悪女は愛より老後を望む

きゃる

文字の大きさ
1 / 58
プロローグ

別れの予感(注:この世から)

しおりを挟む
「ねえ、君のことを愛しているんだ。結婚を前提に、僕と付き合ってくれない?」

 ――ああ、またなのね? せっかく過ごしやすい世界だったのに。彼の周りには可愛いがたくさんいたし、私の方から好意を示した覚えはない。ただ、困った顔をしていたから時々世話を焼いてあげただけ。それなのにその娘達でなく、どうして私なの? 告白されるくらいなら、冷たく放っておけば良かったわ。

 祭りの夜、甘え上手な年下男性からの告白を聞き、私は非情にもこう考えていた。
 柔らかそうな茶色の髪に可愛らしい顔立ち、村長の息子で働き者でもある彼は、村の女の子達にも人気が高い。
『祭りの日に、一番大きな林檎りんごの木の下で大好きな人から告白されると、ずっと上手く行く』という言い伝えがこの村にはある。だから、普通なら飛び上がって喜ぶところだろう。

 彼にしてみれば、一世一代の告白だったはずだ。踊りの輪を抜けて、木の下へ導くところをみんなに見られている。「見てほしいものがある」と言われたのが、まさかこのためだとは思わなかった。暗くてよくわからなかったけれど、木に近づいた瞬間ダッシュで逃げれば良かったな。

「ごめんなさい、無理だわ」

 なるべく冷たく聞こえるように言ってみた。胸が痛くなるけれど、そんな感情は無視しよう。性悪女と呼びたきゃ呼ぶがいい。まあ彼は優しいから、呼ぶとしたら取り巻きの女の子達の方かしら?

「どうして? もしかして、他に好きな人でもいるの? それでも僕は引かないよ。君がいいんだ」

 ダメだ、可愛い顔して案外男らしい物言いにニヤけてはいけない。彼の気持ちは嬉しかった。好きか嫌いかで言えば、私も彼のことは好きだと思う。でも私は、本気の恋をすることができないのだ。いえ、正確にはしたくてもできない。だって私はもうすぐ、この世から消えてしまうんだもの。

「貴方のことが好きじゃないだけよ。聞き分けの悪い坊やは大嫌い」

 黒髪を手で払った私は腕を組み、わざとあごを上げて吐き捨てる。悲しそうな彼の顔を見たくなくて、これ以上この世に未練を残したくなくて、くるりと背を向けた。貴方が思い悩まなくて済むように、私は悪女を演じるの。
 彼が答えないのをいいことに、私は振り返らずに歩き出す。遠くから、祭りの喧騒けんそうだけがいつまでも聞こえていた。



 部屋に戻った私は、涙をこらえながら身の回りを整理する。
 両親を亡くして一人で生きて来た私にも、村長や村の人達は優しかった。心残りがあるとすれば、みんなにお別れを言えなかったこと。でも、祭りで盛り上がっている最中に「もうすぐ死にます、さようなら」とも言えないでしょう?

 だから私は書きかけの手紙を装って、大切な人達にメッセージを残した。『いつもありがとう。どうか、長生きしてね』と。真実がバレないように『私の分まで』とは書かずにおく。どうせバレても、私が転生者だなんて信じる人などいないでしょうけれど。

 全ての用意を終えた私は、ベッドに身体を横たえた。日付が変わる直前に、あの重苦しい時間が始まり私の心臓は動きを止める。激痛が走るけれど、目覚めた時には別の世界。何度も生まれ変わっている私にとって、これはお決まりのパターンだった。

 弟のように思っていた彼が、まさか本気の愛を告げるなんてね? 彼も自分のせいで、私がこの世からいなくなるとは思いもしないでしょうけれど。冷たくなった私を見て、みんなは何を思うのかしら?

 どうでもいいことね。

 秘密は、私だけが知っていればいい――
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

【完結】どうやら時戻りをしました。

まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。 辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。 時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。 ※前半激重です。ご注意下さい Copyright©︎2023-まるねこ

処理中です...