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三度目の婚約破棄
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このところ社交界では我が家と元婚約者達に関する悪い噂が囁かれているらしい……。
妹が姉の婚約者を2度も奪ったというのは、やはり外聞の良いものでないので、この様な結果になることもある程度予測はついていた。
ただ、私の元婚約者2人も、あちらのご両親達も私には何の落ち度もないと公言してくれているので、私に実害はなく、寧ろ周りは私に同情的で、友人達だけではなく、これまであまり親しくして来なかった方達まで私を慰めてくれる。
妹が姉の婚約者を奪うなんてどうかしている。姉から妹に鞍替えするなんて元婚約者達も不誠実だと非難する人達も多かった。
これに誰よりも慌てたのは私だ。
可愛い妹と、元婚約者達が社交界から爪弾きにされるのは本意ではなかった。
結果的に婚約破棄という残念な結果に終わったが、最初の婚約では良き理解者とも言える友人を手に入れることが出来たし、2番目の婚約では自分の見解を広めるきっかけとなる人生の師に出会えることが出来た。
どちらも得難い経験だ。
私は傷付いていないこと、実りある経験をしたこと、元婚約者達が如何に素晴らしい人物かを力説し、妹と彼らの純愛に関して吹聴した。
結局一度目の婚約者とは妹も婚約破棄をしているので白々しく思われたかもしれないが、わりと納得して下さった方も多く、我が家の醜聞はすぐに見知らぬ男爵家の家督争いのスキャンダルの前に立ち消えとなった。
ちなみに嫁いびりの件については公爵家の評判を落とす訳にはいないので何も語っていない。
短期間に2 度の婚約破棄は公爵令息といえども良いとはいえない。3度目のお相手を探すのに彼も苦労するだろう。
これ以上迷惑をかける訳にも行かなかった。
短期間に2度の婚約破棄をしたのは私も同じだが、何故か私には直ぐに縁談が湧いてでた。
今度のお相手は何と、王宮を守る騎士団の団長様のご子息。身分は子爵と我が家より爵位は劣るものの、国王陛下の覚えも目出度い次期騎士団長とも期待される立派な方だ。
そんな方がなぜ私に求婚を?と思って話を聞くと、何でも悲しみを堪えて必死に妹と元婚約者を庇う健気な姿を愛しく思ってくださったそうだ。
悲しみを堪えた覚えはないが、確かに妹と元婚約者達の名誉を守る為に必死になったのは間違いない。
あの時の頑張りを見てくれた人がいたのだと思うと嬉しくなってしまった。
人の頑張りを見つけることが出来る人は、とても素敵な人だと思う。
そんな素敵な人が、次期騎士団長様だなんて国にとっても誇れることだろう。
私はそんな彼の役に立つべく、献身的にサポートをした。
「まぁ!お怪我をなさっているではありませんか。わたし応急処置の方法を医師から学んで参りました。是非とも手当させてくださいませ。」
騎士団お抱えの医師から打ち身から骨折、果ては心配蘇生に至るまでの応急処置方を学び。
「シャーリーン、今日の買い物はどこに……。」
「武具を置いているお店に行きましょう!鍛錬用の靴の底がすり減っていましたわ。腕当ても大分と傷んできていましたし、新しいものに新調した方が良いのでは?」
「………俺は助かるが、君はそれで良いのか?君が行きたい所はないのか?」
「もちろんです!わたくしの買い物など取るに足らないものばかりですわ、それよりは貴方様の御身体を守る武具を買ったほうが有意義です。」
彼と過ごす休日は彼の鍛錬に付き合ったり、武具の新調をしたりと彼の為だけに使った。
彼はしきりに恐縮していたが、私はとても楽しかった。
伯爵令嬢という立場から人の世話を受けることはあったが、人の世話をするという経験は初めてで、自分が尽くした分だけ婚約者が結果を残すのが嬉しかった。
私は人に尽くされるより尽くす方が向いているのかもしれない。
身体が元気な限りは彼のサポートに費やすのも良い人生かもしれないと思っていた。
だけどそんな人生は私には訪れなかった。
