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3 依頼を受ける
15 弱い灰色
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「――申し訳ない」
どうにか持ち直したらしい少女は、カウンター越しに頭を下げる。それも下げなれていると思えるぐらいに直角90度に下げた。
「謝られるようなことではありませんよ」
ちょっと、初対面でおっちょこちょいな所がわかったぐらいで、僕には実害はない。
まあ若干不安になったというのは事実だが、それは些末な問題だろう。今は別段気にするようなことでもない。
しかし、少女にとってはそれはおさまりがつかないようだ。
「それはダメ。私が納得できない、仕事の失態は仕事でしか返せないから」
やる気には満ち溢れているみたいだが、いかんせん初対面がこれだ……不安しかない。あとは、彼女が無能の働き者でないことを祈るとしよう。――無能が働くと悲惨なことになるからな。
「そうですか……わかりました。ともかく、まずは自己紹介をしましょう。僕はケンです」
「ケンか、強そうな名前だね」
この名前のどこが強そうなのか、僕にはさっぱりわからないが、彼女にとってはそう感じたらしい。まあ、僕は犬を音読みしたようなこの名前を気に入っているから、褒められたらうれしいが、少し困惑気味だ。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。私はウィーク・グレイです」
「えッ!?」
少女が自己紹介したことに対して、受付のお姉さんは意外そうな声を上げる。
なんだろう。いつもなら名前すら名乗らないというのだろうか? お姉さんの反応を見るにそういうことなんだろうが……いや僕に対しては名乗ってくれたんだ。これ以上深く追求するのはやめよう。
「ウィーク・グレイさんですか。よろしくお願いします」
「うん、よろしく」
こんな感じで自己紹介は円満に終わった。
ただお姉さんの驚きようと、ウィークが終始テンション低目だったことは気になったが、どちらも別に大きな問題というわけでもない。
それはともかく同行者もわかったことだし、早速本題に移るとしよう。
先ほどから役人たちが騒がしいのも気になるし、早めに依頼を受けて出発したい。面倒事に巻き込まれるのは嫌だからな。
「それで、依頼というのはなんですか?」
ウィークがカウンターを乗り越えてこちら側に移ろうとする中、僕はそれを無視してお姉さんに訊ねた。
「それは……いやそれより、ウィーク! 行儀が悪いわよっ!」
お姉さんは役人という役職のためか、それとも別の理由があるのか、ウィークを無視できなかったようで彼女をしかりつける。
それに驚いたのだろう、ウィークは乗り越えかかったところで、飛び上がりカウンター越しのこちら側に飛び込んだ。それで強く頭を床に打ち、床に這いつくばるかのような姿勢で頭を押さえている。
「ごめん。お姉ちゃん……」
ウィークは姿勢を変えずに顔だけをお姉さんの方に向けて、涙目になりながら謝った。
幸いなことは、床が底ぬけなかったことだろう。あれほどの衝撃なら、ボロボロの床が抜けてしまっても不思議ではない。むしろ抜けなかった方が不思議なくらいだ。
わかっている。そんな話は重要ではということぐらいは、僕でもわかる。もっと聞き逃すことが出来ないような、そんな情報が僕の耳に入ってきたのだから。
「お姉ちゃん……?」
確かに二人ともキツネ種の獣人だ。だが、どこをどうとってもまるで似ていない。
髪は金と灰色だし、顔つきだって、お姉さんは顔が小さくて目が大きく鼻が高くて美人なのに対して、ウィークは可愛い系ではあるはずなのに、顔の大きさは並みで目が少し腫れぼったくも鼻は並み……歳は二人とも同じぐらいであろうに、お姉さんは180cmぐらいあるのに対して、ウィークは160cmぐらいだ。
二人には埋められないぐらいの格差がある。何よりも違っているのは性格だろう。どれだけ観察しても、似ているところが見つけられないほどに違っている二人だ。
「そんなにじろじろ見ないで……!」
なんて、顔を赤らめるウィークだが、それだって、お姉さんの反応とはまるで違う。
恥ずかしいのなら早く起き上がればいいのに、いつまでも這いつくばっている。床が冷たくて気持ちがいいらしい。
「わかっています。私たち全然似てないですよね、よく言われます。私が冒険者として才能がないのに対して、妹は才能に溢れていますし、度胸と勇気はあまりないですけど、ウィークはやるときはやる娘ですよ!」
お姉さんの方は僕に見つめられても何も思っていないようで、妹の長所を語り始める。別に面接をしているわけでも、役に立つかを見ているわけでもないし、別に気にも留めていないことなのだが、やはり自慢したくなるというのが姉妹なのだろうか。幸い、僕にも妹がいるので気持ちはよくわかる。
もっとも、僕は妹の自慢話を人にしてやるつもりはない。妹を嫁にやる相手は慎重に選びたいからな。
