転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟

文字の大きさ
15 / 170
3 依頼を受ける

14 同行人

しおりを挟む
「いったいなんだったんだろう?」
 役所の前まで来て、若干アムールとという男のことが気になった。
 言動こそ粗暴だったが、困っている人(僕)を助け、人々から慕われ、頼みごとだって聞いてもらえるような存在だ。それは、ヤクザや、マフィアと呼ぶにはあまりにも綺麗すぎる。
 まるで、どこかの奇妙な冒険とかしてそうなギャングスターと最初に仲間になったイタリアンマフィアの幹部のようだ。

 最初絡んできたときは、先輩の息子と一緒で仕方なく絡んだのだろう。まあ一概にそうだとは言えないが……人に好かれるということは、それだけ面倒見がいいということだ。それ故に、絡みすぎた先輩の息子であるライオンの男をしかりつけたのだろう。
――ずいぶんと、面倒な性格をしている人間もいるもんだ。

「もう会うこともないだろうし、考えても仕方ないか」
 確かにあの男のことは気になるが、それよりも重要なのは今日の依頼だ。
 人生で初めての依頼を失敗するわけにもいかないのだが、昨日の失態が後に引いていて、自身に対する不信感が残っている。
 それを払拭するように、両頬をパチンと叩く。
 僕はいつでも強気でなければならない。そうでなければ、犬種の差別を撤廃することなんて夢のまた夢だ。

 決意をあらたにし、僕は役所のドアを開いた。
 中は昨日と同じように、閑散としていて、客と呼べそうな存在は一人たりとも見当たらない。それは役所としてはおかしな話だ。

 みんな何か申請とかしないのだろうか……人々の暮らしが心配になる。

「あ、ケンさん!」
 昨日と同じ受付のお姉さんが、僕を見つけて大きく手をふる。相変わらずキツネ目で起きているのか寝ているのか、区別するのに困る人だ。美人じゃなけえれば、たぶん、いろんな苦労をすることになっただろう。
 そんなお姉さんだが、手を振るたびに綺麗な髪がバサバサと揺れ、とても色っぽい。いわゆる大人のお姉さんって感じだ。彼女が犬種だったら、僕はぞっこんだったことだろう。犬種じゃないことが残念でならない。

 雑念を払うべく頭を何度か横に振り、ギシギシとなる床を踏みしめいそいそとお姉さんのもとへと向かう。先日訪れた時にも思ったことであるのだが、今にも床が抜けてしまいそうで恐ろしい。

「おはようございます」
 僕は恐怖を乗り越えて、お姉さんにお辞儀をする。
 こうやって決まった仕事場に足を運んで、礼儀正しく挨拶をすることを懐かしく感じた。それはきっと、村で働いていた時の環境がまともではなかったからだろう。
 なんだか、ブラック企業から、普通の企業に移ってきた社畜の気分だ。

「そんなにかしこまらないでください。あなたは……」
 お姉さんはそう言いかけて口を塞いだ。周りに人がいるってことを思い出したのだろう。きっとその言葉の続きはこうだ。『あなたは神の使徒様なんですから』だ。
 そんなことを公衆の面前で言われてしまったら、彼女が頭のおかしい人物と思われるか、僕が本当に神の使徒だと思われるかのどっちかだろう。もちろん確率が高いのは前者だ
 彼女が余計なことを言ってしまわないうちに、早く話を進めるとしよう。――そんなことになったら、お姉さんに申し訳ないしな。

 僕は小さく咳払いをして、話題を移す。
「それで……依頼に同行して頂ける方がお見えになっていないみたいですが?」
 お姉さんの隣に、灰色の髪を持つキツネ種の獣人が座っているが、その人はたぶん関係ないだろう。パッチリとした黄色い目をどこか虚ろ気に入口の方を見ているのだから、おそらく誰かを待っているのだろう。
 その人は、かなりかわいい系ではあるが、表情からは人を寄せ付けないオーラを感じさせる。冷淡でかなりあたりがきつそうに感じられる。真っ黒なコートを身にまとっているのは、きっと『話しかけてほしくない』ということを表しているのだろう。だがそれでも、仕事だけはほかの役人よりもはるかに出来そうだ。
 僕が彼女に抱いた印象はそんなところだろう。

 いずれにせよ、その女性が同行者ではないということは確かだ。
 そうでなければ、カウンターの向こう側に座っているわけがない。個人情報を扱う役所という場所の性質上、部外者は絶対に立ち入ることは出来ないはずだ。
 つまり、彼女はこの役所の職員に違いない。僕の完璧な推理だ。絶対に間違っているはずがない。

「何言ってるんですか? もう居るじゃないですか?」

 この上なく不思議そうな顔でお姉さんは僕にそう言った。
 僕はあわてて、あたりを見渡すが、どこにもそれらしき人物はいない。むしろ、先ほどから僕以外の客すらいないんだ。いるはずがない。
 なるほど、不可視化のスキルを持つ存在。すなわち盗賊かアサシン的な職業の人物ということか。それなら納得がいく。
「ああ、そうなんですね。ええっと、あなたの能力はわかったので、一度姿を見せていただけないでしょうか?」
 どれほどシャイな人物なのかは知らないが、顔も見れないんじゃ一緒に仕事をすることなんて出来ない。
 それにしても、高度すぎる不可視化だ。どれだけ気配を探ってもまるでわからない。どこにいるというのだろう。まさか、僕の隣に座っているなんてことはないだろう。そう思い、隣の硬そうなレザーのカバーがかけられた椅子をまじまじと見つめる。――やはり何の気配も感じられない。それどころか、息遣いも、布ずれの音すらまるで聞こえない。
 ほかの事務員たちがいそいそと仕事している音にかき消されたというわけではない、まるで何の音も聞こえてこないのだ。
 これはまた恐ろしい人物と組まされることになったものだ。それほどのスキルを持つものにとっては、むしろ僕の方がお荷物になることだろう。いやいや、もしかしたら、お姉さんが気御使って遠まわしに仲間を斡旋してくれたということなのかもしれない。きっとそうだ……むしろそうであるべきだ。虚ろな目をして、しきりにドアの方を気にしているあの人が僕と一緒に仕事する冒険者なはずがない。
 一縷いちるの望みをかけて、僕は再びお姉さんの方に目をやった。

「キョロキョロしてどうしたんですか? 姿を見せるも何も、あなたと一緒に依頼を受けるのはこの娘ですよ」
 お姉さんは、手で灰色キツネの方を指す。

――やっぱりお前かよ!
 そう突っ込みたいのはやまやまだが、初対面で失礼なことは言えない。
 出来れば、違っていてほしかったが、そうであったのならば仕方がない
「あなたでしたか……私がケンです」
 内心思うところはあったが、何とか丁寧にあいさつすることが出来た。
 だけど、相手は全くの無反応だ。彼女はまるで僕に気がついていないように、無視を決め込んだままドアの方を虚ろな目で見つめている。
 コミュニケーションが取れない相手というのは非常に厄介だ。連携が取れないだろうし、何より普通に気まずい。

 どうしようかと僕が悩んでいた時、お姉さんが突然立ち上がり机を両手で勢いよく叩く。
 あまりにも突然のことで、僕は少し後ずさってしまう。
 確かにお姉さんの行動には驚くところがあった。だがしかし、それよりも驚いたことは、灰色髪の少女がお姉さんの行動に飛び上がったことだろう。
「こら、ウィーク! きちんと挨拶しなさいっ!!」
 お姉さんは、叱りつけるように少女を怒鳴りつけた。
 それに対して、少女は再び飛び上がり、先ほどまでの冷淡な印象をかき消すこととなった。
「は……はいっ! わ、わ、わわわたっ! っー!」
 叱られてあわてたのだろう。少女は口を押えて、頭をカウンターよりも下に持って行った。
 慌てて話したものだから舌を噛んでしまったが、そんな恥ずかしい姿を僕に見られたくなかったのだろう。

「だ、大丈夫ですか?」
 まるでコントのような事態に動揺しつつも、僕は少女に優しく声をかける。これ以上追い打ちをかけるつもりにもなれないし、これが妥当な行動だろう。
 そんな僕の気遣いに報いるように少女は、言葉をひねり出す。
「だ、い、じょうぶ……大丈夫!」
 その言葉とは裏腹に、全然大丈夫じゃなさそうだ。
 それでも、カウンターの下から親指を立てた右手を挙げているのだから大したものだ。だがそれも逆効果で、むしろ手が震えている分、余計に心配になる。

「……本当に大丈夫ですか?」
 僕は再度同じ問いかけをした。
「だいじょうぶ……したかんだだけだから」
 返答はあまりにも舌足らずな、まるで舌を食いちぎってしまったかのような幼稚なものだった。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...