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3 依頼を受ける
16 魔よけの植物
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「――ご依頼は簡単なものです」
ようやく依頼についての説明を始めたお姉さんは、先ほどまでと違って嫌に事務的だ。
まるで、やりたくもない仕事を嫌々させられているという印象を受けるほどに、機械的対応だと言わざる負えない。彼女が今の仕事に対して、どんな心情を抱いていたとしても僕がとやかく言えることではない。
仕事って言うのは、よくもわるくも自分次第だ。
余計なことは考えず、お姉さんの説明をきちんと聞くとしよう。
「西の森に生えているという薬草、弟切草をとってきてもらう。それが今回のご依頼です」
説明を聞く限りは、採取クエストというやつだ。魔物と戦う危険性は少ないし、初心者にはもってこいな依頼だろう。危険性が少ないし、なにより危険性が少ないからな。
「だけどお姉ちゃん。西の森も危険な魔物が増えてるって聞くよ?」
「うん……そう、だから問題なのよ……冒険者なんて名ばかりで、誰も危険を冒したがらない。安定を求めるなら、冒険者になんかなるなっての……」
ウィークの問いかけに対して、お姉さんはものすごく小さな声で何かをつぶやいた。内容はまるで聞こえなかったが、その態度から見るにお姉さんも苦労しているようだ。
森が危険なことは、昨日のことからもわかっているし、今更やめるなんて選択はない。
それよりも、もっと大きな疑問がある。
「危険は承知の上です……そんなことより、この弟切草ってやつはどんなものなんですか?」
確か、昔のヨーロッパで魔よけの植物として使われていたらしいが、写真ですら見たことがない。一体どんな植物なのだろう。
「そんなこと?」
僕の些細な言葉にお姉さんは食いつく。
何か地雷を踏んでしまったようだ。なんだか彼女表情に陰りが出来たように見える。
「あ、いえ」
調子に乗りすぎたようだ。危険な魔物の話をさらっと流してしまったのがよくなかったのだろう。
お姉さんは、肩を震わせながら立ち上がった。
「流石、『神の使者』様!! 危険な魔物も恐れぬ勇気! それでこそ、『神の使者』様です!!」
やたらと大きな声で、役所全体に響き渡りかねないようなそんな声で、お姉さんは僕の秘密を暴露する。
ほかの役人たちは、一斉にこちらを見る。ずっと床に顔をへばり付けていたウィークですら、冷たい床から立ち上がって迫りくる勢いで僕を凝視した。
勘弁してほしい。僕が『使徒』という職業に就いていると知られれば、安穏とした生活はなくなる。
何とか、誤魔化さなくては!
「紙の資料がどうしたって!? ああ、依頼書をなくしちゃったってことですか!?」
僕はお姉さんに負けないぐらいに声を張り上げて叫ぶ。流石に恥ずかしすぎて顔から火が出そうだが、自分の人生がかかっているんだ。恥ずかしがっている場合ではない。
「え? いえいえ。なくしてませんよ! 変なことを言わないでください。神の……んー!」
再びドジを踏みそうなお姉さんの口を手でふさいで、二次被害がおこないように細心の注意を払ってから手を外す。
「言いたいこと、わかりますね……?」
そこまで言葉にして、ようやく自分がしようとしたことについて理解したようだ。お姉さんは首をぶんぶんと縦に振る。
ほかの役人たちを誤魔化すことは出来たが、一番近くで一部始終を見ていたウィークはダメかもしれない。ここからが正念場だ。
「ああ、そうです。資料をなくしちゃったので、弟切草の特徴についてはもうちょっと待ってください」
お姉さんの芝居は、ものすごく苦しい猿芝居だが、これで何とかウィークが騙されてくれるといい。なんて、絶対に無理だと思うけど。
「お姉ちゃん、机の上にあるよ」
ウィークは一枚の紙を机の上から引っ張り出すと、お姉さんに手渡した。
「ああ、ありがとうね……ウィーク」
「ドジなんだから……それより、神の――」
僕は全力でウィークが余計なことを口走る前に言葉を繰り出した。
「はいはい、その紙が欲しかったんだよ。ありがとうございます! ウィークさん!」
とにかく全力で誤魔化すことだ。秘密の共有者は少ない方がいい。
「敬称はいらない。ア……間違えたウィークでいい」
「ア?」
