転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟

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9 過去の英雄

85 魔力の根源 3

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「データか……確かにそんな物はあるはずもない。だがしかし、実際に魔法使いになる人物のほとんどが文盲で、単純労働者だ。そのデータからある程度の予測は出来るはずだ。長い間、魔法が発展しなかった理由は識字率に関わっているのではないかと予想を立てることが出来るはずだ」
 イチゴの反論に対して、リグダミスはほんの少しだけ不機嫌気味にそう呟いた。
 僕としてみれば、どちらの言い分も正しいと思う。それだけに2人の間に割って入るのはナンセンスで、それ故に間に入りたいとも思わない。

「予想はあくまで予想でしかない。そもそも、国を動かせるだけの地位にいるリグダミスがそう思うのなら、どうして学校教育に力を入れなかった? 出来たはずだ。それだけの権力があったのだろう? でもそうしなかった。結局は自分のことしか考えていないからだ……自分の娘のためにいまさらながら魔法使いの教育に力を入れようとでも思ったのだろう? それで魔力の根源に迫ろうなどと……片腹痛い」
「私を憎むのは構わないが、私を出しにして国の発展を邪魔するのは許さないぞ……イザベラ」
「貴様がその名を呼ぶな」

 まさに一色触発。自分のために無関心を装ってはいたが、これではこちらまで飛び火してきそうだ。余計な火種になりそうなものは早めに消しておく、人間社会で生きて来た僕が唯一得た教訓だ。
 僕は2人の間に入り、今にも殴り合いの喧嘩に発展しそうなそれを止める。

「待ってください。最終的に決めるのは、当事者の僕です。最初にも言った通り、技術の進化を助けるつもりはありませんし……なにより、そんな技量があるわけでもありません」

 僕が持っている情報と言ったら神より与えられた情報のみで、そんなものは古の書物とやらを呼んだことがあるであろうリグダミスなら知っていることかもしれない。そもそも、他人のふんどしで相撲を取るようなことはしたくない。特にふんどしの持ち主が神となると、前例を鑑みるにそうするべきでないことは容易に理解できるはずだ。
 神の力を自らの力と錯覚してしまい、約束の地に入ることが出来なかった預言者がいるが、僕がそうなることだけは何としても避けたい。
 しかし、リグダミスはまるで納得していない様子だ。
「何も進化の手助けをしろと言っているわけではない。それをしてしまったら、犬種が歴史を作ることとなる。それでは以前と何も変わらない。お前が歴史を作ってはいけないように、また私が歴史を作ることも許されていない……だから、お前に依頼したいのは情報の開示だ。魔力の根源……とまでは言わなくとも、お前はあの魔王もどき相手に時間稼ぎを出来るほどの魔力捌きをした初めての人類だ」
 まるで人にものを頼む態度ではないが、そもそも、リグダミスは一度も『頼み』だとは言っていない。何度も『依頼』という言葉を使っていた。見下されていることは明らかだし、リスクをとってまでそんな相手を助けるのは普通に嫌だ。
 なんとしても、今回の依頼を反故にしなければならない。

「大げさです。勇者様がいなければ殺されていましたし、私が出来たのはせいぜい相手の魔力をほんの少しだけ吸収する程度のことです」
 まずは自分を卑下してみる。役に立たない奴を自分のもとにおいておくなど、彼のプライドが許さないだろう。特に僕は彼の嫌いな犬種だから、もしかしたらすぐに引いてくれるかもしれない……そう思ったが、どうやら考えを改めなければならないようだ。リグダミスは僕の弱みを知っていて依頼を伝えに来たのだ。
「魔力の吸収、それは今までどの魔法使いにもできなかったことだ。それは魔力の根源に迫る出来事だと言っても過言ではない。流石は新しい勇者の血族と言ったところだ。勇者が成長するまで守ることもたやすいだろう……だが、再び魔王もどき、いいや、魔王がお前を殺しに来たらどうする? 今のお前では助けが来るまで時間を稼ぐくらいしかできまい。助けが間に合わなければたちまち殺されてしまうだろう。死ねば妹を守るという事も未来永劫出来なくなる」
 それを聞いていたイチゴが、本来最初に怒るべき僕を差し置いて、いつにもなく凶悪な表情でリグダミスの襟につかみかかる。

「……それは、脅しのつもりか?」
 明らかに先ほどまでとは空気が違う。魔王と対峙した時よりも遥かに強い悪寒が僕の体を震え上がらせた。
「大丈夫だ! 入ってくるな!」
 リグダミスが怒鳴るように言う。もちろんそれはイチゴに対しての言葉ではなく、ドアの向こうから今にも乗り込んできそうな護衛達に言った言葉だ。
「入ってきても私は問題ないぞ」
「勇者の力を持つお前と戦うなんてまっぴらごめんだ。あんなのでも私の部下の中では精鋭ぞろいだ。くだらない小競り合いで潰れたら大損害だ……」
 襟をつかんでいるイチゴの手を払いのけながら、リグダミスはしぶしぶと一歩後ろに身を引いた。イチゴの怒りはまだ収まっていないらしく、今にも腰に据えた剣を抜いて切りかかりそうな空気だ。
「よく言う……今まで散々壊してきた癖に」
「否定はしない。これからも私にとって邪魔な存在は消すつもりだ。だが考えても見ろ、私はそいつの妹を無償で教会の連中から庇ってやっているのだ。ほんの少しぐらいは見返りがあってもいいと思うわけだ。私が隠さなければ、教会のやつらはすぐに新しい勇者を見つけることだろう」
 そのにやけた顔を見ればわかる。最初から選択肢などなかったということだ。僕はまだ、リグダミスという男のことを理解できていなかった。

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