転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟

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54 帰宅

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 門を抜けて、中央通をゆっくりと抜けていく。
 僕一人の場合は絡まれることも多いのだが、パーティに犬種以外がいればちらちら見られることもない。まるで差別なんてないかのように平穏だ。
 アニーはというと、人ごみの中では人見知りも発動しないらしく悠々と歩いている。いやむしろ森の中を歩いていた時よりかも安心している様子だ。それもそうか、自分が育った街だ……知り合いが多くないとはいっても思うところがあるのだろう。
 なんてことを考えているうちに、僕たちは役所まで戻ってきた。
 表側から入るのはなんだが久しぶりなような気もする。と言っても、裏側から入ることにしたのは今朝からだ。慢性的な恐怖によって、時間間隔が延長された結果なのだろう。

「ふう……なんだか安心するね……」
 ようやっと建物の中に入ることが出来て、気分が落ち着いたのだろう。アニーは大きく息を吐いた。
 本当にたいしたこともないような一日だったが、まるで一週間にも、一ヶ月にも感じる一日だった。
 緊張感というやつはさも恐ろしいものだったのだな……僕はようやく思い出した。
「そうですね! それでは報告に参りますか……」
 コボルトの巣から持ち帰ったカバンに詰められたコボルトの角を持って、受付のお姉さんのところに向かう。
 足取りはいつもより軽く、軽やかに進めたような気もする。
 僕たちがお姉さんの方へと近づいたからだろう、お姉さんは僕たちに気がついて大きく手を振った。
「お帰りなさい!」
 部屋中に響き渡るような大きな声で僕たちを迎えてくれたお姉さんだが、気恥ずかしくなるのは僕たちの方だ。もう少しだけ気を使ってほしかったような気がしなくもない。まあそれもいつものことで、他の来客があるわけでもないから、その場にいるみんなにとってもいつもの光景なのだが、僕はあまり慣れない。

「た、ただいま」
 アニーですら緊張して言葉に詰まっている始末だ。
 僕なんかは軽い会釈くらいしかできなかった。


「――なるほど、コボルト達はきちんと駆除できたみたいですね……でも報告書によると、大気中の魔力を吸収してしまったとありますねぇ……まあ大体の事情は分かりました。それにしてもアメーバと出くわすなんて災難でしたねぇ。それよりも、パーティに鬼教官がいたことの方が災難だったでしょうか?」
 僕たちが用意した報告書に軽く目を通したお姉さんが、怒涛のラッシュを食らう。
 別に直接暴力を振るわれたわけでもないし、言葉の暴力を振るわれたわけでもないが。疲れているところに変なことを言われるとげんなりする。
「そ、そんなことありませんよ。むしろ、はい。アレです……ちょっと疲れはしました」
 本当に疲れる一日だった。
 報酬を受け取って、いち早くメリーのもとに向かいたい。

「へえ……まあいいんですけど、でも魔力水は早く見つけないといけないでしょうし、明日も依頼を受けますか?」
 明日の話なんて明日出来るだろう! と言いたいのをぐっとこらえて、僕はあいまいに返答する。
「明日の体力次第ですかね?」
 流石につかれた。主に精神的に……もっとうまく立ち回れたらこれほどつかれることもなかっただろうが、いかんせん僕は素人だ。パートナーもパーティを組むということに関しては完全に素人だし、気疲れもする。そこを解決するためには、やっぱり武器をそろえて置いた方がいいのかもしない。
 丁度お姉さんも同じことを考えていたらしい。
「体力というより、精神ですかね……いや、それよりも冒険するうえでもっと重要なのは装備だと思いますが……装備は揃えられないのですか?」
「揃えたいんですが、街に来たばかりで店とか知らないんですよね……」
 アニーに頼んでもいいのだが、彼女ぐらいの人見知りともなると武具屋を知っているかどうかも怪しいものだ。
 なんて失礼なことを考えてみたりする。

「だったら私が案内してあげる」
 思いがけない一言をアニーが口にする。
 あまり街のこととか知らなさそうなのに、意外だ。何より、休日はインドア派っぽい彼女が買い物に付き合ってくれるということが以外で驚きを隠せない。

「いいんですか?」
 本当にいいのだろうか、彼女で……
 一抹の不安はあるが、何も知らない僕が1人で買い物に行って騙されるよりははるかにいいのだろう。
「でも今日は遅いから明日になるけどね」
 それはむしろありがたい。僕はすぐさまにでもイチゴさんの喫茶店に戻りたいからね。

「そういうことなら、明日の依頼は、それが終わってからも体力が残っていれば行くってことでいいですか?」
 半分にやけた顔のお姉さんが提案する。
 彼女の表情については気になったが、提案自体はまともだし乗るしかないだろう。
「そうですね。そうして頂けると助かります」
「ああ、それとずっと気になっていたんですが、私に敬語を使わなくてもいいんですよ?」
 お姉さんはここぞとばかりにもう一つ提案してくる。
 というかずっと気になっていたんだ……僕はあまり気にしていなかったが、敬語を使われるのが嫌な人もいるのだろうか? それでも一応僕にだって礼儀というものがある。元請け会社の社員とも言える彼女に、下請けのまた下請けみたいな僕がため口を使うなんておこがましいだろう。

「いいえ、派遣社員の僕がため口なんて……恐れ多い!」
 卑屈すぎると思うかもしれないが、それが原因で仕事をもらえなくなった人を見たことがある。弱者の生殺与奪の権利を持つのが、強者という存在だ。僕のような弱者は、役人の前には道端の意思も同じ……同等に扱われるなんてとんでもない。
「派遣……? よくわかりませんが、わかりました。ケン様がそうおっしゃられるのなら、わたくしも甘んじて受け入れましょう!」
 お姉さんはより一層丁寧な物言いで、僕よりも腰を低くしている。
 でもそれじゃあ、僕が敬語を使っている意味がまるでない。
「やめてくださいよ! いつもと同じように接してください。むしろ、お姉さんの方が僕にため口を使ってください!」
「ええ……」
 僕たちの様子を見ていたアニーは若干引き気味だった。
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