「何でもない! 気にしなくていい」
慌てるウィークを見ると余計に気になるが、まあいい。僕の秘密から話題がそれたようだし、彼女もこれ以上掘り返してくるようなこともないだろう。――役人たちもまた仕事を始めているから、誰もこの話題について掘り返すものはいないはずだ。
「そう……ですか。そうですね。ウィーク、狙いの物もわかったことですし、早速行きましょうか?」
「うん! そうしよう! 仕事は早く終わらせた方がいいからね」
彼女にも秘密とやらがあるのだろう。たぶん、それはお姉さんも知っていることだ。
つまり、僕とウィークは1人の人物と秘密を共有しているという点では同じだ。だからと言って、別に何も思わないけど。
とにかく、僕の秘密が守られたようで一安心だ。
「あ、お気をつけてください!」
お姉さんは、いそいそと役所を出て行こうとする僕たちを心配そうな目で見守った。
それを気にもとめず、僕はウィークの手を引いて早足で歩く。普通に考えれば、ボロボロの床を強く踏みしめることがダメだということぐらいは理解できるはずだ。
だがこの時、僕はそれほど余裕がなかった。
次の瞬間には床が抜け、床下に足がはまるなんて露ほどにも考えていなかった。
「――その結果がこれです」
幸い、片足を床に吸い込まれただけで済んだ。床下がそれほど高くなかったおかげではあるが、早々に足を痛めてしまったようだ。
回復までに少しぐらいは時間がかかるかもしれない。
「何やってるの、ケン?」
「見ての通り、トラップに引っかかったってところですよ」
「役所にはトラップなんてないよ」
「ありますよ。ボロ床という名の人工と自然の合作が」
ウィークと言い合いをしている間にも、僕たちの異変に気がついた役人たちが近づいてくる。
その中の何人かは、僕の足を引き抜く為に尽力してくれた。ウィークもその1人だ。
冒険者が役人に助けられることなんて、事務的なことだけだと思っていたけど、存外そうでもないらしい。普通は逆だろうに、自分が情けない。
もっとも、僕はまだ駆け出し冒険者だ。誰かに助けられながら成長していくのが普通……なんて思えるわけがない。こんなくだらないことで助けられて成長なんて出来るはずもないし、なにより恥ずかしすぎて死にそうだ。
床の穴から抜かれた足を見て、僕は顔が熱くなるのを感じていた。
「あ……ありがとう……ございます……」
お礼の言葉を口にはしてみたが、情けなくて涙すらあふれてくる。『使徒』が聞いてあきれるな。足元不注意に、運にも見放され、あまつさえ自分で足を引き抜くこともできない……そんな愚かな存在が、『神の使徒』だなんて呼ばれている。たった1人にだが、それでも十分に恥ずかしい。
さっきまで受付で楽しそうに会話していたはずのお姉さんすら、僕のことを憐れんだような目で見ている気がする。――ただの被害妄想だ。
僕を助けた事務員の1人が、カウンターに戻る間際に、僕の感謝の言葉を聞いて振り返る。
「いえ、こちらこそありがとうございます」
あまつさえ、床を破壊した僕に対してお礼を言う。もちろんお礼を言われるようなことをした覚えもないし、なんなら床を破壊した分責められてもおかしくない。
全く身に覚えのない『感謝』に、僕は首を傾げざるを得ない。
「はい?」
「いえ何でもありません」
僕が聞き返しても、何に対するお礼かは言わず、そのまま仕事場に戻って行った。
なんだか職員全員がまぶしいぐらい輝いた笑顔になっていたのは気になったが、深く触れないことにする。
「大丈夫です。その方がいいんですよ私たち的には」
しまいには、ウィークの姉である受付のお姉さんまで、僕にポカンとしている僕に対してわけのわからないことを言い始める。
「それは……どういう――」
言葉の意味を聞き返そうとしたが、ウィークに手を引っ張られ聞けなかった。どうも聞かれたくない話らしい。少なくともこの場所では。
仕方ないので、今はそれ以上追及するのはやめることにした。
というより、無理やり外に引っ張られたので、聞けるような状況でもなかっただけだ。
それから、すぐに目的地へと向かった。
僕が差別的な意味で注目を浴びるのはいつものことだが、それとは別に憐れみのような視線を感じる。街を歩く人々から向けられた視線だ。
なんだか気にはなったが、聞ける相手もいないので気にしないことにした。
――あれほど輝いていた太陽が、見えなくなるぐらいに葉が生い茂る森の中、そこをさらに越えると気がまばらになる場所があった。
