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10 伝説の魔法
111 才能と使い方10
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「そんなことより……続けるよ?」
ケントニスの顔からは笑顔は消え失せ、一瞬にして臨戦態勢に入る。
拳をこちらに構えて僕が立ち上がるのを待つ姿は、どう考えたって魔法使いのそれではない。一流の格闘家と素人の僕が戦わされているような錯覚にすら陥る。
「これって、魔力の修行ですよね?」
というか、なんで僕は僕よりも遥かに体躯の小さい彼女にボコボコにされているのだろう。変態的趣味の輩なら喜ぶこと請け合いだが、僕は変態じゃない。
そんな僕の疑問に対して、彼女は気合を消すように小さく息を吐いた。もちろんその後は表情も崩して、ニコニコと僕を説得し始めるのだ。
「だから魔力のコントロールを実戦できちんと出来るようにする修行じゃない。もしかして、痛すぎてビビっちゃったってこと? 大丈夫、大丈夫……私が本気で攻撃したって、魔王レベルの攻撃にはならないから」
全く説得力のない言葉だ。
「いや、それはどういう基準なんですか!? 最強の存在を引き合いに出されたって……」
そこまで口にしたところで、僕の背後にあった木に拳が叩き込まれた。いや、叩き込まれたと言うのは正確ではない。たぶん叩き込まれたのだろう……と言うのが正確だ。僕の目には叩き込まれた瞬間が見えなかったから。
だけど見なくてもわかる。なぜって、ものすごい音が鳴り響いたから。
だが見ないと気になって仕方がない。
僕はゆっくりと背後を振り返る。
「……え?」
通常であれば、木が折れているんだろうな……なんて当たり前のことを考えるだろう。
だけどそれは全然間違っていた。木は今も何事もなかったかのように立っている……ただ1つ、丁度ケントニスの拳より一回りだけ大きな穴が開いていて反対側が見えているという事以外はだが。
「ね? 私の本気ってこんなものよ! 吹き飛ばすか、貫くことしかできない。体の力を使っているわけじゃないからね?」
『だから安心して』、みたいな風に言われてもまるで安心できない。
というか、むしろ木をへし折ることよりも遥かにすごいことをしていると思う。高さ20メートル、幹周15メートルほどの大木を反対側まで貫通するような鋭い拳で貫いたというわけだ。すごくないわけがない。
だからこそむしろ、今の攻撃は僕を安心させるものではなく、脅すために放たれたものであるというのが一番考えやすい。『さっさとかかって来なかったら……ぶっ潰すぞ?』と言われたようなものだ。恐ろしすぎて漏らしてしまいそうだ。
「わ、わかりました! 続けましょう」
「わかってくれると思っていたよ! じゃあ、続けようか……」
僕が立ち上がったのを確認すると同時に、彼女は再び笑顔から強張った顔へと変化する。
彼女の修行は確かに恐ろしいものだが、それ以上に彼女の笑顔が怖い。
彼女の笑顔は僕を安心させるために用意しているだけで、その実、内心では笑顔ではない。つまり表情は多才に変化するが、誰にも感情を悟らせることのないポーカーフェイスという事だ。雰囲気で苛立っているのか、喜んでいるのかを想像しなければ、いつか大変なことになる。
まさか殺されることはないだろうが、ぐちぐちと弱音ばかり吐いていては痛い目に合わされるかもしれない。
おしゃべりで、幼い見た目からは想像できないが、彼女はこと修行という事に関しては鬼よりも鬼だ。
「かかってきなよ?」
クイックイと手まねきをするケントニス。
その表情の奥には恐ろしい力を隠していて、それなのに文句の1つも言わずに僕なんかに修行をつけてくれている。
だったら彼女に恐怖を抱いて日和見ばかりをしているわけにはいかない。
理由はどうであれ、最高の魔法使いが修行をつけてくれているのだから。
「行きます!」
今度は先ほどのまでの失敗を生かすと共に、彼女からもらったアドバイス通り地に足をついて彼女に拳をぶつける。
彼女は突出し僕の右手を難なく左手でいなす。
「これほど近いと、かわすことは難しいわね……いやそれとも魔力コントロールの速度が上がってきているのかしら?」
「さあ、それは分かりませんが、今度は吹き飛ばされませんよ?」
「それはどうかしら?」
来た彼女の右腕から放たれる攻撃。3回目も同じだ。
彼女は手加減のつもりか、さっきからみぞおち以外を狙おうとしない。
僕はそれを待っていた。
