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第四章 告白の行方
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「それで、何か問題が?」
「…………え?」
私の話をきちんと聞いていたわよね? こんな女、嫌だと思わない?
目を丸くしていたところ、クラウスが私の涙を指ですくって肩を抱き寄せた。整った彼の顔に、私に対する畏怖や侮蔑の色は見られない。
「ディア、君が後悔して苦しんだことは十分伝わった。それに、生まれ変わりなど自分の力でどうにもできないものをどうしろというんだ? 培われた膨大な知識や経験を、むしろ誇るべきだと思う」
彼の言葉に私は戸惑う。クラウスったら物分かりが良すぎるんじゃない? 私の話をあっさり信じたばかりか、肯定的な意見だ。
「でも、ええっと……」
「俺の方こそ悪かった。事情を知らなかったとはいえ、告白して怖い思いをさせたね?」
「いえ、あの、それは別に……」
死ぬと決まって悲しいけれど、想いが通じて嬉しかった。それが正直な気持ちだし、私はなぜか生きている。
「昨日のディアの行動にはそんな意味があったのかと、今の話で納得した。君を失わずに済んで、感謝している」
「そんな! 私の方こそ……」
応じてくれてありがとう? 楽しい一夜でした? ダメだ、こんな時どういう言葉が正解なのかわからないわ。
「だが、ディア。君にこれまでの記憶があることで、俺が気を変えるとでも? 話を聞いて君が一層欲しくなった。君の知識や優しさは得難いものがある。妃となって、俺を助けてくれないか?」
「……っ!?」
私はびっくりして、口をポカンと開けてしまう。全てを話したはずなのに、彼は嫌がるどころか、相変わらず私との婚姻を望んでいるようだ。まさかの夢オチ? 起きたら私、別の世界にいるんじゃあ……
「愛しいディア、それなら言い方を変えようか?」
「うきゃっ」
ベッドを下りたクラウスを見て、思わず私は手の平で顔を覆う。昨夜はもっとすごい姿を目にしたのに、やっぱり恥ずかしくて。恐る恐る顔を上げると、彼は裸ではなかった。なんだ、下はちゃんとトラウザーズを履いていたのね?
私の目の前に来た彼が、胸に片手を当てて片膝をつく。反対の手で私の手を握ると、真剣な表情でこちらを見上げた。煌めく青い瞳から、私も視線を外せない。
「ミレディア=ベルツ嬢、どうか俺と結婚してほしい。そして、老後も一緒に過ごさないか?」
プロポーズの言葉は、私が一番望んでいたものだった。愛する人と共に長生きする、そんな人生をいつか送りたいとずっと夢見てきたから。憧れていた場面なのに肝心な時に声が出なくて、私は必死に頷いた。嬉し涙がじわりと浮かぶ。
クラウスは満足そうな笑顔を浮かべると、ベッドに腰かけて私を腕に包み込んだ。
「可愛いディア、愛している。共に生きて行こう」
「わ……私も!」
ようやくそれだけ口にする。私の髪を撫でる優しい手つきが心地良く、幸せの涙が止まらない。私は愛する人の腕の中で、いつまでも子供のように泣きじゃくっていた。
ドゥンケルヴァルトの王家所有の狩猟小屋には、馬車も停められる。しっかり手配されていたようで、用意された服に着替えた私は、クラウスと共に乗り込んだ。王都にあるうちの屋敷に、直接送ってくれるという。車内では私の体調を気遣ったクラウスが、壊れ物でも扱うように優しく接してくれた。
「大丈夫か? ディア。つらいなら横になるといい。何なら俺の膝の上でも構わないが?」
いえいえ、クラウス。そっちの方が恥ずかし過ぎてつらいから。
「とんでもない! あの、ご自分の馬で帰るのでは?」
「いや、部下に任せた。ディアの様子が気になるし、君と過ごせる時間を無駄にしたくない」
「まあ……」
顔が火照って熱くなる。クールそうに見えて、その実クラウスは面倒見が良かった。今も正面ではなく私の横に座り、何くれとなく世話を焼こうとする。傷が痛んで身体にほんの少しの違和感があるものの、私は元気だ。
話し合いの末、私が彼に寄りかかることで合意した。とはいえ、彼の大きな手は私の腰にしっかり回されて、身体もぴったりくっついている。この大きな手が昨夜は何度も私を……いけないわ、別のことを考えましょう。
クラウスの肩に頭をもたせかけて、私は思いを巡らせる。
今まで本気の愛を告げられると、私はその日のうちに亡くなり別の世界に転生していた。今回はなぜか無事で、そのまま生き残っている。考えられる可能性としては……
――もしかして、クラウスは本気ではない?
「どうした? ディア。揺れがきついなら、馬車をゆっくり走らせようか?」
「いいえ、平気よ。ありがとう」
お礼を口にしただけなのに、彼の目が嬉しそうに細まった。目が合う度に、微笑んでもくれる。何度も愛を告げられたし、結婚まで申し込まれた。これが本気でないのなら、何を本気と思えばいいの?