一度は見えなくなった太陽と再び邂逅する場所、そこに弟切草が生えているらしい。西の森に生えていると言われたが、緩やかな坂を上ったり、急な坂を上ったりとどちらかと言えば、小さな山の中に生えているというのが正確だろう。
「魔物の数が少ないですね……」
僕がそう呟く。
長旅も終盤を迎えたことで、少し余裕が出たのだろう。自分で言うのもなんだが、昨日のことが完全にトラウマになっている。出てくる魔物が少ないと不安だ。
「うん、ちょっと怖いね」
ウィークも同じことを考えていたらしい。
中級冒険者とは思えないぐらいに弱気で、体をぶるぶると震えさせていた。
実際のところ、彼女の実力は未知数である。その理由は、道中の魔物は近接専門の僕が切り捨ててきたからだ。
彼女の持つ武器はたった一つ。僕が元居た世界では銃と言われたものとよく似ているものだ。サイズ的にライフルが近いだろう。僕も映画で見るぐらいで、直接銃を見たのは初めてだし、武器に関する知識もないから詳しくはわからない。
まさか異世界で初めて見ることになるなんて、思っても見なかった。
「なに? そんなに『クラフト』が珍しい?」
僕の視線に気が付いたらしく、ウィークがこちらを振り向いた。
この国では、銃のことを『クラフト』と呼ぶらしい。発音的に英語の『Craft』とは違うようだが……言葉の由来はなんだろう。
「初めて見たので……すみません」
「気にしてない。それより、もっと見れば? 私も最初は見とれたし」
「クラフトが好きなんですか?」
「全然。重たいし、使った時の衝撃は強いし、音で魔物を引き寄せる。いいことなんてまるでないわ」
本当にまったく興味なさそうに彼女はそう言った。だったら、どうしてそんな物を使っているのだろう。よくわからない人だ。
「そんなことより……ここが、お姉ちゃんが言ってた弟切草の自生地で間違いない」
どうやら目的地に着いたようだ。
ようやく依頼についての説明を始めたお姉さんは、先ほどまでと違って嫌に事務的だ。
まるで、やりたくもない仕事を嫌々させられているという印象を受けるほどに、機械的対応だと言わざる負えない。彼女が今の仕事に対して、どんな心情を抱いていたとしても僕がとやかく言えることではない。
仕事って言うのは、よくもわるくも自分次第だ。
余計なことは考えず、お姉さんの説明をきちんと聞くとしよう。
「西の森に生えているという薬草、弟切草をとってきてもらう。それが今回のご依頼です」
説明を聞く限りは、採取クエストというやつだ。魔物と戦う危険性は少ないし、初心者にはもってこいな依頼だろう。危険性が少ないし、なにより危険性が少ないからな。
「だけどお姉ちゃん。西の森も危険な魔物が増えてるって聞くよ?」
「うん……そう、だから問題なのよ……冒険者なんて名ばかりで、誰も危険を冒したがらない。安定を求めるなら、冒険者になんかなるなっての……」
ウィークの問いかけに対して、お姉さんはものすごく小さな声で何かをつぶやいた。内容はまるで聞こえなかったが、その態度から見るにお姉さんも苦労しているようだ。
森が危険なことは、昨日のことからもわかっているし、今更やめるなんて選択はない。
それよりも、もっと大きな疑問がある。
「危険は承知の上です……そんなことより、この弟切草ってやつはどんなものなんですか?」
確か、昔のヨーロッパで魔よけの植物として使われていたらしいが、写真ですら見たことがない。一体どんな植物なのだろう。
「そんなこと?」
僕の些細な言葉にお姉さんは食いつく。
何か地雷を踏んでしまったようだ。なんだか彼女表情に陰りが出来たように見える。
「あ、いえ」
調子に乗りすぎたようだ。危険な魔物の話をさらっと流してしまったのがよくなかったのだろう。
お姉さんは、肩を震わせながら立ち上がった。
「流石、『神の使者』様!! 危険な魔物も恐れぬ勇気! それでこそ、『神の使者』様です!!」
やたらと大きな声で、役所全体に響き渡りかねないようなそんな声で、お姉さんは僕の秘密を暴露する。
ほかの役人たちは、一斉にこちらを見る。ずっと床に顔をへばり付けていたウィークですら、冷たい床から立ち上がって迫りくる勢いで僕を凝視した。
勘弁してほしい。僕が『使徒』という職業に就いていると知られれば、安穏とした生活はなくなる。
何とか、誤魔化さなくては!
「紙の資料がどうしたって!? ああ、依頼書をなくしちゃったってことですか!?」
僕はお姉さんに負けないぐらいに声を張り上げて叫ぶ。流石に恥ずかしすぎて顔から火が出そうだが、自分の人生がかかっているんだ。恥ずかしがっている場合ではない。
「え? いえいえ。なくしてませんよ! 変なことを言わないでください。神の……んー!」
再びドジを踏みそうなお姉さんの口を手でふさいで、二次被害がおこないように細心の注意を払ってから手を外す。
「言いたいこと、わかりますね……?」
そこまで言葉にして、ようやく自分がしようとしたことについて理解したようだ。お姉さんは首をぶんぶんと縦に振る。
ほかの役人たちを誤魔化すことは出来たが、一番近くで一部始終を見ていたウィークはダメかもしれない。ここからが正念場だ。
「ああ、そうです。資料をなくしちゃったので、弟切草の特徴についてはもうちょっと待ってください」
お姉さんの芝居は、ものすごく苦しい猿芝居だが、これで何とかウィークが騙されてくれるといい。なんて、絶対に無理だと思うけど。
「お姉ちゃん、机の上にあるよ」
ウィークは一枚の紙を机の上から引っ張り出すと、お姉さんに手渡した。
「ああ、ありがとうね……ウィーク」
「ドジなんだから……それより、神の――」
僕は全力でウィークが余計なことを口走る前に言葉を繰り出した。
「はいはい、その紙が欲しかったんだよ。ありがとうございます! ウィークさん!」
とにかく全力で誤魔化すことだ。秘密の共有者は少ない方がいい。
「敬称はいらない。ア……間違えたウィークでいい」
「ア?」
「何でもない! 気にしなくていい」
慌てるウィークを見ると余計に気になるが、まあいい。僕の秘密から話題がそれたようだし、彼女もこれ以上掘り返してくるようなこともないだろう。――役人たちもまた仕事を始めているから、誰もこの話題について掘り返すものはいないはずだ。
「そう……ですか。そうですね。ウィーク、狙いの物もわかったことですし、早速行きましょうか?」
「うん! そうしよう! 仕事は早く終わらせた方がいいからね」
彼女にも秘密とやらがあるのだろう。たぶん、それはお姉さんも知っていることだ。
つまり、僕とウィークは1人の人物と秘密を共有しているという点では同じだ。だからと言って、別に何も思わないけど。
とにかく、僕の秘密が守られたようで一安心だ。
「あ、お気をつけてください!」
お姉さんは、いそいそと役所を出て行こうとする僕たちを心配そうな目で見守った。
それを気にもとめず、僕はウィークの手を引いて早足で歩く。普通に考えれば、ボロボロの床を強く踏みしめることがダメだということぐらいは理解できるはずだ。
だがこの時、僕はそれほど余裕がなかった。
次の瞬間には床が抜け、床下に足がはまるなんて露ほどにも考えていなかった。
「――その結果がこれです」
幸い、片足を床に吸い込まれただけで済んだ。床下がそれほど高くなかったおかげではあるが、早々に足を痛めてしまったようだ。
回復までに少しぐらいは時間がかかるかもしれない。
「何やってるの、ケン?」
「見ての通り、トラップに引っかかったってところですよ」
「役所にはトラップなんてないよ」
「ありますよ。ボロ床という名の人工と自然の合作が」
ウィークと言い合いをしている間にも、僕たちの異変に気がついた役人たちが近づいてくる。
その中の何人かは、僕の足を引き抜く為に尽力してくれた。ウィークもその1人だ。
冒険者が役人に助けられることなんて、事務的なことだけだと思っていたけど、存外そうでもないらしい。普通は逆だろうに、自分が情けない。
もっとも、僕はまだ駆け出し冒険者だ。誰かに助けられながら成長していくのが普通……なんて思えるわけがない。こんなくだらないことで助けられて成長なんて出来るはずもないし、なにより恥ずかしすぎて死にそうだ。
床の穴から抜かれた足を見て、僕は顔が熱くなるのを感じていた。
「あ……ありがとう……ございます……」
