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9 過去の英雄
82 突然の訪問者
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勇者が魔王を名乗る男を撃退してから3日が経った。
イチゴはあの時の話をしたがらないが、それでも僕とは普通に話してくれるようになった。リグダミスの依頼についても聞いてみた。
彼女曰く、リグダミスが魔力水採集の依頼を出した理由は、アルタが怪我を負った時のリスクを減らすためらしい。
国にとっては『勇者』と言う存在がかなり重要で、絶対に死なせたくない存在だということから、国王の命によりアルタには優先的に最上位のクスリとしてのポーションが与えられてきたが、今回のポーションを受け取ったのがつい数週間前のことで、次が見つかるまでには相当な時間を要するらしい。
そこまでは特に問題はない。
だが、今回のことでリグダミスは理解した。王国から支給されるポーションだけでは、心優しい娘にとっては不足であるという事をだ。
そこで彼は国の中にいる獣人で、魔力水を発見できそうな存在に片っ端から声をかけて、順位の高いものには手付金も渡していたらしい。これはイチゴが、リグダミスから勇者保護の依頼を受けた時に聞いたらしい。何でも、僕は3番目に依頼を受けた冒険者だったとか、雇った冒険者は100人を超えていたとか色々聞いたが、全てどうでもいいことだった。
「また、僕の野望が遠のいた」
この3日間も、アニーと一緒に懲りずに魔力水を探し続けたが、結局見つかることはなかった。そんな中、リグダミスから依頼中止の報が届いた。
なんでも魔力水を見つけた冒険者が2人いたらしい。つまり、それで予備は必要なくなったという事だ。
残念なことに、成功報酬は受け取ることが出来なくなった。また、地道に依頼を受けてお金をためていくしかないというわけだ。
「おい……何をすべて終わったみたいに話を進めている。手付金は、ひと月働く分として渡したものだ。まだ10日ほどしか経っていないのだから、お前への依頼は完全に中止となったわけではないぞ?」
「え……? うわっ!」
さっきまでは僕しかいなかったはずの部屋の中に、突然、豪華絢爛な服を着た犬種の男が現れた。
リグダミス・ロットワイラーだ。
「貴族の顔を見てそのような反応をするとは……普通の犬種なら即刻処刑だ。だがまあ、お前にはまだ利用価値があるのだから殺しはせん」
「そ、それはどうも」
驚いただけで殺されるとは、わかってはいるつもりだったが犬種はかなりヒエラルキーが低いらしい。困ったものだ。
それにしても、どうしていつもいつも彼はイチゴの店を自らの足で訪れるのだろう。貴族というのなら普通は反対に冒険者風情、自らの屋敷に呼び出せばいいのに。
「私がここを訪れるのは、汚らしい雑種の犬種を屋敷に入れたくないからだ。だから私が直接出向いてやっているというのだ。ありがたく思え」
僕の心を読むようにそう言った。
「はあ……それは恐縮です。とこで、どういったご用件でしょうか?」
実のところ、僕は彼がそれほど好きではない。もちろん、見事な耳と尻尾を見て何も思うところがないかと言えば嘘になる。彼だって犬種なんだから、僕にとっては愛すべき対象の1人にもなり得る。だが理由は分からないが、彼は犬種でありながら犬種を嫌っている。そんな相手と仲良く出来るはずもない。
「ずいぶんと嫌われたものだ。だがそれでいい。私もお前のことが嫌いだ。しかし、ビジネスでは嫌いな相手であろうと、媚びへつらって気持ち悪い笑顔を浮かべていなければいけないという事ぐらいは理解できているだろう? どれほど憎い相手であっても、ビジネス上では決して態度に出してはならない……その点、私はお前から見れば随分と上の存在だ。偉い方は多少本音を口にしてもいい……だからこそ私はビジネスが好きだ」
「これはこれは、ためになる話をありがとうございました。それで、大変失礼かと存じ上げますが、ご用件はなんでしょうか?」
