4 / 19
第一章 ラスボスは難しい
不機嫌なラスボスたち
しおりを挟む
「【ブレイズストラ――】」
「【氷壁】」
間一髪、わたしの前に出現した氷の壁が、魔王の放った炎を弾く。
ジュワッ
「ひゃあっ」
大きく逸れた火球は、神殿の柱に激突した。
「うわあー」
「ひええっ」
パラパラ崩れた柱の側で、神官たちが慌てふためいている。
「しまった、タレス!」
龍神のおかげで助かったけど、友人のタレスは大丈夫?
急いで彼の姿を探すと、下男の彼はホウキを手にガタガタ震えていた。
「……ふう。怪我はないようね」
たまたま人がいなくて良かったものの、神殿の柱が深くえぐれていた。
一歩間違えれば大惨事。
ラスボスたちの技は強大で、かなり危険だ。
イケメン好きのわたしでも、推しに殺されたいとは思わない。
「あれれ~? 角のお兄さん、外しちゃったね」
魔王の横から顔を出し、人の悪意の集合体ライムバルトがケタケタ笑う。
――ライム様お願い、空気を読んで!
ラベンダー色の上着に、同色の半ズボン。
白いシャツに紫色の蝶ネクタイ。
ライムバルトは少年のような出で立ちだけど、『ミスリルワールド』に登場するれっきとしたラスボスだ。
ゲームでは愛らしいボイス付きで人気は高いが、性格は結構えげつない。
「下っ手くそ~。僕が代わりにやってあげるよ」
そのライムバルトが、両手を顔の前に構えた。神官たちのほとんどは、残って見ているようだ。
このままでは危ない!
「ライムバルト様、話をさせてくださいっ」
必死に叫んだわたしを見ながら、愛らしいラスボスが小首を傾げる。
「あっれ~、人間ごときが僕の名を軽々しく口にしたの? その上、指図するつもり?」
「これこれ。女性には優しくしなくてはいけませんよ」
「ちぇ~~」
大天使、ウリエルが諭してくれたおかげで、なんとか収まった?
ウリエルの金模様の赤いローブは派手だけど、中性的な美貌によく似合う。
後に堕天使となるウリエル。ラスボスなのに意外とチャラくて、自分を倒しに来た女性キャラを気まぐれに回復したりする。
そのため、彼のファンはほとんど女性との噂。
「なーんてね。それっ―――」
「えっ!?」
ライムバルトの手から、何かが放たれた。
とっさにしゃがむと、黒い霧のようなものが頭上を通過する。
――これって【カオスミスト】!
命の危険はないけれど、呑み込まれると相手の意のままに操られてしまう代物だ。
「ざーんねん。だけどこれ、小回りも利くんだよね」
――うん、知ってる。
魔力の弱い私に、ラスボスの技を防ぐ術はない。
助けを求めて大神官を見ると、彼は信じられないというふうに、目を大きく開いていた。
――そんな! とにかく逃げよう。
「建物の中に入れれば……」
必死に走るわたしの背後で、可愛い声がする。
「へえ。君、僕から逃げられるとでも?」
今、答えている暇はない。
「大神官様っ、避難してください」
狙われているのはわたしだから、彼は関係ないはずだ。
でも、万が一ってこともある。
「軌道がゲームの通りなら、避けられるかもしれない」
ところが慌てていたせいで、ローブの裾を踏んづけた。
「わわっ」
バランスを崩した瞬間、黒い霧が向きを変え、わたしに覆い被さった。
「きゃあっ」
――呑み込まれる!