お礼の言葉を口にはしてみたが、情けなくて涙すらあふれてくる。『使徒』が聞いてあきれるな。足元不注意に、運にも見放され、あまつさえ自分で足を引き抜くこともできない……そんな愚かな存在が、『神の使徒』だなんて呼ばれている。たった1人にだが、それでも十分に恥ずかしい。
さっきまで受付で楽しそうに会話していたはずのお姉さんすら、僕のことを憐れんだような目で見ている気がする。――ただの被害妄想だ。
僕を助けた事務員の1人が、カウンターに戻る間際に、僕の感謝の言葉を聞いて振り返る。
「いえ、こちらこそありがとうございます」
あまつさえ、床を破壊した僕に対してお礼を言う。もちろんお礼を言われるようなことをした覚えもないし、なんなら床を破壊した分責められてもおかしくない。
全く身に覚えのない『感謝』に、僕は首を傾げざるを得ない。
「はい?」
「いえ何でもありません」
僕が聞き返しても、何に対するお礼かは言わず、そのまま仕事場に戻って行った。
なんだか職員全員がまぶしいぐらい輝いた笑顔になっていたのは気になったが、深く触れないことにする。
「大丈夫です。その方がいいんですよ私たち的には」
しまいには、ウィークの姉である受付のお姉さんまで、僕にポカンとしている僕に対してわけのわからないことを言い始める。
「それは……どういう――」
言葉の意味を聞き返そうとしたが、ウィークに手を引っ張られ聞けなかった。どうも聞かれたくない話らしい。少なくともこの場所では。
仕方ないので、今はそれ以上追及するのはやめることにした。
というより、無理やり外に引っ張られたので、聞けるような状況でもなかっただけだ。
それから、すぐに目的地へと向かった。
僕が差別的な意味で注目を浴びるのはいつものことだが、それとは別に憐れみのような視線を感じる。街を歩く人々から向けられた視線だ。
なんだか気にはなったが、聞ける相手もいないので気にしないことにした。
――あれほど輝いていた太陽が、見えなくなるぐらいに葉が生い茂る森の中、そこをさらに越えると気がまばらになる場所があった。
一度は見えなくなった太陽と再び邂逅する場所、そこに弟切草が生えているらしい。西の森に生えていると言われたが、緩やかな坂を上ったり、急な坂を上ったりとどちらかと言えば、小さな山の中に生えているというのが正確だろう。
「魔物の数が少ないですね……」
僕がそう呟く。
長旅も終盤を迎えたことで、少し余裕が出たのだろう。自分で言うのもなんだが、昨日のことが完全にトラウマになっている。出てくる魔物が少ないと不安だ。
「うん、ちょっと怖いね」
ウィークも同じことを考えていたらしい。
中級冒険者とは思えないぐらいに弱気で、体をぶるぶると震えさせていた。
実際のところ、彼女の実力は未知数である。その理由は、道中の魔物は近接専門の僕が切り捨ててきたからだ。
彼女の持つ武器はたった一つ。僕が元居た世界では銃と言われたものとよく似ているものだ。サイズ的にライフルが近いだろう。僕も映画で見るぐらいで、直接銃を見たのは初めてだし、武器に関する知識もないから詳しくはわからない。
まさか異世界で初めて見ることになるなんて、思っても見なかった。
「なに? そんなに『クラフト』が珍しい?」
僕の視線に気が付いたらしく、ウィークがこちらを振り向いた。
この国では、銃のことを『クラフト』と呼ぶらしい。発音的に英語の『Craft』とは違うようだが……言葉の由来はなんだろう。
「初めて見たので……すみません」
「気にしてない。それより、もっと見れば? 私も最初は見とれたし」
「クラフトが好きなんですか?」
「全然。重たいし、使った時の衝撃は強いし、音で魔物を引き寄せる。いいことなんてまるでないわ」
本当にまったく興味なさそうに彼女はそう言った。だったら、どうしてそんな物を使っているのだろう。よくわからない人だ。
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