出来る限りわかりやすい嫌味を言ってのける。機嫌を損ねれば殺されかねない相手ではあるが、嫌味というのは、それが嫌味か本心かという証明が言った本人にしかできないという利点がある。まあ、独裁者には通じない手であるが、たぶん目の前の男には通じるだろう。そんな気がする。
「ふふ、ただの犬畜生かと思っていたが、犬のように媚びへつらうだけじゃないらしい。いいだろう、私もそれほど暇を持て余しているわけではないからな……お前に持って来た仕事は、なあにそれほど面倒な仕事でもない。ポーション作成には、膨大な魔力が必要だという事は知っているだろう?」
「はい。確か、何十何百の魔法使いたちが、何か月もの間、膨大な魔力を注ぎ続けなければならないとか……」
一体何の話だ。僕をその魔法使いの1人にしたいとかそんな話だろうか。
だがそんな何日も拘束されるとなると、報酬金が手付金だけでは納得できないのだが。
「そうだ。しかしそれじゃあ、お前たち冒険者どもにひと月で魔力水を集めさせた意味がなくなる。わかるだろう? 魔王がこの近辺で出たという。そんな時に勇者がポーションを持ち合わせていないことの意味を?」
もちろんよくわかる。間近であの戦いを見せられれば、それが嫌という程に理解できる。魔王という存在は、勇者クラスの獣人が2人以上いてようやく対抗できる存在だろう。
「ポーションを通常より早く作りたいという事ですね?」
「その通りだ。だが、単純に計算したらわかると思うが、期間を半分にするためには、魔法使いが通常の2倍は必要になるという事だ……そんなに集められるわけがないし、それでも結局数か月かかることにはなるだろう。そこでだ――」
リグダミスはその問題を解消できる方法があると言いたげだが、本当にそんな方法があるというのだろうか。
僕は息を飲んで言葉の続きを待った。リグダミスの静かな呼吸音だけが店の中に響き渡る。
「――魔法使い以外からも魔力を集めればいいとは思わないか?」
「はい?」
話を聞いても結局、僕には意味が分からなかった。
イチゴはあの時の話をしたがらないが、それでも僕とは普通に話してくれるようになった。リグダミスの依頼についても聞いてみた。
彼女曰く、リグダミスが魔力水採集の依頼を出した理由は、アルタが怪我を負った時のリスクを減らすためらしい。
国にとっては『勇者』と言う存在がかなり重要で、絶対に死なせたくない存在だということから、国王の命によりアルタには優先的に最上位のクスリとしてのポーションが与えられてきたが、今回のポーションを受け取ったのがつい数週間前のことで、次が見つかるまでには相当な時間を要するらしい。
そこまでは特に問題はない。
だが、今回のことでリグダミスは理解した。王国から支給されるポーションだけでは、心優しい娘にとっては不足であるという事をだ。
そこで彼は国の中にいる獣人で、魔力水を発見できそうな存在に片っ端から声をかけて、順位の高いものには手付金も渡していたらしい。これはイチゴが、リグダミスから勇者保護の依頼を受けた時に聞いたらしい。何でも、僕は3番目に依頼を受けた冒険者だったとか、雇った冒険者は100人を超えていたとか色々聞いたが、全てどうでもいいことだった。
「また、僕の野望が遠のいた」
この3日間も、アニーと一緒に懲りずに魔力水を探し続けたが、結局見つかることはなかった。そんな中、リグダミスから依頼中止の報が届いた。
なんでも魔力水を見つけた冒険者が2人いたらしい。つまり、それで予備は必要なくなったという事だ。
残念なことに、成功報酬は受け取ることが出来なくなった。また、地道に依頼を受けてお金をためていくしかないというわけだ。
「おい……何をすべて終わったみたいに話を進めている。手付金は、ひと月働く分として渡したものだ。まだ10日ほどしか経っていないのだから、お前への依頼は完全に中止となったわけではないぞ?」
「え……? うわっ!」