「本当に済まない……。」
寡黙で実直な彼は謝罪以外多くを語らなかった。だけど、彼の横に座り、涙を目に浮かべるマデリーンを見て…ああ、またかと思った。
両親の目は死んだように遠くを見つめている。
「……婚約破棄でしょうか……。」
ポツリと呟くと
「あぁ…。」
と気まずげに答えられる。
少しの沈黙の後に、マデリーンが嗚咽を上げながら話だした。
「私が悪いのですッ…、お姉様の婚約者と知りながら優しく慰められるうちに好きになってしまって……。」
「待ってくれ!!マデリーンは悪くない!!悪いのは彼女の婚約者だ!!」
私の婚約者である筈の彼が声を上げた。
「彼は随分とマデリーンに辛く当たっていたらしい。無学で、とても外交には連れていけないと散々バカにしたようだ。」
「私、一生懸命に異国の言葉も文化も勉強しました。…だけど彼は満足してくれなくて………。」
涙を拭いもせずにドレスの裾をギュッと握り込むマデリーンは、とてもいじましくみえる。
私の婚約者もそう思ったのだろう、彼女の肩をそっと労るように引き寄せた。
「俺の行きつけのカフェで彼女を見つけたんだ。君の妹だから声を掛けたら泣いていて………。可哀想にテーブルに広げられていた教科書はすっかり涙で濡れていたよ。」
「彼の期待に答えなくちゃって必死で……、でも私にはできなくて……。」
マデリーンの目からは止め処なく涙が溢れてくる。わたしの婚約者である筈の彼は、その涙を優しく拭っていた。
「婚約者を悪く言いもせずにひたすら頑張る彼女が健気で、俺が守ってあげなくてはと思ってしまったんだ。君には本当に悪いことをしたと思っている。」
真っ直ぐに私の目を見返す彼の目には決意が見てとれた。私がどんなにごねても、彼の意を覆すことはできないだろう。
「承知致しました。婚約破棄いたしましょう。」
「…………いいのか?」
彼は以外そうに私に尋ねてきた。マデリーンは目を見開いている。
「ええ、マデリーンのことがなかったとしても、いずれこうなると思っていました。」
本心だ。今回の婚約破棄の原因は私にもあったと思う。
わたしはやりすぎたのだ。
「貴方も気付いていたでしょう?私達はまるで婚約者という関係性ではなかったと………。」
そう言うと、彼は少し微笑んで頷いた。
「あぁ、そうだったな。」
初めこそ彼の愛情を感じていたが、それは二人の間柄が親密になる程に薄れていった。
「初めは辛い目に会いながらも誰も責めずに健気に振る舞う君を守ってあげなくてはと思っていたんだ………。だけど、実際に君と接するうちに君が特段傷付いていないことに気が付いた。傷付いているどころか………、そうだな君は元気一杯だった。」
「その通りです。」
「それでも君は婚約者なのだから、恋人として大切にしていこうと思っていた。」
「………。」
「だけど君の振る舞いはそうではなかった。まるで婚約者というよりは、優秀な部下のようだったよ。」
彼が言っていることは、私が感じていたことは、優秀という言葉だけを抜くと、まるで同じだった。
「決定打になったのはつい先日だ。君は騎士団の訓練を見に来てくれていたね。」
「はい。私もその日のことは良く覚えています。」
「そうだろうね。君は訓練を終えた俺に手ぬぐいを差し出してくれた……。そして、俺は………君に剣を預けた。」
「……はい。」
私にとっても決定打はそれだった。
労うように手ぬぐい渡した私に、彼は自然に剣を預け、私は躊躇うことなくそれを受け取った。
受け取った瞬間、余りの重さに剣もろとも倒れそうになる私を彼が慌てて支えてくれなければその場でみっともなく転んでいただろう。
私も彼もすっかり麻痺していたが、剣は令嬢に預けるものではない。
従者に預けるものだ。
それを私も彼も失念していた。
この時に思ったのだ。
(あっ、私この人の部下なんだな……。)
と…。
そして彼の好みである《守りたい令嬢》とは掛け離れた私は何れ振られるだろうと………。
それは結果として現実になった。ただ、彼や妹だけが悪いのではない。
今回のことは私にも原因があったのだ。