下半身に出来る限りの魔力を集中させる。彼女の拳は2回ともそれほど速くはなかった。スピードが乗っていないというのだろうか……ともかく、しっかりと集中していれば止めることが出来ないほどのものではなかったのだ。
僕は下半身全体に魔力が一定量行き届いたことを確認して、今度は左腕全体に魔力を行き渡らせる。
「もっと早くよ!」
彼女の怒号が響き渡る。
そんなことは言われなくてもわかっている。僕の魔力コントロールが間に合いそうにないことぐらい。
コントロールさえうまく早くできれば、絶対に止められる攻撃だ。何とかして早く……もっと早く。
「臨機応変に!!」
続けて投げかけられた言葉に僕はハッとさせられた。
そうだ。何も全力で『防ぐ』必要なんてない。彼女はいつもそうしていた。僕もそうするしか道はない。
「間に合え!」
僕は小さな願いを口にした。
防ぐ必要はない。彼女の右手をいなせばいい。いなせることが出来れば彼女の攻撃が僕の本丸に届くことはない。
「いい線いってたけど……これが君の限界だね」
突然、彼女の拳が加速する。
ダメだ。まるで間に合いそうにない。
一回目よりも、二回目よりも遥かにスピードを上げた拳が、威力を上げた拳が魔力という防具を身にまとっていない腹にぶつかれば……それ即ち命の危険がある。
拳がぶつかるまで数センチ。もはや、僕が魔力を込めることが出来ていない左手を捨てるつもりで動かしても間に合うことはない。腹に魔力を込めるのなんてもっと間に合いそうにない。今のままの魔力コントロール速度では……どうあがいても間に合わない。
――それでも諦めるわけにはいかない!
「もう少しだけ早く……」
集中力を限界まで高める。
僕には才能がない。勉強するときも注意散漫だし、いつも余計なことばかりを考えている。目の前の敵を見ながら妹の心配をしてみたり、自称魔王と戦いながら、時間稼ぎすることばかりを考えていた。
僕は目の前の敵と向き合ったことがない。それは、この世界で命を懸ける戦いの中でだけ言えることじゃない。高校受験の時も、大学受験の時も、就職試験のときだって本気で現実と向き合えなかった。いいや、向き合うことが出来なかった。
「だから……」
僕の人生はあんなことになった。
そのこと自体はそれほど後悔していないが、今回は僕だけの人生ではない。ダメだ……全然集中できていない。
「気を抜きすぎだね!」
魔力を腹に込める前に、ケントニスの拳が腹にぶつかった。
僕は生命の終わりを悟った。
ケントニスの顔からは笑顔は消え失せ、一瞬にして臨戦態勢に入る。
拳をこちらに構えて僕が立ち上がるのを待つ姿は、どう考えたって魔法使いのそれではない。一流の格闘家と素人の僕が戦わされているような錯覚にすら陥る。
「これって、魔力の修行ですよね?」
というか、なんで僕は僕よりも遥かに体躯の小さい彼女にボコボコにされているのだろう。変態的趣味の輩なら喜ぶこと請け合いだが、僕は変態じゃない。
そんな僕の疑問に対して、彼女は気合を消すように小さく息を吐いた。もちろんその後は表情も崩して、ニコニコと僕を説得し始めるのだ。
「だから魔力のコントロールを実戦できちんと出来るようにする修行じゃない。もしかして、痛すぎてビビっちゃったってこと? 大丈夫、大丈夫……私が本気で攻撃したって、魔王レベルの攻撃にはならないから」
全く説得力のない言葉だ。
「いや、それはどういう基準なんですか!? 最強の存在を引き合いに出されたって……」
そこまで口にしたところで、僕の背後にあった木に拳が叩き込まれた。いや、叩き込まれたと言うのは正確ではない。たぶん叩き込まれたのだろう……と言うのが正確だ。僕の目には叩き込まれた瞬間が見えなかったから。
だけど見なくてもわかる。なぜって、ものすごい音が鳴り響いたから。
だが見ないと気になって仕方がない。
僕はゆっくりと背後を振り返る。
「……え?」
通常であれば、木が折れているんだろうな……なんて当たり前のことを考えるだろう。
だけどそれは全然間違っていた。木は今も何事もなかったかのように立っている……ただ1つ、丁度ケントニスの拳より一回りだけ大きな穴が開いていて反対側が見えているという事以外はだが。
「ね? 私の本気ってこんなものよ! 吹き飛ばすか、貫くことしかできない。体の力を使っているわけじゃないからね?」
『だから安心して』、みたいな風に言われてもまるで安心できない。
というか、むしろ木をへし折ることよりも遥かにすごいことをしていると思う。高さ20メートル、幹周15メートルほどの大木を反対側まで貫通するような鋭い拳で貫いたというわけだ。すごくないわけがない。
