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「それでどうする……飯でも食べるか?」
嵐のように去っていったリグダミスを見送った後、イチゴは僕にそう提案した。
怒涛の展開で気にも留めてなかったが、なぜだか背中とおなかがくっつきそうなほどにおなかがすいている。
僕はどれぐらい気絶していたのだろう。妹――おっとそうだった。その前に大公からもらった指輪をしておかなければ、再び同じことが繰り返されるだけだ。
もらった指輪を右手の中指にはめてから、イチゴに返事をする。
「いただきます」
今が何日の何時なのかは気になったが、それよりもおなかが減って死にそうだ。窓から白い明かりが入っているし、きっと倒れた日ではないのだろう。
「じゃあ、準備するから待っていろ……」
そういうとイチゴは部屋から出て行った。
本当にイチゴには頭が上がらない。別に昔からの知り合いというわけでもないのに、僕たち兄妹の面倒を見てくれる……僕の母は、前世の母は子供を置いてパチンコに行くようなロクデナシだったし、この世界での母親にはあったことがないが、まともな母親というのは彼女みたいな人なのだろう。
おっと、そんなことを考えている場合じゃない。
折角、イチゴが食事を準備してくれているんだ。僕もできる限り礼には礼を尽くさなければ。
僕はベッドからたちあがり、カーテンの隙間からわずかに入ってくる明かりを増幅させるためにカーテンを全開にする。窓の外では、忙しく歩いている人が見える。スーツを着て歩いている人、買い物のための手提げ袋をもって市場の方へ向かう人と色々だが、そのどちらも朝に見られる光景だ。僕は少なくとも半日以上眠っていたらしい。
そう考えれば、精神的な疲れは長い睡眠のおかげかずいぶんとすっきりした気がする。
何か嫌な出来事があった気がするが、なんだかどうでもいいことのように感じる。
ベッドに入っていたから気が付かなかったが、どうやら僕はパジャマに着替えさせられているらしい。まさかリグダミスが僕を着替えさせるなんてことをするはずがないし、となると、メリーかイチゴが着替えさせたのだろう。
もし万が一、イチゴが着替えさせてくれたのだとしたら、やっぱりとんでもない迷惑をかけたようだ。後できちんとお礼を言っておこう。メリーだったら……そうだな、それでもきちんとお礼を言うとしよう。
よし、メリーのことを考えても特別な感情を抱くことはなくなった。これで『勇者の恩恵』とやらに右往左往させられることもないだろう。
「あとは、この指輪をどうやって隠すか……」
幸い、手袋を買う余裕はあるのだが、宝石が付いている指輪の上に手袋をはめるのってなんだか気持ち悪い。宝石は取れてしまいかねないし、宝石が大きいこともあって引っかかりそうだ。何かいい方法はないだろうか……
いいや、それよりも先にご飯だ。『腹が減っては戦は出来ぬ』ということわざと同じように、おなかが減ったままではいいアイデアも浮かばない。部屋の扉を開いて、イチゴが待っているであろう一階の喫茶店へと向かう。そこへ向かうまでの階段に誰かが座り込んでいるようだ。
もちろん、階段に座り込んでいるのは言うまでもなくメリーだ。
気絶する前なら彼女の姿を見ただけでアウトだったが、指輪の効果は絶大で、いつもと変わらなぬように接することが出来そうだ。
「メリー、こんなところで何をしてるの?」
メリーは僕の方を振り向くこともなく、かたくなに僕の方に背中を向けている。
彼女が僕を無視するのも仕方ないことだろう。
あんなことがあった後で、おそらくことの顛末もすべて聞かされているのだろう。実の兄に変な感情を抱かれたとあっては、兄のことを嫌いになっても仕方はない。もし嫌いにならなくとも、苦手意識は抱くはずだ。
それは悲しいことだが、本当の家族というものはそういうものであるはずだ。喧嘩して、仲直りして、ののしりあって、また仲直りする。そうやってなんだかんだ一生付き合っていく存在だ。そして、兄というのはそれらの出来事を含めて妹を守っていくべき存在なのだ。
「わかったよ。じゃあ僕はご飯を食べたら、仕事に行くから……」
そう告げながら妹を横切ろうとして、彼女の顔を見た僕は思わず言葉を失ってしまった。
彼女はあろうことか、ただ眠っていただけだった。
これだけ恰好をつけてなんだが、妹に無視されたと思ったときは本気で死にたくなった。もしかして依然とし『勇者の恩恵』が呪いのごとく解けていないというオチなのかと思うぐらいに、胸が締め付けられていた。思えば、メリーに限ってそんなはずはないだろう。
僕のことを嫌いになることがあったとしても、誰かの能力で錯乱したというだけで僕のことを嫌いになったりしない。はずだ。
「おいメリー……こんなところで寝たら風邪ひくよ」
僕はいつもより一歩引いて、メリーの肩を軽くたたく。
無視はされていなかったとはいっても、もし嫌われていたらと考えれると、いつものように接するのは無理だ。
しかし、そんな僕の不安をよそに、妹はゆっくりと目を開いて言う。
「お兄ちゃん……大丈夫だった?」
結局、彼女も自分より僕のことを心配してくれていたらしい。