人に尽くすことに喜びを覚えて、限度を知らずに奉仕してしまったがゆえに、お互いに恋愛感情を失ってしまった。
こうして私は3度目の婚約破棄を行なった。
妹が姉の婚約者を2度も奪ったというのは、やはり外聞の良いものでないので、この様な結果になることもある程度予測はついていた。
ただ、私の元婚約者2人も、あちらのご両親達も私には何の落ち度もないと公言してくれているので、私に実害はなく、寧ろ周りは私に同情的で、友人達だけではなく、これまであまり親しくして来なかった方達まで私を慰めてくれる。
妹が姉の婚約者を奪うなんてどうかしている。姉から妹に鞍替えするなんて元婚約者達も不誠実だと非難する人達も多かった。
これに誰よりも慌てたのは私だ。
可愛い妹と、元婚約者達が社交界から爪弾きにされるのは本意ではなかった。
結果的に婚約破棄という残念な結果に終わったが、最初の婚約では良き理解者とも言える友人を手に入れることが出来たし、2番目の婚約では自分の見解を広めるきっかけとなる人生の師に出会えることが出来た。
どちらも得難い経験だ。
私は傷付いていないこと、実りある経験をしたこと、元婚約者達が如何に素晴らしい人物かを力説し、妹と彼らの純愛に関して吹聴した。
結局一度目の婚約者とは妹も婚約破棄をしているので白々しく思われたかもしれないが、わりと納得して下さった方も多く、我が家の醜聞はすぐに見知らぬ男爵家の家督争いのスキャンダルの前に立ち消えとなった。
ちなみに嫁いびりの件については公爵家の評判を落とす訳にはいないので何も語っていない。
短期間に2 度の婚約破棄は公爵令息といえども良いとはいえない。3度目のお相手を探すのに彼も苦労するだろう。
これ以上迷惑をかける訳にも行かなかった。
短期間に2度の婚約破棄をしたのは私も同じだが、何故か私には直ぐに縁談が湧いてでた。
今度のお相手は何と、王宮を守る騎士団の団長様のご子息。身分は子爵と我が家より爵位は劣るものの、国王陛下の覚えも目出度い次期騎士団長とも期待される立派な方だ。
そんな方がなぜ私に求婚を?と思って話を聞くと、何でも悲しみを堪えて必死に妹と元婚約者を庇う健気な姿を愛しく思ってくださったそうだ。
悲しみを堪えた覚えはないが、確かに妹と元婚約者達の名誉を守る為に必死になったのは間違いない。
あの時の頑張りを見てくれた人がいたのだと思うと嬉しくなってしまった。
人の頑張りを見つけることが出来る人は、とても素敵な人だと思う。
そんな素敵な人が、次期騎士団長様だなんて国にとっても誇れることだろう。
私はそんな彼の役に立つべく、献身的にサポートをした。
「まぁ!お怪我をなさっているではありませんか。わたし応急処置の方法を医師から学んで参りました。是非とも手当させてくださいませ。」
騎士団お抱えの医師から打ち身から骨折、果ては心配蘇生に至るまでの応急処置方を学び。
「シャーリーン、今日の買い物はどこに……。」
「武具を置いているお店に行きましょう!鍛錬用の靴の底がすり減っていましたわ。腕当ても大分と傷んできていましたし、新しいものに新調した方が良いのでは?」
「………俺は助かるが、君はそれで良いのか?君が行きたい所はないのか?」
「もちろんです!わたくしの買い物など取るに足らないものばかりですわ、それよりは貴方様の御身体を守る武具を買ったほうが有意義です。」
彼と過ごす休日は彼の鍛錬に付き合ったり、武具の新調をしたりと彼の為だけに使った。
彼はしきりに恐縮していたが、私はとても楽しかった。
伯爵令嬢という立場から人の世話を受けることはあったが、人の世話をするという経験は初めてで、自分が尽くした分だけ婚約者が結果を残すのが嬉しかった。
私は人に尽くされるより尽くす方が向いているのかもしれない。
身体が元気な限りは彼のサポートに費やすのも良い人生かもしれないと思っていた。
だけどそんな人生は私には訪れなかった。
「本当に済まない……。」
寡黙で実直な彼は謝罪以外多くを語らなかった。だけど、彼の横に座り、涙を目に浮かべるマデリーンを見て…ああ、またかと思った。
両親の目は死んだように遠くを見つめている。