さっきまでは僕しかいなかったはずの部屋の中に、突然、豪華絢爛な服を着た犬種の男が現れた。
リグダミス・ロットワイラーだ。
「貴族の顔を見てそのような反応をするとは……普通の犬種なら即刻処刑だ。だがまあ、お前にはまだ利用価値があるのだから殺しはせん」
「そ、それはどうも」
驚いただけで殺されるとは、わかってはいるつもりだったが犬種はかなりヒエラルキーが低いらしい。困ったものだ。
それにしても、どうしていつもいつも彼はイチゴの店を自らの足で訪れるのだろう。貴族というのなら普通は反対に冒険者風情、自らの屋敷に呼び出せばいいのに。
「私がここを訪れるのは、汚らしい雑種の犬種を屋敷に入れたくないからだ。だから私が直接出向いてやっているというのだ。ありがたく思え」
僕の心を読むようにそう言った。
「はあ……それは恐縮です。とこで、どういったご用件でしょうか?」
実のところ、僕は彼がそれほど好きではない。もちろん、見事な耳と尻尾を見て何も思うところがないかと言えば嘘になる。彼だって犬種なんだから、僕にとっては愛すべき対象の1人にもなり得る。だが理由は分からないが、彼は犬種でありながら犬種を嫌っている。そんな相手と仲良く出来るはずもない。
「ずいぶんと嫌われたものだ。だがそれでいい。私もお前のことが嫌いだ。しかし、ビジネスでは嫌いな相手であろうと、媚びへつらって気持ち悪い笑顔を浮かべていなければいけないという事ぐらいは理解できているだろう? どれほど憎い相手であっても、ビジネス上では決して態度に出してはならない……その点、私はお前から見れば随分と上の存在だ。偉い方は多少本音を口にしてもいい……だからこそ私はビジネスが好きだ」
「これはこれは、ためになる話をありがとうございました。それで、大変失礼かと存じ上げますが、ご用件はなんでしょうか?」
出来る限りわかりやすい嫌味を言ってのける。機嫌を損ねれば殺されかねない相手ではあるが、嫌味というのは、それが嫌味か本心かという証明が言った本人にしかできないという利点がある。まあ、独裁者には通じない手であるが、たぶん目の前の男には通じるだろう。そんな気がする。
「ふふ、ただの犬畜生かと思っていたが、犬のように媚びへつらうだけじゃないらしい。いいだろう、私もそれほど暇を持て余しているわけではないからな……お前に持って来た仕事は、なあにそれほど面倒な仕事でもない。ポーション作成には、膨大な魔力が必要だという事は知っているだろう?」
「はい。確か、何十何百の魔法使いたちが、何か月もの間、膨大な魔力を注ぎ続けなければならないとか……」
一体何の話だ。僕をその魔法使いの1人にしたいとかそんな話だろうか。
だがそんな何日も拘束されるとなると、報酬金が手付金だけでは納得できないのだが。
「そうだ。しかしそれじゃあ、お前たち冒険者どもにひと月で魔力水を集めさせた意味がなくなる。わかるだろう? 魔王がこの近辺で出たという。そんな時に勇者がポーションを持ち合わせていないことの意味を?」
もちろんよくわかる。間近であの戦いを見せられれば、それが嫌という程に理解できる。魔王という存在は、勇者クラスの獣人が2人以上いてようやく対抗できる存在だろう。
「ポーションを通常より早く作りたいという事ですね?」
「その通りだ。だが、単純に計算したらわかると思うが、期間を半分にするためには、魔法使いが通常の2倍は必要になるという事だ……そんなに集められるわけがないし、それでも結局数か月かかることにはなるだろう。そこでだ――」
リグダミスはその問題を解消できる方法があると言いたげだが、本当にそんな方法があるというのだろうか。
僕は息を飲んで言葉の続きを待った。リグダミスの静かな呼吸音だけが店の中に響き渡る。
「――魔法使い以外からも魔力を集めればいいとは思わないか?」
「はい?」
話を聞いても結局、僕には意味が分からなかった。
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