別段お姉さんい対して何か文句があるわけでもないし、なんなら同じシスコンとしてお友達になりたいぐらいでもある。だが、どこからも引き取ってもらえなかった中級冒険者であるウィークが、冒険者に向いているとはまるで思えない。
むしろ、役立たずじゃなければいい。なんて妥協するぐらいに、期待もしていないぐらいだ。――だけど、お姉さんがそこまで褒めるなら、少しぐらいは期待できなくもないまでもないわけでもない。
とにかく、ウィークが役に立つか、立たないかは別にどうでもいい。それよりも、早く依頼内容を聞いておきたいところだ。
「そ、そうなんですか……それで、依頼についてお聞きしてもいいですか?」
このまま、姉妹のペースでいかれたら、依頼内容を聞くころには夜になってしまう。
「あ、そうでしたね。今回はケンさん初めてのクエストということもありますので、簡単なものをいくつかご用意させていただきました。一つ目は薬の原材料となる弟切草を集めていただく……というものですが」
僕の言葉で、ようやく仕事を思い出したお姉さんが説明を始める。
なるほど、こちらの世界でも漢方的な考え方があるらしい。
確か、アルタ・ロットワイラーが僕に与えたポーションというものは、体の傷を瞬時に直すというものだったはずだ。それに比べてしまうと、漢方なんて比較にならないほどレベルが低い。
それなのに、漢方が存在する理由はなんだろう。
「ポーションは高価なものなんですか?」
唐突な質問にあっけにとられたお姉さんは、しどろもどろになっている。
「は、えっ? ポーション……? ああ、はい。ポーションは多大なる魔力が込められた聖水なので、お値段は相当すると思います」
「相当ですか」
どうやら僕は、相当な借りを作ってしまったらしい。
「ポーションには、何十人もの魔力保有者が何十、何百日と途方もない魔力に聖水を籠め続けてようやく出来るらしい。だから、サラリーマンの生涯年収でも買えないとか、何とか……」
未だに床に顔をこすり付けたままのウィークが、ポーションがいかに高価なものなのか追加で説明した。
流石に、それはないだろうと思い、僕はお姉さんの方を見る。
お姉さんは何度かうなずいて、妹に同意した。
「なるほど……なるほど……」
大きな借りとはいっても、いつかは返せるようなレベルだとばかり思っていたが、生涯年収を上回るほどの恩となると、命をつかまれているのと大差ない。――実際、命を救われたんだし、命を賭して恩を返すのが普通なのかもしれないが、僕はそれほど殊勝な心の持ち主でもない。
……最悪、僕自身がポーションを作ればなんとかなるだろう。
この時は、まだそんな甘いことを考えていたが、後に絶望することが発覚することになる。
なんて、冗談はさておき、そろそろ本題に移らなければ本格的にやばい。今日も稼ぎゼロのまま帰宅することになってしまいそうだ。
どうにか持ち直したらしい少女は、カウンター越しに頭を下げる。それも下げなれていると思えるぐらいに直角90度に下げた。
「謝られるようなことではありませんよ」
ちょっと、初対面でおっちょこちょいな所がわかったぐらいで、僕には実害はない。
まあ若干不安になったというのは事実だが、それは些末な問題だろう。今は別段気にするようなことでもない。
しかし、少女にとってはそれはおさまりがつかないようだ。
「それはダメ。私が納得できない、仕事の失態は仕事でしか返せないから」
やる気には満ち溢れているみたいだが、いかんせん初対面がこれだ……不安しかない。あとは、彼女が無能の働き者でないことを祈るとしよう。――無能が働くと悲惨なことになるからな。
「そうですか……わかりました。ともかく、まずは自己紹介をしましょう。僕はケンです」
「ケンか、強そうな名前だね」
この名前のどこが強そうなのか、僕にはさっぱりわからないが、彼女にとってはそう感じたらしい。まあ、僕は犬を音読みしたようなこの名前を気に入っているから、褒められたらうれしいが、少し困惑気味だ。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。私はウィーク・グレイです」
「えッ!?」
少女が自己紹介したことに対して、受付のお姉さんは意外そうな声を上げる。
なんだろう。いつもなら名前すら名乗らないというのだろうか? お姉さんの反応を見るにそういうことなんだろうが……いや僕に対しては名乗ってくれたんだ。これ以上深く追求するのはやめよう。
「ウィーク・グレイさんですか。よろしくお願いします」
「うん、よろしく」
こんな感じで自己紹介は円満に終わった。
ただお姉さんの驚きようと、ウィークが終始テンション低目だったことは気になったが、どちらも別に大きな問題というわけでもない。
それはともかく同行者もわかったことだし、早速本題に移るとしよう。
先ほどから役人たちが騒がしいのも気になるし、早めに依頼を受けて出発したい。面倒事に巻き込まれるのは嫌だからな。
「それで、依頼というのはなんですか?」
ウィークがカウンターを乗り越えてこちら側に移ろうとする中、僕はそれを無視してお姉さんに訊ねた。
「それは……いやそれより、ウィーク! 行儀が悪いわよっ!」
