118 / 170
10 伝説の魔法
116 才能と使い方15
しおりを挟む
「それはダメだ……」
メリーの道はメリーのものだ。
それは僕の夢、計画がとん挫しようとも変わらない。いいや、むしろ僕の夢のために犠牲になっていいものではない。僕の親友が僕を守ってくれたように、僕は妹を守らなければならない。それが僕に出来る唯一の恩返しなのだから。
視線をゆっくりとケントニスの方に向ける。
妹を人質に取られたようなものなのだから、普通なら怒り狂いたくなっても仕方がないはずなのに、不思議と怒りは湧いてこない。むしろ、何か力が体の奥底からあふれてくるようなそんな感じだ。今までに何ほどに集中力が高まって、ケントニスが次にどう動くかがわかるような気がした。
次に彼女は口角を少しだけ上げて、そしてこちらに飛び出してくるだろう。
そう頭が警告した時、それと全く同じことが起きた。
それに対応すべく、僕の体は僕の意識よりも早く行動を開始する。
伸びる彼女の右腕を軽く紙一重でかわし、そして間髪入れずに襲いくる左手の一撃を右手でつかむ。その間が一体どれぐらいの時間だったのかはわからないが、非常に長い時間だったようにも感じられる。
そして再び彼女が笑う。
「魔力の循環を高めるのは、怒りでも悲しみでもなく。愛なんだよ」
実際にそう彼女が口にしたのかどうかは分からないが、確かにそう頭の中に声が響き渡った。
愛というものが、人の精神に力を与えるというのはどこかで聞いたことがある。愛ゆえに人は戦い、愛ゆえに人は勝利を収めてきた。だがそれは、あくまで人間の中に流れている博愛の心によるものではなく、もっとエゴ的なものによる欲望の産物だと僕は考えてきた。
人類は金を欲を愛し、そして人を愛してきたが故に世界を救い、そして他の生命をおろそかにしてきた。それ故に結果として人類は絶滅してしまったのだと考えてきた。でもそれは違ったのかもしれない。
愛で世界が滅びることはない……そう言い切ることは出来ないが、愛が人類を滅亡させたわけではないのかもしれない。
出来るだけ集中を解くために、僕はそんな余計なことをひたすらに考え続けた。
時間はかかったが、体が自由を取り戻し、そしてその途端に体中の力が抜ける。
「これが『気づき』ですか?」
そう口にしたつもりだったが、自分で出そうと思った声量を遥かに下回り、かすれた声で人の耳に聞こえるかどうか微妙な程度の声しか出なかった。
だがやはり、ケントニスも獣人であるのだろう。そんな小さな声ですら聞き逃すことはない。
「もちろん。でもそれは数多ある『気づき』の一つでしかない。それに、やっぱり集中力が高まりすぎてもいいことはなかったでしょう?」
「はい。一気に疲れました」
「緊張の糸が切れたんだろうね……でもまさか、二発目も止められるとは思ってなかったから驚いたよ」
そうくすくすと笑って、そして「さっきはごめんね」と彼女は謝罪する。
おそらく、妹を協会に売るという話のことだろう。僕は何となくそれを冗談だと思っていたので、別段起こる気にもなれなかったが、彼女の意外と律儀らしい。
「獣人って言うのは変な生き物で、魔物のように愛を直情的に訴えることも出来ないし、集中しようと思えば思う程に集中できない生き物なんだ。もしかしたら、旧人類の性質を運悪く……いいや、運よく引き継いでしまったのかもしれないね」
『運よく』と言いなおした彼女の言葉には、どこかはかなげさを感じさせるものがあったが、それ以上に気になることもある。
「ケントニスさんも人間を?」
「うん、魔力の根源は旧人類、つまるとこの『人間』に由来しているからね……もちろん調べたさ。ネコのばあ様にも色々教えてもらったしね」
やっぱり、この世界は人間が滅亡した後の世界なんだ。
ケントニスは女神の存在も知っているし、もしかしたら、僕と同じ転生者なのかもしれない。そんな考えが浮かんだが、リグダミスの件もあるので今はそれを口にしないことにした。
しかし、もし仮にこの世界が僕がいた世界の果てしないぐらいの未来だとするなら、どうして女神は異世界だなんて嘘を吐いたのだろう。その点がよくわからない。
そんなことを考えていると、ケントニスが思考を邪魔するように僕の肩を何度かたたく。
「まま、余計なことは考えずに修業を続けようよ。せっかくいいところなんだからさ……」
「え、いや、でも……もう魔力を操れるだけの集中力が……」
「魔物だって、獣人だって……敵は君がどんな状況であったとしても待ってはくれないよ? むしろ、虫の息の時にこそ殺してやろうって、そう考えるとは思わない?」
確かにその通りだし、僕だってそう思うのだが……実のところ、さっき彼女の攻撃を受け止めた右手がちぎれんばかりに悲鳴を上げている。それだけで、もはや集中力を高めるなんてことは不可能に近い。でもそれを口にしたところで、『戦いに痛みはつきものだし、攻撃されただけで戦えなくならなくなるように修行するべきじゃない?』とかなんとか言って、やっぱり修行に持ち込まれることだろう。
つまり、今の時点ですでに僕は詰んでいるという事だ。
メリーの道はメリーのものだ。
それは僕の夢、計画がとん挫しようとも変わらない。いいや、むしろ僕の夢のために犠牲になっていいものではない。僕の親友が僕を守ってくれたように、僕は妹を守らなければならない。それが僕に出来る唯一の恩返しなのだから。
視線をゆっくりとケントニスの方に向ける。
妹を人質に取られたようなものなのだから、普通なら怒り狂いたくなっても仕方がないはずなのに、不思議と怒りは湧いてこない。むしろ、何か力が体の奥底からあふれてくるようなそんな感じだ。今までに何ほどに集中力が高まって、ケントニスが次にどう動くかがわかるような気がした。
次に彼女は口角を少しだけ上げて、そしてこちらに飛び出してくるだろう。
そう頭が警告した時、それと全く同じことが起きた。
それに対応すべく、僕の体は僕の意識よりも早く行動を開始する。
伸びる彼女の右腕を軽く紙一重でかわし、そして間髪入れずに襲いくる左手の一撃を右手でつかむ。その間が一体どれぐらいの時間だったのかはわからないが、非常に長い時間だったようにも感じられる。
そして再び彼女が笑う。
「魔力の循環を高めるのは、怒りでも悲しみでもなく。愛なんだよ」
実際にそう彼女が口にしたのかどうかは分からないが、確かにそう頭の中に声が響き渡った。
愛というものが、人の精神に力を与えるというのはどこかで聞いたことがある。愛ゆえに人は戦い、愛ゆえに人は勝利を収めてきた。だがそれは、あくまで人間の中に流れている博愛の心によるものではなく、もっとエゴ的なものによる欲望の産物だと僕は考えてきた。
人類は金を欲を愛し、そして人を愛してきたが故に世界を救い、そして他の生命をおろそかにしてきた。それ故に結果として人類は絶滅してしまったのだと考えてきた。でもそれは違ったのかもしれない。
愛で世界が滅びることはない……そう言い切ることは出来ないが、愛が人類を滅亡させたわけではないのかもしれない。
出来るだけ集中を解くために、僕はそんな余計なことをひたすらに考え続けた。
時間はかかったが、体が自由を取り戻し、そしてその途端に体中の力が抜ける。
「これが『気づき』ですか?」
そう口にしたつもりだったが、自分で出そうと思った声量を遥かに下回り、かすれた声で人の耳に聞こえるかどうか微妙な程度の声しか出なかった。
だがやはり、ケントニスも獣人であるのだろう。そんな小さな声ですら聞き逃すことはない。
「もちろん。でもそれは数多ある『気づき』の一つでしかない。それに、やっぱり集中力が高まりすぎてもいいことはなかったでしょう?」
「はい。一気に疲れました」
「緊張の糸が切れたんだろうね……でもまさか、二発目も止められるとは思ってなかったから驚いたよ」
そうくすくすと笑って、そして「さっきはごめんね」と彼女は謝罪する。
おそらく、妹を協会に売るという話のことだろう。僕は何となくそれを冗談だと思っていたので、別段起こる気にもなれなかったが、彼女の意外と律儀らしい。
「獣人って言うのは変な生き物で、魔物のように愛を直情的に訴えることも出来ないし、集中しようと思えば思う程に集中できない生き物なんだ。もしかしたら、旧人類の性質を運悪く……いいや、運よく引き継いでしまったのかもしれないね」
『運よく』と言いなおした彼女の言葉には、どこかはかなげさを感じさせるものがあったが、それ以上に気になることもある。
「ケントニスさんも人間を?」
