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10 伝説の魔法
121 才能と使い方16
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◇
メリーの答えは聞いた。あと僕に出来ることがあるとするならば、ただひたすらに――がむしゃらに頑張ることだけだ。
「――考え事かい? 戦いのさなかに余計なことを考えられるなんて……ずいぶんと成長したもんだね!」
その言葉とほぼ同時に、左頬に衝撃と激痛が走る。僕はその衝撃に耐えきることが出来ず、そのまま右後方に頭から吹き飛び地面にあおむけに倒れる。
ちょっと集中力を解いただけですぐにこれだ。
「……っ……ぅ!」
「戦場では誰も待ってはくれないよ!」
その言葉の通り、ケントニスが痛みに悶絶している僕に追撃する。何とかそれをかわすが、耳をつんざくような音共に僕がかわした頭の右横の地面に小さな穴が開く。
かわすことに失敗していたらと考えると……いいやこれ以上は考えないでおこう。考えればそれだけ恐怖心に囚われることになる。
「殺す気ですか!?」
「どうせこのまま注意力散漫なまま魔物と戦ったらどうせ死ぬんだから、それならせめて私が殺してあげた方がいいでしょう?」
見た目は子供みたいなのに、考え方は鬼教官そのものだ。
あくまで彼女は優しさでそうしていると言いたげだが、その行動からは全くもって優しさを感じられない。それは僕があまりにも物事を理解できていないからなのだろうか? いいや、絶対に違う……と思いたい。
最初こそイチゴの『彼女はもっとも優しい』という言葉を理解できているつもりだったが、訓練を受ければ受けるほど彼女が『優しさ』という概念から程遠い。むしろその反対と言っても過言ではないだろう。
そんな彼女がほんの一瞬だけ微笑んだように見えた。
「でもまあ、そんな状態で私の攻撃を避けられるほどに魔力がコントロールできるようになったのなら、次の段階に進んでもいいかもしれないね。死なんてものが理解できなくなるほどのきつい修行だけどね!」
前言撤回、彼女は微笑んだのではなく、僕の行く末を見て嘲笑ったのだ。きっと、たぶんそうだ。
「きつい……修行……ですか?」
死を理解できなくなるほどきつい修行……その言葉だけ今までとは比べものにならないほどに辛い修行であることは分かる。
今のところ僕は、彼女から座学という名の意味不明な会話と、組手という名の一方的な暴力を受けていただけだ。唯の一撃ですらケントニスの体にかすりもしないほどに一方的に殴られたり蹴られたりしていただけに思えるが……一体この先何が待ち受けているというのだろう。
「そんなに身構えなくてもいいよ! 最初にも言ったと思うけど、私は体育会系じゃないから君をボコボコにするのも正直飽きてきたところだからね……ここいらで私の本分である座学といこうと思うんだよ!」
さっきとは違い、柔らかい微笑みを見せる彼女だが、ある意味僕はさっき以上に絶望していた。
なぜなら……最初に受けた彼女の言う『座学』とは、名ばかりで内容が全くないどころか、意味すらよくわからない物だったからだ。
殺意を向けられて実戦にも近い防衛を繰り返している方がまだ幾分かマシな気すらしている。だけど彼女の機嫌を損ねて殺されることだけは避けたい。
「座学ですか……い、いいですね!」
「うん? なんか不満そうだけど?」
ケントニスが幼くもかわいらしい顔をこちらに近づけて、それなのに人を殺しそうな殺気を放ちながら、そのうえで子供のような笑顔を僕に向ける。
「いえいえ、そんなはずないじゃにゃいですか!」
彼女の鋭いまなざしに気圧され、不自然な噛み方をしてしまった。慌てているというのがバレバレだ。
そんな僕を落ち着かせるために、彼女はニコニコと笑って僕の右肩を二度叩いた。
「安心して。そんなに怯えなくても大丈夫だよ! 修行の一環としてたまに殺気を放つけど、私の修行についてこられているうちは別に何もしないから!」
