15 / 19
第一章 ラスボスは難しい
遺体の謎
しおりを挟む
*****
護衛の兵士の報告を受け、慌てて向かう。
わたし――ハルカが村の奥に行くと、村人が数名、燃え尽きた家の中を覗き込んでいた。
「これは、どなたの家ですか?」
「空き家のはずだ。魔物も、こっちには来てないようだったが……」
「んだ。村の住民はみな避難しとるし、村長の確認も済んでいる」
「じゃあ、これは誰?」
崩れ落ちた梁の下には、大部分が焦げた人のようなものがあった。神殿での仕事柄、損傷の激しい遺体も目にしたことはある。けれど慣れることはなく、いつ見ても胸が痛む。
「大人のようですね。村の方でないなら、どうしてここに?」
ふと閃く。
「もしかして、侵入者では?」
「わからん。だが、調べるにしたって梁が重くて動かせない」
「んだ。このままそっとしておくしかないべ」
「まあね。下手に動かすと、遺体が崩れてしまうかも。ただ、焼死の割に横たわったままの姿が気になるわ」
普通はもっと、もがくのではないだろうか?
そこでわたしは顔を上げ、あるラスボスの姿を探す。
「ライム様、いらっしゃるのでしょう?」
「あれれ? どうして僕がいるってわかったの?」
村人の後ろにいた少年が、ぴょこんと顔を覗かせる。
遺体と聞いて、人の悪意が興味を持たないわけがない。
ライムバルトはスキップしながら近づくと、梁の下敷きになった遺体を見下ろした。
「……で? これを、僕にどうしてほしいの?」
さすがはラスボス、話が早い。
「詳しく調べたいので、梁をどかしてください」
「え~、どうしよっかな~」
「ライム様! ふざけている場合ではありません」
強い口調で非難すると、人の悪意は口を尖らせた。
「ちぇっ。怒らなくてもいいじゃない」
「あなたのお力が必要なんです。お願いします」
わたしは彼の両腕を掴み、青い瞳を見つめた。
「しょうがないな~。で? この柱みたいなものを、なくせばいいの?」
「はい」
「まったくもう、人使いが荒いんだから」
ぶつぶつ文句を言いつつも、手伝ってくれる気はあるようだ。
――でも、ちょっといいかな? 人使いが荒いも何も、今まで何もしていなかったよね?
「【シャドーノワール】」
ライムバルトが唱えると、空中にブラックホールのような小さな穴が現れた。黒い穴は梁を苦もなく呑み込むと、次の瞬間消滅する。
「「おおっ」」
村人や兵士は声を上げるが、わたしはゲームで見た技なので、驚かない。
「ライム様、おかげで助かりました」
「それ、本当に感謝してる?」
「はい。ありがとうございます」
にっこり笑い、彼の頭に手を置いた。
ふわふわの髪は柔らかく、ついよしよしと撫でてしまう。
「なっ……バカ」
両手を頭に当てて照れる仕草は愛らしく、ゲームで見た通り。
これでラスボスなんて信じがたいが、本当なのでしょうがない。
「神官様、見てください!」
いけない、ライム様の可愛さに夢中になっていた。
わたしは急いで、声を上げた兵士の側に行く。
「これって、バツ印?」
梁の下の遺体は、お腹の上で手を組んで静かな姿勢で横たわっていた。そのせいで左腕の内側に、かろうじて焼け残っている部分がある。
そこにはなんと、バツのような模様があった。
「×印って、入れ墨にしては変だよね。まさか、奴隷の証?」
「いえ、奴隷なんて聞いたことがありません」
「そうだよね。この国に、奴隷制度はないはずだから」
わたしは神官となるために、一通りの知識は詰め込んだ。それによると、この国の奴隷制度はだいぶ昔に廃止されている。
「年齢も性別もわからないけど、背格好から推測すると成人男性かな? 焼死の割には眠るような姿勢だし、出火の原因もわからないし……」
わたしは神殿に戻ってすぐ、村の状況を大神官に報告。話が終わると、大神官は一通の手紙を差し出した。
「これは……王家の印章、ですか?」
「そうじゃ。魔物退治を正式に依頼されておる」
「でもこれ、だいぶ前の日付ですよね?」
「うむ。魔物の動きが活発になった当初から、陛下は憂慮なさっていた」
そこでわたしはハッとする。
「もしかして、そのために秘術を?」
『召喚の儀』を行ったのは、王家の要請があったから、なのか。
「それもある。じゃが、陛下の意向がなくとも、魔物を退けてほしい」
「今回のように、ですか?」
「うむ。ここよりひどいところがたくさんあるそうじゃ。そなたには苦労をかけるが、各地を回ってもらいたい」
「旅に出ろ、ということですね」
「すまぬ、この通りじゃ」
「いえ、ええっと……。わたしで良ければ、精一杯頑張ります」
とはいえ、わたし一人では何もできない。
肝心のラスボスたちは、協力してくれるかな?
