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10 伝説の魔法

122 才能の使い方17

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「感情は魔力の源っていうのは理解出来てると思うから説明を省くけど……」と、ケントニスは黒板に文字を書き綴りながら話す。
 僕はそれをただ黙って聞いている。

「あー……座ってもいいよ!」

 彼女なりに気をつかったのか、これまたどこから取り出したのか木でできた椅子を僕の方に差し出した。
 差し出された椅子を受け取り座ってから、僕は疑問を口にする。

「それって魔法ですか?」

 どこからともなく何かを取り出す。それはまるで、どこかで見たような四次元的な何かからものを取り出すがごとくだ。そんなことが僕にでも出来るのであれば覚えておいたほうが効率的だろうし、素材やハンティングトロフィーを持って帰る時の危険度は格段に下がるだろう。
 しかし、自分で聞いておいてなんだが、この世界の魔法にはそんなものは存在しないと確信に似た感情を抱いているのも確かだ。
 僕は期待半分で彼女の答えを待つ。

「椅子を『取り出した』ことかい? もしそのことを魔法と呼んだのなら、残念ながら『違う』と答えざるを得ないね! 椅子を『持って来た』ことに対しての疑問なら、これまた残念ながら『正解』と言うしかないね!」

 なんて遠回りなことをこちらを振り向きもせずに、黒板に文字を記入しながら彼女は口にした。
 その二つの事象に大きな違いはないと思うが、わざわざ分けて言ったのなら違いは確かに存在するのだろう。

「……どういう意味ですか?」

 一心不乱に文字を書き綴る彼女に対して、僕は再び質問する。

「理解できないという事は前者の意味で聞いたってことだね。だったら、あえて言わせてもらうけど、その質問に答えたとしてもケン君は理解できないだろうし、理解できたとしてもそもそも使用することが出来ないことを教えるつもりはないよ! 脳の記憶スペースは限られているから、無駄なことを詰め込む余裕なんてないからね!」

 煽っているのか、はたまた気を使われているのかわからない回答だが……まあ回答が返ってきただけましだと思いたい。とにかく、これ以上質問するのはやめておこう。

 それにしても空がきれいだ。今まで不思議に思ったこともないけど、極度の緊張状態だからこそ考えてしまう事がある。それは空に太陽が1つしかないことととか、空が普通に青く、時間が来たら太陽が沈んで暗くなるという事だ。その周期も地球とほとんど変わらない。普通だと思っていたけど、それはよくよく考えてみたらおかしいことでもある。
 なんて……そんなことを考えても、誰かが正解を教えてくれるわけでもない。女神が僕の知っている地球に近い環境の世界に飛ばしてくれたのかもしれないし、はたまた単なる偶然かもしれない。考えても答えなんて見つからないわけだ。

 そんなくだらないことを考えていると、黒板に文字を書く音が止まる。

「よし!」

 その声と同時に、ケントニスがこちらを振り返った。 

 黒板に書かれているのはやはり感情に関することで、そしてそれは魔法のことでもある。
 簡単に要約するとこうだ。

「じゃあ、説明するね!」

 要約しようとしたところで、彼女の説明が始まった。
 
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