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9 過去の英雄
86 魔力の根源 4
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「わかりました」
実質妹を人質にとられた僕にはそう答える他に選択肢がない。
もちろん全く怒りを覚えないわけではない。僕はそれほどまでに出来た人間じゃないからだ。妹を引き合いに出され殺意すら感じているのだが、僕以上に怒りを顕にしている人物が目の前にいたからこそ冷静を保つことが出来た。
「まて、ケン! 引き受ける必要はない。人の弱みにつけ込むような卑劣なやつの言うことを聞く必要はない」
イチゴが叫び、リグダミスが鼻で笑う。
「卑劣か……なんとでもいうがいい。そこの雑種が妹を最優先するように、私も娘の命を最優先する。どのような卑劣な手を使ってもな」
そこで再び悪寒が僕を襲う。
「ケンをお前なんかと一緒にするな……!」
殺気を抑えきれないといった具合に、部屋の中いっぱいに魔力が溢れ出した。
「待って下さい、イチゴさん!」
僕のために怒ってくれるのは嬉しいが、あんな男の言葉にいちいち冷静さを失うのは無意味だ。無駄とさえ言ってしまってもいいかもしれない。相手にするだけ時間が浪費され、そして相手のペースに持ち込まれてしまう。今だってすでにリグダミスのペースに持ち込まれつつある。
「だがケン……」
「いいんですよ。アルタさんには二度も命を救われました。彼女に恩を返すためにこの依頼を受けると思えば、多少は納得できます。それでいいじゃないですか」
これ以上、状況が複雑になるよりは妥協しておいたほうがいい。それに僕の名前が出ないなら、リスクは格段に下がるだろうし一番心配なメリーの危険も減る。最初から選択肢はなかったとはいえ、その一つの選択肢が最悪なものでないだけマシだと思ったほうが僕のストレスも減る。
リグダミスに対して怒りが全くないかといえば大きな嘘になるが、同時に妹の秘密を守ってくれているということに感謝していないわけでもない。なにより魔力の根源に迫るというのは、貧乏生活を余儀なくされている僕にとっては唯一の一発逆転方法だとも言えるわけだ。
「でも一つだけ条件があります」
「なんだ言ってみるといい。名声以外なら何でも与えてやろう……もっとも、お前への依頼の報酬として見合う分だけだがな」
「ありがとうございます。では、妹にベスティア語を……いえ、厚かましいかもしれませんが勉学を教えていただけないでしょうか?」
僕の言葉に一瞬だけ不快そうな表情をしたあとで、リグダミスは「まあ、いいだろう。どのみち勇者には必要なことだからな」と小さくつぶやいた。そして続けて意気揚々と話す。
「ただし、魔力水のときのように成果なしで報酬を与えるなんて、あんな甘い真似は二度とするつもりはない。あの時は私も余裕がなかったから、すぐに返事をもらいたかったから私の見立てで優秀だった者に手付金を渡したが、今度はその時以上に余裕がない。卑劣だと言われようが依頼は完遂してもらう」
それがイチゴの琴線に触れてしまったのだろう、彼女は机を力いっぱい叩く。その衝撃は机が大破するほどの物だった。
「どの口でそんなことを……」
「イザベラ、私はお前に頼んでいるんじゃない。雑種に依頼しているんだ。邪魔しないでもらえるかな?」
そんな様子でもリグダミスは冷静に嫌味を言ってのけた。
「お前!」
ダメだ。せっかく収まった場が再び荒れ始めた。完全にリグダミスのペースだ。僕はまだ彼らよりもいくらか辛い人生を長生きしてきたから耐えられるが、もし僕の人生が初めてのものだったら完全に彼の掌で遊ばれていたことだろう。歴戦の勇者であるイチゴがそうなのだから、きっと僕もそうだったはずだ。しかし、人間社会ではほんの少しぐらい嫌味を言われただけで怒りを表面上に出していればキリがないし、出世することすら困難だ。たとえ相手が殺したいぐらいに憎い相手だとしてもそれは同じことだ。それを知っていたからこそ、イチゴはアルタの護衛依頼をリグダミスから受けたのだろう。
それなのに今では我慢して手を出さずにはいるものの、気持ちは抑えきれずにいる様子だ。
「まあいい……ここはケンの気持ちを汲んでやる。だが覚えておけ……私はリグダミス、貴様を許すこともなければ恐れることもない。もし二人に何かあったら、その時は命はないものと思え」
今でもひしひしと体に伝わる殺気について考えれば、彼女が本気でそう言っていることがうかがえる。それはリグダミスもわかっていただろう。彼のペースは少しだけ崩れるが、それでも嫌味を言ってのけた。
「なるほど。ならば二人が死なないように細心の注意を払って監視し続けなければならないな。どこに殺人鬼が紛れているともわからんからな」
「ふん……」
イチゴはリグダミスに鋭い眼光を送ると、それから彼のもとを離れ壁に寄りかかるように力を抜いた。
「挑発はやめていただけますか? 話が進みませんので」
「それもそうだ。では話を進めるとしよう……と言っても、やることはそう難しいことでもない。志願者から魔力を吸い上げてそれを魔力水に移すことをポーションが完成するまで繰り返すだけだ」
多くの魔法使いが魔力を籠め続けても何か月もかかるものを果たして一般人から集めた魔力だけでそう易々と作れるものなのだろうか? 体内を流れる魔力を根こそぎ吸い取ることが出来るならまだしも、僕がこの3日間の実戦でわかったことは体表にわずかに現れた魔力を吸収できるという事だけだ。魔力の根源とやらから吸い取ることは出来ない。
「ずいぶんと気の遠くなりそうな話ですね……」
