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10 伝説の魔法
129 伝説の魔法4
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「ダメですよイチゴさん! それはネタバレです! 秘密の特訓内容の暴露です!」
ケントニスは大声でそう言った後、すぐさま自らの口を大げさに塞ぐ。
わざとらしく『しまった』という表情をとってはいるが、彼女がそんなドジを踏むはずがない。見た目は幼い少女に過ぎないし、言動も優しいはつらつなお姉さんという感じではあるが、中身は鬼教官が優しく感じられるほど鬼だ。だからその一連の動作にも何かしらの意味があるのだろう。
「す、すまない」
イチゴが押され気味に謝罪する。
おそらくイチゴも彼女の意図に気が付いているが、それを僕に悟られないようにしているといったところだろう。僕とケントニスのことを見て見ぬ振りすることで、僕の恐怖心をさらに煽ろうというのだ。恐怖の感情をコントロールできるように促しているに違いない。こんな風にポジティブシンキングでいれば、恐怖にのまれて魔力を減退させずにすむ。
僕は両掌をしっかりと握り、次に来るであろう恐怖に耐えるために力を込めた。
「まあまあ、ケン君……そんなに硬くならずに! 第一段階は感情をコントロールすること、第二段階は恐怖を克服することだったわ! 君はその二つを達成したんだから、これ以上何も恐れることはないよ!」
ケントニスはそう言って、僕に体の力を抜くように促した。
『何も恐れることはない』と、彼女に言われてなんだか僕は気分がかなり落ち着いた。ただ一つだけ何か重要なことを見逃しているような気持ちの悪い感覚が残りながらも、彼女に促されるままにコートを身にまとった。イチゴが絶妙な顔でこちらを見つめているのがかなり気になるが、気になるからといってケントニスの『命令』を無視することは実質不可能だ。
コートの着心地は思ったよりも悪くない。というよりも、かなりいい素材を使っているようでしっかりとした生地の割にはかなり軽い。まるで裸……と言えば嘘になるが、それでもコートを羽織っているとは思えないほどには軽い。
「犬種の僕がこんなにいい物を着ていたらまずいんじゃ……」
イチゴが気にかけていたのはそうい事なのだろう。確かに、高級なコートをプレゼントするとなれば神妙な顔をしてもおかしくはない。それどころか、ケントニスはリグダミスから『依頼』を受けて僕の訓練をしていたわけだから、大枚をはたいて僕にプレゼントしてしまったら本末転倒だ。
だからきっと、イチゴはそれを気にしていたに違いない……そう思うのは、僕がそうであってほしいと願っているからに違いない。
「大丈夫だよ! だって、そんな趣味の悪い物を欲しがる奴はいないからね! あの杖だって高価な物なのに誰も盗まないでしょ?」
自らプレゼントとして選んだものに対して自らケチをつけるのはどうだろう。というか、趣味の悪い物をプレゼントするのはどうなんだろう。何気に杖のこともボロクソだし。
確かに僕も真っ黒なコートは冒険者としてはどうかと思うけど、趣味が悪いという程のものではない。つまり……やっぱり嫌な予感がする。
「……ちなみに、素材はなんですか?」
「それを言っちゃあ面白くないわよ! もっとも、知ったところでもうどうにもならないんだけどね! 今のままじゃね!」
『今のままじゃ?』……どういう意味だろう。
もはや嫌な予感とそんなレベルじゃないぐらいに、嫌なことが起きる確信にも似た感情が全身を駆け巡る。
「も、もう脱いでも良いですか?」
答えは分かっているが、とにかく聞かずにはいられなかった。
それに対してケントニスはほんの少しだけ笑うと、「恐怖の克服についてはもう教えたよね?」とまた笑った。
そうして僕は全てを悟った。
気持ちの悪い感覚の正体だ。僕は今回の訓練を恐怖の感情をコントロールするためのものだとばかり思っていた。しかし、彼女は言った。『第一段階は感情をコントロールすること、第二段階は恐怖を克服することだったわ! 君はその二つを達成したんだから、これ以上何も恐れることはないよ!』と。そうだ僕は既に恐怖を克服したらしい……つまり、今回の訓練はそれが出来るとしたうえでの訓練となる。
「ああ、そうだ。私は教えてないけど、魔物の骨と肉については知ってるよね?」
「え、ええ。どうしてですか?」
「特に意味はないけど……強いて言うなら、そのコートが魔物の毛からできているからかな?」
魔物の毛で出来ている? つまりどういうことだ?
「ダメだよケン君。予習をしっかりしているのはいいことだけど、重要なのは言葉や文章から正確な意味を読み取る力がないと、この世界では生きて行けないからね!」
「はぁ……それはすみません……」
なんだかよくわからないが、ケントニスの察しの悪さに呆れているらしい。
だけど魔物の毛を使っていることと、魔物の骨と肉の話に何の関係があるのだろう……いや、あるわ。
「ま、ま、まさか! 僕が着ているこれ!」
「そう。魔力を吸収する素材! 魔術書なんかよりも圧倒的に大きくて、そして! なんといっても体と接している面積の多さ! 魔力の調整を間違えたら大惨事から気を付けてね!」
いや待て、なんてもの着せてくれてるんだ! 魔力書ですらちょっと魔力を注ごうと思っただけで大量の魔力を持っていかれたっていうのに、こんなものを着せられたら体中の魔力全部持っていかれる!