だからこそむしろ、今の攻撃は僕を安心させるものではなく、脅すために放たれたものであるというのが一番考えやすい。『さっさとかかって来なかったら……ぶっ潰すぞ?』と言われたようなものだ。恐ろしすぎて漏らしてしまいそうだ。
「わ、わかりました! 続けましょう」
「わかってくれると思っていたよ! じゃあ、続けようか……」
僕が立ち上がったのを確認すると同時に、彼女は再び笑顔から強張った顔へと変化する。
彼女の修行は確かに恐ろしいものだが、それ以上に彼女の笑顔が怖い。
彼女の笑顔は僕を安心させるために用意しているだけで、その実、内心では笑顔ではない。つまり表情は多才に変化するが、誰にも感情を悟らせることのないポーカーフェイスという事だ。雰囲気で苛立っているのか、喜んでいるのかを想像しなければ、いつか大変なことになる。
まさか殺されることはないだろうが、ぐちぐちと弱音ばかり吐いていては痛い目に合わされるかもしれない。
おしゃべりで、幼い見た目からは想像できないが、彼女はこと修行という事に関しては鬼よりも鬼だ。
「かかってきなよ?」
クイックイと手まねきをするケントニス。
その表情の奥には恐ろしい力を隠していて、それなのに文句の1つも言わずに僕なんかに修行をつけてくれている。
だったら彼女に恐怖を抱いて日和見ばかりをしているわけにはいかない。
理由はどうであれ、最高の魔法使いが修行をつけてくれているのだから。
「行きます!」
今度は先ほどのまでの失敗を生かすと共に、彼女からもらったアドバイス通り地に足をついて彼女に拳をぶつける。
彼女は突出し僕の右手を難なく左手でいなす。
「これほど近いと、かわすことは難しいわね……いやそれとも魔力コントロールの速度が上がってきているのかしら?」
「さあ、それは分かりませんが、今度は吹き飛ばされませんよ?」
「それはどうかしら?」
来た彼女の右腕から放たれる攻撃。3回目も同じだ。
彼女は手加減のつもりか、さっきからみぞおち以外を狙おうとしない。
僕はそれを待っていた。
下半身に出来る限りの魔力を集中させる。彼女の拳は2回ともそれほど速くはなかった。スピードが乗っていないというのだろうか……ともかく、しっかりと集中していれば止めることが出来ないほどのものではなかったのだ。
僕は下半身全体に魔力が一定量行き届いたことを確認して、今度は左腕全体に魔力を行き渡らせる。
「もっと早くよ!」
彼女の怒号が響き渡る。
そんなことは言われなくてもわかっている。僕の魔力コントロールが間に合いそうにないことぐらい。
コントロールさえうまく早くできれば、絶対に止められる攻撃だ。何とかして早く……もっと早く。
「臨機応変に!!」
続けて投げかけられた言葉に僕はハッとさせられた。
そうだ。何も全力で『防ぐ』必要なんてない。彼女はいつもそうしていた。僕もそうするしか道はない。
「間に合え!」
僕は小さな願いを口にした。
防ぐ必要はない。彼女の右手をいなせばいい。いなせることが出来れば彼女の攻撃が僕の本丸に届くことはない。
「いい線いってたけど……これが君の限界だね」
突然、彼女の拳が加速する。
ダメだ。まるで間に合いそうにない。
一回目よりも、二回目よりも遥かにスピードを上げた拳が、威力を上げた拳が魔力という防具を身にまとっていない腹にぶつかれば……それ即ち命の危険がある。
拳がぶつかるまで数センチ。もはや、僕が魔力を込めることが出来ていない左手を捨てるつもりで動かしても間に合うことはない。腹に魔力を込めるのなんてもっと間に合いそうにない。今のままの魔力コントロール速度では……どうあがいても間に合わない。
――それでも諦めるわけにはいかない!
「もう少しだけ早く……」
集中力を限界まで高める。
僕には才能がない。勉強するときも注意散漫だし、いつも余計なことばかりを考えている。目の前の敵を見ながら妹の心配をしてみたり、自称魔王と戦いながら、時間稼ぎすることばかりを考えていた。
僕は目の前の敵と向き合ったことがない。それは、この世界で命を懸ける戦いの中でだけ言えることじゃない。高校受験の時も、大学受験の時も、就職試験のときだって本気で現実と向き合えなかった。いいや、向き合うことが出来なかった。
「だから……」
僕の人生はあんなことになった。
そのこと自体はそれほど後悔していないが、今回は僕だけの人生ではない。ダメだ……全然集中できていない。
「気を抜きすぎだね!」
魔力を腹に込める前に、ケントニスの拳が腹にぶつかった。
僕は生命の終わりを悟った。
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