転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟

文字の大きさ
87 / 170
9 過去の英雄

84 魔力の根源 2

しおりを挟む
「何かに対して努力できる才能というのは、まさに神の恩恵だ。特に、それが国……いや世界中から認められていないような物の場合は特にだ。この世に最初から認められたものなど存在しない。努力する者が認められるように進化させたから認められるようになったのだ。おそらく魔力もこれからそうなることだろう」
 リグダミスは静かにそう語った。

 おそらくは僕が世界のために魔力を進化させると言いたいのだろうが、もちろん僕にそんなつもりは一切ない。技術というのはいつの時代も誰かの利益のために進化し、時にそれは戦争のためであった。今回のこともそうだが、僕はこの世界に対して何らかの利益をもたらすために何かをしてやるつもりは一切ない。もし仮に、それが妹の利益になるなら話は別だが、そんなことはありえない。
 世界を変えるほどの技術向上というイベントの裏側には、かなり大きなリスクが生じるものだ。

「そうかもしれません……ですがそれは僕がやることではありません」

 僕はあっさりとそう言い切ってみせた。
 リグダミスから賃金を受け取ったという点では、僕は彼に従うべきなのかもしれない。だが、貰った賃金と比べるとそのリスクはつり合いが取れていないように感じる。
 自分の想像とは違った返事だったろうに、リグダミスは毅然とした態度を変えない。
「確かにそうだ。そんなことは最初からわかっていたし、私自身もそうでないことを祈っていた。雑種の犬種なんて言う存在がそんな大層なことをしでかしてしまっても構わないのかと、疑問にすら思っていた」
「初めて意見が一致しましたね」
 不本意だが、差別主義者と同じ意見だ。
 しかし、そう思ったのは僕だけではなかったらしい。彼の顔はいつにもなく苦々しい。
「不本意ながらだが……一致してしまった。だっだらどうする? そういえば、お前は文字が読めないのに図書館に通い詰めているらしいが、そこにはほんの内容を読み聞かせてくれる獣人がいるらしいじゃないか?」
「ええ、いつもお世話になっています。村では村の言語を少しだけ教えてもらいましたが、教育機関が発達していないこの国では一番メジャーなベスティエ文字すら教えてもらっていませんからね」
 その質問が今までの会話とどう関係しているのかわからないが、何となく馬鹿にされているような雰囲気は感じた。だからと言って、今見たないじわるな返しをするのはいけないことだと重々理解はしている。ほんの少しだけ反省だ。

 そんな僕の嫌味を気にするでもなく、さも面白いジョークでも聞いたかのような表情で、まるで幼子のような笑みを浮かべてリグダミスはいつの間にかイチゴが入れていたであろう水を飲み干して、それでも毅然とした態度で悠々と語り始める。
「ああ、それは面白いことだ。この国はこれほどまでに発展しているというのに、識字率は70パーセントを下回っているもしかしたら60パーセントすら下回るかもな。言語を話すことは出来ても、読み書きは出来ない住民が3分の1近く……いや以上を占めているというわけだ。だがそれがネックでもあるというわけだ」
 識字率の低さはネックでしかないと思う。そもそも、この国の教育機関の小規模さを考えると、60パーセントでも十分高いと言わざるを得ないと思うのだが……そんなことよりも――
「――それが今の話とどう関係あるのですか?」
 話の流れを切ってしまって悪いが、なぜ彼がそんな話を始めたのかが一切理解できない。さっきまでは魔法の話をしていたはずだ。それがどうして識字率の話になっているのだろう。その答えは本人からではなく、黙って話を聞いていたイチゴの口から聞くことになった。
 
「魔法使用率のことを言いたいのか?」
 イチゴはどこか得意げな顔をしているが、僕はそんな言葉を聞いたことがない。というより、魔法の使用率と識字率で考えても何ら関連性がないように思える。彼女の答えは間違っているのではないだろうか……なんて考えてみたが、リグダミスの拍手によってその考えはかき消されることとなった。
「そうだ。イザベラ君の言うとおり魔法使用率の問題はズバリ、識字率に関係する。古の魔法は文字によって書き連ねられたらしいが、今はどうだ? 魔法と言えば、ポーション作成能力と呼ばざるを得ない。雑種、お前は勉強するときどうする?」
 リグダミスは楽しそうに持論を話した後で、唐突にそんなことを尋ねてくる。
 言いたいことが何となくわかってきた。
「文献を読みますね」
「文献を読んでも意味が分からなかったら?」
「知っている人に頭を下げてでも教えを乞いますね」
 貴族らしくなく、ククク、と笑うと彼は声たかだかに言って見せた。
「そうだ! 普通の獣人ならばそこまでする。命がかかっていればな。だが、勉強しなくても生きて行くには事欠かない程度の日銭を稼げるとなればどうだ? そこまで必死になれるか!?」
 いつは冷静でいるはずのリグダミスは両手を交えて熱弁する。そんな奴などいないと言い切る勢いだ。 
 確かに彼の言うとおりかもしれないが、妹を持った今の僕にならなよくわかる。