「【セイクリッドシャワー】」
もうダメだと思った途端、良く通る声がした。
金色の光が辺りに満ちると黒い霧は見る間に消えて、温かな光のシャワーが降り注ぐ。
――これってウリエル様の技。
「助かった」
「チッ」
ライムバルトが可愛い顔で舌打ちする。
ゲームの通り、とんでもない性格だ。
人の悪意が積み重なってできただけあって、彼は人の命をなんとも思っていない。
「はっ、笑止。偉そうに言ってそれか?」
「自分だって失敗したくせに」
魔王と悪意が衝突し、睨み合っている。
この隙に逃げれば……。
「生意気なやつめ。よいか、攻撃とはこのようにするのだ」
走るわたしの横を、炎の塊が通過する。
「ひゃあっ」
それは神殿に当たり、屋根の一部が崩落した。
「大変だ、逃げろっ」
「待て、置いていくな!」
神官たちは大騒ぎ。
我先に、と建物の中へ避難する。
「ふうん。じゃあ僕も。【ダークファング】!」
ライムバルトが唱えると、黒い霧が狼のような形になって神官たちを追いかけた。逃げ惑う彼らの様子に、人の悪意は楽しそう。
「ハハハ、こりゃいいや。ねえ、どっちが多く殺せるか、競争しない?」
彼らは人に恨みを抱くラスボスだ。
今すぐなんとかしなければ、魔物を滅ぼす前に神殿が滅びてしまう!
「嫌っ、こっちに来ないで」
「やめろ、どけ!」
神官たちの叫びが聞こえる。
舐めてかかっていたせいか、余計に焦っているらしい。
魔力を誇る先輩方も、ラスボスには太刀打ちできないようだ。
「ハハハ、見てあれ~。バッカみたい」
人の悪意が、お腹を抱えて笑う。
「今すぐやめなさいっ!」
わたしはそこで足を止め、思い切り怒鳴った。
「【氷壁】」
間一髪、わたしの前に出現した氷の壁が、魔王の放った炎を弾く。
ジュワッ
「ひゃあっ」
大きく逸れた火球は、神殿の柱に激突した。
「うわあー」
「ひええっ」
パラパラ崩れた柱の側で、神官たちが慌てふためいている。
「しまった、タレス!」
龍神のおかげで助かったけど、友人のタレスは大丈夫?
急いで彼の姿を探すと、下男の彼はホウキを手にガタガタ震えていた。
「……ふう。怪我はないようね」
たまたま人がいなくて良かったものの、神殿の柱が深くえぐれていた。
一歩間違えれば大惨事。
ラスボスたちの技は強大で、かなり危険だ。
イケメン好きのわたしでも、推しに殺されたいとは思わない。
「あれれ~? 角のお兄さん、外しちゃったね」
魔王の横から顔を出し、人の悪意の集合体ライムバルトがケタケタ笑う。
――ライム様お願い、空気を読んで!
ラベンダー色の上着に、同色の半ズボン。
白いシャツに紫色の蝶ネクタイ。
ライムバルトは少年のような出で立ちだけど、『ミスリルワールド』に登場するれっきとしたラスボスだ。
ゲームでは愛らしいボイス付きで人気は高いが、性格は結構えげつない。
「下っ手くそ~。僕が代わりにやってあげるよ」
そのライムバルトが、両手を顔の前に構えた。神官たちのほとんどは、残って見ているようだ。
このままでは危ない!
「ライムバルト様、話をさせてくださいっ」
必死に叫んだわたしを見ながら、愛らしいラスボスが小首を傾げる。
「あっれ~、人間ごときが僕の名を軽々しく口にしたの? その上、指図するつもり?」
「これこれ。女性には優しくしなくてはいけませんよ」
「ちぇ~~」
大天使、ウリエルが諭してくれたおかげで、なんとか収まった?
ウリエルの金模様の赤いローブは派手だけど、中性的な美貌によく似合う。
後に堕天使となるウリエル。ラスボスなのに意外とチャラくて、自分を倒しに来た女性キャラを気まぐれに回復したりする。
そのため、彼のファンはほとんど女性との噂。
「なーんてね。それっ―――」
「えっ!?」
ライムバルトの手から、何かが放たれた。
とっさにしゃがむと、黒い霧のようなものが頭上を通過する。
――これって【カオスミスト】!
