乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる

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第五章 あなただけを見つめてる

ゲームオーバー……のはずが?

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「お願いだ、目を開けてくれ。カトリーナ!」

 名前を呼ばれてまぶたを上げると、大好きな顔が真上にあった。

「クロムしゃま? じゃあ、ここが天国なのね」
「カトリーナ!」

 最愛の人とそっくりな男性の息がかかり、ほおに温かな手が触れる。
 赤い瞳に見つめられ、私の胸は高鳴った。

 ―― 神様ったらやるわね! 死後の世界にも、最愛の人と同じ顔の天使がいるなんて。

「カトリーナ、気がついたんだね」
「カトリーナ!」

 その他の声もする。

 ――な~んだ、二人っきりじゃないみたい。そこまで贅沢ぜいたくは言えないってこと? 

 クロム様似の天使との、貴重な時間を邪魔された。
 ムッとしながら顔を横に動かすと、ハーヴィーとルシウスが心配そうに見守っている。

「……え? え? 最後の薔薇ばらが散ったのに、どうして?」

 ここはまだ、城の大広間。
 刺さったはずの短剣も、傷も綺麗に消えている。

「どういうこと? 私、まだ死んでないの? それならこれ、本物!?」

 クロム様のご尊顔が、さっきと同じ位置にある。
 私は今、もったいなくも彼のたくましい腕に支えられているようだ。

「わわっ、しゅき♪ ……じゃなくて、今すぐどきますね」

 焦って立ち上がろうと、床に手を置いた。

「ん? なんか柔らかい。これって……クロム様の太もも!? わわわ……」

 体勢を崩したものの、彼の手に支えられてどうにか立ち上がる。
 お礼を言おうと顔を上げた、その瞬間――。

「もしかして、笑ってる!?」
 
 クロム様の口角が、わずかに上がっている!

 彼は私の唯一無二。
 神にも等しいその方が、笑顔を見せてくれたのだ。

 私はポカンと口を開け、麗しいお顔をただただ見つめる。

「カトリーナが無事で良かった」
「クロム、しゃま……うう、クロムしゃま……」

 号泣する私を、彼がかき抱く。
 かすれた声とさわやかな香り。
 私の胸の鼓動は、当然一気に加速する。

 ――どさくさに紛れて、しっかり抱きつこう!

 両腕をそーっとクロム様の背に回す。
 …………が、いきなり後ろに引っ張られてしまう。

「カトリーナ、くっつきすぎだよ」
「ちょっと……って、ルシウス様!」

 ――何これ、何このお約束。ヒロインと暗殺者とのラブシーンはどこ?

 落胆する私のすぐ横で、ルシウスが口をへの字に曲げている。
 近くにいたハーヴィーも、同じように顔をしかめていた。

 クロム様は、私を見ながら苦笑中。

 ――そう、苦笑! 今度こそ、確実に笑っていらっしゃる!!

 この感動を、ぜひともスチルに収めたい。
 どうしてこの世界には、まだスマホがないのよっ!

 仕方がないので、心ゆくまで目に焼き付けよう。
 クロム様に近づこうとしたところ、兄のハーヴィーが後ろから私を抱き寄せた。

「カトリーナ。お前は私を、どれだけ心配させれば気が済むんだ」
「お兄様……?」

 かすれた声ではあるけれど、目に光るものが見えた気がする。
 慌てて反転してみると、兄のクラバットの飾りに私の瞳が映り込む。

 その中央には薔薇の花……じゃなくて、おしべとめしべ。花びらさえ残っていない。

 ――おかしいわ。ヒロインの瞳の花びらは、命を表していたわよね? 全ての薔薇が散ったのに、ゲームオーバーにならないって、どういうこと?

【薔薇の瞳】の能力を失ってもなお、しぶとく生きている私。

「なんで平気なのかしら?」
「首飾りの宝石を、ダイヤモンドに変更して良かった。恐らくそれが、やいばを弾いたのだろう」
「……え? これって、ガーネットじゃないの?」
「いや、ピンクダイヤモンドだ。お前には、最高の輝きが似合う」

 相変わらずのシスコン発言! 
 ドレスとおそろいの生地で作った首飾り。その中心にあった宝石が、短剣を防いだことになったようだ。
 確かにダイヤモンドなら硬度があるので、そこらの剣では歯が立たない。

 それにしたって、国宝のダイヤを惜しげもなく貸し与える兄は、重度のシスコンの疑いがある。

「お兄様……」
「カトリーナ。お前が無事で、良かった」

 ハーヴィーが私の頭にほおをすり寄せた。
 
 それでも、変な感じだ。
『バラミラ』では最後の薔薇が散ると、ゲームオーバーとなる。
 ヒロインは亡くなり、最初からスタートするはずだ。

 待って? ゲームオーバーと言えば――。

 私の脳裏に前世の苦情がよみがえる。
 それは、『バラミラ』ファンがSNSでぼやいていたものだ。

『カトリーナの命が、チュートリアルでなくなるのっておかしくない?』
『七つでゲームオーバーなら、花びらと同じ八つの命ってパッケージに書くのはダメでしょ』
『アクションゲームだと、最後のライフが消えても動けるのにね』

 みんなの言う通り、『バラミラ』はゲームの説明画面でヒロインの命を無駄に散らす。八つと表記されていながら、実際に命は七つ。そのため、制作会社に直接抗議した者がいるとかいないとか。



「まさか、知らないうちに修正されていた? それとも花びらは全滅だけど、八つ目の命が残っているってこと!?」
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