「そうでもないさ。魔法使いは戦闘にほとんど参加しないからな」
僕に対して返ってきたリグミダスのその言葉の意味はすぐに嫌と言う程理解させられることとなる。
実質妹を人質にとられた僕にはそう答える他に選択肢がない。
もちろん全く怒りを覚えないわけではない。僕はそれほどまでに出来た人間じゃないからだ。妹を引き合いに出され殺意すら感じているのだが、僕以上に怒りを顕にしている人物が目の前にいたからこそ冷静を保つことが出来た。
「まて、ケン! 引き受ける必要はない。人の弱みにつけ込むような卑劣なやつの言うことを聞く必要はない」
イチゴが叫び、リグダミスが鼻で笑う。
「卑劣か……なんとでもいうがいい。そこの雑種が妹を最優先するように、私も娘の命を最優先する。どのような卑劣な手を使ってもな」
そこで再び悪寒が僕を襲う。
「ケンをお前なんかと一緒にするな……!」
殺気を抑えきれないといった具合に、部屋の中いっぱいに魔力が溢れ出した。
「待って下さい、イチゴさん!」
僕のために怒ってくれるのは嬉しいが、あんな男の言葉にいちいち冷静さを失うのは無意味だ。無駄とさえ言ってしまってもいいかもしれない。相手にするだけ時間が浪費され、そして相手のペースに持ち込まれてしまう。今だってすでにリグダミスのペースに持ち込まれつつある。
「だがケン……」
「いいんですよ。アルタさんには二度も命を救われました。彼女に恩を返すためにこの依頼を受けると思えば、多少は納得できます。それでいいじゃないですか」
これ以上、状況が複雑になるよりは妥協しておいたほうがいい。それに僕の名前が出ないなら、リスクは格段に下がるだろうし一番心配なメリーの危険も減る。最初から選択肢はなかったとはいえ、その一つの選択肢が最悪なものでないだけマシだと思ったほうが僕のストレスも減る。
リグダミスに対して怒りが全くないかといえば大きな嘘になるが、同時に妹の秘密を守ってくれているということに感謝していないわけでもない。なにより魔力の根源に迫るというのは、貧乏生活を余儀なくされている僕にとっては唯一の一発逆転方法だとも言えるわけだ。
「でも一つだけ条件があります」
「なんだ言ってみるといい。名声以外なら何でも与えてやろう……もっとも、お前への依頼の報酬として見合う分だけだがな」
「ありがとうございます。では、妹にベスティア語を……いえ、厚かましいかもしれませんが勉学を教えていただけないでしょうか?」
僕の言葉に一瞬だけ不快そうな表情をしたあとで、リグダミスは「まあ、いいだろう。どのみち勇者には必要なことだからな」と小さくつぶやいた。そして続けて意気揚々と話す。
「ただし、魔力水のときのように成果なしで報酬を与えるなんて、あんな甘い真似は二度とするつもりはない。あの時は私も余裕がなかったから、すぐに返事をもらいたかったから私の見立てで優秀だった者に手付金を渡したが、今度はその時以上に余裕がない。卑劣だと言われようが依頼は完遂してもらう」
それがイチゴの琴線に触れてしまったのだろう、彼女は机を力いっぱい叩く。その衝撃は机が大破するほどの物だった。
「どの口でそんなことを……」
「イザベラ、私はお前に頼んでいるんじゃない。雑種に依頼しているんだ。邪魔しないでもらえるかな?」
そんな様子でもリグダミスは冷静に嫌味を言ってのけた。
「お前!」
ダメだ。せっかく収まった場が再び荒れ始めた。完全にリグダミスのペースだ。僕はまだ彼らよりもいくらか辛い人生を長生きしてきたから耐えられるが、もし僕の人生が初めてのものだったら完全に彼の掌で遊ばれていたことだろう。歴戦の勇者であるイチゴがそうなのだから、きっと僕もそうだったはずだ。しかし、人間社会ではほんの少しぐらい嫌味を言われただけで怒りを表面上に出していればキリがないし、出世することすら困難だ。たとえ相手が殺したいぐらいに憎い相手だとしてもそれは同じことだ。それを知っていたからこそ、イチゴはアルタの護衛依頼をリグダミスから受けたのだろう。
それなのに今では我慢して手を出さずにはいるものの、気持ちは抑えきれずにいる様子だ。
「まあいい……ここはケンの気持ちを汲んでやる。だが覚えておけ……私はリグダミス、貴様を許すこともなければ恐れることもない。もし二人に何かあったら、その時は命はないものと思え」
今でもひしひしと体に伝わる殺気について考えれば、彼女が本気でそう言っていることがうかがえる。それはリグダミスもわかっていただろう。彼のペースは少しだけ崩れるが、それでも嫌味を言ってのけた。
「なるほど。ならば二人が死なないように細心の注意を払って監視し続けなければならないな。どこに殺人鬼が紛れているともわからんからな」
「ふん……」
イチゴはリグダミスに鋭い眼光を送ると、それから彼のもとを離れ壁に寄りかかるように力を抜いた。
「挑発はやめていただけますか? 話が進みませんので」
「それもそうだ。では話を進めるとしよう……と言っても、やることはそう難しいことでもない。志願者から魔力を吸い上げてそれを魔力水に移すことをポーションが完成するまで繰り返すだけだ」
多くの魔法使いが魔力を籠め続けても何か月もかかるものを果たして一般人から集めた魔力だけでそう易々と作れるものなのだろうか? 体内を流れる魔力を根こそぎ吸い取ることが出来るならまだしも、僕がこの3日間の実戦でわかったことは体表にわずかに現れた魔力を吸収できるという事だけだ。魔力の根源とやらから吸い取ることは出来ない。
「ずいぶんと気の遠くなりそうな話ですね……」
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