命の危険はないけれど、呑み込まれると相手の意のままに操られてしまう代物だ。
「ざーんねん。だけどこれ、小回りも利くんだよね」
――うん、知ってる。
魔力の弱い私に、ラスボスの技を防ぐ術はない。
助けを求めて大神官を見ると、彼は信じられないというふうに、目を大きく開いていた。
――そんな! とにかく逃げよう。
「建物の中に入れれば……」
必死に走るわたしの背後で、可愛い声がする。
「へえ。君、僕から逃げられるとでも?」
今、答えている暇はない。
「大神官様っ、避難してください」
狙われているのはわたしだから、彼は関係ないはずだ。
でも、万が一ってこともある。
「軌道がゲームの通りなら、避けられるかもしれない」
ところが慌てていたせいで、ローブの裾を踏んづけた。
「わわっ」
バランスを崩した瞬間、黒い霧が向きを変え、わたしに覆い被さった。
「きゃあっ」
――呑み込まれる!
「【セイクリッドシャワー】」
もうダメだと思った途端、良く通る声がした。
金色の光が辺りに満ちると黒い霧は見る間に消えて、温かな光のシャワーが降り注ぐ。
――これってウリエル様の技。
「助かった」
「チッ」
ライムバルトが可愛い顔で舌打ちする。
ゲームの通り、とんでもない性格だ。
人の悪意が積み重なってできただけあって、彼は人の命をなんとも思っていない。
「はっ、笑止。偉そうに言ってそれか?」
「自分だって失敗したくせに」
魔王と悪意が衝突し、睨み合っている。
この隙に逃げれば……。
「生意気なやつめ。よいか、攻撃とはこのようにするのだ」
走るわたしの横を、炎の塊が通過する。
「ひゃあっ」
それは神殿に当たり、屋根の一部が崩落した。
「大変だ、逃げろっ」
「待て、置いていくな!」
神官たちは大騒ぎ。
我先に、と建物の中へ避難する。
「ふうん。じゃあ僕も。【ダークファング】!」
ライムバルトが唱えると、黒い霧が狼のような形になって神官たちを追いかけた。逃げ惑う彼らの様子に、人の悪意は楽しそう。
「ハハハ、こりゃいいや。ねえ、どっちが多く殺せるか、競争しない?」
彼らは人に恨みを抱くラスボスだ。
今すぐなんとかしなければ、魔物を滅ぼす前に神殿が滅びてしまう!
「嫌っ、こっちに来ないで」
「やめろ、どけ!」
神官たちの叫びが聞こえる。
舐めてかかっていたせいか、余計に焦っているらしい。
魔力を誇る先輩方も、ラスボスには太刀打ちできないようだ。
「ハハハ、見てあれ~。バッカみたい」
人の悪意が、お腹を抱えて笑う。
「今すぐやめなさいっ!」
わたしはそこで足を止め、思い切り怒鳴った。
0
あなたにおすすめの小説
アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します
梅丸みかん
ファンタジー
第一章:長期休暇をとったアラフォー独身のミカは、登山へ行くと別の世界へ紛れ込んでしまう。その場所は、森の中にそびえる不思議な塔の一室だった。元の世界には戻れないし、手にしたゼリーを口にすれば、身体はなんと6歳の子どもに――。
ミカが封印の箱を開けると、そこから出てきたのは呪いによって人形にされた大魔女だった。その人形に「大魔女の素質がある」と告げられたミカは、どうせ元の世界に戻れないなら、大魔女を目指すことを決心する。
だが、人形師匠はとんでもなく自由すぎる。ミカは師匠に翻弄されまくるのだった。
第二章:巷で流れる大魔女の遺産の噂。その裏にある帝國の侵略の懸念。ミカは次第にその渦に巻き込まれていく。
第三章:異世界で唯一の友人ルカが消えた。その裏には保護部屋の存在が関わっていることが示唆され、ミカは潜入捜査に挑むことになるのだった。
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる