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10 伝説の魔法
127 伝説の魔法2
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「説明してほしいって顔だけど……口で説明するのは不可能なんだよね……」
いつもの騒がし口調ではなく、嫌に冷静な、悪く言えば冷淡な口調でケントニスは笑顔を崩すことなくそう呟く。
部屋の温度が少しだけ下がったように感じた。
天井からつりさげられたシャンデリアは地震でも起きたかのように少しだけ揺れて、部屋の中を照らしていた光が大げさに揺れた。
再び、少しだけ恐怖心というものが僕の脳裏をよぎる。
「どういうことです?」
「それが許されていないから。って言ったら誰にって聞かれるかもしれないけど、それも言えない。もちろんだけど言えない理由も言えない……悪いけどわかってほしいわ」
当たり前のように彼女の口から出てきた言葉は、僕の理解を超えていた。
言葉にしても理解できないというその言葉の真相はわからないし、彼女にそれを説明する気もないのだろうが、その目的だけは聞いておきたい。
「あなたは一体何がしたいんですか?」
「最初は依頼されただけだった……でも今では私のすべてをケン君に教えてもいいと思っているわ。いいえ、何が何でも伝説の魔法を理解してもらわなくちゃいけない。そうじゃないと人類に未来はないからね」
彼女の表情からもその言葉が嘘ではないことは容易に理解できた。
しかしやはりわからないことがある。
「人類の未来? 一体何から人類を守ると言うんですか!?」
「何から……その言葉は適切ではないわね。正確にはーー『誰から』だね」
「じゃあ誰が人類を?」
僕の質問に彼女は沈黙で答えた。
ますます彼女の目的がわからない。リグダミスが依頼して、そしてイチゴに頼まれて僕に修行をつけることにしたと彼女は話したが、それ以上に大きな理由があるらしい。しかし彼女はその理由についてはまるで話さない。ただ、『伝説の魔法を覚えてもらわないと困る』とだけ口にする。それもいつものようなふざけた感じではなく、真面目すぎる程に真面目な表情で、真面目な口調で、真面目な態度で僕と会話をしている。
それ故に僕は困惑した。
「教えてくれなければどうもできませんよ……」
「それも勘違い。私は教えないんじゃない。教えられないんだよ。それを口にすることは私の力では出来ない……私はその存在の秘密を口にすることが出来ないし、それに準ずることも出来ない。それを示唆することすら出来ない」
「言えない誰かってことですか?」
「そう。口にもしたくないし、口に出来ない……そう言う存在」
リグダミスとか、王様とかそんなレベルの話ではなさそうだ。そうなると思い当たるのは神だが、決めつけるには判断材料も少ない。なにより神とは人類のことを良い方向に導いていく存在だ。僕はそれほど彼女のことを好きになれそうにはないが、それだけで人類の破壊者だと決めつけるのは早計だ。
ケントニスがその存在について語るつもりがない今、それについて考えても仕方がない。
「それで、そんなことを僕に話してどうするつもりなんです?」
僕の質問に彼女は一瞬だけ神妙そうな顔をして、「どうもしないよ。ただ、ケン君には今回の訓練の意味をよーく理解してほしかったってだけ……」と答えた。
「それってどういう――」
「――はい! 暗い話はここまで! ここまで話せたってことは、死の恐怖をほとんど乗り越えたと言っても同然ってことだね!」
ずいぶんと話が飛躍したが、よくよく考えてみれば確かに彼女の言うとおりだ。
さっきまではあれほど彼女のことを恐ろしく感じていたのに、いざ直接話してみれば、それほど恐ろしく感じていない自分がいる。でもそれは死に対する恐怖が消えたからではない。
「死の恐怖が消えることなんてありませんよ」
何度死にかけたとしても『死』が恐怖でなくなることはないと思う。死は生物に絶対的に訪れる恐怖であり、そこに救いは存在しない。実際死んだ僕は死が救いになり得ないという事は嫌という程理解している。しかし、それを彼女に伝えたところで理解できないだろうし、信じてもらえるとも思えない。
もちろん彼女をまるで信頼していないというわけではない。今日まで長い時間、僕なんかを訓練してくれた。言ってしまえば恩人だ。それでも家族でもない彼女に僕の秘密を打ち明けようとは全く思えないのだ。
「ふーむ……なるほど、断言できるってことは……私の考え違いだったようだ。ケン君はどうやら、死の恐怖……その先を知っているみたいだね! なら、やっぱり次の段階に移るべきだ!」
何を納得したのかは知らないが、彼女の言う『次の段階』という言葉は何やら不穏だ。
彼女が僕に教えているのは魔力の扱い、延いては魔法のはずだ。だが実際は、教わったほとんどが人間の感情に関することばかりだった。もちろん教わるにつれて魔法の練度が上がっているのは感じているし、たぶん彼女の教えは何も間違っていないのだろう。
ただ一つだけ気がかりなことは、日を増すごとに感情の暗黒面に向かっているような気がすることだ。
まあそれもたぶん僕が少しだけ興奮状態にあるからだろうと思い、だけどそれでも一応気にはなって訊ねてみる
「なんですか……次は人を殺すときの恐怖の消し方でも教えてくれるんですか?」