「家族のことを思えば必死にならざるを得ないと思うのですが……いや、家族がいなくても少しでもいい暮らしがしたいと思ったら、必死で努力するんじゃないですか?」

 人類とは身勝手で独りよがりな生物でもあるが、それと同時に人を思いやれる生物なのかもしれない。たとえ僕がそういう風に扱われたように、他人をおとしめるようなことをする人間がいたとしても、そんな人間であったとしても身近な人間は大切にしていると信じたい。そう信じることだけが唯一の救いだと僕は思う。
 しかし、リグダミスは僕と意見がほんの少し違うらしい。彼は小さく息を吐くと、身振りそぶりもやめいつものように冷静に淡々と自分の意見を語り始める。
「努力の仕方を知っている獣人ならな……だがしかし、そもそも文字の読めない獣人は文献を読むことも出来なければ、そこからそれを知っていそうな人物を探すことすら出来ない。なにより、全く何もわからぬことを他人に教えてもらうことなど不可能に近い。どのような者であっても、赤の他人にものを教えてもらうとなると、最低限の知識は持ち合わせていなければならない。もし教えを乞うことが出来たとしても、文盲では教えてもらったことを紙に書き綴ることすら出来まい。だから――」
「――文盲は魔力の根源を知る機会がない。故に、識字率が低いと魔法使用率も低くなると……確かにそうだ。だがリグダミス、それはあくまで予想でしかない。そういうデータがあるわけでもないからな」
 そんな彼の意見を遮り、イチゴは軽く否定した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる

ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。 レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。 これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

​『5階にトラック突撃!?ポンコツ女神の使役権と地球通販を得た医学生、辺境の村でワスプ薙刀と現代医療を駆使し最強防衛ライフを始める』

月神世一
ファンタジー
マンションの5階でカレーを作っていたら、なぜかトラックが突っ込んできた件。 ​外科医を目指す医学生・中村優太(24)は、特製の絶品バターチキンカレーを食べる寸前、マンションの「5階」に突撃してきた理不尽なトラックによって命を落としてしまう。 ​目を覚ますと、そこはコタツでカップ麺を啜るジャージ姿の駄女神・ルチアナの部屋だった。 「飲み会があるから定時で帰りたい」と適当な理由で異世界転移をさせられそうになる優太だったが、怒りのガラポン抽選でユニークスキル【地球ショッピング】と【女神ルチアナこき使い権】を引き当てる! ​かくして、ポンコツ女神を強制連行して剣と魔法の世界『アナステシア』に降り立った優太。 しかし、彼にはただのチートスキルだけではない、元SEALs直伝の「CQB(近接戦闘術)」、有段者の「薙刀術」、そして何より「現代医療の知識」があった――! ​降り立った辺境のポポロ村で彼を待っていたのは、クセが強すぎる住人たち。 ​キャルル: マッハの飛び蹴りを放つ、ファミレス大好きなウサ耳村長。 ​リーザ: タダ飯とポイ活に命を懸ける、図太すぎる地下アイドル人魚。 ​ルナ: 善意で市場や生態系を破壊する、歩く大災害の天然エルフ。 ​ルチアナ: 優太のポイントでソシャゲ課金と酒を目論む、労働拒否の駄女神。 ​優太は【地球ショッピング】で召喚した現代物資と、自身のサバイバル能力&薙刀術で野盗や魔物を無双! さらには特製のスパイスカレーで異世界人の胃袋を完全に掌握していく。 ​そして、村人に危機が迫った時。 優太の「絶対に命を救う」という善意の心が、奇跡の黄金ガチャを引き起こす……! ​「俺は医者だ。この村の命も、平和な日常も、俺の戦術(スキル)で全部守り抜く!」 ​現代の【医療・戦術・料理】×【理不尽ギャグ】×【異世界サバイバル】! 凶悪な「ワスプ薙刀」を振るい、ヤバすぎる仲間たちと送る、最強医学生のドタバタ辺境防衛ライフが今始まる!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...