それってつまり、ついてこなかったら殺すと……そう暗にいっているようにも聞こえるのだが、もはや何も考えないことにした。イチゴの言う『ニスは優しい』という言葉を信じよう。
「じゃあ時間も無駄に出来ないし、そろそろ座学を始めようか?」
「は、はい」
有無をいわせない感じで、彼女の授業が始まる。
何もなかったはずの草原に、どこからか黒板を取り出して、これまたどこから取り出したのかわからないお立ち台に上り文字を書き綴っていく彼女。黒板に『感情について』という主題と、『精神のありかた』という副題を書き終えるとこちらを振り返った。
「戦いの中では精神がどんどん削られていく。それが魔法使いにとってはもっとも恐ろしいことであり。そしてそれは避けることが出来ない真実ってことは理解できるよね?」
存外まともなことを教えてくれそうだと思いつつも、戦闘経験の少ない僕でもそんなことは理解しているつもりだ、と心の中で思った。
だけど、改めて経験豊富なケントニスの口から聞くと、その言葉の重みはまるで違う。
「確かにそうかもしれませんが、でもそれって対策の取りようがありませんよね?」
「そんなことはないよ! 何事も準備をしていれば避けることは出来なくても、軽減することは出来るってね!」
「ですが獣人……人類にとっては、精神は切っても切れないものです」
人間にとってもそうであったように、僕達獣人にだって精神はなくてはならないものであって、それこそが僕たちの魂の形を作るものに他ならないと僕は思う。
戦場は常に自分や他人の死と隣り合わせであるが故に、人の精神を摩耗させる場所である。精神が摩耗するのを軽減させる方法と言えば、感情を殺して戦いに挑むほかないと僕は思う。だけど――
「うん。まさに君の考えている通りだよ! 精神なくして魔法は使えないけれど、感情を殺してしまえばそれまた魔法を使うことは出来ない」
ケントニスは心の声が僕の喉から言葉として発するよりも早く答えて、そしてそのまま説明を続けた。
「自らの五体や武器だけで戦う獣人にとって、感情を殺して戦うことは戦場では必要なことだけど、魔法使いにとっては感情をむき出しにして戦うことが重要で、感情を自由自在にコントロールできることが必要なの!」
感情を自由自在にコントロール?
彼女の言いたいことは何となく理解できるが、はたして戦場でそんなことが可能なのだろうか?
そんな疑問を頭に浮かべる僕を見て、ケントニスは大きくため息を吐いて仕方ないと再び口を開いた。
「君は感情について研究したことある?」
「いえ……僕は犬種なので」
そんないかにも金持ちがやりそうな研究はしたことがない。というより、そんなことを研究している時間も興味もなかった。
そもそも、魔力や魔法について研究するうえで、感情が重要であるなんてことはどこにも書かれてはいなかった。
「犬種だから? その言葉の意味は分からないけど……つまり、何も知らないってことでいいよね?」
「まあ……素人同然ってことですね」
僕の回答を聞いて再び彼女は大きなため息を吐く。
確かに無知なことは申し訳なく感じなくもないが、これほどまでに馬鹿にされるのは心外だ。誰にだって無限に時間があるわけじゃない。僕にとってはなおのこと時間というのは重要で、そしてかけがえのないものだ。
「だったら、戦場で死なないために……私に殺されないようにきちんと学ばないとね! イザベラさんの贔屓の子を殺すは嫌だし、何気に私もケン君のこと気に入っているからね!」
殺気の籠った瞳が一瞬だけ僕の目を捉えた。
それだけで僕は悟る。彼女がそれを冗談で言っているわけじゃないってことを。どうせ戦場で死ぬことになるなら、自分の手で僕を殺そうって考えの持ち主だという事が嫌でも理解できた。
まあ、ほんの数分前に殺されそうになったばかりだし、彼女がそれほどスパルタであるって事は理解していたが……このままじゃ、遠くないうちに殺されそうですらある。