嵐のように去っていったリグダミスを見送った後、イチゴは僕にそう提案した。
怒涛の展開で気にも留めてなかったが、なぜだか背中とおなかがくっつきそうなほどにおなかがすいている。
僕はどれぐらい気絶していたのだろう。妹――おっとそうだった。その前に大公からもらった指輪をしておかなければ、再び同じことが繰り返されるだけだ。
もらった指輪を右手の中指にはめてから、イチゴに返事をする。
「いただきます」
今が何日の何時なのかは気になったが、それよりもおなかが減って死にそうだ。窓から白い明かりが入っているし、きっと倒れた日ではないのだろう。
「じゃあ、準備するから待っていろ……」
そういうとイチゴは部屋から出て行った。
本当にイチゴには頭が上がらない。別に昔からの知り合いというわけでもないのに、僕たち兄妹の面倒を見てくれる……僕の母は、前世の母は子供を置いてパチンコに行くようなロクデナシだったし、この世界での母親にはあったことがないが、まともな母親というのは彼女みたいな人なのだろう。
おっと、そんなことを考えている場合じゃない。
折角、イチゴが食事を準備してくれているんだ。僕もできる限り礼には礼を尽くさなければ。
僕はベッドからたちあがり、カーテンの隙間からわずかに入ってくる明かりを増幅させるためにカーテンを全開にする。窓の外では、忙しく歩いている人が見える。スーツを着て歩いている人、買い物のための手提げ袋をもって市場の方へ向かう人と色々だが、そのどちらも朝に見られる光景だ。僕は少なくとも半日以上眠っていたらしい。
そう考えれば、精神的な疲れは長い睡眠のおかげかずいぶんとすっきりした気がする。
何か嫌な出来事があった気がするが、なんだかどうでもいいことのように感じる。
ベッドに入っていたから気が付かなかったが、どうやら僕はパジャマに着替えさせられているらしい。まさかリグダミスが僕を着替えさせるなんてことをするはずがないし、となると、メリーかイチゴが着替えさせたのだろう。
もし万が一、イチゴが着替えさせてくれたのだとしたら、やっぱりとんでもない迷惑をかけたようだ。後できちんとお礼を言っておこう。メリーだったら……そうだな、それでもきちんとお礼を言うとしよう。
よし、メリーのことを考えても特別な感情を抱くことはなくなった。これで『勇者の恩恵』とやらに右往左往させられることもないだろう。
「あとは、この指輪をどうやって隠すか……」
幸い、手袋を買う余裕はあるのだが、宝石が付いている指輪の上に手袋をはめるのってなんだか気持ち悪い。宝石は取れてしまいかねないし、宝石が大きいこともあって引っかかりそうだ。何かいい方法はないだろうか……
いいや、それよりも先にご飯だ。『腹が減っては戦は出来ぬ』ということわざと同じように、おなかが減ったままではいいアイデアも浮かばない。部屋の扉を開いて、イチゴが待っているであろう一階の喫茶店へと向かう。そこへ向かうまでの階段に誰かが座り込んでいるようだ。
もちろん、階段に座り込んでいるのは言うまでもなくメリーだ。
気絶する前なら彼女の姿を見ただけでアウトだったが、指輪の効果は絶大で、いつもと変わらなぬように接することが出来そうだ。
「メリー、こんなところで何をしてるの?」
メリーは僕の方を振り向くこともなく、かたくなに僕の方に背中を向けている。
彼女が僕を無視するのも仕方ないことだろう。
あんなことがあった後で、おそらくことの顛末もすべて聞かされているのだろう。実の兄に変な感情を抱かれたとあっては、兄のことを嫌いになっても仕方はない。もし嫌いにならなくとも、苦手意識は抱くはずだ。
それは悲しいことだが、本当の家族というものはそういうものであるはずだ。喧嘩して、仲直りして、ののしりあって、また仲直りする。そうやってなんだかんだ一生付き合っていく存在だ。そして、兄というのはそれらの出来事を含めて妹を守っていくべき存在なのだ。
「わかったよ。じゃあ僕はご飯を食べたら、仕事に行くから……」
そう告げながら妹を横切ろうとして、彼女の顔を見た僕は思わず言葉を失ってしまった。
彼女はあろうことか、ただ眠っていただけだった。
これだけ恰好をつけてなんだが、妹に無視されたと思ったときは本気で死にたくなった。もしかして依然とし『勇者の恩恵』が呪いのごとく解けていないというオチなのかと思うぐらいに、胸が締め付けられていた。思えば、メリーに限ってそんなはずはないだろう。
僕のことを嫌いになることがあったとしても、誰かの能力で錯乱したというだけで僕のことを嫌いになったりしない。はずだ。
「おいメリー……こんなところで寝たら風邪ひくよ」
僕はいつもより一歩引いて、メリーの肩を軽くたたく。
無視はされていなかったとはいっても、もし嫌われていたらと考えれると、いつものように接するのは無理だ。
しかし、そんな僕の不安をよそに、妹はゆっくりと目を開いて言う。
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結局、彼女も自分より僕のことを心配してくれていたらしい。
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