転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟

文字の大きさ
16 / 170
3 依頼を受ける

15 弱い灰色

しおりを挟む
「――申し訳ない」
 どうにか持ち直したらしい少女は、カウンター越しに頭を下げる。それも下げなれていると思えるぐらいに直角90度に下げた。

「謝られるようなことではありませんよ」
 ちょっと、初対面でおっちょこちょいな所がわかったぐらいで、僕には実害はない。
 まあ若干不安になったというのは事実だが、それは些末な問題だろう。今は別段気にするようなことでもない。
 しかし、少女にとってはそれはおさまりがつかないようだ。
「それはダメ。私が納得できない、仕事の失態は仕事でしか返せないから」
 やる気には満ち溢れているみたいだが、いかんせん初対面がこれだ……不安しかない。あとは、彼女が無能の働き者でないことを祈るとしよう。――無能が働くと悲惨なことになるからな。

「そうですか……わかりました。ともかく、まずは自己紹介をしましょう。僕はケンです」
「ケンか、強そうな名前だね」
 この名前のどこが強そうなのか、僕にはさっぱりわからないが、彼女にとってはそう感じたらしい。まあ、僕は犬を音読みしたようなこの名前を気に入っているから、褒められたらうれしいが、少し困惑気味だ。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。私はウィーク・グレイです」
「えッ!?」
 少女が自己紹介したことに対して、受付のお姉さんは意外そうな声を上げる。
 なんだろう。いつもなら名前すら名乗らないというのだろうか? お姉さんの反応を見るにそういうことなんだろうが……いや僕に対しては名乗ってくれたんだ。これ以上深く追求するのはやめよう。

「ウィーク・グレイさんですか。よろしくお願いします」
「うん、よろしく」
 こんな感じで自己紹介は円満に終わった。
 ただお姉さんの驚きようと、ウィークが終始テンション低目だったことは気になったが、どちらも別に大きな問題というわけでもない。

 それはともかく同行者もわかったことだし、早速本題に移るとしよう。
 先ほどから役人たちが騒がしいのも気になるし、早めに依頼を受けて出発したい。面倒事に巻き込まれるのは嫌だからな。
「それで、依頼というのはなんですか?」
 ウィークがカウンターを乗り越えてこちら側に移ろうとする中、僕はそれを無視してお姉さんに訊ねた。
「それは……いやそれより、ウィーク! 行儀が悪いわよっ!」
 お姉さんは役人という役職のためか、それとも別の理由があるのか、ウィークを無視できなかったようで彼女をしかりつける。
 それに驚いたのだろう、ウィークは乗り越えかかったところで、飛び上がりカウンター越しのこちら側に飛び込んだ。それで強く頭を床に打ち、床に這いつくばるかのような姿勢で頭を押さえている。
「ごめん。お姉ちゃん……」
 ウィークは姿勢を変えずに顔だけをお姉さんの方に向けて、涙目になりながら謝った。
 幸いなことは、床が底ぬけなかったことだろう。あれほどの衝撃なら、ボロボロの床が抜けてしまっても不思議ではない。むしろ抜けなかった方が不思議なくらいだ。
 わかっている。そんな話は重要ではということぐらいは、僕でもわかる。もっと聞き逃すことが出来ないような、そんな情報が僕の耳に入ってきたのだから。

「お姉ちゃん……?」
 確かに二人ともキツネ種の獣人だ。だが、どこをどうとってもまるで似ていない。
 髪は金と灰色だし、顔つきだって、お姉さんは顔が小さくて目が大きく鼻が高くて美人なのに対して、ウィークは可愛い系ではあるはずなのに、顔の大きさは並みで目が少し腫れぼったくも鼻は並み……歳は二人とも同じぐらいであろうに、お姉さんは180cmぐらいあるのに対して、ウィークは160cmぐらいだ。
 二人には埋められないぐらいの格差がある。何よりも違っているのは性格だろう。どれだけ観察しても、似ているところが見つけられないほどに違っている二人だ。

「そんなにじろじろ見ないで……!」
 なんて、顔を赤らめるウィークだが、それだって、お姉さんの反応とはまるで違う。
 恥ずかしいのなら早く起き上がればいいのに、いつまでも這いつくばっている。床が冷たくて気持ちがいいらしい。
「わかっています。私たち全然似てないですよね、よく言われます。私が冒険者として才能がないのに対して、妹は才能に溢れていますし、度胸と勇気はあまりないですけど、ウィークはやるときはやる娘ですよ!」
 お姉さんの方は僕に見つめられても何も思っていないようで、妹の長所を語り始める。別に面接をしているわけでも、役に立つかを見ているわけでもないし、別に気にも留めていないことなのだが、やはり自慢したくなるというのが姉妹なのだろうか。幸い、僕にも妹がいるので気持ちはよくわかる。
 もっとも、僕は妹の自慢話を人にしてやるつもりはない。妹を嫁にやる相手は慎重に選びたいからな。
 別段お姉さんい対して何か文句があるわけでもないし、なんなら同じシスコンとしてお友達になりたいぐらいでもある。だが、どこからも引き取ってもらえなかった中級冒険者であるウィークが、冒険者に向いているとはまるで思えない。
 むしろ、役立たずじゃなければいい。なんて妥協するぐらいに、期待もしていないぐらいだ。――だけど、お姉さんがそこまで褒めるなら、少しぐらいは期待できなくもないまでもないわけでもない。