それに対して彼女はにっこりとほほ笑むだけだった。
いや、否定してもらわないと困るんだけど……
いつもの騒がし口調ではなく、嫌に冷静な、悪く言えば冷淡な口調でケントニスは笑顔を崩すことなくそう呟く。
部屋の温度が少しだけ下がったように感じた。
天井からつりさげられたシャンデリアは地震でも起きたかのように少しだけ揺れて、部屋の中を照らしていた光が大げさに揺れた。
再び、少しだけ恐怖心というものが僕の脳裏をよぎる。
「どういうことです?」
「それが許されていないから。って言ったら誰にって聞かれるかもしれないけど、それも言えない。もちろんだけど言えない理由も言えない……悪いけどわかってほしいわ」
当たり前のように彼女の口から出てきた言葉は、僕の理解を超えていた。
言葉にしても理解できないというその言葉の真相はわからないし、彼女にそれを説明する気もないのだろうが、その目的だけは聞いておきたい。
「あなたは一体何がしたいんですか?」
「最初は依頼されただけだった……でも今では私のすべてをケン君に教えてもいいと思っているわ。いいえ、何が何でも伝説の魔法を理解してもらわなくちゃいけない。そうじゃないと人類に未来はないからね」
彼女の表情からもその言葉が嘘ではないことは容易に理解できた。
しかしやはりわからないことがある。
「人類の未来? 一体何から人類を守ると言うんですか!?」
「何から……その言葉は適切ではないわね。正確にはーー『誰から』だね」
「じゃあ誰が人類を?」
僕の質問に彼女は沈黙で答えた。
ますます彼女の目的がわからない。リグダミスが依頼して、そしてイチゴに頼まれて僕に修行をつけることにしたと彼女は話したが、それ以上に大きな理由があるらしい。しかし彼女はその理由についてはまるで話さない。ただ、『伝説の魔法を覚えてもらわないと困る』とだけ口にする。それもいつものようなふざけた感じではなく、真面目すぎる程に真面目な表情で、真面目な口調で、真面目な態度で僕と会話をしている。
それ故に僕は困惑した。
「教えてくれなければどうもできませんよ……」
「それも勘違い。私は教えないんじゃない。教えられないんだよ。それを口にすることは私の力では出来ない……私はその存在の秘密を口にすることが出来ないし、それに準ずることも出来ない。それを示唆することすら出来ない」
「言えない誰かってことですか?」
「そう。口にもしたくないし、口に出来ない……そう言う存在」
リグダミスとか、王様とかそんなレベルの話ではなさそうだ。そうなると思い当たるのは神だが、決めつけるには判断材料も少ない。なにより神とは人類のことを良い方向に導いていく存在だ。僕はそれほど彼女のことを好きになれそうにはないが、それだけで人類の破壊者だと決めつけるのは早計だ。
ケントニスがその存在について語るつもりがない今、それについて考えても仕方がない。
「それで、そんなことを僕に話してどうするつもりなんです?」
僕の質問に彼女は一瞬だけ神妙そうな顔をして、「どうもしないよ。ただ、ケン君には今回の訓練の意味をよーく理解してほしかったってだけ……」と答えた。
「それってどういう――」
「――はい! 暗い話はここまで! ここまで話せたってことは、死の恐怖をほとんど乗り越えたと言っても同然ってことだね!」
ずいぶんと話が飛躍したが、よくよく考えてみれば確かに彼女の言うとおりだ。
さっきまではあれほど彼女のことを恐ろしく感じていたのに、いざ直接話してみれば、それほど恐ろしく感じていない自分がいる。でもそれは死に対する恐怖が消えたからではない。
「死の恐怖が消えることなんてありませんよ」
何度死にかけたとしても『死』が恐怖でなくなることはないと思う。死は生物に絶対的に訪れる恐怖であり、そこに救いは存在しない。実際死んだ僕は死が救いになり得ないという事は嫌という程理解している。しかし、それを彼女に伝えたところで理解できないだろうし、信じてもらえるとも思えない。
もちろん彼女をまるで信頼していないというわけではない。今日まで長い時間、僕なんかを訓練してくれた。言ってしまえば恩人だ。それでも家族でもない彼女に僕の秘密を打ち明けようとは全く思えないのだ。
「ふーむ……なるほど、断言できるってことは……私の考え違いだったようだ。ケン君はどうやら、死の恐怖……その先を知っているみたいだね! なら、やっぱり次の段階に移るべきだ!」
何を納得したのかは知らないが、彼女の言う『次の段階』という言葉は何やら不穏だ。
彼女が僕に教えているのは魔力の扱い、延いては魔法のはずだ。だが実際は、教わったほとんどが人間の感情に関することばかりだった。もちろん教わるにつれて魔法の練度が上がっているのは感じているし、たぶん彼女の教えは何も間違っていないのだろう。
ただ一つだけ気がかりなことは、日を増すごとに感情の暗黒面に向かっているような気がすることだ。
まあそれもたぶん僕が少しだけ興奮状態にあるからだろうと思い、だけどそれでも一応気にはなって訊ねてみる
「なんですか……次は人を殺すときの恐怖の消し方でも教えてくれるんですか?」
それに対して彼女はにっこりとほほ笑むだけだった。
いや、否定してもらわないと困るんだけど……
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