「わ……わかりました」
やっぱり彼女の優しさはまるで理解できそうにもない。
メリーの答えは聞いた。あと僕に出来ることがあるとするならば、ただひたすらに――がむしゃらに頑張ることだけだ。
「――考え事かい? 戦いのさなかに余計なことを考えられるなんて……ずいぶんと成長したもんだね!」
その言葉とほぼ同時に、左頬に衝撃と激痛が走る。僕はその衝撃に耐えきることが出来ず、そのまま右後方に頭から吹き飛び地面にあおむけに倒れる。
ちょっと集中力を解いただけですぐにこれだ。
「……っ……ぅ!」
「戦場では誰も待ってはくれないよ!」
その言葉の通り、ケントニスが痛みに悶絶している僕に追撃する。何とかそれをかわすが、耳をつんざくような音共に僕がかわした頭の右横の地面に小さな穴が開く。
かわすことに失敗していたらと考えると……いいやこれ以上は考えないでおこう。考えればそれだけ恐怖心に囚われることになる。
「殺す気ですか!?」
「どうせこのまま注意力散漫なまま魔物と戦ったらどうせ死ぬんだから、それならせめて私が殺してあげた方がいいでしょう?」
見た目は子供みたいなのに、考え方は鬼教官そのものだ。
あくまで彼女は優しさでそうしていると言いたげだが、その行動からは全くもって優しさを感じられない。それは僕があまりにも物事を理解できていないからなのだろうか? いいや、絶対に違う……と思いたい。
最初こそイチゴの『彼女はもっとも優しい』という言葉を理解できているつもりだったが、訓練を受ければ受けるほど彼女が『優しさ』という概念から程遠い。むしろその反対と言っても過言ではないだろう。
そんな彼女がほんの一瞬だけ微笑んだように見えた。
「でもまあ、そんな状態で私の攻撃を避けられるほどに魔力がコントロールできるようになったのなら、次の段階に進んでもいいかもしれないね。死なんてものが理解できなくなるほどのきつい修行だけどね!」
前言撤回、彼女は微笑んだのではなく、僕の行く末を見て嘲笑ったのだ。きっと、たぶんそうだ。
「きつい……修行……ですか?」
死を理解できなくなるほどきつい修行……その言葉だけ今までとは比べものにならないほどに辛い修行であることは分かる。
今のところ僕は、彼女から座学という名の意味不明な会話と、組手という名の一方的な暴力を受けていただけだ。唯の一撃ですらケントニスの体にかすりもしないほどに一方的に殴られたり蹴られたりしていただけに思えるが……一体この先何が待ち受けているというのだろう。
「そんなに身構えなくてもいいよ! 最初にも言ったと思うけど、私は体育会系じゃないから君をボコボコにするのも正直飽きてきたところだからね……ここいらで私の本分である座学といこうと思うんだよ!」
さっきとは違い、柔らかい微笑みを見せる彼女だが、ある意味僕はさっき以上に絶望していた。
なぜなら……最初に受けた彼女の言う『座学』とは、名ばかりで内容が全くないどころか、意味すらよくわからない物だったからだ。
殺意を向けられて実戦にも近い防衛を繰り返している方がまだ幾分かマシな気すらしている。だけど彼女の機嫌を損ねて殺されることだけは避けたい。
「座学ですか……い、いいですね!」
「うん? なんか不満そうだけど?」
ケントニスが幼くもかわいらしい顔をこちらに近づけて、それなのに人を殺しそうな殺気を放ちながら、そのうえで子供のような笑顔を僕に向ける。
「いえいえ、そんなはずないじゃにゃいですか!」
彼女の鋭いまなざしに気圧され、不自然な噛み方をしてしまった。慌てているというのがバレバレだ。
そんな僕を落ち着かせるために、彼女はニコニコと笑って僕の右肩を二度叩いた。
「安心して。そんなに怯えなくても大丈夫だよ! 修行の一環としてたまに殺気を放つけど、私の修行についてこられているうちは別に何もしないから!」
それってつまり、ついてこなかったら殺すと……そう暗にいっているようにも聞こえるのだが、もはや何も考えないことにした。イチゴの言う『ニスは優しい』という言葉を信じよう。
「じゃあ時間も無駄に出来ないし、そろそろ座学を始めようか?」
「は、はい」
有無をいわせない感じで、彼女の授業が始まる。
何もなかったはずの草原に、どこからか黒板を取り出して、これまたどこから取り出したのかわからないお立ち台に上り文字を書き綴っていく彼女。黒板に『感情について』という主題と、『精神のありかた』という副題を書き終えるとこちらを振り返った。
「戦いの中では精神がどんどん削られていく。それが魔法使いにとってはもっとも恐ろしいことであり。そしてそれは避けることが出来ない真実ってことは理解できるよね?」
存外まともなことを教えてくれそうだと思いつつも、戦闘経験の少ない僕でもそんなことは理解しているつもりだ、と心の中で思った。
だけど、改めて経験豊富なケントニスの口から聞くと、その言葉の重みはまるで違う。
「確かにそうかもしれませんが、でもそれって対策の取りようがありませんよね?」
「そんなことはないよ! 何事も準備をしていれば避けることは出来なくても、軽減することは出来るってね!」
「ですが獣人……人類にとっては、精神は切っても切れないものです」
人間にとってもそうであったように、僕達獣人にだって精神はなくてはならないものであって、それこそが僕たちの魂の形を作るものに他ならないと僕は思う。
戦場は常に自分や他人の死と隣り合わせであるが故に、人の精神を摩耗させる場所である。精神が摩耗するのを軽減させる方法と言えば、感情を殺して戦いに挑むほかないと僕は思う。だけど――
「うん。まさに君の考えている通りだよ! 精神なくして魔法は使えないけれど、感情を殺してしまえばそれまた魔法を使うことは出来ない」
ケントニスは心の声が僕の喉から言葉として発するよりも早く答えて、そしてそのまま説明を続けた。
「自らの五体や武器だけで戦う獣人にとって、感情を殺して戦うことは戦場では必要なことだけど、魔法使いにとっては感情をむき出しにして戦うことが重要で、感情を自由自在にコントロールできることが必要なの!」
感情を自由自在にコントロール?
彼女の言いたいことは何となく理解できるが、はたして戦場でそんなことが可能なのだろうか?
そんな疑問を頭に浮かべる僕を見て、ケントニスは大きくため息を吐いて仕方ないと再び口を開いた。
「君は感情について研究したことある?」
「いえ……僕は犬種なので」
そんないかにも金持ちがやりそうな研究はしたことがない。というより、そんなことを研究している時間も興味もなかった。
そもそも、魔力や魔法について研究するうえで、感情が重要であるなんてことはどこにも書かれてはいなかった。
「犬種だから? その言葉の意味は分からないけど……つまり、何も知らないってことでいいよね?」
「まあ……素人同然ってことですね」
僕の回答を聞いて再び彼女は大きなため息を吐く。
確かに無知なことは申し訳なく感じなくもないが、これほどまでに馬鹿にされるのは心外だ。誰にだって無限に時間があるわけじゃない。僕にとってはなおのこと時間というのは重要で、そしてかけがえのないものだ。
「だったら、戦場で死なないために……私に殺されないようにきちんと学ばないとね! イザベラさんの贔屓の子を殺すは嫌だし、何気に私もケン君のこと気に入っているからね!」
殺気の籠った瞳が一瞬だけ僕の目を捉えた。
それだけで僕は悟る。彼女がそれを冗談で言っているわけじゃないってことを。どうせ戦場で死ぬことになるなら、自分の手で僕を殺そうって考えの持ち主だという事が嫌でも理解できた。
まあ、ほんの数分前に殺されそうになったばかりだし、彼女がそれほどスパルタであるって事は理解していたが……このままじゃ、遠くないうちに殺されそうですらある。
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