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10 伝説の魔法
95 次期勇者
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去って行く二人を身を繰りながら、僕はふと疑問が頭に浮かんだ。
二人ほどの魔力を持っていて、第一線から退いた人物がほかにいるのだろうか? リグダミスの物言いからすればそんな人材は存在しない。
「効率よく魔力を集めるためには必要なものは……」
唐突にリグダミスがひとり言を口にする。
最初は僕に向かって言ったのかと勘違いしたが、間違いなくひとり言だ。
なぜそう思うかというと、彼が一ミリたりともこちらを振り向いてはいなかったからだ。まあ、嫌いな種族のためにいちいち振り向くという行為をしないというだけだという可能性も捨てきれないが、好意もなく信頼関係そのものがない相手に対して、振り向かずに意思疎通を図れると考えるほど愚かな男ではないはずだ。
そう結論付けて僕は沈黙を続けた。
「私の力でも……いや、それでは今回のことが無意味になる。何事にも後継は必要だからな」
引き続きぶつくさと言っているが、彼の足は間違えることなく裏道から表通りに進む。
「……だが今回の事でわかったが、やはり知能レベルが私より数段劣るだろう。おそらく自分では思考の……その奥の真実にたどり着けないほどに」
その言葉を口にした後は沈黙した。
僕はそんな彼の後を静かに物音ひとつたてずについていく。
◇
彼の足はそのまま、イチゴの店まで進んだ。
「ここにきた理由を聞かせてもらおうか?」
イチゴは今にも人を殺しそうな表情を浮かべて、リグダミスに詰め寄る。しかし、彼はいまだに思考の中に籠ったまま出てくる様子もない。
「どういうことだ?」
あまりにも彼が黙りこんでいるものだから、イチゴが僕のほうに尋ねる。
「わかりません。ずっと何かを考えるように黙り込んだまま、そのままここに来ましたから……」
無意識のうちにこの店に訪れたというのなら、彼は相当この店のことが好きなのだろうが、もちろん犬種が嫌いな彼にとってそれはありえないことだ。
「まあいい。それで、こいつからの依頼はどうだったんだ? どうせろくなことじゃないとは思うが……ろくなことじゃなければこいつをここで始末してやる」
「大丈夫ですよ。よくは分かりませんが、危険なことじゃなかったんで……まあ危険なことだったとしても、この前の依頼、前金をいただいておきながら、達成することが出来なかったですからその埋め合わせ程度は……」
なんといっても、この男には借りを作ったままにはしておきたくない。
イチゴはほんの少しだけ不満げな表情を作りながらも、「お前がそれでいいならそれでいい」と口にして、僕の目の前に料理を差し出した。
「これは?」
「仕事の後だ。腹が減っているだろう?」
作りたての……とはいかないが、おいしそうな料理だ。それがなんという料理家は分からないが、見た感じはビーフシチューに似ている。
「ありがとうございます」
「お礼なんかいらないさ……出世払いだからな」
照れ隠しなのか、イチゴは僕から顔をそむけて淡々とそう口にした。
「出世払い……ですか」
「不満なのか?」
僕のある意味不満そうな声に対して、威圧感のない口調で彼女は聞き返してくる。
「いえ、僕が『一流の冒険者』になれるのはどれほど先かなぁ……と」
「一流の冒険者ってのは、なっても大した金にはならない。だが早々なれるものじゃない。私も何年もの間努力を重ねて、ようやくそう呼ばれるようになった……努力だけなれる生易しいものじゃないし、なれたとしても手にはるのは名誉だけだ。私はそれを出世とは思っていない。もっと上を目指せ」
「上?」
冒険者にはわかりやすいランクみたいなものがあるわけじゃない。周りから一流の冒険者として認められて、それでようやく単価の高い仕事を任されるようになるわけだ。
つまり、一流の冒険者になることは、即ち出世になると思うのだが……『上』?
「冒険者であるうちは下の下という事だ。冒険者は確かに信頼を実績を得れば稼ぐことが出来るだろう……しかしだ。それは割に合わない……たかが知れている。それでようやく稼げるようになったとしても、並み以下の犬畜生には生き残ることすら出来ないだろう。社会的ステータスで言えば、言ってしまえばこんな寂れた飲食店の店主……いいや、アルバイトよりも下と言ってもいい」
「いつ正気に?」
「言葉に気をつけろ。犬。私は最初から正気だ。考え事をしていても外界からの言葉は全て聞こえている」
いつの間にか現実に帰ってきていたリグダミスは、僕の失言に対して本気で怒るわけでもなく、静かに椅子に腰かける。
「まあいい。とにかく私にも何か作ってくれ……貴族の食事は口に合わないからな」
「どうして私がお前に飯を作らなくちゃいけない……」
「決まっているだろう? 私は客だ」
それを聞いて、イチゴは店中に聞こえるような大きな舌打ちをしながらも料理を作り始めた。
勝ち誇った表情でいるリグダミスだが、すぐにその表情を崩して僕の方を振り向いた。
「私にとっては、お前は新しい勇者の守護者……単なる犬畜生でしかないが、あいつにとっては違う。この世界において、冒険者という職業が下卑たものかを理解しているからこそ、犬の王としてお前たちを守りたいのだろうな」
「それって……」
「だが残念なことに勇者は選択できない。わが娘と同様に、お前の妹は勇者に……冒険者になるしか選択肢がない。次期勇者が現れるまではな」
彼の表情が曇る。
だがその言葉でようやく理解した。なぜ、彼がそこまでポーションにこだわるのかという事を。
二人ほどの魔力を持っていて、第一線から退いた人物がほかにいるのだろうか? リグダミスの物言いからすればそんな人材は存在しない。
「効率よく魔力を集めるためには必要なものは……」
唐突にリグダミスがひとり言を口にする。
最初は僕に向かって言ったのかと勘違いしたが、間違いなくひとり言だ。
なぜそう思うかというと、彼が一ミリたりともこちらを振り向いてはいなかったからだ。まあ、嫌いな種族のためにいちいち振り向くという行為をしないというだけだという可能性も捨てきれないが、好意もなく信頼関係そのものがない相手に対して、振り向かずに意思疎通を図れると考えるほど愚かな男ではないはずだ。
そう結論付けて僕は沈黙を続けた。
「私の力でも……いや、それでは今回のことが無意味になる。何事にも後継は必要だからな」
引き続きぶつくさと言っているが、彼の足は間違えることなく裏道から表通りに進む。
「……だが今回の事でわかったが、やはり知能レベルが私より数段劣るだろう。おそらく自分では思考の……その奥の真実にたどり着けないほどに」
その言葉を口にした後は沈黙した。
僕はそんな彼の後を静かに物音ひとつたてずについていく。
◇
彼の足はそのまま、イチゴの店まで進んだ。
「ここにきた理由を聞かせてもらおうか?」
イチゴは今にも人を殺しそうな表情を浮かべて、リグダミスに詰め寄る。しかし、彼はいまだに思考の中に籠ったまま出てくる様子もない。
「どういうことだ?」
あまりにも彼が黙りこんでいるものだから、イチゴが僕のほうに尋ねる。
「わかりません。ずっと何かを考えるように黙り込んだまま、そのままここに来ましたから……」
無意識のうちにこの店に訪れたというのなら、彼は相当この店のことが好きなのだろうが、もちろん犬種が嫌いな彼にとってそれはありえないことだ。
「まあいい。それで、こいつからの依頼はどうだったんだ? どうせろくなことじゃないとは思うが……ろくなことじゃなければこいつをここで始末してやる」
「大丈夫ですよ。よくは分かりませんが、危険なことじゃなかったんで……まあ危険なことだったとしても、この前の依頼、前金をいただいておきながら、達成することが出来なかったですからその埋め合わせ程度は……」
なんといっても、この男には借りを作ったままにはしておきたくない。
イチゴはほんの少しだけ不満げな表情を作りながらも、「お前がそれでいいならそれでいい」と口にして、僕の目の前に料理を差し出した。
「これは?」
「仕事の後だ。腹が減っているだろう?」
作りたての……とはいかないが、おいしそうな料理だ。それがなんという料理家は分からないが、見た感じはビーフシチューに似ている。
「ありがとうございます」
「お礼なんかいらないさ……出世払いだからな」
照れ隠しなのか、イチゴは僕から顔をそむけて淡々とそう口にした。
「出世払い……ですか」
「不満なのか?」
僕のある意味不満そうな声に対して、威圧感のない口調で彼女は聞き返してくる。
「いえ、僕が『一流の冒険者』になれるのはどれほど先かなぁ……と」
「一流の冒険者ってのは、なっても大した金にはならない。だが早々なれるものじゃない。私も何年もの間努力を重ねて、ようやくそう呼ばれるようになった……努力だけなれる生易しいものじゃないし、なれたとしても手にはるのは名誉だけだ。私はそれを出世とは思っていない。もっと上を目指せ」
「上?」
冒険者にはわかりやすいランクみたいなものがあるわけじゃない。周りから一流の冒険者として認められて、それでようやく単価の高い仕事を任されるようになるわけだ。
つまり、一流の冒険者になることは、即ち出世になると思うのだが……『上』?
「冒険者であるうちは下の下という事だ。冒険者は確かに信頼を実績を得れば稼ぐことが出来るだろう……しかしだ。それは割に合わない……たかが知れている。それでようやく稼げるようになったとしても、並み以下の犬畜生には生き残ることすら出来ないだろう。社会的ステータスで言えば、言ってしまえばこんな寂れた飲食店の店主……いいや、アルバイトよりも下と言ってもいい」
「いつ正気に?」
「言葉に気をつけろ。犬。私は最初から正気だ。考え事をしていても外界からの言葉は全て聞こえている」
いつの間にか現実に帰ってきていたリグダミスは、僕の失言に対して本気で怒るわけでもなく、静かに椅子に腰かける。
「まあいい。とにかく私にも何か作ってくれ……貴族の食事は口に合わないからな」
「どうして私がお前に飯を作らなくちゃいけない……」
「決まっているだろう? 私は客だ」
それを聞いて、イチゴは店中に聞こえるような大きな舌打ちをしながらも料理を作り始めた。
勝ち誇った表情でいるリグダミスだが、すぐにその表情を崩して僕の方を振り向いた。
「私にとっては、お前は新しい勇者の守護者……単なる犬畜生でしかないが、あいつにとっては違う。この世界において、冒険者という職業が下卑たものかを理解しているからこそ、犬の王としてお前たちを守りたいのだろうな」
「それって……」
「だが残念なことに勇者は選択できない。わが娘と同様に、お前の妹は勇者に……冒険者になるしか選択肢がない。次期勇者が現れるまではな」
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だがその言葉でようやく理解した。なぜ、彼がそこまでポーションにこだわるのかという事を。
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