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第一章 ラスボスは難しい
人の悪意が生まれた理由
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人の悪意の集合体は、全くやる気なし。
魔王の様子を傍観《ぼうかん》し、感想だけを口にする。
「デーモンスパイダーが次々現れるなんて、大変だね」
「デーモンスパイダー? お前、大蜘蛛を知らぬのか?」
――やはり、ここでもか。
繰り返しになるけれど、魔物はゲームによって呼び名が違う。同じ蜘蛛でも龍神は土蜘蛛、大天使はタランチュラと呼んでいた。
可愛い顔の人の悪意は、面倒くさいのか言い返さない。完全に興味を失って、その辺をぶらぶら歩いている。
「まあね。彼は気まぐれだし」
――柔らかな淡い緑の髪に青い瞳のライムバルトは、愛くるしい容姿が特徴だ。ゲームアプリ【ミスリルワールド】の世界で、人の悪意が集まって生まれた。紫色の上着に半ズボンという可愛らしい恰好ながら、相当腹黒い。
『貴様、そこをどけ!』
『どいてもいいけど……。引き換えに何をくれる?』
『はっ、偉そうに。このガキ、殴られねぇとわからねえようだな』
ごろつき(NPC)がライムバルトの可愛い見た目に騙されて、胸ぐらを掴んだ。
すると、あっという間に悪意を吸い取られてしまう。
『ぐああああぁぁ~』
『あ~あ。せっかく逃げる機会を与えてあげたのに。それとも僕のために、自ら生贄になってくれたの?』
ライムバルトがクスクス笑う。
なすすべもなく、ひからびていく凶悪犯。
ミスリルワールドの世界では、人は全ての悪意を吸い取られるとなぜか善人ではなく、廃人になってしまうのだ。
ちなみにライム様は、変わり種。
城や塔、ダンジョンにも着ぐるみ姿で出没し、悪意を吸い取っていく。
「ラスボスなのにじっとしてないし、声も可愛いし。クマの着ぐるみも似合っていたから、結構好きだったんだよね」
そんなライムバルトは、戦闘狂や凶悪犯罪者、独裁者らの魂が集まってできたラスボスだ。戦上手で頭も良く、人を魅了することに長けていた。
死者の魂が実体化したため、人の悪意を糧としている。
『もう少しだ。もう少しで理想の世界になる。全ての悪意を集めれば、誰も僕に逆らわない。みんなが僕にひれ伏して、世界が一つになれるんだ』
ライムバルトが目指したのは、世界の統一。どんな手段を使っても、全てを手に入れようとした。
悪人と呼ばれる中には、自らを善だと信じる者がいる。己の理屈を強要し、一切の反論を許さない。きっとそうした者の魂が集まって、彼は生まれた。
ラスボス戦では、勇者が平和を訴えて彼を諭す。
こと切れる直前、ライムバルトは勇者にこう打ち明ける。
『何をしても満たされず、ずっと孤独で寂しかった。僕なんて、いない方が良かったんだ。お願い、二度と生み出さないで』
「そんなことないよおぉぉぉ~」と絶叫しながら号泣したのは、他ならぬわたしだ。
腹黒く策士の彼ではあるけれど、悲しそうな表情は本物だった。人気声優のボイスが神がかっていたこともあり、強く印象に残ったのだ。
今の彼はふてぶてしくて、何を考えているのかわからない。せめてもの救いは、犠牲者がまだいないことだろうか?
「神官様、住民の避難が完了しました」
「ありがとうございます」
報告した神殿の護衛兵に、頭を下げた。
けれど火の勢いは衰えず、手前の家が燃え尽きそうだ。
――やっぱりダメ? わたしに力がないせいで、村全体を失うの?
「何をしている! 早く俺に力を与えろ」
突然、奥から声がした。
煙の向こうに、背の高い男性の姿が見える。
火の粉を避けつつ近づくと、龍神が怒っていた。
「早くしろ」
「はいっ」
照れくさいなどと言っている場合ではない。
わたしは慌てて、龍神の腰を抱きしめる。
「む。そこか?」
「いけませんか?」
「いや、いい。……【波濤】」
龍神が唱えると、高い波が急に押し寄せた。
波は炎を消すと同時に、魔物の残骸を押し流す。
「グギャギャギャギャギャ」
「ギーギー、ギーギー」
奥に残っていた魔物も、一緒に流されたみたい。
「波を操れるなんて、すごい!」
考えてみれば龍神は、水の魔法を得意としている。
こんなことなら、全て彼に任せておけば良かった気が……。
「どこもかしこも水浸し。片付けが大変そうだね」
「ウリエル様!」
大天使が歩み寄り、なぜかわたしを手招きする。
「こっちにおいで」
「え?」
「私の魔力も回復してくれるんだろう?」
「あ、そういうことでしたら」
ウリエルの元に駆け寄ると、彼は自ら手を差し出した。
……じゃない。両腕を大きく広げている。
「はい?」
「どうぞ。抱きしめてくれるんだよね」
「は? いえ、それは……」
さっきのは、急いでいたからだ。
でもここで異を唱えると、ラスボス差別ととられかねない。
「失礼します」
両手を腰に回して、正面から抱きついた。
「ふふ。素直な君は可愛いね」
大天使はにっこり笑うと、浄化の魔法を口にする。
「セイクリッドライト」
見る間に泥が消失し、折れた柱も元通り。
「うえ? えええええ!?」
「ふふふ」
驚くわたしの前で、大天使が嬉しそうに目を細めた。
※NPC……ノンプレイヤーキャラクター。プレイヤーが操作しないキャラクターのこと。
魔王の様子を傍観《ぼうかん》し、感想だけを口にする。
「デーモンスパイダーが次々現れるなんて、大変だね」
「デーモンスパイダー? お前、大蜘蛛を知らぬのか?」
――やはり、ここでもか。
繰り返しになるけれど、魔物はゲームによって呼び名が違う。同じ蜘蛛でも龍神は土蜘蛛、大天使はタランチュラと呼んでいた。
可愛い顔の人の悪意は、面倒くさいのか言い返さない。完全に興味を失って、その辺をぶらぶら歩いている。
「まあね。彼は気まぐれだし」
――柔らかな淡い緑の髪に青い瞳のライムバルトは、愛くるしい容姿が特徴だ。ゲームアプリ【ミスリルワールド】の世界で、人の悪意が集まって生まれた。紫色の上着に半ズボンという可愛らしい恰好ながら、相当腹黒い。
『貴様、そこをどけ!』
『どいてもいいけど……。引き換えに何をくれる?』
『はっ、偉そうに。このガキ、殴られねぇとわからねえようだな』
ごろつき(NPC)がライムバルトの可愛い見た目に騙されて、胸ぐらを掴んだ。
すると、あっという間に悪意を吸い取られてしまう。
『ぐああああぁぁ~』
『あ~あ。せっかく逃げる機会を与えてあげたのに。それとも僕のために、自ら生贄になってくれたの?』
ライムバルトがクスクス笑う。
なすすべもなく、ひからびていく凶悪犯。
ミスリルワールドの世界では、人は全ての悪意を吸い取られるとなぜか善人ではなく、廃人になってしまうのだ。
ちなみにライム様は、変わり種。
城や塔、ダンジョンにも着ぐるみ姿で出没し、悪意を吸い取っていく。
「ラスボスなのにじっとしてないし、声も可愛いし。クマの着ぐるみも似合っていたから、結構好きだったんだよね」
そんなライムバルトは、戦闘狂や凶悪犯罪者、独裁者らの魂が集まってできたラスボスだ。戦上手で頭も良く、人を魅了することに長けていた。
死者の魂が実体化したため、人の悪意を糧としている。
『もう少しだ。もう少しで理想の世界になる。全ての悪意を集めれば、誰も僕に逆らわない。みんなが僕にひれ伏して、世界が一つになれるんだ』
ライムバルトが目指したのは、世界の統一。どんな手段を使っても、全てを手に入れようとした。
悪人と呼ばれる中には、自らを善だと信じる者がいる。己の理屈を強要し、一切の反論を許さない。きっとそうした者の魂が集まって、彼は生まれた。
ラスボス戦では、勇者が平和を訴えて彼を諭す。
こと切れる直前、ライムバルトは勇者にこう打ち明ける。
『何をしても満たされず、ずっと孤独で寂しかった。僕なんて、いない方が良かったんだ。お願い、二度と生み出さないで』
「そんなことないよおぉぉぉ~」と絶叫しながら号泣したのは、他ならぬわたしだ。
腹黒く策士の彼ではあるけれど、悲しそうな表情は本物だった。人気声優のボイスが神がかっていたこともあり、強く印象に残ったのだ。
今の彼はふてぶてしくて、何を考えているのかわからない。せめてもの救いは、犠牲者がまだいないことだろうか?
「神官様、住民の避難が完了しました」
「ありがとうございます」
報告した神殿の護衛兵に、頭を下げた。
けれど火の勢いは衰えず、手前の家が燃え尽きそうだ。
――やっぱりダメ? わたしに力がないせいで、村全体を失うの?
「何をしている! 早く俺に力を与えろ」
突然、奥から声がした。
煙の向こうに、背の高い男性の姿が見える。
火の粉を避けつつ近づくと、龍神が怒っていた。
「早くしろ」
「はいっ」
照れくさいなどと言っている場合ではない。
わたしは慌てて、龍神の腰を抱きしめる。
「む。そこか?」
「いけませんか?」
「いや、いい。……【波濤】」
龍神が唱えると、高い波が急に押し寄せた。
波は炎を消すと同時に、魔物の残骸を押し流す。
「グギャギャギャギャギャ」
「ギーギー、ギーギー」
奥に残っていた魔物も、一緒に流されたみたい。
「波を操れるなんて、すごい!」
考えてみれば龍神は、水の魔法を得意としている。
こんなことなら、全て彼に任せておけば良かった気が……。
「どこもかしこも水浸し。片付けが大変そうだね」
「ウリエル様!」
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「え?」
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……じゃない。両腕を大きく広げている。
「はい?」
「どうぞ。抱きしめてくれるんだよね」
「は? いえ、それは……」
さっきのは、急いでいたからだ。
でもここで異を唱えると、ラスボス差別ととられかねない。
「失礼します」
両手を腰に回して、正面から抱きついた。
「ふふ。素直な君は可愛いね」
大天使はにっこり笑うと、浄化の魔法を口にする。
「セイクリッドライト」
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