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10 伝説の魔法
117 兄として1
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◇ ◇ ◇
「――全然優しくなかったんですけど……」
結局、体力がなくなったと幾度となく音を上げたが、ケントニスが途中で修行を中断することはなかった。むしろ、休憩と呼べる休憩すらなくて、教育熱心だった前世の両親が可愛く思えるほどに鬼教官だった。イチゴは何を持って彼女を優しいと言ったのだろう。それを理解するためには、たぶんもっと多くの時間を彼女と過ごさなければならないだろうが、そうなるともっと彼女に苦手意識を持ってしまう事になるかもしれない。
机に倒れ伏した情けない僕を見て、イチゴは大きなため息を吐く。
「馬鹿いえ……その場にいなかった私には想像することしかできないが、おそらく今の今まで修行に付き合ってくれたという事だろう? 普通の獣人なら昔の先輩の頼みであったとしても、そこまで付き合うことはないに決まっている。それこそ、ト二スが優しい証拠だろう?」
確かに、こんな遅くまで才能がないと自分自身が断言した相手に対して教えるなんてことは通常の精神の持ち主では出来ないのかもしれない。そう考えると、彼女は博愛精神にあふれるこの上なく優しい人物なのだろうと、何となくは感じることは出来た。
だけどそれにしてもだ……何もここまでやる必要性はないんじゃないかと僕は思う。それこそ、僕が甘えた精神の持ち主である証拠なのだろう。そんなことは自分でも理解している。
「わかってます。でも、愚痴ぐらい言わずには、あの修行にはついていけませんよ……もちろん、感謝はしていますし、出来ることならこれからも訓練をつけてくれるとありがいんですがね」
それでも、僕も獣人だ。過酷な試練を乗り越えるためには、それなり以上の覚悟と鍛え抜かれた精神が必要になることは理解しているが、やはりただの凡人なのだと理解させられているようで、なんだか自分がみじめにさえ思えてくる。
「愚痴を言うなとは言わないが、ト二ス以上にお前を鍛えられる獣人はこの国はおろか、世界中のどこを探してもいないだろう。この世には他人を後世として育てるなんて、そんな生易しいことをする存在は稀有だからな」
「まあそうなんでしょうね……大体の人がリグダミスのように打算的に人に教えを説くようなことはあっても、イチゴさんや、ケントニスさんのように何の見返りもなく助けてくれる人なんてあまりいないですからね……」
そう言って、一応はイチゴに同意する。
小さな世界しか知らない僕が何を言っても、所詮は井の中の蛙でしかないのだが、イチゴがそう言うのならたぶんそうなのだろう。
僕は何だか気分的にかなり落ち込んだ。
結局、人間が滅びて、野生動物が新人類として台頭しても、結局のところ人類はそれほど変わらなかったらしい。
「まあ、私だってそれほど世界を知っているわけではない。中にはそういう博愛精神にあふれた種族だっているかもしれないぞ? 世界は広いのだから」
イチゴはそう言って、僕の前に食事の乗ったプレートを差し出した。
今夜はステーキらしい。客はいまだにそれほどいないのに、食事は日増しに豪華になっているような気がする。まあ、それも魔物の肉だと考えると、なんとも複雑な気分だがわがままばかり言ってもいられない。
「いただきます」
僕は日本式挨拶をして、イチゴにお礼を言うと料理を口にした。
正直なところ、両親のことはあまり好きにはなれなかったが、こういったマナーに厳しく育ててくれたことだけには何度感謝したことだろう。人間社会を生き抜く上で、何度も助けられた。それは獣人になった今でもそうだ。基本的な礼儀作法を知っているからこそ、犬種であることを差別はされるものの必要以上に他種族に嫌われることはない。
イチゴに出された料理を平らげると今度は「ご馳走様でした」と両手を合わせた。
「お粗末さま」
最初こそイチゴは、僕のあいさつに奇異の目を向けていたが、今ではすっかりと慣れてくれたらしい。正直なところ神に祈るなんてごめんだから助かっている。
誰が僕をこんな目に遭わせた神になんて祈ってやるもんか。
「最近……」
「うん?」
思わず言葉に詰まった僕にイチゴが問い返す。
本当は自分で確認するべきなのだろうが、怖くてそれが出来ずにイチゴを頼るほかない。
「メリーはどんな調子ですか?」
「メリー? 毎日会っているじゃないか……お前の妹なんだから」
まさにそのとおりだ。だけど、僕から見ても妹の変化には気が付くことは出来ないだろう。これだけ長い期間いても、妹が将来何になりたいかもわからない情けない兄だ。僕がしていることが本当にメリーのためになっているのかもわかならない。それに……
「そうなんですけど、最近なんだか僕のことを避けているみたいで……」
何となくだがそんな気がする。最後にメリーとまともな会話をしたのはいつだろう。かなり昔の気がする。
イザベラは首を何度か横に振る。
「それは違う。避けているのはお前のほうだと私は思うぞ。何か引け目を感じているんじゃないか?」
言われてみればそうなのかもしれない。僕はメリーに何もしてあげられない。守ってやりたいと思っても、守ることが出来るだけの力を持っていない。今だって、結局のところはイチゴたちに助けられているばかりだし、嫌っているリグダミスにすら助けられる始末だ。
でも僕は妹を避けているわけではない。
「そういうわけでは……ただ、僕がメリーにしてあげられることが少なくて、そんな自分が不甲斐ないなって……」
思わず本音が口を出る。こんな弱音を誰かに吐くなんて、男としてはかなり下の下だ。軽蔑されるかもしれない……だけど本音を隠したまま、修業を続けていればいつかはボロが出たことだろう。
「――全然優しくなかったんですけど……」
結局、体力がなくなったと幾度となく音を上げたが、ケントニスが途中で修行を中断することはなかった。むしろ、休憩と呼べる休憩すらなくて、教育熱心だった前世の両親が可愛く思えるほどに鬼教官だった。イチゴは何を持って彼女を優しいと言ったのだろう。それを理解するためには、たぶんもっと多くの時間を彼女と過ごさなければならないだろうが、そうなるともっと彼女に苦手意識を持ってしまう事になるかもしれない。
机に倒れ伏した情けない僕を見て、イチゴは大きなため息を吐く。
「馬鹿いえ……その場にいなかった私には想像することしかできないが、おそらく今の今まで修行に付き合ってくれたという事だろう? 普通の獣人なら昔の先輩の頼みであったとしても、そこまで付き合うことはないに決まっている。それこそ、ト二スが優しい証拠だろう?」
確かに、こんな遅くまで才能がないと自分自身が断言した相手に対して教えるなんてことは通常の精神の持ち主では出来ないのかもしれない。そう考えると、彼女は博愛精神にあふれるこの上なく優しい人物なのだろうと、何となくは感じることは出来た。
だけどそれにしてもだ……何もここまでやる必要性はないんじゃないかと僕は思う。それこそ、僕が甘えた精神の持ち主である証拠なのだろう。そんなことは自分でも理解している。
「わかってます。でも、愚痴ぐらい言わずには、あの修行にはついていけませんよ……もちろん、感謝はしていますし、出来ることならこれからも訓練をつけてくれるとありがいんですがね」
それでも、僕も獣人だ。過酷な試練を乗り越えるためには、それなり以上の覚悟と鍛え抜かれた精神が必要になることは理解しているが、やはりただの凡人なのだと理解させられているようで、なんだか自分がみじめにさえ思えてくる。
「愚痴を言うなとは言わないが、ト二ス以上にお前を鍛えられる獣人はこの国はおろか、世界中のどこを探してもいないだろう。この世には他人を後世として育てるなんて、そんな生易しいことをする存在は稀有だからな」
「まあそうなんでしょうね……大体の人がリグダミスのように打算的に人に教えを説くようなことはあっても、イチゴさんや、ケントニスさんのように何の見返りもなく助けてくれる人なんてあまりいないですからね……」
そう言って、一応はイチゴに同意する。
小さな世界しか知らない僕が何を言っても、所詮は井の中の蛙でしかないのだが、イチゴがそう言うのならたぶんそうなのだろう。
僕は何だか気分的にかなり落ち込んだ。
結局、人間が滅びて、野生動物が新人類として台頭しても、結局のところ人類はそれほど変わらなかったらしい。
「まあ、私だってそれほど世界を知っているわけではない。中にはそういう博愛精神にあふれた種族だっているかもしれないぞ? 世界は広いのだから」
イチゴはそう言って、僕の前に食事の乗ったプレートを差し出した。
今夜はステーキらしい。客はいまだにそれほどいないのに、食事は日増しに豪華になっているような気がする。まあ、それも魔物の肉だと考えると、なんとも複雑な気分だがわがままばかり言ってもいられない。
「いただきます」
僕は日本式挨拶をして、イチゴにお礼を言うと料理を口にした。
正直なところ、両親のことはあまり好きにはなれなかったが、こういったマナーに厳しく育ててくれたことだけには何度感謝したことだろう。人間社会を生き抜く上で、何度も助けられた。それは獣人になった今でもそうだ。基本的な礼儀作法を知っているからこそ、犬種であることを差別はされるものの必要以上に他種族に嫌われることはない。
イチゴに出された料理を平らげると今度は「ご馳走様でした」と両手を合わせた。
「お粗末さま」
最初こそイチゴは、僕のあいさつに奇異の目を向けていたが、今ではすっかりと慣れてくれたらしい。正直なところ神に祈るなんてごめんだから助かっている。
誰が僕をこんな目に遭わせた神になんて祈ってやるもんか。
「最近……」
「うん?」
思わず言葉に詰まった僕にイチゴが問い返す。
本当は自分で確認するべきなのだろうが、怖くてそれが出来ずにイチゴを頼るほかない。
「メリーはどんな調子ですか?」
「メリー? 毎日会っているじゃないか……お前の妹なんだから」
まさにそのとおりだ。だけど、僕から見ても妹の変化には気が付くことは出来ないだろう。これだけ長い期間いても、妹が将来何になりたいかもわからない情けない兄だ。僕がしていることが本当にメリーのためになっているのかもわかならない。それに……
「そうなんですけど、最近なんだか僕のことを避けているみたいで……」
何となくだがそんな気がする。最後にメリーとまともな会話をしたのはいつだろう。かなり昔の気がする。
イザベラは首を何度か横に振る。
「それは違う。避けているのはお前のほうだと私は思うぞ。何か引け目を感じているんじゃないか?」
言われてみればそうなのかもしれない。僕はメリーに何もしてあげられない。守ってやりたいと思っても、守ることが出来るだけの力を持っていない。今だって、結局のところはイチゴたちに助けられているばかりだし、嫌っているリグダミスにすら助けられる始末だ。
でも僕は妹を避けているわけではない。
「そういうわけでは……ただ、僕がメリーにしてあげられることが少なくて、そんな自分が不甲斐ないなって……」
思わず本音が口を出る。こんな弱音を誰かに吐くなんて、男としてはかなり下の下だ。軽蔑されるかもしれない……だけど本音を隠したまま、修業を続けていればいつかはボロが出たことだろう。
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