――それならここは、既に生まれ変わった後の世界?
大人までの記憶を全部すっ飛ばし……って、それも違うわね。だって、彼と過ごした夜は夢じゃないもの。さっき自分で着替えた時に、キスマークがバッチリ見えた。いつの間に付けられたのか全然気がつかなかったけれど、傷を避け服で隠れる所にたくさんあったのだ。クラウスはとっても情熱的で……
「何だろう? さっきから君の視線を感じるが。言いたいことがあるなら、何でもどうぞ」
「……あ。ええっと、その、景色! 窓の外の景色が見たいわ」
「だったら、こうした方が見やすいはずだ」
あっという間に引き寄せられて、彼の膝の上に抱え上げられてしまう。恥ずかしくてごまかしたつもりが、さらに恥ずかしい体勢に。しっかり抱き締められているから、振りほどこうにもほどけない。
昨日のことは特別で、女性に生まれたことが誇らしく、人生が塗り替えられたような貴重な経験だった。文字通り、生まれ変わったといえば生まれ変わったような。他に考えられるのは……
――本当の愛を知った私が、心の底から反省したせい?
いつものように拒絶せず、クラウスの告白を受け入れた。同じく私も愛を告げ、命懸けの恋に及んだのだ。クラウスを好きになったことで私は他人の痛みを知り、今までの自分を深く反省した。また、男の人への潜在的な恐怖や恨みもなくなったような気がする。
都合のいい解釈かもしれないけれど、過去に犯した罪がようやく赦されたのだとしたら?
「結局、理由はわからないわね」
――まさか、森で過酷な目に遭ったからご褒美に? 傷が痛々しく当分消えそうにないから、気の毒に思われて? 可哀想だからそろそろいいか、とか?
「ディアは悩む姿も綺麗だね」
「えっと……」
なんだろう? 両想いになったせいなのか、クラウスのアウロス化が止まらない。昨日から褒められてばかりだし、すごく甘くて優しくて。シスコンの兄の言葉なら簡単に流せるけれど、好きな人にはどう返せばいいのか本気で困ってしまうわ。
もじもじする私を見て、彼が楽しそうに笑う。
「ハハ、赤くなるディアも可愛いね。もちろん、どんな時でも君は素敵だ」
言い終えるなりクラウスは、私の首元にキスをする。羽のように優しいキスが、いろんな場所に落とされて。
ドキドキし過ぎて、心臓が王都まで保つ気がしない。せっかく助かったのに、ここで心臓止まったりなんてことは……まあそれもある意味、幸せかもしれないけどね?
「…………え?」
私の話をきちんと聞いていたわよね? こんな女、嫌だと思わない?
目を丸くしていたところ、クラウスが私の涙を指ですくって肩を抱き寄せた。整った彼の顔に、私に対する畏怖や侮蔑の色は見られない。
「ディア、君が後悔して苦しんだことは十分伝わった。それに、生まれ変わりなど自分の力でどうにもできないものをどうしろというんだ? 培われた膨大な知識や経験を、むしろ誇るべきだと思う」
彼の言葉に私は戸惑う。クラウスったら物分かりが良すぎるんじゃない? 私の話をあっさり信じたばかりか、肯定的な意見だ。
「でも、ええっと……」
「俺の方こそ悪かった。事情を知らなかったとはいえ、告白して怖い思いをさせたね?」
「いえ、あの、それは別に……」
死ぬと決まって悲しいけれど、想いが通じて嬉しかった。それが正直な気持ちだし、私はなぜか生きている。
「昨日のディアの行動にはそんな意味があったのかと、今の話で納得した。君を失わずに済んで、感謝している」
「そんな! 私の方こそ……」
応じてくれてありがとう? 楽しい一夜でした? ダメだ、こんな時どういう言葉が正解なのかわからないわ。
「だが、ディア。君にこれまでの記憶があることで、俺が気を変えるとでも? 話を聞いて君が一層欲しくなった。君の知識や優しさは得難いものがある。妃となって、俺を助けてくれないか?」
「……っ!?」
私はびっくりして、口をポカンと開けてしまう。全てを話したはずなのに、彼は嫌がるどころか、相変わらず私との婚姻を望んでいるようだ。まさかの夢オチ? 起きたら私、別の世界にいるんじゃあ……
「愛しいディア、それなら言い方を変えようか?」
「うきゃっ」
ベッドを下りたクラウスを見て、思わず私は手の平で顔を覆う。昨夜はもっとすごい姿を目にしたのに、やっぱり恥ずかしくて。恐る恐る顔を上げると、彼は裸ではなかった。なんだ、下はちゃんとトラウザーズを履いていたのね?
