BL小説に転生なんて誰か嘘だと言ってください!

ぴえろん

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① 現実世界では

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それは、何でもない毎日の中、突然届いた凶報だった。

「ねえ、大変!百合が事故に遭ったの!私と会って別れた後に・・・!」

数年ぶりに話す友人の言葉に、俺は頭が真っ白になってしまった。

残業ばかりの会社で、眠気に襲われながら、今日も残業かと腹を括っていた夕方。

最近は滅多に鳴らない携帯が鳴り、一体何なのかと電話に出ると電話を掛けてきたのは、大学時代の友人だった。


「・・・分かった。俺もそっちに向かう。」

一通り話を聞き終えた後、友人のように取り乱さない様に、敢えて冷静にそう返事をして電話を切った。


百合。それは、俺がずっと好きだった女の子の名前だ。

そんな彼女が事故に遭い、入院していると言われたら、残業なんてしている場合ではない。

上司に体調不良だと伝え、初めてと言っても過言ではないほど珍しく会社を早退した俺は、真っ先に彼女の入院している病院に向かった。

彼女のことがずっと好きだった。

だけど、彼女は・・・・ある事をきっかけに男性にトラウマを覚えたようで男友達との縁を片っ端から切っていった

幼馴染みの俺も含めて。


だからそれからはずっと、陰ながら見守る生活だった。

幸いな事に同じ大学へ通っていた俺は、なるべく彼女と同じ講義を受けていた。

だが、それも大学を卒業するまでの話。

卒業後は、彼女がどこに就職したかも知らないまま、疎遠になっていた。

その代わり、彼女が大学時代親しくしていた女友達の一人と連絡先を交換し、何かあった時は教えて欲しいとお願いしていた。

我ながら気持ち悪いとは思う。
だけど、純粋に百合の事が心配だったのだ。


もちろん、何もないのが一番だ。

だけど、結局その時にその子にお願いしたことが、最悪の形で叶ってしまったのだ。

百合が運ばれた病院は、都内の中でもそこそこ大きい大学病院だった。

受付の事務員に百合の面会を申し込んだ後、百合の寝ている病室へ向かった。

百合の病室は、階段を登ったすぐ先だった。

個室で、窓のある部屋だった。どことなく消毒液の匂いがする。

そして、そこには数年ぶりに見る彼女がいた。

「・・・百合・・・。」


ベッドで横たわる百合は、青白い肌で生気が無く、今にも死んでしまいそうだった。

百合を見るのは学生時代以来だが、社会人になった彼女は、当時と比べると少しだけ痩せたような気がする。

でも、眠った顔は昔と変わらない。


面会時間ぎりぎりに来てしまった事も有り、その日は百合の顔だけ見て帰ることになった。

心配だった俺は、次の日も彼女に会いに来た。

相変わらず眠ったままの百合は、まるで魂だけは何処か別の場所に行っているみたいに空っぽで空虚に見えた。

彼女のベットの傍の棚には、花が綺麗に生けられた花瓶が置かれていた。

昨日は無かったので、家族の誰かが今日お見舞いにきて飾っていったのかもしれない。


彼女の傍へ行き、手をそっと握った。



早く目を覚ましてくれ。

もし、そんな奇跡が起こったなら、今度こそ君に伝えたいことがあるんだ。

誰と付き合っても、どうしても君が忘れられないんだ。



毎日仕事を早々に切り上げ病室に通い、俺はただひらたすらに、祈っていた。
百合が目覚めることを。

段々と溜まっていく業務は、早朝に出社して処理する事で何とか間に合わせていた。


そんな日が、何日か続いた。

ある日、いつものように百合に会いに行った俺は自分の目を疑った。



換気の為か、百合の部屋の窓が開いていて、カーテンが風に揺れている。

揺れたカーテン越しに見えたのは、身体を起こしてこちらに向かって微笑む百合だった。


「百合!!目が覚めたのか!?」


慌ててベットの傍へ行き、百合の両手を握った。


しかし、俺はその後すぐに、愕然とする事になる。



「・・・君は誰?私、記憶が無いみたい。」


「えっ・・・」


百合は、記憶を失っていた。


その後、目を覚ました百合は医師と看護師に連れていかれ、精密検査を受けたが異常は見つからなかった。

医者は検査結果を元に、頭を強く打ったショックで一時的に記憶が欠落していると最終的に診断を下した。



諦めるにはまだ早い。

どうせ最初から恋愛対象に見られていなかっただろうし、ここから百合との関係をやり直すんだ。


そう思いながら、百合の病室に訪れたその日。

その日の光景は、俺はこれからもずっと忘れることは出来ないだろう。



病室にいた百合は起きていて、焦点の合わない瞳で天井を見つめていた。




「あと、もう少しだ・・・。」


聞いた事もないほどしわがれて、まるで地の底から響いてくるような低い声だった。

驚きで、病室へ入ろうとした足が止まった。


今のは、百合が言ったのか・・・?



病室で、百合が不気味な笑い声をあげている。

それはどう見ても百合だけど、百合じゃない。

天井を見ていた百合の瞳が一瞬こちらに向けられ、俺は咄嗟に屈んだ。

動悸がする。今は冬では無いのに、寒気までしてきた。


俺に一瞬だけ向けられた百合の瞳は、金色で、どう見ても人間の目じゃない。


それはまるで、蛇のような、あるいは。


悪魔のような、そんな瞳だった。



(① 現実世界では 終わり)


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