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しおりを挟む要を大切にしなかったことを、今では死ぬほど後悔している。
俺にとって要は可愛い恋人で、癒しで、唯一自分のテリトリーに入れても構わないと思える存在だった。
俺は職業柄人間観察には長けているつもりだ。自分の容姿や肩書き目当てで近づいてくるような奴はすぐに見抜くことができる。
恋人なんか作るつもりのない俺はそういう奴等の中から後腐れの無さそうな奴を選び、性欲処理の道具として扱ってきた。
小説に行き詰まれば手頃な奴をホテルに呼び出してセックスで発散する…。そんな爛れた毎日の中で俺は要に出会った。
どうにも筆が進まず、気分転換に立ち寄ったファミレスで楽しそうに働く平凡な男…それが要だった。
俺がコーヒーを飲み、小説の展開について頭を悩ませていると、隣の席にいた家族連れの赤ん坊がくずりだした。
親はあやしもせずにスマホをいじっており、赤ん坊が泣き出すのも時間の問題だな…とため息をついた。
だが赤ん坊はいつまでたっても泣き出さず、不思議に思いちらりとそちらを見ると、少し離れたところから平凡な男がが赤ん坊に向かって手を振ったり、変顔をしてみたりと必死にあやしている姿が目に入った。
なんとなく微笑ましい光景だな…と思い眺めていると男と目が合った。
とたんに恥ずかしそうにするが、あやすのを止めると赤ん坊が泣き出しそうになる為、顔を赤くしながら変顔を続ける姿が可愛くて目が離せなくなった。
俺はそのファミレスに通い詰めるようになった。
常連客となり、要の名前を聞き出すと、あの手この手で要を誘い、交際を始め、同棲までたどり着くことができた。
だが要は元々はノーマルで、オレに流されているだけかもしれない…。
要が本気で俺の事を好きでいてくれるのか…自信が持てないでいた。
そんなある日要と街を歩いていると、性欲処理の相手として数回呼び出したことのある奴に偶然声をかけられた。
「悟さん!久しぶり、最近呼び出してくれないんだね、溜まってないの?」
セックスを匂わせる発言をしながら腕に巻き付いてくるそいつを咄嗟に振り払う。
要に誤解されたらどうするんだ。「痛いなぁ、もう相手してあげないからね!」と文句を言いながらそいつは去っていった。
後腐れのないやつを選んだだけあって引き際は心得ているようだ…。
おれは要の反応が気になり、そっと要の方を見た。
要は不安そうな顔をしていた。俺の服の裾をそっと掴み、「あの人と付き合ってたの?…もしかして、今…も」と聞いてきた。
その表情で要が嫉妬しているのに気づいた。
その瞬間ゾクリとしたなんとも言えない感覚が背中をかけ上った。
要が嫉妬している、俺の事を思って傷ついている、その事実に心が高ぶった。
慌てて弁解し、ことなきを得たが、俺はこの出来事を忘れられずにいた。
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