私の目の前に来た彼が、胸に片手を当てて片膝をつく。反対の手で私の手を握ると、真剣な表情でこちらを見上げた。煌めく青い瞳から、私も視線を外せない。
「ミレディア=ベルツ嬢、どうか俺と結婚してほしい。そして、老後も一緒に過ごさないか?」
プロポーズの言葉は、私が一番望んでいたものだった。愛する人と共に長生きする、そんな人生をいつか送りたいとずっと夢見てきたから。憧れていた場面なのに肝心な時に声が出なくて、私は必死に頷いた。嬉し涙がじわりと浮かぶ。
クラウスは満足そうな笑顔を浮かべると、ベッドに腰かけて私を腕に包み込んだ。
「可愛いディア、愛している。共に生きて行こう」
「わ……私も!」
ようやくそれだけ口にする。私の髪を撫でる優しい手つきが心地良く、幸せの涙が止まらない。私は愛する人の腕の中で、いつまでも子供のように泣きじゃくっていた。
ドゥンケルヴァルトの王家所有の狩猟小屋には、馬車も停められる。しっかり手配されていたようで、用意された服に着替えた私は、クラウスと共に乗り込んだ。王都にあるうちの屋敷に、直接送ってくれるという。車内では私の体調を気遣ったクラウスが、壊れ物でも扱うように優しく接してくれた。
「大丈夫か? ディア。つらいなら横になるといい。何なら俺の膝の上でも構わないが?」
いえいえ、クラウス。そっちの方が恥ずかし過ぎてつらいから。
「とんでもない! あの、ご自分の馬で帰るのでは?」
「いや、部下に任せた。ディアの様子が気になるし、君と過ごせる時間を無駄にしたくない」
「まあ……」
顔が火照って熱くなる。クールそうに見えて、その実クラウスは面倒見が良かった。今も正面ではなく私の横に座り、何くれとなく世話を焼こうとする。傷が痛んで身体にほんの少しの違和感があるものの、私は元気だ。
話し合いの末、私が彼に寄りかかることで合意した。とはいえ、彼の大きな手は私の腰にしっかり回されて、身体もぴったりくっついている。この大きな手が昨夜は何度も私を……いけないわ、別のことを考えましょう。
クラウスの肩に頭をもたせかけて、私は思いを巡らせる。
今まで本気の愛を告げられると、私はその日のうちに亡くなり別の世界に転生していた。今回はなぜか無事で、そのまま生き残っている。考えられる可能性としては……
――もしかして、クラウスは本気ではない?
「どうした? ディア。揺れがきついなら、馬車をゆっくり走らせようか?」
「いいえ、平気よ。ありがとう」
お礼を口にしただけなのに、彼の目が嬉しそうに細まった。目が合う度に、微笑んでもくれる。何度も愛を告げられたし、結婚まで申し込まれた。これが本気でないのなら、何を本気と思えばいいの?
――それならここは、既に生まれ変わった後の世界?
大人までの記憶を全部すっ飛ばし……って、それも違うわね。だって、彼と過ごした夜は夢じゃないもの。さっき自分で着替えた時に、キスマークがバッチリ見えた。いつの間に付けられたのか全然気がつかなかったけれど、傷を避け服で隠れる所にたくさんあったのだ。クラウスはとっても情熱的で……
「何だろう? さっきから君の視線を感じるが。言いたいことがあるなら、何でもどうぞ」
「……あ。ええっと、その、景色! 窓の外の景色が見たいわ」
「だったら、こうした方が見やすいはずだ」
あっという間に引き寄せられて、彼の膝の上に抱え上げられてしまう。恥ずかしくてごまかしたつもりが、さらに恥ずかしい体勢に。しっかり抱き締められているから、振りほどこうにもほどけない。
昨日のことは特別で、女性に生まれたことが誇らしく、人生が塗り替えられたような貴重な経験だった。文字通り、生まれ変わったといえば生まれ変わったような。他に考えられるのは……
――本当の愛を知った私が、心の底から反省したせい?
いつものように拒絶せず、クラウスの告白を受け入れた。同じく私も愛を告げ、命懸けの恋に及んだのだ。クラウスを好きになったことで私は他人の痛みを知り、今までの自分を深く反省した。また、男の人への潜在的な恐怖や恨みもなくなったような気がする。
都合のいい解釈かもしれないけれど、過去に犯した罪がようやく赦されたのだとしたら?
「結局、理由はわからないわね」
――まさか、森で過酷な目に遭ったからご褒美に? 傷が痛々しく当分消えそうにないから、気の毒に思われて? 可哀想だからそろそろいいか、とか?
「ディアは悩む姿も綺麗だね」
「えっと……」
なんだろう? 両想いになったせいなのか、クラウスのアウロス化が止まらない。昨日から褒められてばかりだし、すごく甘くて優しくて。シスコンの兄の言葉なら簡単に流せるけれど、好きな人にはどう返せばいいのか本気で困ってしまうわ。
もじもじする私を見て、彼が楽しそうに笑う。
「ハハ、赤くなるディアも可愛いね。もちろん、どんな時でも君は素敵だ」
言い終えるなりクラウスは、私の首元にキスをする。羽のように優しいキスが、いろんな場所に落とされて。
ドキドキし過ぎて、心臓が王都まで保つ気がしない。せっかく助かったのに、ここで心臓止まったりなんてことは……まあそれもある意味、幸せかもしれないけどね?
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