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2節[第二章]
第六十話『精神の糸』
しおりを挟む目が覚めた時、私はレインの自室にいた。
ヤヌア様が運んでくれたのか、そばでヤヌア様がスヤスヤと寝息を立てていた。
私はあの状況を思い出して俯いた。
神様からチート能力を貰って、何でも乗り越えてきた。
どんな危険も死亡フラグも不幸も自分の力で解決してきた。
だから今回だって大丈夫だって思ってた。
何かあっても私の力があれば大丈夫だって。
もしかしたら自信過剰になっていたのかもしれない。
私には人には力があるから何があっても大丈夫だって。
だって、私には度胸があったから。
走ってくる馬からエイム様を身をていして守ることも、巨大な生物に立ち向かうことも、ドラゴンの暴走を止めることも。
全部全部、私の力と勇気があったから。
でも、今回は違った。
なぜか体が動かなかった。
怖くて
気持ち悪くて
体が震えた
こんな感覚は初めてだった。
私は転生前、男性と関わることなんてなかったから、そのせいなのかな?
分からない、こんな分からない恐怖があるのかと思った。
記憶が無駄に鮮明で震えが止まらない。
「…もう、やだ。」
私の声に反応して、目の前に眩い光が現れる。
震えていた体が光に包み込まれる。
暖かい…。
「大丈夫?」
目の前に現れたのは、神様であるシャインさんだった。
「シャインさん…。」
シャインさんは悲しそうな顔をして、私の頭を撫でる。
その手は壊れ物を扱うような手つきだった。
「どうしたんですか?」
私はシャインさんと仮契約を結び、私が呼べば来てくれるようになっているのだが…。
「私、シャインさんを呼んでいませんよね?」
シャインさんの名前を私は口にしていなかったはず。
どうしてシャインさんが現れたんだろう?
そういえば私が助けてと叫んだあの時も、呼んでいないのに来てくれた。
お礼…そうだ、助けてくれたお礼を言わなきゃいけない。
「シャインさん…助けて下さってありがとうございました。」
笑顔でお礼。
これは私が転生前も今も心がけていること。
それは私がそうしたいのもあるけど、1番はそれで喜んでくれる人が沢山いるから。
どんな人だって、笑顔でお礼を言われたら嬉しい。
これは、どんな世界でも通じること。
だから、シャインさんにも笑顔でお礼を言った。
つもりだった…
「あれ?」
上手く笑えない。
それどころか、表情が上手く顔に出せない。
私、どうしちゃったの?
「レインちゃん…。」
「シャインさん、私…」
シャインさんは優しく私を抱きしめる。
暖かい光に包まれているような感覚に陥る。
思わずシャインさんにもたれかかってしまう。
「レインちゃん、よく聞いてね。」
はい。
「レインちゃんは今、怖いことがあったせいで精神が防衛反応を起こしてるんだよ。」
防衛反応??
「知らない恐怖を体験して、レインちゃんの心は閉ざされてる。」
私の心が閉ざされてる??
シャインさんの言っている意味がいまいちよく分からない。
私はこうしてちゃんとシャインさんと話せて…。
あれ?
私もしかして、口動かせてない??
手も体も少ししか動かせない。
さっきから目もよく見えないし、寝ぼけてるだけだと思ってたのに。
「レインちゃんは植物状態って知ってる?」
転生前に聞いたことはある。
事故に巻き込まれた人とか、強いショックを受けるとなるって。
テレビで見た時は、生きてるのか怪しいくらい目が虚ろでただ座ってるだけの人形に見えて怖かった。
私がその状態になってるって事?
思ってる以上に、私の精神には負担がかかってたのかもしれない。
転生前の私は普通の女の子だったし、今までのことを考えたら当たり前なのかも。
今回のは私しにもレインにもかなり辛いものだったから。
「レインちゃんは今までの辛いことが、今回でまとめて一気にきちゃったんだよ。だから、レインちゃんには療養期間が必要だ。」
療養期間??
シャインさんは私の額に手を当てる。
頭がフワフワして眠たくなってきた。
「君を天界に連れていく、一時的に君を神様にして僕のそばで精神が回復するのを待つ。」
あぁ…もう眠い。
「天界の方が精神の回復が早いはずだから、一緒に行こうレインちゃん。」
その言葉以降、私は眠ってしまって聞こえなかった。
水に沈んだ感覚のように私は夢に落ちた。
レインちゃんを眠らせた。
ここではレインちゃんの精神が本当に切れてしまう。
あんなレインちゃんは見たことがなかった。
転生前だってあんな顔をしたことはなかった。
だから、僕は呼ばれる前に駆けつけた。
もっと早く来てあげていればと後悔したけど、それよりレインちゃんをあんな目に合わせたヤツらに怒りをおぼえた。
こんなに早くこの感情を出す事になるとは思わなかった。
絶対に幸せにならないよう後悔させてやると誓った。
大好きな人間を傷つけられた神が人間を天界に連れて行き、人間界を滅ぼしかけた事があると聞いた。
僕はそんな事はしないけど今回の事件を経て、レインちゃんが死んでしまったらどうなるのか、自分でも分からない。
もしかしたら聞いた通りにしてしまうかもしれない。
レインちゃんを抱えて光のゲートを作る。
レインちゃんの精神の糸は必ず戻る。
僕が治してみせる。
「レイン!?」
後ろからした声に振り向くと、レインちゃんのそばにいた男が目を覚ましていた。
「貴方は誰だ!?レインをどこに連れて行くんや!」
説明なんて一々するのめんどくさい。
だけどこいつはレインちゃんの身内だから、一応伝えておくか。
「僕は神、レインちゃんは療養のため天界に連れていく。」
「療養?」
「レインちゃんの壊れた精神を治すためだ。他の奴らにも伝えておけ。」
「まっ待って!」
僕は男の制止を無視して、レインちゃんを天界に連れて行くべく光のゲートをくぐった。
俺がレインちゃんの救いになってみせるから。
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