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第三章:少年期 学園編

第29話「アンナとデート」

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「ねえ、アンナは行きたいところとかある?」


 次の日の朝、俺はアンナに着替えを手伝ってもらいながらそう訊ねた。
 彼女は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに笑みを浮かべて答えた。


「そうですね……クラウス様とならどこでいいです」
「そう言われるのが一番困るんだよなぁ」


 ロッテのときは自分でデート場所を決めたが、今回は一緒に決めようと思った。
 そこに優劣があるわけではなく、ただの気分だけどね。
 あと、アンナとは一緒に暮らしているようなものなので相談しやすいのもあるな。


 しかし結局、デート先は俺が決めることになったみたいだ。
 それだったらと俺は一応リサーチしておいた行先を口にする。


「だったらさ、ちょっと行ってみたい喫茶店があるんだよね。コーヒーは好き?」
「はい、好きですよ。喫茶店いいですね、オシャレです」


 どうやら彼女も賛成してくれるらしい。
 良かった、まあ断られることはないと思っていたが。


「じゃあ早速行こうか」
「はい、楽しみですね、クラウス様」


 そう言った彼女の笑顔は凄く素敵に思えるのだった。



   ***



「へえ……凄くおしゃれな喫茶店じゃないですか。よく知ってましたね、こんなところ」


 なんか軽くバカにされた気もしないでもないが、俺は気にせず店の中に入った。


「いらっしゃいませー。お二人ですか?」
「はい、二人です」
「——ふふっ、お似合いのカップルみたいですねっ!」


 店員さんは俺たちを見てそう微笑んだ。
 今日はオフということもあり、アンナには私服を着てもらっている。
 俺がこの間プレゼントしたフリフリの服を着ていた。
 だからだろう、俺たちは側から見たらカップルに見えるらしい。


「かっ、カップルじゃないです! そんな恐れ多い!」
「はいはい、分かってますよ。それよりも席に案内しますね」


 必死に否定するアンナを見事にスルーすると店員さんは俺たちを席まで案内した。
 椅子に座り、店員さんが奥に消えると、アンナは恥ずかしそうに俯きながら言った。


「す、すいません。私ごときがクラウス様のこ、恋人なんて……」


 最近彼女にも自信がついてきたとは言え、まだまだ遠慮する部分はあるようだ。
 俺はそんなアンナがどこか微笑ましくて、思わず笑いながらこう言った。


「ははっ、大丈夫だよ。そんなに俺とカップルに見られるのが嫌なのか?」
「……むぅ、クラウス様、その言葉はとても意地悪ですよ」
「ごめんごめん。でもいつもからかわれてるんだ、これくらいお返しだよ」


 しかし彼女は俺の言葉にむすっと不貞腐れてしまった。
 俺は困って無意識に頬をかきながら、店内を見渡す。
 するとすぐに店員さんが水を持ってきて、こちらに近づいてきてるのが見えた。


「あれ、私のせいで痴話喧嘩しちゃいましたか? ご、ごめんなさい!」


 俺たちの様子を見て、彼女はそう頭を下げてきた。
 そうされてアンナは毒気が抜けたのか、ほうっと息を吐くと言った。


「そんなことないですよ。ねっ? クラウス様」
「ああ、そんなことはないから、安心していいですよ」


 店員さんは俺たちの言葉にほっと安心したように胸を撫で下ろす。


「よかったですぅ……。てか、それよりも注文は何にしますか?」
「ああ、それなら俺はブレンドコーヒーにしようかな」
「私はブレンドコーヒーと、このパンケーキをください」
「かしこまりましたぁ。 じゃあすぐに作って持ってきますね!」


 そう言って再び店の奥に戻っていく店員さん。
 何か可笑しくて、俺たちは目を合わせると微笑み合った。


「コーヒーが来るの、楽しみですね」
「そうだな。この店構えだから絶対に美味しいはずだよね」


 そう言いながら俺はグルリと店を見る。
 色々なコーヒー道具が飾ってあったりして、なかなかに洒落込んでいる。
 もう雰囲気からして美味しそうだ。


「——それにしても今日はありがとうございます」
「何が?」
「いえ、こうして誘ってくれて凄く嬉しかったです」
「そうか。それなら良かったよ」


 彼女に喜んでもらいたくて、俺はこうしてデートに誘ったわけだからな。
 ちゃんと喜んでくれて、俺はやっぱり嬉しかった。


「しかし良いんですか? クラウス様にはロッテ様がいるのに」
「まあ、アンナは俺のメイドで、今までもこれからもずっとお世話になるんだからな」


 そう言うと彼女は目を見開いて、それからにっこりと微笑んだ。
 アンナとはどうせ一生の付き合いになりそうだし、これくらい仲良くしても良いと思うんだ。


「……そんなこと言われたら、絶対にもうクラウス様から離れませんよ」
「そうしてくれないと困るよ。まだ洋服の着方もよく分かってないんだからさ」


 この世界の洋服は古臭く、日本の頃のような着やすい感じではなかった。
 礼服なんかはなんかよくわからない工程がたくさんあって、それを間違えると笑われるのだ。
 おそらく感覚的にはTシャツの裏表を逆に着ている感じなのだろう。


「じゃあこれからもずっと一緒ですね」
「だからそう言っているだろう? そうだよ、ずっと一緒だよ」


 そんな会話をしていると、コーヒーが届いて、俺たちは優雅な昼を楽しむのだった。
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