」
豊島区が滅んだ後の豊島区。そこに森が茂り、何らかの現象により楠木モールがタイムスリップしてきた。過去よりも未来の方がまだピンと来る。
だが、桃香は「いや」とかぶりを振る。
「多分それはないよ」
「なんでだよ。未来へのタイムスリップは確か光速に近い速度で移動すれば可能だったはずだろ? 躁体操理論、だったか」
「何そのやかましそうな体操。相対性理論ね。でも、なら聞くけど、お兄ちゃん光速で移動したの?」
「した……かもしれない、だろ?」と蒼は歯切れ悪く答える。
「仮に光速移動していたとしても、数分光速移動しているだけじゃ何十年って未来へはいけないよ?」
この妹は無駄に知恵だけ回って、可愛げをどこかに落としてきてしまったのだろうか。
蒼は口を尖らせてかろうじて反論した。
「過去よりは可能性あるだろ」
「仮にここが未来だとしたら、大昔には豊島区があったんだよ? ならアスファルト、強化ガラス、ステンレス等々、瓦礫の1つでも落ちていて然るべきじゃない?」
蒼はもう一度外に目を向けた。あるのは樹木、蔓、草、だけだ。瓦礫は見つかりそうになかった。
「全てが風化して砂に還ることなんてあるのかな? ももには難しいように思えるけど」
蒼はなんだか言い負かされた気がして、「二つ目の可能性は?」と話を変えた。
桃香は「まぁいいよ。乗ってあげる」と言わんばかりの笑みを蒼に見せた。
「ここが豊島区ではない可能性、だよ」
「だから、それはどこだよ? コンゴ共和国?」
「……まぁコンゴ共和国にも、コンゴ盆地に熱帯雨林はあるけども……てか、お兄ちゃんそれ語感で言ってない?」
蒼は目を逸らした。キングコングが生息していそうなジャングルだから、コングとコンゴをかけたことは黙っていた。
「まぁ、コンゴ共和国でもインドネシアでもいいんだけど、どこかのジャングルに楠木モールごとワープしちゃったって説だね」
とんでも理論である。
簡単に言うが建物ごとワープってなによ。百歩譲ってワープは認めるとしても、人間にしておけよ。ショッピングモールをワープさせるなよ。
どうせ論破されるので、蒼は腹の中でなじるに留めておいた。
「で、最後の3つ目。まぁこれが本命なんだけど」と桃香が再び3本の指を突き出した。
ここまで来ればもはや何を言われても驚きはしない。タイムスリップに、建物ごとのワープだ。ウォーミングアップは十分。蒼は最後の案が出てきた瞬間、「俺も今同じこと言おうと思っていたよ」と返答する準備をはじめた。
桃香がおもむろに口を開く。
「ももとお兄ちゃんが、ショッピングモールごと異世界転移した可能性、だよ」
…………はぁ?
準備していた言葉は脱力の吐息に変わった。
それが真っ先に蒼の頭に浮かんだ言葉だった。
大帝に特に意味はない。大事なのはジャングルの方だ。
ジャングルでなければAmazonでも密林でも、なんなら集まれどうぶ◯の森でも良い。
「む、虫網買わなきゃ……」
「落ち着いて、お兄ちゃん」
楠木モール西口から出ようとする蒼の後ろ襟を妹、桃香が引っ張って止める。
はっと蒼は我に返った。が、やはり目の前の生い茂る木々は消えてくれない。
「これが落ち着いていられるか! なんだよこれ!」
「森だね」
「森だね、じゃねーよ! なんで森?! 集まれ豊島区の森?!」
「お兄ちゃんまだ微妙に錯乱してるね」と桃香はけらけら笑った。
笑いごとではない。つい先ほどまで豊島区の楠木モールにいたのだ。ジャングルはジャングルでもコンクリートジャングルだったはずだ。決してこんなリアルジャングルではなかった。
「てか、ここどこ?!」
「楠木モールだよ」と桃香が即答する。
「んなわけあるか!」蒼は妹の制止を振り切り、西口から出て行った。
かと思えば、どでかい茎付きの葉っぱを手に、戻って来た。「これのどこが豊島区楠木モールだ! どう見てもインドネシアの熱帯雨林じゃねーか!」
妹は「流石にダルいて」と兄の錯乱に苦笑した。
それから「考えられる可能性は3つ」と細く小さい指を3本立てた。
「一つはここが本当に豊島区である線」
「ねーよ」と即座に蒼は否定するが、桃香は「まぁ聞きなよ」と笑って流す。
「ここは豊島区。だけど、時間軸を遡っている。つまり、大昔、まだ江戸に都がおかれるの前の豊島区ってこと」
蒼は口をあんぐり開けたまま固まった。桃香は微笑を維持する。
おもむろに蒼が動いたかと思えば、桃香の前髪を両手で上げて彼女の額に自らの額を当てた。
桃香はされるがまま、今度は彼女が固まる。
「お、兄……何を、して、いるのかな?」そうかろうじて言う桃香の頬が真っ赤に火照る。
「いや、妹がアホみたいなこと言ってるから熱でもあるのかと——あ! 頭打った?」
桃香は顔を顰めて、蒼の両頬を片手で挟んだ。
「アホで悪かったね。まさかキングオブアホのお兄ちゃんにアホ呼ばわりされるとは思わなかったよ」
「誰が『賢王』だ」
「言ってねーわ。愚王だわ。つーか、王ですらないわ」
桃香は蒼の頬を解放すると「考えてもみなよ」と外の世界——深い森に目を向けた。
「こんなことが起こっているんだから、もはや常識の枠にはめるような推理は無意味じゃない? むしろ常識では考えられない出来事——」
「アンベリーバボー」
「そう、アンベリーバボー。それが起こっているんだから、常識にとらわれる推理よりも、むしろアホなことの方が真実に近いかも」
一理ある。今、目の前の光景はとても蒼の知っている物理原則に則っては説明できない。
「そうなるとここが豊島区の未来って線もあるのか」
豊島区が滅んだ後の豊島区。そこに森が茂り、何らかの現象により楠木モールがタイムスリップしてきた。過去よりも未来の方がまだピンと来る。
だが、桃香は「いや」とかぶりを振る。
「多分それはないよ」
「なんでだよ。未来へのタイムスリップは確か光速に近い速度で移動すれば可能だったはずだろ? 躁体操理論、だったか」
「何そのやかましそうな体操。相対性理論ね。でも、なら聞くけど、お兄ちゃん光速で移動したの?」
「した……かもしれない、だろ?」と蒼は歯切れ悪く答える。
「仮に光速移動していたとしても、数分光速移動しているだけじゃ何十年って未来へはいけないよ?」
この妹は無駄に知恵だけ回って、可愛げをどこかに落としてきてしまったのだろうか。
蒼は口を尖らせてかろうじて反論した。
「過去よりは可能性あるだろ」
「仮にここが未来だとしたら、大昔には豊島区があったんだよ? ならアスファルト、強化ガラス、ステンレス等々、瓦礫の1つでも落ちていて然るべきじゃない?」
蒼はもう一度外に目を向けた。あるのは樹木、蔓、草、だけだ。瓦礫は見つかりそうになかった。
「全てが風化して砂に還ることなんてあるのかな? ももには難しいように思えるけど」
蒼はなんだか言い負かされた気がして、「二つ目の可能性は?」と話を変えた。
桃香は「まぁいいよ。乗ってあげる」と言わんばかりの笑みを蒼に見せた。
「ここが豊島区ではない可能性、だよ」
「だから、それはどこだよ? コンゴ共和国?」
「……まぁコンゴ共和国にも、コンゴ盆地に熱帯雨林はあるけども……てか、お兄ちゃんそれ語感で言ってない?」
蒼は目を逸らした。キングコングが生息していそうなジャングルだから、コングとコンゴをかけたことは黙っていた。
「まぁ、コンゴ共和国でもインドネシアでもいいんだけど、どこかのジャングルに楠木モールごとワープしちゃったって説だね」
とんでも理論である。
簡単に言うが建物ごとワープってなによ。百歩譲ってワープは認めるとしても、人間にしておけよ。ショッピングモールをワープさせるなよ。
どうせ論破されるので、蒼は腹の中でなじるに留めておいた。
「で、最後の3つ目。まぁこれが本命なんだけど」と桃香が再び3本の指を突き出した。
ここまで来ればもはや何を言われても驚きはしない。タイムスリップに、建物ごとのワープだ。ウォーミングアップは十分。蒼は最後の案が出てきた瞬間、「俺も今同じこと言おうと思っていたよ」と返答する準備をはじめた。
桃香がおもむろに口を開く。
「ももとお兄ちゃんが、ショッピングモールごと異世界転移した可能性、だよ」
…………はぁ?
準備していた言葉は脱力の吐息に変わった。
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