「うん、魔力の根源は旧人類、つまるとこの『人間』に由来しているからね……もちろん調べたさ。ネコのばあ様にも色々教えてもらったしね」
やっぱり、この世界は人間が滅亡した後の世界なんだ。
ケントニスは女神の存在も知っているし、もしかしたら、僕と同じ転生者なのかもしれない。そんな考えが浮かんだが、リグダミスの件もあるので今はそれを口にしないことにした。
しかし、もし仮にこの世界が僕がいた世界の果てしないぐらいの未来だとするなら、どうして女神は異世界だなんて嘘を吐いたのだろう。その点がよくわからない。
そんなことを考えていると、ケントニスが思考を邪魔するように僕の肩を何度かたたく。
「まま、余計なことは考えずに修業を続けようよ。せっかくいいところなんだからさ……」
「え、いや、でも……もう魔力を操れるだけの集中力が……」
「魔物だって、獣人だって……敵は君がどんな状況であったとしても待ってはくれないよ? むしろ、虫の息の時にこそ殺してやろうって、そう考えるとは思わない?」
確かにその通りだし、僕だってそう思うのだが……実のところ、さっき彼女の攻撃を受け止めた右手がちぎれんばかりに悲鳴を上げている。それだけで、もはや集中力を高めるなんてことは不可能に近い。でもそれを口にしたところで、『戦いに痛みはつきものだし、攻撃されただけで戦えなくならなくなるように修行するべきじゃない?』とかなんとか言って、やっぱり修行に持ち込まれることだろう。
つまり、今の時点ですでに僕は詰んでいるという事だ。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる
初
ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。
レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。
これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
『5階にトラック突撃!?ポンコツ女神の使役権と地球通販を得た医学生、辺境の村でワスプ薙刀と現代医療を駆使し最強防衛ライフを始める』
月神世一
ファンタジー
マンションの5階でカレーを作っていたら、なぜかトラックが突っ込んできた件。
外科医を目指す医学生・中村優太(24)は、特製の絶品バターチキンカレーを食べる寸前、マンションの「5階」に突撃してきた理不尽なトラックによって命を落としてしまう。
目を覚ますと、そこはコタツでカップ麺を啜るジャージ姿の駄女神・ルチアナの部屋だった。
「飲み会があるから定時で帰りたい」と適当な理由で異世界転移をさせられそうになる優太だったが、怒りのガラポン抽選でユニークスキル【地球ショッピング】と【女神ルチアナこき使い権】を引き当てる!
かくして、ポンコツ女神を強制連行して剣と魔法の世界『アナステシア』に降り立った優太。
しかし、彼にはただのチートスキルだけではない、元SEALs直伝の「CQB(近接戦闘術)」、有段者の「薙刀術」、そして何より「現代医療の知識」があった――!
降り立った辺境のポポロ村で彼を待っていたのは、クセが強すぎる住人たち。
キャルル: マッハの飛び蹴りを放つ、ファミレス大好きなウサ耳村長。
リーザ: タダ飯とポイ活に命を懸ける、図太すぎる地下アイドル人魚。
ルナ: 善意で市場や生態系を破壊する、歩く大災害の天然エルフ。
ルチアナ: 優太のポイントでソシャゲ課金と酒を目論む、労働拒否の駄女神。
優太は【地球ショッピング】で召喚した現代物資と、自身のサバイバル能力&薙刀術で野盗や魔物を無双! さらには特製のスパイスカレーで異世界人の胃袋を完全に掌握していく。
そして、村人に危機が迫った時。
優太の「絶対に命を救う」という善意の心が、奇跡の黄金ガチャを引き起こす……!
「俺は医者だ。この村の命も、平和な日常も、俺の戦術(スキル)で全部守り抜く!」
現代の【医療・戦術・料理】×【理不尽ギャグ】×【異世界サバイバル】!
凶悪な「ワスプ薙刀」を振るい、ヤバすぎる仲間たちと送る、最強医学生のドタバタ辺境防衛ライフが今始まる!
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる