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9 過去の英雄
91 魔力提供者達 5
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美人というのは、全員が全員というわけではないが、腹の奥底に黒いう感情を持ち合わせていることが多い。もちろんこれは単なる僕の感想であり、何かしらのデータが存在しているというわけではない。それでも僕の過去の経験から導き出された結果として、そういう感想を抱かざるを得ないというわけだ。
「どうしたのですか?」
あまりにジロジロと見すぎてしまったらしく、イロアスと呼ばれた女性は僕の視線に感づいた。
もちろん別段何かしら気になることがあったというわけではないが、そうは言えども美人というだけで警戒してしまうのが僕の悪い癖だ。
「な、なんでもありません」
そんな僕の態度が気に食わなかったらしく、スティルと呼ばれた男が僕のほうに迫ってきて胸倉をつかんだ。
「あぁん!? てめぇ、なに人の仲間にガンつけてんだぁ!? ガキといえどもぶっ飛ばすぞ!?」
僕は突然のことに驚き言葉も口に出すことはできなかったが、不思議と恐ろしさを感じはしなかった。
鹿種の獣人によく見られる傾向としては、冷静で沈着、だが大切なものを守ろうとするときはほかの種族よりもはるかに強い力を発揮するというものだが、僕の襟ぐりをつかむ彼はその特徴とは程遠いようにも感じられる。しかしながら、本質は鹿種のそれと変わらないようにも感じた。
「やめろ……時間は有限だ。いちいち突っかかっていたら時間がいくらあっても足りない。とはいえスティル、お前がそれでもいいというのならずっとその雑種に突っかかっていればいい。むろん、私はここら辺で引き揚げさせてもらうことになるがな」
僕を助けるためではなく本当に言葉のままの意味だろうが、リグダミスがやめるように説得する。
それを受けて僕の襟ぐりから手を放す。
「っち……んで、こいつが特殊な魔法を使える魔法使いというわけか……」
「そうだ。貴重な魔力供給源から魔力を吸い出す装置とでもいう存在だ」
「つまり俺達は供給源ってわけかぁ?」
スティルはできる限り不機嫌そうな顔を作り、今にもリグダミスに食ってかかりそうな勢いで憤ったふりをしている。それは、初対面である僕の目からしても一目瞭然だった。
それを知ってか知らずか、リグダミスは鼻を鳴らしながらその男を軽く突き飛ばした。
「面倒をかけるな。過去のことを謝罪するつもりはないし、お前がどんな態度で私に接しようが言葉を取り消すつもりはない。お前たちは魔力を提供してくれる客ではあるが、お前たちの場合、『魔力タンク』と言っても支障がないほどに後がない。『魔力タンク』に対して危害を加えないように配慮することはできないし、もちろん絶対にお前たちに危害を加えないなんて約束することもできない。最悪の結果死んでしまうことだってあるかもしれないが、それでもお前たちは私の提案に乗る以外に道はないだろう?」
「っ……足元見やがって! わかったよ、どうせ俺はそれ以外どうしようもないんだからな」
ぷいっと、そっぽを向けて子供のように意地を張るスティルと違って、もう一人の魔力提供者イロアスはにっこりと笑みを浮かべて冷静さを保ったままだ。
「リグダミス様がそうであるように、私達にも時間的猶予はございません。仕事は早々に終わらせるとしましょう」
「ああ、私もそのつもりだ」
リグダミスはそう言うと、懐から一本の瓶を取り出すと僕の方に差し出した。
瓶の中には何かしらの液体が入っていて、それが魔力水と呼ばれる魔物のなれの果てだという事は瞬時に理解できた。僕は無言でそれを受け取ると、手に持っていた杖を軽く掲げる。
「よろしいですか?」
先ほどの脅し文句のように『死』を迎えるようなことはないだろうが、それでも魔力を持って行かれるという事には多少なりとも恐怖心があるだろう。人類と言うものは初めての出来事に対して耐性を持たない。いつ何時、新たな試みをするときであっても常に緊張感を抱いているはずだ。
そう考えると僕も単なる人類でしかなかったようだ。異世界に転生使用が、初めての出来事という事にはなれそうにもない。
その点、この世界の住人は末恐ろしい。
「もちろん大丈夫です。いつでも――」
「待て、ガキ……俺からにしろ。そんでもし俺が死んだら、報酬は全てイロアスにやってくれ。まあ俺が死ぬことなんてありえないがな」
なんてやり取りを冷静さを失うこともなくやってのけるのだから。しかも、俺が私が、と2人で延々と繰り返している。よくよく考えればそれほど冷静とは言えないのかもしれない。
「どっちでもいいから、さっさとしないか……」
「じゃあ、俺だ。それだけは譲れねえ」
リグダミスの言葉に、スティルが鋭い眼光をこちらに向けた。『もし断れば殺す』と言わんばかりに殺意のこもった瞳だ。
僕としてはどっちでもいいし、どっちが先にやったとしても死ぬまではいかないことをチンピラに対する実験で実証していたから本当にどうでもよかった。ただ、殺されるのは嫌なので同意しておく。
「わ……わかりました」
イロアスに対して掲げていた杖の対象を変え、スティルの肩に当てる。
「これだけか?」
「いいえ、魔力を放出してください。僕の力では体内の魔力まで吸い出すことは出来ません」
「俺は魔法使いとしての才能がまるでない。魔力の放出方法なんて知らねぇぞ?」
「え? それでは魔力がないという事ですか?」
「なんでそうなる。魔力は獣人にとっての生命維持に必要なものだぞ、存在しないなんてことはあり得ねぇだろうが! ただ、残念なことに魔法適性がねぇ……」
魔力特性と言うのは、確か体内の魔力を操る能力のことだったはず。それがないという事は魔力を体外に放出することも出来ないし、即ち魔力を吸収する手段もない。いやないというわけではないが、人が無意識に体外に放出する魔力量はわずかで、それをちまちまと吸収し続けていたのでは時間がかかりすぎる。
これは非常に困った。
「よくわからねえが……対象が魔力を体外に放出しなきゃ、魔力を吸収できないという事かぁ?」
スティルが面倒くさそうにそう訊ねる。
しかし、それはさっき僕が説明したことだ。同じ説明は何度もする必要がない。
「はい」
僕は面倒ながらもそう答える。もちろん、さっきも説明したが出来ないわけではない。
「なるほど……時間の無駄というのはそういう意味か……」
背後でリグダミスが何かをつぶやいたような気がした。僕はその言葉を聞き取ることが出来なかったが、彼は特に僕に何かを尋ねたような様子でもなかったので聞き返すことはしなかった。
「じゃあ、俺は提供することが出来ねぇってことだな!?」
「いいや、そうでもないさ。方法はある。それは私が知っている」
僕に迫るスティルを面倒くさそうになだめながら、リグダミスはそう言い切る。神によって魔力を武器として使用することにおいては全てを知っている僕が知らないことを知っているというのは、どうにも眉唾物であるように感じなくもないが、神が適当な存在だという事を嫌になるほど思い知らされている僕としては何となく信用できなくもない。
僕達人類にとっては武器としての使用法であったとしても、それは神にとっては武器と呼べるような代物ではないかもしれないという事だ。現に僕は魔力を吸い出して使うなんて方法は頭の中に存在していなかった。そこにこそ、神と獣人の意識差が存在しているのかもしれない。
「その方法ってのはなんだ!? 俺は一刻も早くこんなこと終わらせてぇ……リグダミス、知っているならばさっさと教えろ」
今度はリグダミスに突っかかるスティルをイロアスがなだめる。
「時間は有限よ。強さは時には時間を無意味に消費するものよ……スティル、聡明なあなたならわかるでしょう?」
その言葉が皮肉なのかそれとも事実なのかはわからないが、ともかくそれでスティルが黙り込んだのだから彼女の思惑は成功したという事だ。
それに対してリグダミスが頭を軽く下げる。
「ありがとうスティル。私の言葉を代弁してくれて……ああ、そうだった。魔力適性がない獣人から魔力を放出させる方法は簡単だ。道具も何もいらない。ただ『精神統一』するだけだ」
彼が頭を下げたという動作だけでも驚きだが、もっとも驚愕すべきことは彼の話した内容だ。
「せ、精神統一……? そんなもので……」
僕はあまりにも驚いてしまって思わずそうこぼした。
「これは超古代的な思想になるが、精神統一で雑念を消すと集中力が増すと考えられていたそうだ。しかし、それも近代になってようやく解明され、心の内の雑念を消し去ることによって、魔力の循環を高めて体の外に魔力を排出することによって無駄な魔力がなくなり、その結果集中力が増すという事がわかった」
その説明を聞いてもまるで理屈がわからなかったが、ともかく何とかなるのであればどうでもよかった。むしろ、とんとん拍子に好転していく状況に神の介入を疑う心の方が強くなった。
「どうしたのですか?」
あまりにジロジロと見すぎてしまったらしく、イロアスと呼ばれた女性は僕の視線に感づいた。
もちろん別段何かしら気になることがあったというわけではないが、そうは言えども美人というだけで警戒してしまうのが僕の悪い癖だ。
「な、なんでもありません」
そんな僕の態度が気に食わなかったらしく、スティルと呼ばれた男が僕のほうに迫ってきて胸倉をつかんだ。
「あぁん!? てめぇ、なに人の仲間にガンつけてんだぁ!? ガキといえどもぶっ飛ばすぞ!?」
僕は突然のことに驚き言葉も口に出すことはできなかったが、不思議と恐ろしさを感じはしなかった。
鹿種の獣人によく見られる傾向としては、冷静で沈着、だが大切なものを守ろうとするときはほかの種族よりもはるかに強い力を発揮するというものだが、僕の襟ぐりをつかむ彼はその特徴とは程遠いようにも感じられる。しかしながら、本質は鹿種のそれと変わらないようにも感じた。
「やめろ……時間は有限だ。いちいち突っかかっていたら時間がいくらあっても足りない。とはいえスティル、お前がそれでもいいというのならずっとその雑種に突っかかっていればいい。むろん、私はここら辺で引き揚げさせてもらうことになるがな」
僕を助けるためではなく本当に言葉のままの意味だろうが、リグダミスがやめるように説得する。
それを受けて僕の襟ぐりから手を放す。
「っち……んで、こいつが特殊な魔法を使える魔法使いというわけか……」
「そうだ。貴重な魔力供給源から魔力を吸い出す装置とでもいう存在だ」
「つまり俺達は供給源ってわけかぁ?」
スティルはできる限り不機嫌そうな顔を作り、今にもリグダミスに食ってかかりそうな勢いで憤ったふりをしている。それは、初対面である僕の目からしても一目瞭然だった。
それを知ってか知らずか、リグダミスは鼻を鳴らしながらその男を軽く突き飛ばした。
「面倒をかけるな。過去のことを謝罪するつもりはないし、お前がどんな態度で私に接しようが言葉を取り消すつもりはない。お前たちは魔力を提供してくれる客ではあるが、お前たちの場合、『魔力タンク』と言っても支障がないほどに後がない。『魔力タンク』に対して危害を加えないように配慮することはできないし、もちろん絶対にお前たちに危害を加えないなんて約束することもできない。最悪の結果死んでしまうことだってあるかもしれないが、それでもお前たちは私の提案に乗る以外に道はないだろう?」
「っ……足元見やがって! わかったよ、どうせ俺はそれ以外どうしようもないんだからな」
ぷいっと、そっぽを向けて子供のように意地を張るスティルと違って、もう一人の魔力提供者イロアスはにっこりと笑みを浮かべて冷静さを保ったままだ。
「リグダミス様がそうであるように、私達にも時間的猶予はございません。仕事は早々に終わらせるとしましょう」
「ああ、私もそのつもりだ」
リグダミスはそう言うと、懐から一本の瓶を取り出すと僕の方に差し出した。
瓶の中には何かしらの液体が入っていて、それが魔力水と呼ばれる魔物のなれの果てだという事は瞬時に理解できた。僕は無言でそれを受け取ると、手に持っていた杖を軽く掲げる。
「よろしいですか?」
先ほどの脅し文句のように『死』を迎えるようなことはないだろうが、それでも魔力を持って行かれるという事には多少なりとも恐怖心があるだろう。人類と言うものは初めての出来事に対して耐性を持たない。いつ何時、新たな試みをするときであっても常に緊張感を抱いているはずだ。
そう考えると僕も単なる人類でしかなかったようだ。異世界に転生使用が、初めての出来事という事にはなれそうにもない。
その点、この世界の住人は末恐ろしい。
「もちろん大丈夫です。いつでも――」
「待て、ガキ……俺からにしろ。そんでもし俺が死んだら、報酬は全てイロアスにやってくれ。まあ俺が死ぬことなんてありえないがな」
なんてやり取りを冷静さを失うこともなくやってのけるのだから。しかも、俺が私が、と2人で延々と繰り返している。よくよく考えればそれほど冷静とは言えないのかもしれない。
「どっちでもいいから、さっさとしないか……」
「じゃあ、俺だ。それだけは譲れねえ」
リグダミスの言葉に、スティルが鋭い眼光をこちらに向けた。『もし断れば殺す』と言わんばかりに殺意のこもった瞳だ。
僕としてはどっちでもいいし、どっちが先にやったとしても死ぬまではいかないことをチンピラに対する実験で実証していたから本当にどうでもよかった。ただ、殺されるのは嫌なので同意しておく。
「わ……わかりました」
イロアスに対して掲げていた杖の対象を変え、スティルの肩に当てる。
「これだけか?」
「いいえ、魔力を放出してください。僕の力では体内の魔力まで吸い出すことは出来ません」
「俺は魔法使いとしての才能がまるでない。魔力の放出方法なんて知らねぇぞ?」
「え? それでは魔力がないという事ですか?」
「なんでそうなる。魔力は獣人にとっての生命維持に必要なものだぞ、存在しないなんてことはあり得ねぇだろうが! ただ、残念なことに魔法適性がねぇ……」
魔力特性と言うのは、確か体内の魔力を操る能力のことだったはず。それがないという事は魔力を体外に放出することも出来ないし、即ち魔力を吸収する手段もない。いやないというわけではないが、人が無意識に体外に放出する魔力量はわずかで、それをちまちまと吸収し続けていたのでは時間がかかりすぎる。
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「よくわからねえが……対象が魔力を体外に放出しなきゃ、魔力を吸収できないという事かぁ?」
スティルが面倒くさそうにそう訊ねる。
しかし、それはさっき僕が説明したことだ。同じ説明は何度もする必要がない。
「はい」
僕は面倒ながらもそう答える。もちろん、さっきも説明したが出来ないわけではない。
「なるほど……時間の無駄というのはそういう意味か……」
背後でリグダミスが何かをつぶやいたような気がした。僕はその言葉を聞き取ることが出来なかったが、彼は特に僕に何かを尋ねたような様子でもなかったので聞き返すことはしなかった。
「じゃあ、俺は提供することが出来ねぇってことだな!?」
「いいや、そうでもないさ。方法はある。それは私が知っている」
僕に迫るスティルを面倒くさそうになだめながら、リグダミスはそう言い切る。神によって魔力を武器として使用することにおいては全てを知っている僕が知らないことを知っているというのは、どうにも眉唾物であるように感じなくもないが、神が適当な存在だという事を嫌になるほど思い知らされている僕としては何となく信用できなくもない。
僕達人類にとっては武器としての使用法であったとしても、それは神にとっては武器と呼べるような代物ではないかもしれないという事だ。現に僕は魔力を吸い出して使うなんて方法は頭の中に存在していなかった。そこにこそ、神と獣人の意識差が存在しているのかもしれない。
「その方法ってのはなんだ!? 俺は一刻も早くこんなこと終わらせてぇ……リグダミス、知っているならばさっさと教えろ」
今度はリグダミスに突っかかるスティルをイロアスがなだめる。
「時間は有限よ。強さは時には時間を無意味に消費するものよ……スティル、聡明なあなたならわかるでしょう?」
その言葉が皮肉なのかそれとも事実なのかはわからないが、ともかくそれでスティルが黙り込んだのだから彼女の思惑は成功したという事だ。
それに対してリグダミスが頭を軽く下げる。
「ありがとうスティル。私の言葉を代弁してくれて……ああ、そうだった。魔力適性がない獣人から魔力を放出させる方法は簡単だ。道具も何もいらない。ただ『精神統一』するだけだ」
彼が頭を下げたという動作だけでも驚きだが、もっとも驚愕すべきことは彼の話した内容だ。
「せ、精神統一……? そんなもので……」
僕はあまりにも驚いてしまって思わずそうこぼした。
「これは超古代的な思想になるが、精神統一で雑念を消すと集中力が増すと考えられていたそうだ。しかし、それも近代になってようやく解明され、心の内の雑念を消し去ることによって、魔力の循環を高めて体の外に魔力を排出することによって無駄な魔力がなくなり、その結果集中力が増すという事がわかった」
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