お妃候補は正直しんどい

きゃる

文字の大きさ
21 / 97
第五章 急がば回れん

いざ皇国へ4

しおりを挟む
「恥ずかしい話なんだけどもよ。おらんとこの娘は親に似ずぺっぴんで、『春の女神』に選ばれたんだわ」
「女神……というと、祭りの主役の?」
「主役? ええっと、おめでとうございます」

 ランディに引き続きお祝いを言う。何だろう、自慢したい気分なのかしら? それにしては、暗い顔をなさっているけれど。

「いや、全然めでたくねーんだわ。あ、いや、おめでたなんだけど」

 話がよくわからない。
 レオナール様も首をひねっている。
 ただ一人、ランディだけは彼の言いたいことを理解したようだ。

「つまり、妊娠したせいで『春の女神役』ができなくなったということだね? この祭りは、子供のいない未婚の者が女神に選出される、だったかな?」
「そう、そうなんだ。黙っていた娘を、おらが怒鳴ったばかりなんだが……」
「あのね。本物の女神が嫉妬しないよう、フルゴール村の『春の女神』は未婚かつ子供のいない者と限定されているんだ。お腹の中にいる子にまで女神が怒るかどうかはわからないけれど、村人達はとにかく信心深い」

 ランディが私に説明してくれた。
 村や祭りのことに詳しいのはレオナール様だけかと思ったら、そうでもないみたい。

「それで? 大体予想はつくけれど、こうなったら最後まで聞いておこうか」

 ランディが先をうながした。
 村人はうなずくと、続きを話し始める。

「この村に若い女性は少ねぇんだ。未婚となるとほとんどいない。あ、いや。おらの娘はもうすぐ結婚するし、ぺっぴんなのは本当だがよ。それでも今から探すとなると……」

 私達に探すのを手伝ってほしい、ということね? ところが、目を細めたレオナール様が、男性に意外な質問をする。

「女神役は村の者でなくても構わない、ということですか?」
「騎士様! 話が早くて助かるよ。何年か前にも他所よそから借りて来たんだ。そん時も成功したから、どうこう言う者はいねぇ。で、ここからが本題だけどもよ。娘さん、結婚してないなら『春の女神』になんねぇか?」
「ええっ!? わ、わたわた、私?」

 いけない、緊張すると未だにどもってしまう。

「そっちの兄さんでも似合いそうだけんど、さすがに男じゃなぁ……」

 ランディを見ながら、村人が頭を掻く。困ったようなその姿に、レオナール様が勢いよく噴き出していた。確かにランディなら、女装しても色っぽくて素敵だと思う。

「失礼しました」
「レオナール、しっかり覚えておこう。で? 妖精さんはどうしたい?」
「え? わた、私? 急だし、と、泊まるところもないし」
「そんならおらの家に泊まればいい。娘とケンカしたばかりだし、その方が助かる」
「で、でも……」

 お嬢さんが心配だわ。楽しみにしていたはずの『春の女神』を他所者に取られてしまっていいのかしら? それに、何をするのかわからないけれど、そんな大役私につとまるの?

「春の女神か。妖精さんにピッタリだね」
「素敵な思い出になることでしょう」
「ありがとう! 良かった、助かったよ!」

 村人は飛び上がって喜んでいる。
 おかしいわ。どうして私以外みんな乗り気なの?

「あ、あああの……」
「あー良かった。一時はどうなることかと思ったよ。じゃあ、早速衣装を合わせねぇとな」
「ま、ままま待」
「クリスタには私が付き添う。レオナール、後は任せた」
「かしこまりました」
「わ、わたわた私」
「何だい、妖精さん。これからは妖精じゃなく女神と呼ぼうか?」

 いえ、どっちもダメだから。
 もしかして、本人の意見を聞かずに決まったってこと!?

「本当に助かった。騎士様と一緒にいたから、ためらったけんど、声をかけて良かったよ。あ、おらの家はこの先だ」
「クリスタが春の女神か。楽しみだな。美し過ぎて、集まったみんなの目を奪ってしまうね?」
「ち、ちち違……」

 歩きながら話しかけられるけれど、確実にそんなことはないと思う。ギョッとして目が離せない、というならわかるのに……っていけない。自分を卑下しないと決めたんだわ。
 祭りを見学したかっただけなのに、何だか女神役を引き受ける流れになってしまった。ランディも喜んでいるし、誰かの役に立てるなら嬉しいけれど、本当に私でいいのかしら?



 案内された家は広場近くの一軒家で、この辺りではごく普通の大きさだ。扉を開けて出てきた女性が、村人の言っていた娘さんだと思われる。緩やかに波打つ金髪と、すらっとした体型の持ち主だった。

「父さん? 急に代役を探すだなんて、やっぱり無理……あら」

 その女性は父親の言う通り、整った顔立ちをしていた。小柄な私に比べると背が高く、目が細くスッキリしたタイプの美人さんだ。彼女は私の姿を見るなり眉根を寄せる。

「あなた……が?」
「い、いえ。その、わわ私……」

 緊張して初対面だと、やはりどもってしまうらしい。図々しいと言われたらどうしよう? そんな私に、ランディが後ろから助け舟を出してくれた。

「初めまして。君がお嬢さんだね? たまたま歩いていたら、彼女がお父さんに春の女神役をやらないかと声をかけられたんだ」

 ランディを見上げたその女性は、彼に見惚みとれて頬を染め、ポーッとなっている。何だか苦しくなった私は、一生懸命声を絞り出す。

「わ、私、クリスタと申します。初めまして!」
「ああ、ごめんなさい。私はミラ。父さんったら、貴女みたいな可愛い子を連れて来るなんて、なかなかやるじゃない」
「か、可愛い?」

 ミラと名乗ったその女性の方が綺麗だし、落ち着いている。彼女は女神役ができなくなることを気にしていないのかしら? 

「こんな所で立ち話もなんだから、中へどうぞ。もちろん、貴女のいい人もね?」

 ランディも私も気軽な恰好だったせいか、親し気にウインクまでされてしまう。家の中へ通された私達は、お茶をご馳走になりながら、祭りの話を聞く。
 ミラはさっぱりとした性格で、なんと私と同い年! 話しやすくとても気さくな性格で、なんだか楽しい。お茶の間にすっかり意気投合した私達は、女神の衣装を合わせるために二人で隣の部屋へ移動することに。

「ねえ貴方、彼女が可愛いからって着替えをのぞいちゃダメよ」

 ミラがランディに向かって釘を刺す。
 彼がこの国の皇太子だってこと……言った方がいいのかしら?
しおりを挟む
感想 804

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。