護衛の兵士の報告を受け、慌てて向かう。
わたし――ハルカが村の奥に行くと、村人が数名、燃え尽きた家の中を覗き込んでいた。
「これは、どなたの家ですか?」
「空き家のはずだ。魔物も、こっちには来てないようだったが……」
「んだ。村の住民はみな避難しとるし、村長の確認も済んでいる」
「じゃあ、これは誰?」
崩れ落ちた梁の下には、大部分が焦げた人のようなものがあった。神殿での仕事柄、損傷の激しい遺体も目にしたことはある。けれど慣れることはなく、いつ見ても胸が痛む。
「大人のようですね。村の方でないなら、どうしてここに?」
ふと閃く。
「もしかして、侵入者では?」
「わからん。だが、調べるにしたって梁が重くて動かせない」
「んだ。このままそっとしておくしかないべ」
「まあね。下手に動かすと、遺体が崩れてしまうかも。ただ、焼死の割に横たわったままの姿が気になるわ」
普通はもっと、もがくのではないだろうか?
そこでわたしは顔を上げ、あるラスボスの姿を探す。
「ライム様、いらっしゃるのでしょう?」
「あれれ? どうして僕がいるってわかったの?」
村人の後ろにいた少年が、ぴょこんと顔を覗かせる。
遺体と聞いて、人の悪意が興味を持たないわけがない。
ライムバルトはスキップしながら近づくと、梁の下敷きになった遺体を見下ろした。
「……で? これを、僕にどうしてほしいの?」
さすがはラスボス、話が早い。
「詳しく調べたいので、梁をどかしてください」
「え~、どうしよっかな~」
「ライム様! ふざけている場合ではありません」
強い口調で非難すると、人の悪意は口を尖らせた。
「ちぇっ。怒らなくてもいいじゃない」
「あなたのお力が必要なんです。お願いします」
わたしは彼の両腕を掴み、青い瞳を見つめた。
「しょうがないな~。で? この柱みたいなものを、なくせばいいの?」
「はい」
「まったくもう、人使いが荒いんだから」
ぶつぶつ文句を言いつつも、手伝ってくれる気はあるようだ。
――でも、ちょっといいかな? 人使いが荒いも何も、今まで何もしていなかったよね?