お姉さんは役人という役職のためか、それとも別の理由があるのか、ウィークを無視できなかったようで彼女をしかりつける。
それに驚いたのだろう、ウィークは乗り越えかかったところで、飛び上がりカウンター越しのこちら側に飛び込んだ。それで強く頭を床に打ち、床に這いつくばるかのような姿勢で頭を押さえている。
「ごめん。お姉ちゃん……」
ウィークは姿勢を変えずに顔だけをお姉さんの方に向けて、涙目になりながら謝った。
幸いなことは、床が底ぬけなかったことだろう。あれほどの衝撃なら、ボロボロの床が抜けてしまっても不思議ではない。むしろ抜けなかった方が不思議なくらいだ。
わかっている。そんな話は重要ではということぐらいは、僕でもわかる。もっと聞き逃すことが出来ないような、そんな情報が僕の耳に入ってきたのだから。
「お姉ちゃん……?」
確かに二人ともキツネ種の獣人だ。だが、どこをどうとってもまるで似ていない。
髪は金と灰色だし、顔つきだって、お姉さんは顔が小さくて目が大きく鼻が高くて美人なのに対して、ウィークは可愛い系ではあるはずなのに、顔の大きさは並みで目が少し腫れぼったくも鼻は並み……歳は二人とも同じぐらいであろうに、お姉さんは180cmぐらいあるのに対して、ウィークは160cmぐらいだ。
二人には埋められないぐらいの格差がある。何よりも違っているのは性格だろう。どれだけ観察しても、似ているところが見つけられないほどに違っている二人だ。
「そんなにじろじろ見ないで……!」
なんて、顔を赤らめるウィークだが、それだって、お姉さんの反応とはまるで違う。
恥ずかしいのなら早く起き上がればいいのに、いつまでも這いつくばっている。床が冷たくて気持ちがいいらしい。
「わかっています。私たち全然似てないですよね、よく言われます。私が冒険者として才能がないのに対して、妹は才能に溢れていますし、度胸と勇気はあまりないですけど、ウィークはやるときはやる娘ですよ!」
お姉さんの方は僕に見つめられても何も思っていないようで、妹の長所を語り始める。別に面接をしているわけでも、役に立つかを見ているわけでもないし、別に気にも留めていないことなのだが、やはり自慢したくなるというのが姉妹なのだろうか。幸い、僕にも妹がいるので気持ちはよくわかる。
もっとも、僕は妹の自慢話を人にしてやるつもりはない。妹を嫁にやる相手は慎重に選びたいからな。
別段お姉さんい対して何か文句があるわけでもないし、なんなら同じシスコンとしてお友達になりたいぐらいでもある。だが、どこからも引き取ってもらえなかった中級冒険者であるウィークが、冒険者に向いているとはまるで思えない。
むしろ、役立たずじゃなければいい。なんて妥協するぐらいに、期待もしていないぐらいだ。――だけど、お姉さんがそこまで褒めるなら、少しぐらいは期待できなくもないまでもないわけでもない。
とにかく、ウィークが役に立つか、立たないかは別にどうでもいい。それよりも、早く依頼内容を聞いておきたいところだ。
「そ、そうなんですか……それで、依頼についてお聞きしてもいいですか?」
このまま、姉妹のペースでいかれたら、依頼内容を聞くころには夜になってしまう。
「あ、そうでしたね。今回はケンさん初めてのクエストということもありますので、簡単なものをいくつかご用意させていただきました。一つ目は薬の原材料となる弟切草を集めていただく……というものですが」
僕の言葉で、ようやく仕事を思い出したお姉さんが説明を始める。
なるほど、こちらの世界でも漢方的な考え方があるらしい。
確か、アルタ・ロットワイラーが僕に与えたポーションというものは、体の傷を瞬時に直すというものだったはずだ。それに比べてしまうと、漢方なんて比較にならないほどレベルが低い。
それなのに、漢方が存在する理由はなんだろう。
「ポーションは高価なものなんですか?」
唐突な質問にあっけにとられたお姉さんは、しどろもどろになっている。
「は、えっ? ポーション……? ああ、はい。ポーションは多大なる魔力が込められた聖水なので、お値段は相当すると思います」
「相当ですか」
どうやら僕は、相当な借りを作ってしまったらしい。
「ポーションには、何十人もの魔力保有者が何十、何百日と途方もない魔力に聖水を籠め続けてようやく出来るらしい。だから、サラリーマンの生涯年収でも買えないとか、何とか……」
未だに床に顔をこすり付けたままのウィークが、ポーションがいかに高価なものなのか追加で説明した。
流石に、それはないだろうと思い、僕はお姉さんの方を見る。
お姉さんは何度かうなずいて、妹に同意した。
「なるほど……なるほど……」
大きな借りとはいっても、いつかは返せるようなレベルだとばかり思っていたが、生涯年収を上回るほどの恩となると、命をつかまれているのと大差ない。――実際、命を救われたんだし、命を賭して恩を返すのが普通なのかもしれないが、僕はそれほど殊勝な心の持ち主でもない。
……最悪、僕自身がポーションを作ればなんとかなるだろう。
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