 とにかく、ウィークが役に立つか、立たないかは別にどうでもいい。それよりも、早く依頼内容を聞いておきたいところだ。
「そ、そうなんですか……それで、依頼についてお聞きしてもいいですか?」
 このまま、姉妹のペースでいかれたら、依頼内容を聞くころには夜になってしまう。
「あ、そうでしたね。今回はケンさん初めてのクエストということもありますので、簡単なものをいくつかご用意させていただきました。一つ目は薬の原材料となる弟切草を集めていただく……というものですが」
 僕の言葉で、ようやく仕事を思い出したお姉さんが説明を始める。

 なるほど、こちらの世界でも漢方的な考え方があるらしい。
 確か、アルタ・ロットワイラーが僕に与えたポーションというものは、体の傷を瞬時に直すというものだったはずだ。それに比べてしまうと、漢方なんて比較にならないほどレベルが低い。
 それなのに、漢方が存在する理由はなんだろう。

「ポーションは高価なものなんですか?」
 唐突な質問にあっけにとられたお姉さんは、しどろもどろになっている。
「は、えっ? ポーション……? ああ、はい。ポーションは多大なる魔力が込められた聖水なので、お値段は相当すると思います」
ですか」
 どうやら僕は、な借りを作ってしまったらしい。
「ポーションには、何十人もの魔力保有者が何十、何百日と途方もない魔力に聖水を籠め続けてようやく出来るらしい。だから、サラリーマンの生涯年収でも買えないとか、何とか……」
 未だに床に顔をこすり付けたままのウィークが、ポーションがいかに高価なものなのか追加で説明した。
 流石に、それはないだろうと思い、僕はお姉さんの方を見る。
 お姉さんは何度かうなずいて、妹に同意した。

「なるほど……なるほど……」
 大きな借りとはいっても、いつかは返せるようなレベルだとばかり思っていたが、生涯年収を上回るほどの恩となると、命をつかまれているのと大差ない。――実際、命を救われたんだし、命を賭して恩を返すのが普通なのかもしれないが、僕はそれほど殊勝な心の持ち主でもない。
……最悪、僕自身がポーションを作ればなんとかなるだろう。
 この時は、まだそんな甘いことを考えていたが、後に絶望することが発覚することになる。

 なんて、冗談はさておき、そろそろ本題に移らなければ本格的にやばい。今日も稼ぎゼロのまま帰宅することになってしまいそうだ。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる

ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。 レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。 これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

​『5階にトラック突撃!?ポンコツ女神の使役権と地球通販を得た医学生、辺境の村でワスプ薙刀と現代医療を駆使し最強防衛ライフを始める』

月神世一
ファンタジー
マンションの5階でカレーを作っていたら、なぜかトラックが突っ込んできた件。 ​外科医を目指す医学生・中村優太(24)は、特製の絶品バターチキンカレーを食べる寸前、マンションの「5階」に突撃してきた理不尽なトラックによって命を落としてしまう。 ​目を覚ますと、そこはコタツでカップ麺を啜るジャージ姿の駄女神・ルチアナの部屋だった。 「飲み会があるから定時で帰りたい」と適当な理由で異世界転移をさせられそうになる優太だったが、怒りのガラポン抽選でユニークスキル【地球ショッピング】と【女神ルチアナこき使い権】を引き当てる! ​かくして、ポンコツ女神を強制連行して剣と魔法の世界『アナステシア』に降り立った優太。 しかし、彼にはただのチートスキルだけではない、元SEALs直伝の「CQB(近接戦闘術)」、有段者の「薙刀術」、そして何より「現代医療の知識」があった――! ​降り立った辺境のポポロ村で彼を待っていたのは、クセが強すぎる住人たち。 ​キャルル: マッハの飛び蹴りを放つ、ファミレス大好きなウサ耳村長。 ​リーザ: タダ飯とポイ活に命を懸ける、図太すぎる地下アイドル人魚。 ​ルナ: 善意で市場や生態系を破壊する、歩く大災害の天然エルフ。 ​ルチアナ: 優太のポイントでソシャゲ課金と酒を目論む、労働拒否の駄女神。 ​優太は【地球ショッピング】で召喚した現代物資と、自身のサバイバル能力&薙刀術で野盗や魔物を無双! さらには特製のスパイスカレーで異世界人の胃袋を完全に掌握していく。 ​そして、村人に危機が迫った時。 優太の「絶対に命を救う」という善意の心が、奇跡の黄金ガチャを引き起こす……! ​「俺は医者だ。この村の命も、平和な日常も、俺の戦術(スキル)で全部守り抜く!」 ​現代の【医療・戦術・料理】×【理不尽ギャグ】×【異世界サバイバル】! 凶悪な「ワスプ薙刀」を振るい、ヤバすぎる仲間たちと送る、最強医学生のドタバタ辺境防衛ライフが今始まる!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...