「【シャドーノワール】」
ライムバルトが唱えると、空中にブラックホールのような小さな穴が現れた。黒い穴は梁を苦もなく呑み込むと、次の瞬間消滅する。
「「おおっ」」
村人や兵士は声を上げるが、わたしはゲームで見た技なので、驚かない。
「ライム様、おかげで助かりました」
「それ、本当に感謝してる?」
「はい。ありがとうございます」
にっこり笑い、彼の頭に手を置いた。
ふわふわの髪は柔らかく、ついよしよしと撫でてしまう。
「なっ……バカ」
両手を頭に当てて照れる仕草は愛らしく、ゲームで見た通り。
これでラスボスなんて信じがたいが、本当なのでしょうがない。
「神官様、見てください!」
いけない、ライム様の可愛さに夢中になっていた。
わたしは急いで、声を上げた兵士の側に行く。
「これって、バツ印?」
梁の下の遺体は、お腹の上で手を組んで静かな姿勢で横たわっていた。そのせいで左腕の内側に、かろうじて焼け残っている部分がある。
そこにはなんと、バツのような模様があった。
「×印って、入れ墨にしては変だよね。まさか、奴隷の証?」
「いえ、奴隷なんて聞いたことがありません」
「そうだよね。この国に、奴隷制度はないはずだから」
わたしは神官となるために、一通りの知識は詰め込んだ。それによると、この国の奴隷制度はだいぶ昔に廃止されている。
「年齢も性別もわからないけど、背格好から推測すると成人男性かな? 焼死の割には眠るような姿勢だし、出火の原因もわからないし……」
わたしは神殿に戻ってすぐ、村の状況を大神官に報告。話が終わると、大神官は一通の手紙を差し出した。
「これは……王家の印章、ですか?」
「そうじゃ。魔物退治を正式に依頼されておる」
「でもこれ、だいぶ前の日付ですよね?」
「うむ。魔物の動きが活発になった当初から、陛下は憂慮なさっていた」
そこでわたしはハッとする。
「もしかして、そのために秘術を?」
『召喚の儀』を行ったのは、王家の要請があったから、なのか。
「それもある。じゃが、陛下の意向がなくとも、魔物を退けてほしい」
「今回のように、ですか?」
「うむ。ここよりひどいところがたくさんあるそうじゃ。そなたには苦労をかけるが、各地を回ってもらいたい」
「旅に出ろ、ということですね」
「すまぬ、この通りじゃ」
「いえ、ええっと……。わたしで良ければ、精一杯頑張ります」
とはいえ、わたし一人では何もできない。
肝心のラスボスたちは、協力してくれるかな?
0
あなたにおすすめの小説
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します
梅丸みかん
ファンタジー
第一章:長期休暇をとったアラフォー独身のミカは、登山へ行くと別の世界へ紛れ込んでしまう。その場所は、森の中にそびえる不思議な塔の一室だった。元の世界には戻れないし、手にしたゼリーを口にすれば、身体はなんと6歳の子どもに――。
ミカが封印の箱を開けると、そこから出てきたのは呪いによって人形にされた大魔女だった。その人形に「大魔女の素質がある」と告げられたミカは、どうせ元の世界に戻れないなら、大魔女を目指すことを決心する。
だが、人形師匠はとんでもなく自由すぎる。ミカは師匠に翻弄されまくるのだった。
第二章:巷で流れる大魔女の遺産の噂。その裏にある帝國の侵略の懸念。ミカは次第にその渦に巻き込まれていく。
第三章:異世界で唯一の友人ルカが消えた。その裏には保護部屋の存在が関わっていることが示唆され、ミカは潜入捜査に挑むことになるのだった。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
元救急医クラリスの異世界診療録 ―今度こそ、自分本位に生き抜きます―
やまだ
ファンタジー
朝、昼、夜を超えてまた朝と昼を働いたあの日、救急医高梨は死んでしまった。比喩ではなく、死んだのだ。
次に目覚めたのは、魔法が存在する異世界・パストリア王国。
クラリスという少女として、救急医は“二度目の人生”を始めることになった。
この世界では、一人ひとりに魔法がひとつだけ授けられる。
クラリスが与えられたのは、《消去》の力――なんだそれ。
「今度こそ、過労死しない!」
そう決意したのに、見過ごせない。困っている人がいると、放っておけない。
街の診療所から始まった小さな行動は、やがて王城へ届き、王族までも巻き込む騒動に。
そして、ちょっと推してる王子にまで、なぜか気に入られてしまい……?
命を救う覚悟と、前世からの後悔を胸に――
クラリス、二度目の人生は“自分のために”生き抜きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる