乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる

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第五章 あなただけを見つめてる

夢は夢のまま

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 まぶたを閉じた私の脳裏に、過去の記憶がよみがえる。

 ――ああ。これが死ぬ直前に見るという『走馬灯』なのね?



 *****



「もしもしお母さん? 荷物さっき届いた、ありがとう。こぎゃん多かみかん、一人じゃ食べきらん。友達に分ければよかって? あ~……うん、まあね。私? もちろん元気にしとるけん、心配せんちゃよかよ」

 電話をするたび、つらくなる。
 大学での私に、親しい友達はいなかったから。

 思い切って上京したものの、自宅待機の日々が続いた。
 ようやく登校できたけど、友達作りは難しい。

 普段はまだいいが、休みの日には何をすればいいのだろう?
 おしゃれなスポットは気が引けるし、贅沢ぜいたくできるお金もない。

 誰が悪いわけでもなく、誰を責めたいわけでもない。
 人の多い都会に暮らしていながら、私は孤独を感じていた。
 誰かと挨拶すらできず、誰も私を見ていない。
 それはまるで、異世界にでもいるようで――。

「帰った方がよか? ばってん、いつ大学が再開するかわからんけんね」
 
 自分の部屋でひとりごと。
 母と電話をした後は、いつも地元の言葉に戻る。
 それが余計に寂しさを誘い、こらえきれずに涙があふれた。

「私、なんのためにここにおるっちゃろ? なんのために生きとっと?」

 誰にも必要とされない自分。
 つらくて気分が落ち込んだ。

 そのまま進級だけはして、いざ就職活動へ。 
 面接で挫折ざせつ続きの私は、毎日へこむ。

「全部不採用。自分はこの世に、必要ないのかも……」

 そんな自分の唯一の回復法が、『散りゆく薔薇と君の未来』。
 この『バラミラ』という乙女ゲームだった。

 画面の向こうに広がる世界は、日頃の悩みや苦しみを忘れさせてくれる。
 没頭するほど面白く、イケメン達に癒やされた。

「ゲームの中では私がヒロイン。名前もカトリーナで、加藤莉奈と似ているし。攻略は難しいけどキャラ全員素敵だから、買って良かったな~」

 標準語を練習しつつ、画面に注目。
 たとえつまずき傷ついても、ゲームならやり直せばいい。攻略対象と仲良くなれば、美麗なスチルが手に入り、甘い言葉も聞けるから。

 私はどんどん綺麗な世界にハマッていく。

 ところがある時、気になった。
 美しい『バラミラ』の世界でたった一人。いつまで経ってもむくわれず、誰にも理解されない人がいる。

 その人の名は、クロム。

 黒髪に赤い瞳、均整の取れた体躯たいくと素晴らしい身体能力。頭がいいのにサブキャラで、ヒロインを暗殺するという使命を負っている。そのくせ、ヒロインが攻略対象の好感度を上げると暗殺を中止し、どこへともなく消えてしまうのだ。

『a piece of rose(薔薇のひとひら)』というファンブックを読んだ時から、彼は私の最愛に。

 寂しそうな横顔と、雨に打たれた子犬をコートの中で暖める優しい立ち姿。そのイラストの下に添えられた『心優しき暗殺者』の文字。

 どうしようもなく、胸が痛む。 
 孤独な人はここにもいた。
 苦しいのは、自分だけじゃない!

 クロム様の出番は少なく、ファンブックでも一カット。頭が良くて冷静で、誰とも馴れ合わない。その彼が、ヒロインのカトリーナには心を許す。

 報われなくとも理解されなくても、彼は王女の側にいる。暗殺を中止し夜の闇に消えた後は、二度と現れないけれど。

 孤独なクロム様の生きざまに、私は何度も救われた。
 現実で壁に当たるたび、別次元のどこかで彼も一人でいるのだと考えて、自分をなぐさめる。

 クロム様を全力で推すと決めた私。
 彼に恥じない生き方をしたい――。



 諦めずに面接に行った帰り道で、ふと思いつく。

「SNSで呼びかければ、ファンが反応してくれるかも!」

 私は地味な性格だけど、推しのためなら頑張れる。
 ダメで元々。友人のいない私に、失うものはない。

『成人済。バラミラ、クロム様は神。お話できたら嬉しいです♪』

 すると間もなく――。

「あ、来た!」

『バラミラ』ファンから返事が来て、クロム様を推す人ともつながれた。

 推しのことなら、何時間でも飽きずに語っていられる。クロム様のファンは数が少なく、仲間ができて嬉しいと、話は弾む。

「勇気を出して良かった!」

 私の灰色の日々は、たちまち色づく。
 推しやゲームの話はもちろん、他愛もない話題や可愛いお店の情報で盛り上がる。
 気が合う人とは連絡先を交換し、時々会う仲に。
 気づけば毎日が楽しくて、充実していた。

 ――私はもう、一人じゃない!

「もしもしお母さん? うん、元気。遅くなってごめん。こっちでできた友達とカフェに行っとった。……え? 十分気をつけとるけん、心配せんちゃよか。しゃれとるとこやし、いつか連れてってあげるね」

 実家で案じる母にも、ようやく「都会暮らしを満喫まんきつしている」と、嬉しい報告ができた。

「クロム様のおかげで、人生超楽しい♪」

 推しのおかげで前向きになれて、友達もできた。
 推しがいるから、私の人生は輝いている。

 ――だけどクロム様は? 彼の幸せはどこ? 



 無愛想で孤独な彼を、私が笑顔にしたかった。
 彼のことを理解して、幸せにしたい。


 残念ながら、夢は夢のまま終わるのね……。


   *****
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