悪女は愛より老後を望む

きゃる

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第二章 悪女復活!?

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「どういうことですか? いったいなぜ!」

 私は焦って質問する。礼儀なんて構っていられない。

「どう、とは? 知識にけた者から説明を受けたい、と思うのは契約の基本だと思うが?」
「そんな! それなら兄の方が詳しくて……」
「ワインに関してなら、確かにそうだろう。だが、レースや他の物については? それに、妹が手伝うことでお兄さんの負担も軽減されるのではないか?」
「それは……」

 クラウス王子の正論に、何も言い返すことができない。
「好きになられたら困るので、私は無理です」と言えば、確実に頭がおかしいと思われてしまう。別に交際を迫られたわけでも、手を出されたわけでもない。どうしても嫌なら、王家御用達の看板なんて要らないと、断ることもできるのだ。王家にとって我が家は数ある中の一つで、どうしても契約したいという相手ではない。

 けれど王子は、ある可能性を示唆しさした。それは、ワイン以外のうちの商品を扱ってくれるかもしれないということ。領内の女性達が心を込めて編むレース。それを王子達が好んで使っていると知れば、彼女達もきっと喜ぶだろう。
 制作や労働の意欲は対価だけではない。喜びや誇り、誰かの笑顔を想像するとやる気に繋がることもある。それなら……私が我慢し、用心すればいいのでは?
 思い悩む私を見た兄が、代わりに答えた。

「いいえ。ご心配いただかなくとも、私なら平気です。可愛いミレディアのためだと思えば、いくらでも頑張れますし」

 兄様、グッジョブ。でもそこは、領民のためだと言ってほしかった。

「そうやって、せっかくの才能を潰してしまうのか? 妹が隠居生活を送りたがっているという、ただそれだけの理由で?」
「別に口説こうなんて思ってないよ? 心配しているのが、そこならね。まあ、そっちが望むなら応える用意はあるけれど……」
「とんでもない! 妹は奥手なので、殿下の相手などとてもとても」
「相手? 商売の話だと思っていたが」

 どうやら話が変な方向に進んでいるみたい。クラウス王子はまともだけれど、アウロス王子はふざけている。まともに取り合う兄も変な感じだ。
 ただ、王子達は二人ともあっさりしていた。余計なことを言う兄を除けば、問題なく契約できそうな気がする。だからといって、確証もなく動くことはできない。王子達が私に興味を持たなくても、王城には他の男性も大勢いるから。

「でしたら、期間を区切って下さい。私は兄ほどワインの知識はありません。ご満足できないなら、費やす互いの時間が無駄かと」
「ほう?」
「なるほど。君、頭がいいね」

 長く付き合ううちに、気持ちが変わらないとも限らない。今は私に興味がなくても、気付けばうっかり……なんてことが、あるかもしれないのだ。過去にも「農作業で顔を合わせるうち、好きになっていた」と農夫に告白されたことがあった。純朴で優しくて、嘘のつけない人。私は、彼の気持ちに応えることができなくて――
 いけない。昔を懐かしんでいる場合ではなかったわね? お願いする立場のくせに偉そうだけど、こればっかりは譲れない。ダメだと言われたら、残念だけどこの話はなかったことにしてもらおう。兄には後でたっぷり甘えてあげるから。

「わかった。では、二ヶ月だ。二ヶ月以内にはっきりさせよう。我々も忙しいから、毎日来なくていい。実質二週間といったところか」
「短っ。でもまあ、そっちも忙しいだろうし?」

 クラウス王子の言葉に、アウロス王子が茶々を入れる。
 思っていたより長いわね? 王都の店は大体回ったから、暇だし領地に帰りたかった。試してみたい農作物の種もあるし。

「どうする? 無理強いはしないし、条件が飲めないようであれば引き取ってくれても構わない。兄の方もそれでいいか?」
「ええっと……妹次第かと。ミレディア、どうしよう?」

 眼鏡を直す兄の仕草――結構乗り気だということね? 私が一番だと言いながら、やはりヨルクは根っからの商売人らしい。ちょっとだけ残念なような、ホッとしたような……

「もっと気楽に考えて。お茶を飲みに来るんだと思えばいいよ? ついでに取引の話をしよう」

 いえ、アウロス王子。王城との取引が、ついでではいけないと思うの。だけど、来る度にこのお茶が飲めるのは嬉しい。侍従か女官と仲良くなれば、そのうち茶葉も融通してもらえるかしら?
 隠居後の備えは必要だ。生産地を聞き出すことができれば、もしかして……

「承りました。持参したワインを置いて帰りますので、次回ご感想をお聞かせ下さい。レースはその時にでもお持ちします」
「わかった。さすがだな」
「楽しみだよ。あ、門衛には言っておくから好きな時に来ればいい」

 好きな時……なし。
 王城に来る機会を増やすなど、そんな危険を冒すはずがない。

「いいえ、殿下のどちらかがいらっしゃる時で。もちろんお忙しいなら、別の方でも結構です。をしに来るだけですもの」

 クラウス王子の言葉を参考に、しっかりあてこすっておいた。取引相手は、王子達でなくても構わない。お茶を飲めないのは残念だけど、親しくなる気はないのだから。

「わかった。それなら時間が出来た時に遣いを出そう。女性一人で不安なら、伴も連れて来るといい」

 なんて効率的! 
 可愛らしいハンナを連れて来れば完璧だ。それとも、器用なリーゼの方がいいかしら? もしくはクラウス派とアウロス派の人達に恨まれないよう、くじ引きで決めた方がいいかもしれない。

「もったいないお言葉。それなら私めが……」
「ありがとうございます。次は兄以外の者と一緒に参りますので」

 兄の発言をさえぎった。
 調子のいいヨルクより、信頼できる女性の方がいいに決まっているじゃない。



 その後はただのお茶会に。アウロス王子が城での出来事を面白おかしく話し、クラウス王子が所々でツッコミを入れる。そうかと思うと、クラウス王子が国外で目にした景色や文化の違いを語ってくれて。これには兄も興味津々で、たくさん質問していた。
 王子は二人とも気さくで話し上手だ。お茶が美味しかったせいもあるけれど、意外に楽しく、最初の緊張はどこへやら。喋らなくても気にも留められなかったことが、大いに嬉しい。

「そろそろかと。次のご予定が」

 城の侍従がそう告げたため、兄が持って来たワインを慌てて差し出した。長居をするつもりはなかったのに、結構な時間が過ぎていたようだ。二人の王子にお礼を述べ、兄と私は退室した。
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