冗談とかじゃなく死んでしまう。
ケントニスは大声でそう言った後、すぐさま自らの口を大げさに塞ぐ。
わざとらしく『しまった』という表情をとってはいるが、彼女がそんなドジを踏むはずがない。見た目は幼い少女に過ぎないし、言動も優しいはつらつなお姉さんという感じではあるが、中身は鬼教官が優しく感じられるほど鬼だ。だからその一連の動作にも何かしらの意味があるのだろう。
「す、すまない」
イチゴが押され気味に謝罪する。
おそらくイチゴも彼女の意図に気が付いているが、それを僕に悟られないようにしているといったところだろう。僕とケントニスのことを見て見ぬ振りすることで、僕の恐怖心をさらに煽ろうというのだ。恐怖の感情をコントロールできるように促しているに違いない。こんな風にポジティブシンキングでいれば、恐怖にのまれて魔力を減退させずにすむ。
僕は両掌をしっかりと握り、次に来るであろう恐怖に耐えるために力を込めた。
「まあまあ、ケン君……そんなに硬くならずに! 第一段階は感情をコントロールすること、第二段階は恐怖を克服することだったわ! 君はその二つを達成したんだから、これ以上何も恐れることはないよ!」
ケントニスはそう言って、僕に体の力を抜くように促した。
『何も恐れることはない』と、彼女に言われてなんだか僕は気分がかなり落ち着いた。ただ一つだけ何か重要なことを見逃しているような気持ちの悪い感覚が残りながらも、彼女に促されるままにコートを身にまとった。イチゴが絶妙な顔でこちらを見つめているのがかなり気になるが、気になるからといってケントニスの『命令』を無視することは実質不可能だ。
コートの着心地は思ったよりも悪くない。というよりも、かなりいい素材を使っているようでしっかりとした生地の割にはかなり軽い。まるで裸……と言えば嘘になるが、それでもコートを羽織っているとは思えないほどには軽い。
「犬種の僕がこんなにいい物を着ていたらまずいんじゃ……」
イチゴが気にかけていたのはそうい事なのだろう。確かに、高級なコートをプレゼントするとなれば神妙な顔をしてもおかしくはない。それどころか、ケントニスはリグダミスから『依頼』を受けて僕の訓練をしていたわけだから、大枚をはたいて僕にプレゼントしてしまったら本末転倒だ。
だからきっと、イチゴはそれを気にしていたに違いない……そう思うのは、僕がそうであってほしいと願っているからに違いない。
「大丈夫だよ! だって、そんな趣味の悪い物を欲しがる奴はいないからね! あの杖だって高価な物なのに誰も盗まないでしょ?」
自らプレゼントとして選んだものに対して自らケチをつけるのはどうだろう。というか、趣味の悪い物をプレゼントするのはどうなんだろう。何気に杖のこともボロクソだし。
確かに僕も真っ黒なコートは冒険者としてはどうかと思うけど、趣味が悪いという程のものではない。つまり……やっぱり嫌な予感がする。
「……ちなみに、素材はなんですか?」
「それを言っちゃあ面白くないわよ! もっとも、知ったところでもうどうにもならないんだけどね! 今のままじゃね!」
『今のままじゃ?』……どういう意味だろう。
もはや嫌な予感とそんなレベルじゃないぐらいに、嫌なことが起きる確信にも似た感情が全身を駆け巡る。
「も、もう脱いでも良いですか?」
答えは分かっているが、とにかく聞かずにはいられなかった。
それに対してケントニスはほんの少しだけ笑うと、「恐怖の克服についてはもう教えたよね?」とまた笑った。
そうして僕は全てを悟った。
気持ちの悪い感覚の正体だ。僕は今回の訓練を恐怖の感情をコントロールするためのものだとばかり思っていた。しかし、彼女は言った。『第一段階は感情をコントロールすること、第二段階は恐怖を克服することだったわ! 君はその二つを達成したんだから、これ以上何も恐れることはないよ!』と。そうだ僕は既に恐怖を克服したらしい……つまり、今回の訓練はそれが出来るとしたうえでの訓練となる。
「ああ、そうだ。私は教えてないけど、魔物の骨と肉については知ってるよね?」
「え、ええ。どうしてですか?」
「特に意味はないけど……強いて言うなら、そのコートが魔物の毛からできているからかな?」
魔物の毛で出来ている? つまりどういうことだ?
「ダメだよケン君。予習をしっかりしているのはいいことだけど、重要なのは言葉や文章から正確な意味を読み取る力がないと、この世界では生きて行けないからね!」
「はぁ……それはすみません……」
なんだかよくわからないが、ケントニスの察しの悪さに呆れているらしい。
だけど魔物の毛を使っていることと、魔物の骨と肉の話に何の関係があるのだろう……いや、あるわ。
「ま、ま、まさか! 僕が着ているこれ!」
「そう。魔力を吸収する素材! 魔術書なんかよりも圧倒的に大きくて、そして! なんといっても体と接している面積の多さ! 魔力の調整を間違えたら大惨事から気を付けてね!」
いや待て、なんてもの着せてくれてるんだ! 魔力書ですらちょっと魔力を注ごうと思っただけで大量の魔力を持っていかれたっていうのに、こんなものを着せられたら体中の魔力全部持っていかれる!
冗談とかじゃなく死んでしまう。
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