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テオの正体は。

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満天の星が輝く夜だった。

部屋のバルコニーに出て、首が痛くなるのも構わず空を見上げていた。  





この世界は元いた世界と異なり星がよく見える。

黒い布一面にダイヤモンドが敷かれているような、そんな空だ。
だからつい、首の痛みを忘れ見入ってしまった。




今日は待ちに待っていた夜会の日。

バルコニーに出たのは、迎えに来るはずのテオを待つためだった。



私の準備は既にばっちり整っている。


例のドレスに着替え、髪型も自分でできる範囲で整えた。


もちろん、周りの貴族女性には劣るだろうけど、ユリアは美人だしテオの隣に立っても見劣りする事はないはずだ……多分。



少し不安な気持ちなっていると、どこからが馬車の音が聞こえてきた。


下を見ると、屋敷の門の前に馬車が1台止まっていた。


きっとテオが来たんだ。


いよいよ夜会へ向かうのね!

はやる気持ちを抑えつつ、皆が来る前に行かなくてはと、急いで部屋を出て玄関に向かった。



しかし1階の玄関先には既に父と兄、ローラまで来ていて、驚いた顔で一点を見つめている。


視線の先を辿ると、そこにはテオが立っていた。


「ユリア、迎えに来たぞ。」


「テオ!今行くわ。」


私たちの会話を聞き、ローラと父親が慌て出した。


一体何なの?

そう疑問に思っていると、ローラに両肩を掴まれた。


「どういうこと?!何であんたを皇太子殿下が迎えに来るの?!?」


えっ…………。

頭の中が真っ白になる。


待って、今、なんて言った?




「皇太子殿下……?」


「そうよ!!
テオドール・ロックウェル皇太子殿下よ!!!」


恐る恐るローラに聞き返すと物凄い剣幕で答えが返ってきた。



テオ.......皇太子殿下だったの!?


思わずテオの方を見る。

あれ、言ってなかったか?なんて言わんばかりの表情をしている。


そんな、テオが皇太子殿下だなんて……初耳すぎる!


もう「テオ」だなんて、気軽に呼べないわ!!



「ユリア!説明しなさい!」

混乱する私に、ローラだけでなく父親も迫ってきた。


説明しろって言われても…………。

どうすればいいか悩む私に、痺れを切らしたのかテオが口を開いた。


「悪いが急いでいるのでこれで失礼する。

ただ夜会へ行くだけだ。 ユリア、行こう。」


テオがローラと父親の手を遮り、私を引き寄せた。



はあ、とんでもない事になってしまった。


テオと2人で馬車に乗り、屋敷から離れた私は思わずため息を吐いた。




「強引な事をしてすまない。ああでもしないと長引きそうだったから。」


テオが珍しく、少し申し訳無さそうにしているのが新鮮に目に映った。



「いえ、お気になさらず。その通りなので……。」


実際、ああでもしなければずっと尋問されていたはずだ。



最後に見たローラの顔……。


なんでアンタが、って言わんばかりの表情だったな。


夜会が終わったあと面倒な事になりそうだけど、それを今考えるのは辞めよう。


そう思った私はひとまず気持ちを切り替えることにした。




「そういえば、皇太子殿下だったんですね。

今までテオって呼んでいましたけど、もう呼べませんね……殿下。」



私の言葉に、テオは気まずそうにしている。


ようやく全て納得がいったわ。


洗練された所作も、いつも顔を隠すようにしている格好なのも……。


私は転生者だからたまたま知らなかったけど、皇太子殿下という立場なら国民全員知っていてもおかしくはないだろう。


そりゃあ変装も必要になってくるよね。



「隠すつもりは無かったんだが、ああいう風に接してもらうのは初めてだったから、そのままでいて欲しくて……。」



テオが少し口篭りながら答える。

言いにくそうにしているのを見て少し可愛いなと思った。


そうよね、その立場じゃ、皆普通に接するなんて出来ないよね……。


もちろん、わたしも知ったからにはもう気軽に「テオ」なんて呼べないけど。


「これからは、殿下とお呼びしますね。」



「……ああ。」



残念そうにしているテオを見て、心が痛んだが仕方ない。


不敬罪で捕まるなんて真っ平御免だ。



お互い無言になり、気まずくなった私は馬車の外を眺めた。



この世界は文明があまり発展していない。

だから街に灯りがあまりなく、外はかなり真っ暗になっている。


だから星の光がこんなに引き立つのだろう。


私はドレスを着ていて、目の前には皇子様。

一つ一つが宝石のように輝き瞬く星空の下を、私たちを乗せた馬車が城に向かって走っている。



それは、自分が本の中のお姫様になったのだと錯覚させるのには十分な夜だった。





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