「……婚約破棄でしょうか……。」
ポツリと呟くと
「あぁ…。」
と気まずげに答えられる。
少しの沈黙の後に、マデリーンが嗚咽を上げながら話だした。
「私が悪いのですッ…、お姉様の婚約者と知りながら優しく慰められるうちに好きになってしまって……。」
「待ってくれ!!マデリーンは悪くない!!悪いのは彼女の婚約者だ!!」
私の婚約者である筈の彼が声を上げた。
「彼は随分とマデリーンに辛く当たっていたらしい。無学で、とても外交には連れていけないと散々バカにしたようだ。」
「私、一生懸命に異国の言葉も文化も勉強しました。…だけど彼は満足してくれなくて………。」
涙を拭いもせずにドレスの裾をギュッと握り込むマデリーンは、とてもいじましくみえる。
私の婚約者もそう思ったのだろう、彼女の肩をそっと労るように引き寄せた。
「俺の行きつけのカフェで彼女を見つけたんだ。君の妹だから声を掛けたら泣いていて………。可哀想にテーブルに広げられていた教科書はすっかり涙で濡れていたよ。」
「彼の期待に答えなくちゃって必死で……、でも私にはできなくて……。」
マデリーンの目からは止め処なく涙が溢れてくる。わたしの婚約者である筈の彼は、その涙を優しく拭っていた。
「婚約者を悪く言いもせずにひたすら頑張る彼女が健気で、俺が守ってあげなくてはと思ってしまったんだ。君には本当に悪いことをしたと思っている。」
真っ直ぐに私の目を見返す彼の目には決意が見てとれた。私がどんなにごねても、彼の意を覆すことはできないだろう。
「承知致しました。婚約破棄いたしましょう。」
「…………いいのか?」
彼は以外そうに私に尋ねてきた。マデリーンは目を見開いている。
「ええ、マデリーンのことがなかったとしても、いずれこうなると思っていました。」
本心だ。今回の婚約破棄の原因は私にもあったと思う。
わたしはやりすぎたのだ。
「貴方も気付いていたでしょう?私達はまるで婚約者という関係性ではなかったと………。」
そう言うと、彼は少し微笑んで頷いた。
「あぁ、そうだったな。」
初めこそ彼の愛情を感じていたが、それは二人の間柄が親密になる程に薄れていった。
「初めは辛い目に会いながらも誰も責めずに健気に振る舞う君を守ってあげなくてはと思っていたんだ………。だけど、実際に君と接するうちに君が特段傷付いていないことに気が付いた。傷付いているどころか………、そうだな君は元気一杯だった。」
「その通りです。」
「それでも君は婚約者なのだから、恋人として大切にしていこうと思っていた。」
「………。」
「だけど君の振る舞いはそうではなかった。まるで婚約者というよりは、優秀な部下のようだったよ。」
彼が言っていることは、私が感じていたことは、優秀という言葉だけを抜くと、まるで同じだった。
「決定打になったのはつい先日だ。君は騎士団の訓練を見に来てくれていたね。」
「はい。私もその日のことは良く覚えています。」
「そうだろうね。君は訓練を終えた俺に手ぬぐいを差し出してくれた……。そして、俺は………君に剣を預けた。」
「……はい。」
私にとっても決定打はそれだった。
労うように手ぬぐい渡した私に、彼は自然に剣を預け、私は躊躇うことなくそれを受け取った。
受け取った瞬間、余りの重さに剣もろとも倒れそうになる私を彼が慌てて支えてくれなければその場でみっともなく転んでいただろう。
私も彼もすっかり麻痺していたが、剣は令嬢に預けるものではない。
従者に預けるものだ。
それを私も彼も失念していた。
この時に思ったのだ。
(あっ、私この人の部下なんだな……。)
と…。
そして彼の好みである《守りたい令嬢》とは掛け離れた私は何れ振られるだろうと………。
それは結果として現実になった。ただ、彼や妹だけが悪いのではない。
今回のことは私にも原因があったのだ。
人に尽くすことに喜びを覚えて、限度を知らずに奉仕してしまったがゆえに、お互いに恋愛感情を失ってしまった。
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